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【完結】獄中都市の惨劇  作者: トウカ
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第18話 居場所 (2)

成瀬が勢いよく扉を開けると、近くにいたゾンビを瞬時に鉄パイプで殴り倒した。

清水は成瀬と薬師寺の後に続いて外に出た。

運良くこちら側にはゾンビが一匹しかいなかった。人間の匂いにつられて正面玄関に集まっていたからだろう。

東館の職員用入口は中庭側にあるので、車を残した場所までの距離は多少あるが、全速力で走れば三分くらいだ。

ゾンビ達は足が遅い。これなら後ろにいる奴らから逃げ切れる。

車までの距離が縮まると、その周りにはゾンビの死骸が二つ転がっているのに気づいた。恐らく只野が始末したのだろう。

その時、後方から何かが倒れ込む音がした。

振り向くと久保田が地面に転がっていた。

その背後に成瀬が倒したゾンビが追いかけて来ていた。前歯が折れ、鼻がひしゃげても尚、一心に人間を求める姿は狂気に満ちていた。


「助けてくれええ!!」


久保田が涙を浮かべ、野太い悲鳴を上げた。

清水はゾンビの腹を思い切り蹴飛ばす。倒れたゾンビの奥から、さらに三匹こちらに近づいて来ていた。

手にしたカッターだけでは、到底太刀打ちできない。


「早く立って!」


久保田は腰を抜かしているのか、ゾンビを見つめたまま動かない。

三匹の追手は倒れたゾンビを踏み倒し、こちらに襲いかかってくる。

こんな男、見捨てて逃げればよかった。怖い。どうして前に出たんだ。ここで死ぬのか。

ゾンビが眼前まで迫ってくる。開けた口からは血の臭いが漂ってきた。

一人でした食事。スリをした瞬間。親友の笑顔。頭の中に次々と場面が浮かび上がる。


「伏せろ!」


咄嗟に身体が動いた。しゃがみ込んだ頭上で空気が切れるような音がする。

視線を上げると、鉄パイプで殴られたゾンビが吹っ飛ばされた。二匹目が成瀬に目標を変える。

もう一匹は、そのまま清水に向かって襲い掛かる。ゾンビの顔にブラシの()が勢いよく打ちつけられた。


「立てますか!?」


薬師寺の呼び掛けに応えるように清水は立ち上がる。薬師寺が久保田の身体を引き起こす。

成瀬を見ると、ゾンビの口に鉄パイプを()め込み、反撃できずにいた。清水はゾンビの首筋にカッターを突き立ててから引き抜いた。血飛沫(ちしぶき)が降り掛かる。

ゾンビは痙攣(けいれん)した後、動かなくなった。


「助かった。ありがとう」

「うん」


ゾンビとはいえ、自分の手で殺してしまった。真っ赤に染まる手。血が地面にポタポタと落ちる。

また四匹やってきていた。その後ろにもまだゾンビが見える。


「逃げるぞ!」


走ろうとした瞬間、清水の足が掴まれる。

膝や肘に痛みが走った。どうやら転んだようだ。

薬師寺に倒されたゾンビだ。血を流した顔で清水を見上げる。

まるで地獄に連れ込もうとする死神の姿にみえた。

掴まれた手を即座にカッターで刺したが、構わず清水の足に噛みつこうとする。

瞬間、その頭が踵落(かかとお)としで地面に叩きつけられた。顔を上げると、只野の姿があった。

只野は流れるようにゾンビの首をナイフで切った。騒ぎを見て助けに来てくれたようだ。緩んだゾンビの手から足を(ほど)くと立ち上がる。

久保田や薬師寺はもう車に乗り込もうとしてた。

成瀬や只野は背後を警戒しながら、車まで走る。

車に乗り込むと成瀬は急発進させた。

清水はようやく胸を撫で下ろした。

ここにきて足が小刻みに揺れている。揺れを抑えるように両膝を強く掴んだ。

自分がいかに緊張していたのがよく分かる。

成瀬が前を見ながら声を上げた。


「久保田さん、研究所までの道を教えて下さい」

「ここを真っ直ぐ進んで、公民館を右に曲がったら、ずっと道なりだ」


只野が久保田をじっと横目で見ると、疑問を投げかける。


「黒岩先生はいなかったんですか?」


状況を知らない只野からしたら一番気になるところだろう。成瀬が簡潔に答える。


「ええ、研究室に黒岩先生はいませんでしたが、代わりに外で記者をしている久保田さんがいました。久保田さんは元々黒岩先生とお知り合いらしく、先生は研究所にいる可能性があると教えてくれたんです」

「なるほど」


只野と湯村は、久保田に名前だけ名乗った。

疲労も重なり、誰も話そうとしなかった。

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