19話「姉妹の明暗」
「エリサさんの評判は驚くほど上昇していますよ」
「期待され過ぎても不安ではありますが……ですが、これからも、私にできることは少しずつしていきたいと思っています」
今日はディアとお茶をしている。
良い香りに包まれながら甘いお菓子を口にする。
それはまさに癒やしの時間。
心の奥底までほぐすマッサージを受けているかのようだ。
ティータイムなんていうのは共にする相手によっては気を遣うだけの時間となりかねないものである。だが相手はディアだ。ゆえに、過剰に気を遣うことにはならないし、比較的自然体な自分でいられる。出会ってからの時間はそれほど経っていないにも関わらずこうして穏やかにありのままでいられるのは、多分、彼がそういう雰囲気を作ってくれる人だからなのだろう。
「敵意を持った魔物が減ると良いですね」
そんなことを言って、ティーカップの端に口をつける。
紅茶は深みのある味わいだ。
渋みもあるが砂糖を入れているためほどよい口当たりになっている。
二人だけのティータイム、なんて言うと、少し寂しい気もしないではないが――実際にはそんなことはない、だってそれは二人だけで過ごせる特別な時間なのだから。
「エリサさんはとても良い方ですね」
「そんなこと……ありません、私はただのパッとしない女です」
「そうでしょうか? そうは思いませんが」
「華のない女ですよ」
「いえいえ。それは恐らく慎ましく生活なさっていただけでしょう」
それに、と、彼は続ける。
「貴女には抜きん出た魔法の才があるではないですか」
ディアはそう言って微笑んだ。
「その力は偉大ですよ」
「そう、でしょうか……」
「何をそんなに過小評価なさっているのです。その力は凄まじい。もちろん良い意味で、です。その力は多くの命を救えるものですから、本当に、偉大なものと思いますよ」
彼はいつだって私の心に寄り添うような言葉をかけてくれる。
そのたびにそんなところが彼の魅力なのだと再確認する。
いくら褒めてくれたとしても、言葉がうすっぺらいものであったなら、きっと言葉を素直にそのまま受け入れることはできないだろう――けれども彼の言葉は純粋さをはらんだ真っ直ぐなもの、ゆえにすっと受け入れることができるのだ。
「どこまでできるかは分かりませんが、これからも頑張ります」
私が返せたのはそんな面白みのない言葉だけだった。
だがそれさえも彼は馬鹿にせず受け入れてくれる。
「慎ましいお方ですね。ですが、強力な力を持った貴女にそう言っていただけると我々としてはとても心強いです」
なんてことのない時間の中にも、彼の優しさを感じられる機会は多くある。
◆
ルッティオでさえコントロールすることが難しくなったメリーはもはや暴君。
少しでも気に入らないことがあれば怒鳴り散らすし、欲しいものはすべて手に入れようと必死だし、信じられないくらい高額な買い物を繰り返す――どうしようもない状態となった彼女をそろそろ止めないと国が滅んでしまう、と、皆が思い始めている。
「あの女、このままでは我が国を滅ぼしかねませんぞ」
「まずいですな」
「しかしルッティオ様との関係を解消させるのも今からとなると難しい……どうしたものか」
あの女をどうにかしたい、その思いは誰もが共通して持っている。
だが方法を見つけることが難しく。
ゆえにまだ彼女の好き放題は続いてしまっている。
「何か、あの女を追放する方法があれば良いのですがな」
「早く考えねば」
「国のためにはあの女には消えてもらわなくてはならない……悲しいことだが、あそこまでの女となるとそれしかない」
そしてメイドらも皆メリーを嫌っている。
「もうしんどい……」
「大丈夫!? また何かされたの!?」
「お食事の準備が整った声掛けしたら怒鳴られた……」
メリーの味方はもういない。
「何それ、あり得ない」
「サイテーね」
「まーじでやーばい」
「気にすることないよ! だって悪いことしてないじゃん!」
それでも彼女の暴走は止まらない。
……いや、もしかしたら、もう止まれない状態になってしまっているのかもしれない。




