25話「幸福な未来へ」
かつて私を理不尽に捨てた王子ルッティオも、私から多くのものを奪っていった妹メリーも、この世を去った。
そして恐らく両親も、きっと、幸せには暮らせていないことだろう。
私を傷つけてきた者たちは一人残らず滅ぶこととなった。それがかつてディアらを傷つけていた魔物の手によってであるというところだけは少々皮肉ではあるけれど。
ただ、悪しき者に天罰が下ったことだけは事実だろう。
――そして二年半が過ぎた。
「エリサ! ここにいたのだね」
「あ、はい。先ほどまでルビーさんに花の育て方について教わっていました」
私エリサと王子ディアは結婚した。
式を挙げたのはつい先日である。
彼はとうに心を決めてくれていたのに私がなかなか最後の一歩を踏み出せずにいて、それで延び延びになってしまっていたのだが、私たちが結ばれるという結末に変わりはなかった。
きっと運命だったのだろう。
私たちの結婚、それは、ずっと前に神様か誰かが決めたことだったのだろうと思う。
「それはそれは。だが、また、花の育て方とは。土で汚れてしまったのではないかい? 世話は使用人に任せていればいいというのに」
意外な出会いではあったけれど。それでもこの道を選んだことに悔いはない。それに、きっとこれが最も自然な流れであったのだと思うし、それが我が人生の定めであるなら私はそれに敢えて逆らうつもりはない。
「いえ、私が挑戦してみたかったんです」
「そうだったのか」
「はい。綺麗なお花を自分の手で育ててみたいなって。そう思って、今、少しずつ勉強しているところなんです」
静かな侍女ルビーは花を育てることに詳しかった。
小さい頃住んでいた実家に大きな花壇があったらしく、そこで親と共に色々育てていたのだそうだ。
「身体を動かして疲れたのでは?」
「え……あ、はい、まぁそうですね。ちょこっと汗をかいてしまいました」
「冷たい飲み物でも飲まないかい?」
「そんな。申し訳ないです」
ディアはいつも私の体調やら何やらを気遣ってくれる――彼には良いところがたくさんあるけれど、そういうところも多数ある彼の良いところのうちの一つだろう。
自身が偉い地位にあるからといって他者を見下し心ない態度を取ることはない。
そういうところに彼の偉大さを感じる。
「いやいや。実は私もちょうど今から飲むところだったんだ。冷たい飲み物を、ね。なのでよければエリサの分も頼もう」
昔は幸せな未来なんて想像できなかったけれど、今なら明るい未来を見据え信じることができる。
それは、夫であるディアがいて、周りの様々な意味で支えてくれる人たちがいて、そうしてようやく成り立つ今だ。
「そうだったんですか」
「では頼んでおくからね」
「あ、はい。すみません。よろしくお願いします」
「気を遣う必要はないよ、なんせ我々はもう夫婦なのだからね」
私はもう、過去は振り返らない。
今こうして抱き締めていられる幸せを大切にしながら歩んでゆく。
そして恩返しするのだ。
いつか必ず。
かつて私へ幸せを贈ってくれた人たちに、今度は私から幸せを贈る。
◆終わり◆




