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【完結】獄中都市の惨劇  作者: トウカ


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第38話 正体 (1)

病院の裏口から出ると、首に手をあてる。

ようやくあの重しを外す事ができた。

周囲を確認するとラジオとイヤホンを取り出した。慣れた手つきでボタンを何度か押す。

コール音がイヤホンから流れてきたが、ワンコールで相手が出た。


―――大変だったみたいだな

「ご心配をおかけしました」


十日ぶりに聞いた上長の声だった。

今までは定期報告を行っていたが、シーズウィルス蔓延後は連絡できずにいた。


―――ターゲットは確認できたか?

「はい、ですがターゲットは殺されていました」

―――殺された?ウイルスに感染したのではなく?

「はい、ですが被疑者は捕まり、警察に連行されました。動機は怨恨のようです」

―――それは確かか?

「はい、自白している現場に私も居合わせたので」

―――分かった。詳しい話はまた戻ったら聞く。ひとまずよくやった。

「はい、失礼します」


ラジオをしまうと、駅に向かって歩き始める。

蓄積した疲労が身体を容赦なく襲った。早く家に帰って休みたいと只野は思った。



清水は一人病院を出る。既に刑期も終わっているので、これからどうするかも自由だ。

家に戻るつもりは毛頭ないが、一条希美がいない地に戻る気にもなれなかった。

行く当てもなく、ただ歩き始めた。


「どこへ行く?」


背後から声を掛けられる。振り返らずとも声の主はわかった。

清水はその足を速めた。


「そんなの私の勝手でしょ。ついてこないで」

「あの島は燃やされずに済んだみたいだぞ」

「ふーん」

「ゾンビ化した人達にはワクチンは効かなかったそうだ。彼らは国が秘密裏に処分したんだろうな」

「そう」


気の毒ではあるが仕方がない。

永遠に獲物を探しに彷徨(さまよ)うよりはマシだろう。

まだ男はついてきているようだ。


「赤間さんは不起訴になったそうだ。また研究の場に戻るらしい。自分の研究を正しく使ってもらいたいって言ってたよ」

「そう」

「あとな、黒岩邸の液体カプセルの中にあった遺体もそれぞれ身内の元へ返されるそうだ。君の親友も古賀みどりさんも含めてな」

「それは良かった」


これは心から言葉だった。

これで少なからず彼女の願いも叶うのだ。


「なんだよ、やけにそっけないな。死地を共にくぐり抜けた仲だろ」


男は足を速め、清水を追い抜くと、彼女の前に立ち塞がった。

清水は成瀬と距離を詰めないように足を止めた。

逃げようかと思ったが、彼の顔を見た瞬間、嫌味の一つでも言いたくなった。


「くぐり抜けたからでしょ。ウソつきに付き合うほど私は心が広くないから」

「ウソつき?」


不思議そうにこちらを見つめる成瀬。

まだ自分の正体がバレてないとでも思っているのだろうか。


「おじさん、大学勤めじゃなくて外の人間でしょ」

「なんだよ、急に。ああ、一条玄治の名前を言ったことが気になったのか?それなら…」

「違う、大学勤めの採用基準は品行方正な人間である必要がある。模範囚とは言え犯罪者達の相手を相当数するんだから、堅実な人じゃないと働けない」


成瀬は神妙な面持ちになった。

これから彼に突きつける事を悟ったのだろう。

それでも清水は言葉を吐き続けた。


「だから採用には二年間大学に通う事と無遅刻、無欠席、単位を落とさない。それに予備員として二年の勤務の後、正式な採用が認められる。代わりに相応な給料と住まいが提供される。獄中都市では、かなり高待遇の職業扱いなってる」

「俺が二十五歳だから、年齢的に合わないってことが言いたいのか?それなら、俺は二十一歳でここに来たんだ。だから、ちゃんと正規のルートを通ってきてるよ」


この期に及んでまだ認めないのか。

清水は決定的な証拠を口にする。


「黒岩の書斎で講演会のパンフレットを見つけたの。これはあんたが言ってた講演会でしょ。黒岩康正の初登壇ってある。この時点で開催は二〇三七年。つまり今から三年前の出来事なの」

「だから、基準を満たしていないって事か?確かに俺が聞いたのは、その講演だったと思う。言ってなかったが、その時、俺は君が言った獄中大学の予備員だったんだ。悪いが、それは君の思い過ごし…」


清水は勝ち誇ったように笑みを浮かべる。


「…何だよ。何を笑ってるんだ?」

「たしかに、講演会は三年前。それなら予備員の可能性もある。でも、問題は会場の方」


成瀬はその意味にようやく気付いた。


「講演会の会場は、富士見市民文化会館。場所は埼玉県。獄中都市で行われていない。おかしいよね。三年前の十一月に講演会を聞いていた時、一般市民だった人が、一ヶ月以内に逮捕されて、裁判をして、模範囚になってここにやって来た。現実的にありえない」


成瀬は黙ったまま清水を見つめる。


「あなたは誰?何者なの?」

「カマをかけたのか」


成瀬は諦めたように乾いた笑いを吐き出した。


「いいえ、確信してた。三年前に占いをしていた時点で、あなたがこちら側の人間のはずがない」

「なるほど。まあ、そこまで分かってるなら隠せないか」


成瀬は首輪の横にあるスイッチを押すと、カシャンと小気味いい音を立てた。


「あなた誰?刑事なの?」

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