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第7話 新聞記事

清水は成瀬に歩み寄り、開かれている新聞記事に目を向ける。二〇三七年十月十七日の記事のようだ。

その中に『有害ウィルスから新遺伝子の発見か!?』という見出しを見つけた。


『シーズウィルスとは人間には感染しないが、動物等に感染するウィルスで、感染後は致死率百パーセントとも言われている。そのウィルスの中にある遺伝子五種類を培養することで、壊死した細胞の再生ができたと虹色研究会から発表された。この新遺伝子を活用した培養液を右足が壊死したマウスに与えたところ、右足が元通り再生したとの事だ。将来的には人体の細胞でも同様の効果が期待される。もし人体の細胞が再生できるようになれば、医療が急激に進歩するだろう。黒岩(くろいわ)康正(こうしょう)氏が発足した虹色研究会は、各所属員がそれぞれの方面で活躍している。所属員である赤間(あかま)氏、青木(あおき)氏、野原(のはら)氏、古賀(こが)氏を含む五名は各分野で活躍する著名人であり、その研究領域に新遺伝子を加えた研究にも今後注目していきたい。』


記事にはワクチンという単語は書かれていなかった。画期的な発見がされた、という記事だから当然といえば当然だ。

しかし、この記事には違和感を感じた。

動物にしか感染しないとあるが、実際はウィルスに感染した人間が街を彷徨(さまよ)っている。

それに人間に感染しないのであれば、ワクチン自体が開発されていない可能性もある。


「シーズウィルスは人間に感染しないって書いてあるけど…」

「そうだな、だがシーズウィルスは確認されていて、ゾンビみたいなのが歩き回ってるのが現実だ」


人間に感染しないはずのウィルスならば、人間がゾンビになった事とは関係がないのだろうか。

清水の疑問に答えるように成瀬は言った。


「全て正しいとするなら答え一つだ。ウィルスが変異したんだ」

「変異?ってことは、人間にも感染するウィルスになったって事?」

「その可能性がある」


その時、背後に気配を感じて後ろを振り返ると、扉の入口に人影が見えた。

成瀬が鉄パイプを構え、清水の前に出た。


「誰だ!」

「待ってください。私は一般人です」


痩せた長身の男が両手を上げながら現れた。見たところゾンビではなさそうだ。

成瀬と同じくらいの年だろうか、よく似た雰囲気だ。だが、男には(ひげ)がなく、眼鏡を掛けているので、向こうの方がやや知的に感じる。

それに彼は首輪を付けていなかった。つまり、数少ない外の人間だ。

相手がただの人間だと分かると、成瀬は鉄パイプを下げた。


「あなた、ここで何してるんですか?」

「何してるって…地下の書庫で文献を探してただけですけど」

「地下?」

「ええ、一階の奥に地下への階段があります。そっちこそ何なのですか。鉄パイプなんか持って」

「何って。外の状況を知らないんですか?」


男は成瀬と清水の服装の汚れに気づいて、何かを察したようだ。


「…何かあったんですか?」

「ゾンビみたいなのが街をウロウロしてるんですよ」

「ゾンビ?ゾンビって映画とかに出てくるアレですか?」


男は冗談だと言わんばかりに半笑いで返す。

それはそうだろう。

ゾンビがいると言われて、真に受ける人はいない。奴らはあくまでフィクションの中での存在なのだから。

本当に現実じゃなければ、どれほど良かっただろう。


「本当に…いるんだから。街に行けば分かるよ…」


清水は絞り出すような声で反論した。

男の表情から笑みが消えた。ようやく何が起きたか理解したようだ。

成瀬が男に尋ねる。


「その地下ってのは誰でも入れるんですか?」

「いえ、受付の方に開けてもらいました。だから調べ終わったと伝えに来たんですけど、誰もいないから探しにきたんです」

「え?」


つまり、ここはちゃんと管理された施設という事か。

パソコンを動かすのに職員カードが必要という事は、職員が常時いる事の裏付けだ。

何故こんな簡単な事に気付かなかったのか。

今、この図書館の職員がいないという事は―――


「キャアアアアアアア」


湯村の悲鳴が脳内を駆け抜けた。

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