第6話 図書館
図書館の扉を開けると軋んだ音が響いた。
エアコンが動いているのか館内は涼しかった。
初めて中に入るが、建物自体は小さく、貯蔵されている書籍も多くはなさそうだ。
獄中都市に住む受刑者が図書館を利用するとは思えない。そもそもこの施設の必要性を問いたいところだが、今の状況からすると有り難い施設としかいいようがない。
周りには誰もおらず、四人の足音以外しなかった。
ここにもゾンビが現れているのかとも考えたが、血の臭いはしない。床にも血痕の跡は無かった。
もしかしたら図書館を管理する人はおらず、元々無人なのかもしれない。
「ここは安全そうだな」
身の安全が確認できると全員の表情が和らいだ。
受付にあるパソコンを見つけると、成瀬が電源を入れた。
すると画面に『職員カードを読み込ませてください』と表示された。
「職員カード?」
「ここの職員に配られているカードとかじゃない?」
「おじさん、大学の職員なんでしょ?カードとか持ってないの?」
成瀬は首を横に振った。
試しにキーボードを叩いてみても全く反応しない。やはり職員カードがないと、これ以上操作できないようだ。
仕方がないので、四人で館内を見て回る事にした。
頼みの綱のパソコンが使えない事は想定外だったが、幸いここは図書館だ。情報源となるものはまだ残っている。
書棚を見ると専門書のようなものが多く、一般向けの書籍は僅かしかなかった。
ここは大学の教師向けの施設なのかもしれない。
それらしい書籍をいくつか見つけると、只野と湯村に中身のチェックを頼んだ。
成瀬と清水は、当時の新聞記事を探す事にした。
どうやら過去の新聞は表立った場所にはないようだ。
受付の奥に部屋へ入ってみる。普段手入れをしていないからか、埃臭かった。
電気を点けると、スチールラックに目当ての物を見つけた。新聞記事をまとめたファイルがいくつも並べられていた。
ファイルには保管されている記事の年月が記されており、成瀬は迷わず三年前の記事が置いてある場所へ向かい、十一月のファイルを取り出した。
机にファイルを広げ、それらしい記事を探し始める。
清水は壁にもたれかかり、その様子を眺める。手伝うにもファイルを広げられる机は一つしかない。
それにこの男がゾンビ化した場合、すぐ逃げられるように距離を取りたかった。
成瀬も清水が手伝わない事に対して、特に何も言わなかった。
「ねえ、三年前ってのは確かなの?」
「ああ、講師の人が最近発表した、とか言っていた気がする。それにメモを水色のシャープペンで書いてた覚えがある」
「水色のシャープペン?それが三年前とどう関係があるの?」
「当時、卒業するための単位がギリギリでさ。その時、持っていたラッキーアイテムが水色のシャープペンだったんだよ」
意外だった。この男にもそんな時期があったのか。
成瀬は次々に新聞を捲ると、目ぼしい記事が無かったようだ。今度は前月のファイルを取り出した。
「ラッキーアイテム?何それ。おじさん、占いとか信じてるの?」
「よく当たるんだ。君もここを出たらみてもらうといい。ちなみに今持ってるラッキーアイテムはこれ」
成瀬は胸ポケットから百円ライターを取り出した。
「私、占いとか信じてないから」
「俺も昔は懐疑的だったんだけど、その人が言うラッキーアイテムを身に着けてると本当に良い事があるんだよ」
「ふーん、例えば?」
「大学も卒業できたし、就職もできたし」
「それラッキーアイテム関係なくない?」
「いやいや、一度ラッキーアイテムを忘れた事があったんだが、その時は事故に遭って死にかけたんだ。それ以来、肌見離さず持っているよ」
「っていうか、毎月ラッキーアイテムって変わるんじゃないの?なんで三年前ってわかるの?」
「その占い師のラッキーアイテムは一年通しての物なんだよ」
そうだとしても自分が持っていたラッキーアイテムの年まで覚えているものだろうか。
よほど占い信者なのか。自分には理解できない領域だなと、それ以上話は広げなかった。
新聞の捲る音だけが部屋に響く。
只野達の方はどうなっただろうか。
このままここにいても仕方がないので、向こうへ加勢しに行こうかと考えていたところで、成瀬が「あっ」と声を上げる。
「あったの?」
「ああ、きっとこれだ」