10話「おねだりする女」
「ねーえぇ、ルッティオ様ぁ。メリー、この高級ドレスが欲しいんですけどぉ」
あれからメリーはルッティオの婚約者として様々な面で贅沢をしている。
「ドレス? 確かこの前も買ったよね?」
「あ、れ、はぁ、これとはまた別なんですよぉ。使われてる素材が同じじゃないんですぅ」
メリーは毎日のように買ってほしいものをルッティオに伝えてくる。しかもそれが毎回パッと買えるような金額のものではないのだ。ドレス、化粧品、アクセサリーなどなど、ジャンルは色々なのだが、とにかくすべてが高価な物なのである。
そんなことがずっと続くものだから、ルッティオは段々疲れてきてしまっている。
「で、どのくらいの価格なんだい?」
「これですぅ」
「ふむふむこれが――って、ええええ!? こ、こんなに高いのかい!?」
価格を知って驚くルッティオ。
というのも衣服分野において目にしたことがないくらい高価だったのである。
「この前のも高かったのに……それの二倍以上じゃないか」
「そうなんですぅ」
「無理だよ! これは! さすがに!」
「でもぉ、ジュエリーをふんだんに使った、とぉーっても素敵なドレスなんですよぉ?」
何の罪悪感も覚えていない様子でおねだりしてくるメリーに、ルッティオは思わず呆れの溜め息をついた。
「買ってくれないんですかぁ?」
「いやだってそれは……」
「殿下なら買えますよねぇ? お金たっくさん持ってるわけだしぃ。それにぃ、殿下の妻がみすぼらしい格好するわけにはいかないんですよぉ~。だってメリー、頂に立つ女だしぃ~」
王子の妻たるもの、常に煌びやかにしていないと。
メリーはそんなことを主張する。
「それとも……もしかして……ルッティオ様はメリーのこともう好きじゃないんですかぁ……?」
泣き出しそうな顔を作るメリー。当然作った表情である。しかしそういう演技派の女に慣れていないルッティオはメリーが本当に泣きそうになっているものと信じてしまい、慌てて「な、泣かないで! 買う! 買うから!」と言ってしまう。彼は完全に乗せられていた。
「本当、ですかぁ……?」
「買うよ」
「わああ~っ。嬉しい、嬉しいですぅっ。メリー、ルッティオ様のこと、だぁーっいすき!」
王子が買うと言えば周りは何も言えない。たとえ薄々おかしいと思っていたとしてもだ。メリーはそれを理解していて敢えてルッティオにいろんなものを求めている。そうすれば欲しいものはすべて手に入るからだ。おねだり上手なメリーからすればルッティオを上手く操るくらい容易いこと。姉から婚約者の座を奪うことだって簡単だったのだから、おねだりして高級品をたくさん買ってもらうことくらい居眠りしていてもできるくらい簡単なことなのである。
(あ~、ちょろ~い、完全にカモ)
メリーは内心そんな風に思っていた。
姉から奪ってその席に座ってメリーがしたかったことはこれだ。
他人の金で好き放題。
他人の金で贅沢暮らし。
それがしたかったからこそ姉を突き落したようなものである。
加えて。
国家の頂に立てば、すべてが思い通り。
メリーはその時を心待ちにしている。
ルッティオの即位はさすがにまだ先だろうが今からワクワクである。
いつか王妃になったなら、気に食わない者は処刑できるし、欲しいものはすべて手の内に入れられる――メリーはその時が楽しみで楽しみで毎日にやけが止まらないくらいだ。
「さて、次は何にしよっかなぁ」
高価なドレスを頼むことに成功したメリーは、手もとにたくさん用意している高級品がたくさん掲載された冊子を開く。
「贅沢暮らし、さいっこぉ~」




