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4話「ど、どどど、どういうこと……?」

「メリー、お国のために一生懸命ご奉仕しますぅ。ですからぁ、皆様、温かく見守ってくださいねぇ」


 彼女は当たり前のようにそこに立っている。

 まるでずっと前から自分が彼の婚約者となることが決まっていたとでも言っているかのように。


 そしてやがて、彼女は、さりげなく私へと視線を向けた。


 直前までとは違う色を双眸に滲ませる。それは恐らく私への感情なのだろう。黒くて、汚い、そんな色。穢れを絵に描いたような色を滲ませた瞳で、蹴落とされて可哀想にねと言わんばかりにこちらを見てきている。憐れむような、見下すような、馬鹿にするような、そんな目つき。


「よろしくお願いいたしますぅ」


 いやいやいや!

 魔法は!?


 彼女は魔法は使えないはずだけど、それはいいの!?


 ……なんて思っても、無駄だろう。


 ルッティオはもうメリーに惚れてしまっているのだろうから。


「エリサ、君はもう要らない」


 大勢の前で彼からそんなことを言われた私はさすがに傷ついた。


 こんな見世物みたいな。

 恥をかかせるための会みたいな。


 あまりにも酷い……。


 ――だがその時。


「話は聞かせていただきましたよ」


 背後の扉が開いて。

 そこから一人のすらりとした男性が現れた。


「人前で婚約破棄宣言とは、この国の殿下はなかなか心ない男ですね」


 その男性のことを私は知らなかったのだけれど、ルッティオはどうやら知っていたようで、かなり驚いたようなかつ少し怯えているような面持ちになっている。


「なっ……ディア・ボン・ボンジジュール!?」


 驚きのあまり声をあげるルッティオ。


「久々ですね」

「なぜここに……」


 どうやら二人は知り合いのようだ。


「ちょっとした用事で、ね。ただそれだけですよ。ですがこのような状況に出くわしてしまえばさすがに放ってはおけずでして、それでつい口を挟んでしまったのです」

「で、出ていけ!」

「おっと。隣国の王子へかけるにはその言葉は少々乱暴すぎやしませんか」


 ルッティオは自分より大きな生き物に怯えて激しく威嚇する小さめの動物のようだった。


「鬱陶しい! 出ていけ! 出ていけよ! 今すぐっ。ほら早く! 出ていけ出ていけ出ていけ! ここに居座るな! 隣国の人間が! 出ていけ出ていけ出ていけよ! この国の王子の命令だぞ!? 聞けないのか!? それか聞こえないか!? 出ていけと言っているんだ! 出ていけと! 早くさっさと去れ、去れ、去れよ、早く早く早く……出ていけッ!! これは命令だッ!!」


 狂ったように叫び倒すルッティオ。


 とてもかっこ悪い。

 高貴な人とは思えない。


「いつまでそこにいるんだ! いるつもりなんだ! 出ていってくれともう何度も言っているだろう! 早くしろ! 聞けないのか? 聞けないか!? 返事くらいしろ! しろよッ!! な!? な!? 鬱陶しい! 出ていけ出ていってくれ出ていけよすぐに! 出ていけ! 今すぐっ。すぐにすぐにすぐに! もたもたするんじゃないッ!! ほら早く! 出ていけ出ていけ出ていけ! いつまでもここに居座るな! 隣国の人間が! 余所者がッ!!」


 誰もが引いたような顔をしている。


 だがそれも無理はない。

 こんな救いようのない馬鹿みたいな姿を見せられて好意的な印象を抱ける者の方が稀だろう。


「エリサさん」

「えっ」


 やがて荒れ狂うルッティオを無視したディアが近づいてくる。


「ここで言わせていただいてもよろしいでしょうか?」

「な、何でしょう……」


 とんでもないことを言われたらどうしよう。


 不安が込み上げる。

 目の前の彼はまだほとんど何も知らない人だから。


「私と結婚してくださいませんか?」


 ……へ?


 脳が活動を停止する。


「貴女には偉大なる力が宿っていると聞いております。あの男が貴女を捨てるのであれば好都合。よければ私が貴女と歩みたい――そう思っているのですが」

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