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【完結】獄中都市の惨劇  作者: トウカ


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第25話 訪問 (2)

暖炉の上にはいくつかの写真立てが置かれていた。研究室に飾られていた写真と同じ物もあったが、その中の一つに古賀みどりと黒岩の二人だけの写真があった。

花畑の中に映る二人は幸せそうな笑顔を浮かべていた。見たところ、年齢がかなり離れているようにみえるが、二人は恋人同士だったのだろうか。

成瀬の話では、古賀みどりは交通事故で亡くなっていたはずだ。その悲しみを癒やすために、ここで研究に没頭していたのかもしれない。


「オランダの有名な花畑だな」


いつの間にか背後にいた成瀬が呟く。


「よく知ってるね」

「昔、行った事があるからな。季節毎に花を植え替えているらしい」

「ふーん。おじさん、英語とか喋れるの?」

「簡単な日常会話くらいはできるよ。習った人が(なま)ってたから、あまり綺麗な話し方じゃないが…」


そこまで言って成瀬は話すのを止めた。一点を見つめたまま動かなくなってしまった。


「どうしたの?」

「あ、いや、なんでもない」


ハッと我に返る成瀬は、誤魔化すように笑みを浮かべた。

清水から少し離れると、一人で何か考えを巡らせているようだ。


「黒岩先生は、どこかに出掛けているのかもしれませんね」


薬師寺が言った。そう考えるのが妥当だろう。

建物内はエアコンがついているし、そこまで遠出はしていないだろう。仮に街へ向かったとしても、あの様子を見れば引き返してくるはずだ。

成瀬は考え込むように唸っていたが、顔を上げた。


「久保田さん、黒岩先生の行き先に心当たりはありませんか?」

「さあ、気まぐれな人だったからな」

「仕方ないですね。時間が無いですし、ワクチンを探しましょう。黒岩先生が戻られたら事情を説明します。ひとまず皆でこの部屋を手分けして…」


成瀬の言葉を遮るように久保田が差し挟む。


「黒岩先生はテキトーな人だったから、何でもない場所にワクチン置いてあるなんて事もあるだろうよ」

「大切なワクチンをそんな雑に扱うとは思えないですが…」

「いやいや、前にも大事な培養液を書斎に持ち込まれて実験を台無しにした事がある」


どこか鼻につく話し方だ。どうもこの男は胡散臭い。

しかし、黒岩の事を知っているのは彼だけだ。その言葉を無下(むげ)にもできなかった。念の為、それぞれの部屋を探す事になった。


「では、私と清水さんで実験室を探してみます。大学の研究室と同じ物があれば、何かに気が付くかもしれない」

「それなら私は書斎を担当します。研究室と似た造りでしたし」


成瀬は薬師寺の提案に頷いた。

残りの応接室は只野、湯村は物置部屋と割り振った。久保田はこのまま黒岩の私室を調べると言って、その場に残った。

持ち場に向かうために部屋を出ると、清水は成瀬の袖を引っ張る。


「あの男、一人にしていいの?なんか怪しくない?」

「怪しいな」

「なら、どうして…」

「時間が無いからな。どういう形であれ、ワクチンを見つけないといけない。彼が黒岩先生の居場所を知ってるにしろ知らないにしろ、こうして泳がせた方が早い」


成瀬の意図はわかるが、本当にこのままでいいのだろうか。


「ワクチンは一つなわけじゃない。ワクチンというからには相当数あるはずだ」


だが、ワクチンが数人分しかない可能性はあるだろう。そうなった時、久保田が独り占めする可能性はある。

成瀬の言葉に全て賛同はできなかったが、食い下がる程の意見もなく、彼について階下に降りた。

二人は実験室に入るが、成瀬は調べようとしなかった。


「もう一分待ったら二階に行こう」

「皆に話したら良かったんじゃない?」

「大人数で動いたら目立つからな。あくまで久保田さんの思惑通りに(こと)が運んでいると思わせた方がいい」


成瀬は一分も経たないうちに実験室を出た。彼と共に足音を立てないように階段を上る。廊下の壁を背に、身を隠しながら廊下を覗き込む。

誰もいない事を確認し、扉に耳をあてる。しかし、中から物音一つしなかった。

成瀬はそっと黒岩の私室の扉を開ける。

しかし、先程までいた久保田の姿はそこになかった。


「どういう事…?」

「どこかに隠し部屋か隠し通路があるんだ」


成瀬は壁を触ったり家具を動かしたりして、入口が現れるスイッチを探しているようだった。

清水も彼に(なら)って反対側の壁を調べ始めた。

すると、部屋の扉が開かれ、只野が入ってくる。浮かない顔をしているところをみると、ワクチンは無かったのだろう。

予想通りだったので特に落ち込む事もなかった。


「実験室にいなかったですが、どうかしたんですか?」

「恐らく久保田さんは、黒岩先生の隠し部屋か隠し通路にいます。人手が欲しいので、薬師寺さんと湯村さんも呼んで来ていただけますか?」

「分かりました」


只野は素直に頷く。

緊迫感のある成瀬に対し、清水は気持ちが追いつけずにいた。


「スイッチなんて探さなくても、久保田さんが戻って来るのを待ってればいいんじゃない?」

「隠し部屋に別の通路があって、そのまま抜け出せるようになっていたら、最悪の場合、黒岩先生と久保田さんだけで逃げ出す可能性だってある」

「何でそんな事…」

「わからないが、どうも嫌な感じがするんだ」


成瀬は窓から下の様子を見ていた。まだ車があるかを確認したのだろう。

成瀬の車はキーが無いから動かせないだろうが、黒岩の車は動かせる可能性がある。

只野が部屋を出ようとした時、薬師寺が現れた。書斎にも収穫はなかったそうだ。 事情を話して、彼も隠し扉探しに加わった。

残る湯村を呼びに、只野が廊下に出ると、ちょうど彼女がゆっくりと階段を上ったところだった。

しかし、その様子がどこかおかしい。(うつむ)きながら歩くその姿は見覚えがあった。

その声は言葉にならない呻き声に変わっていた。


「あ…あぁ…」

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