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【完結】獄中都市の惨劇  作者: トウカ


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第20話 休息 (1)

キィキィと耳障りな音を立てながら引き戸が開かれた。

姿を見せたのは、甚平(じんぺい)のよく似合う大人しそうな男性だった。年齢は四十代くらいだろうか。

どう見ても普通の人間だ。首にも何も付けていなかった。

この島の住人だろうか。いや、薬師寺の話ではこの島の村は廃村になったはずだ。

家の中から蚊取り線香の匂いがした。そのおかげで彼はシーズウィルスの魔の手から逃れたようだ。

男は突然の来訪者を不思議そうに眺めていた。


「突然申し訳ありません。私は成瀬と言います。あの、信じられないかもしれませんが、街にゾンビのような化け物が出ていまして…。我々は明日の夕方までにそのゾンビ化を防ぐワクチンを探しているんです。不躾で申し訳ありませんが、ガソリンが余っていましたら少し分けて頂けないでしょうか?」


内容があまりにも現実味がなく、上手く言葉がまとまらなかった。

しかし、男はにこやかな笑顔を浮かべた。


「ええ、ええ、それは偉かったですね。手持ちのガソリンは少ないですが、どうぞお持ちください」

「ありがとうございます!」

「どうぞあがってください。今日はお疲れでしょう。ちょうど風呂を沸かしていますので入られるといい」


男からの申し出は有り(がた)かった。

実際、身体はかなり疲労困憊(ひろうこんぱい)だった。

あとは黒岩からワクチンを分けてもらえれば万事解決する。ここで休んでから、朝訪ねても遅くはないだろう。

だが、その提案を素直に受け入れられなかった。


「大変有り難いのですが、実は私達の他に四人いるんです。さすがにご迷惑になってしまうかなと…」

「大丈夫ですよ。家だけは無駄に広いですから、皆さんあがってください」

「あ、ありがとうございます…!」


成瀬は男性に深々と頭を下げた。只野をその場に残し、車に戻る。


「ガソリンは分けてもらえるそうだ。このまま泊まらせてもらおう。黒岩先生の所には明日の朝行っても間に合う」

「え、本当に?全員?」

「ああ、問題無いらしい。ご厚意に甘えさせていただこう」

「待て、別にここに泊まる必要はないだろう。ガソリンだけもらって黒岩先生の研究所まで行けばいい」

「もう夜で暗いですし、万が一ゾンビがどこかに潜んでいた場合、全滅する可能性だってあります。朝、日が昇ってから向かっても時間はあるはずです」


久保田は舌打ちをするが、黙って車から降りてきた。

成瀬に導かれるように古めかしい門扉をくぐる。

家に入ると玄関は土間(どま)になっており、全員入れる程の広さがあった。壁にはひびが入っていて、建物自体かなり古そうだ。

玄関から伸びた廊下は途中で左側に折れている。家主の男が左に曲がるので、成瀬から順にその後をついていく。歩くと床が(きし)むような音がする。六人も歩いて床が抜けないか不安になるが、どうにか板は耐え抜いてくれた。

曲がった廊下の左手には二間(ふたま)続きの和室が広がっていた。そこそこの広さだ。畳の匂いに混じって、線香のような匂いもした。

中央には大きな木製の机が置かれていた。

部屋の奥には(とこ)()があり、掛け軸が掛けられている。

その横には仏壇があった。今は線香は立てられてないが、その匂いが残っていたのだろう。

傍にある箪笥(たんす)の上には写真立てがいくつか飾られていた。老夫婦の写真の他に、家主の男の両隣に優しく微笑む老夫婦が立っている写真があった。


「こちらの部屋で休んでください。座布団はそちらにあります」


部屋の隅に十数枚の座布団が積み重ねられていた。何故これ程の数があるのだろう。

周りに民家もなく、この枚数が全て使われる事はない気がした。


「今、お茶を淹れますので」


家主が部屋の向かい側にある戸に手を掛ける。そちらに台所があるのだろう。


「手伝います」

「ああ、ありがとうございます」


只野と家主は向かいの部屋へと姿を消した。家主の言葉に従い、机に沿って座布団を敷いて座る。五人座ってもまだ机の半分は空いていた。隣の部屋も含めれば、十人以上は居座れそうだ。

あの男はこの広い家に一人で住んでいるのだろうか。

只野と家主が戻って来ると、全員分の冷たいお茶を配ってくれた。


「お風呂も沸いてますので、順番にどうぞ。この部屋を出て左側にトイレと風呂場があります」

「ありがとうございます」


成瀬が清水と湯村に声を掛ける。


「湯村さん、先に入ってください。早く包帯も変えた方がいいでしょうし」

「私はいいわ。この腕だと大変だし」


彼女は血が滲んだ左腕を抑えながら答えた。


「よければ手伝いましょうか?」


清水が割って入る。

今日の陰鬱とした彼女の姿が心のどこかで気に掛かっていた。

湯には入れないだろうが、汗を流すだけでも気が晴れるのではないだろうか。


「ありがとう」


湯村は僅かに口元を緩ませた。清水は湯村と共に部屋を出る。

浴室は二人で入るとかなり狭かった。

シャワーはなく、木製の円柱型の浴槽が、浴室のほとんどを占めていた。

古い家の風呂とはこういう物なのだろうか。

ひとまず置いてあった桶で湯を(すく)う。左腕に注意しながら彼女の身体にかける。


「あなた、勇敢なのね」

「え?」

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