23話「終焉へ」
国のため、人々のため、生きてきた者であれば、困っている時に多くの者が手を差し伸べ助けようとするだろう。
だがメリーはその真逆を行っていた女だ。
ゆえに、本当に困った時、誰にも手を差し伸べてもらえない。
彼女は独り魔物に好き放題されるだけであった。
魔物に襲われた彼女は何度も何度も「助けて!」とか「誰か!」とか叫んでいたけれど、そんな叫びすら誰の心にも響かず。
誰一人として彼女に同情する者はいなかった。
なんせ皆彼女には散々迷惑をかけられてきたのだ。そんな悪女に対し可哀想だなんてそんなことを思ってあげるほど優しい人間は滅多にいない。
そうしてメリーは魔物の手でこの世を去ったのであった。
「お、終わった……! 終わったぞ……!」
「魔物の手を借りるなどということはしたくなかったですがな、こればかりは仕方ありませんな」
「よっし!」
「作戦は成功だな! 上手くいった!」
メリーの最期を見ていた男性たちは作戦成功に歓喜する。
「ざまぁよね、彼女に関しては」
「それそれ」
「自業自得ってやつよ。死んだって、可哀想とは思わないわ。だって……あの女は酷いことばかりしていたのだもの」
「メイドを奴隷呼ばわりするようなやつだものねぇ」
「そんな人に人権など不要ですわ」
同じくメリーの壮絶な死を目にしたメイドらも悲しむことはせずむしろ嬉しそうなくらいであった。
そして、ルッティオもまた。
「これで自由になれる、嬉しいよ」
周囲にそう話していた。
最初はエリサを切り捨てるほどにメリーを気に入り愛していたルッティオだった。だがメリーと深く関わるようになるにつれて彼女の悪い面を多く知るようになってゆき、それと同時に彼女への想いは薄れていっていた。
だが夫婦となった以上エリサの時のように簡単に切り落とすことはできず、どうしようもなくて大変困っていたのだ。
なのでルッティオはメリーの死を密かながら喜んでいた。
結局メリーは誰からも愛されなくなりこの世を去ったということなのである。
◆
「メリーさん、亡くなられたそうですね」
リリアンから妹の訃報を聞いたのはある昼下がりであった。
「そうなんですか!?」
「はい、そのようです」
まさかメリーが死ぬとは……。
さすがに想定外だった。
ああいう人ほど粘り強く生き抜くものだと思っていたから。
「……エリサ様、悲しいお気持ちですか?」
リリアンは珍しく目を伏せ気味にして尋ねてくる。
答えはシンプル。
私は即座に首を横へ振った。
「そうなんですね」
「はい。姉としてそういう風に思うというのは良くないこととは思いますが……過去に彼女とは色々ありましたので」
私だって人間だ。
清らかなだけの天使にはなれない。
しかし。
「良くない、なんてことないですよっ」
リリアンはすぐにそう言ってくれて。
「お優しいエリサ様がそう仰るということは、きっと、本当に……色々あられたのだと思いますので……」
その笑みに、とても救われた。
どんな時も。どんな人に対しても。同じように接することができたなら、平等な感情を抱けるなら、本当は一番良いのかもしれない。
だが人である以上そういうことは難しい。
相手によって物事の捉え方が変わる、というのが人間という生き物だから――理想的ではないかもしれないが仕方のないことだろう。
「これからは穏やかにお過ごしになってくださいねっ」




