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【完結】獄中都市の惨劇  作者: トウカ
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第16話 捜索 (3)

清水の疑問に答えるように、成瀬が続けて読み進めた。


『しかし、昆虫も媒介になる事が実験によって明らかになった。特に蚊を媒介とすれば、九十九パーセントの確率でヒトに感染する事が分かった。(実験結果は別途参照)』


その後、四ページにわたり実験の詳細がまとめられていた。


「この惨状は蚊によって引き起こされてるという事ですか?」


薬師寺が反芻(はんすう)するかのように呟いた。


「その可能性が高いですね。これだけの人数が発症しているとなると、食べ物や植物から摂取したとは考えにくいですし」


成瀬は清水の手首を指差した。


「清水さんの虫嫌いに救われたな」


清水も手首につけたブレスレット型の虫除けに目を向けた。

ただの虫除けのはずが、まさかこんな形で役に立つとは思わなかった。


「蚊…?蚊が原因でこんな事になったのか?」


黙っていた久保田が震えるような声で言った。

顔も青ざめている。立っていられないのか膝から崩れ落ちた。


「久保田さん、どうしました?」


成瀬の呼び掛けにも応答しなかった。

親指を噛みながら、何かブツブツと呟いている。

自分の世界に入り込んでいる久保田と会話はできそうにもなかった。

久保田が落ち着くまで待つ間、三人は残りの資料を読む事にした。

さらにページを(めく)ると、黒岩が行った別の実験内容と結果がまとめられていた。


『七月一日。マウスにシーズウィルスの培養液を注射し実験を行った。検体Aは五時間後、痙攣(けいれん)した後動かなくなった為、別の検体への入れ替えを行う。検体Bはまだ症状はみられない。検体Cは全身の皮膚に赤みが出始める。皮膚組織を取り、こちらも分析する。検体Dもまだ症状はみられない。検体Eは経過良好。膝蓋腱反射(しつがいけんはんしゃ)にも僅かに反応があった』

「膝蓋腱反射ってなに?」

「膝の下にある膝蓋腱を軽く叩くと脚があがる脊髄反射の一種だな」

「へえ、おじさん詳しいんだね」


次のページを捲る。まだ実験結果が続いている。


『七月六日。追加した検体Fに同ウィルスを与えた。アレルギー反応があったため、ワクチンを投与したところ症状が沈静化。要経過観察。

八月十七日、追加の実験を行う予定』


書類はこのページで最後だった。

八月十七日とは、今日の事だ。

今日また実験を行う予定だったのか。

いや、それよりも肝心のワクチンの記載があった。

シーズウィルスのワクチンは存在するのだ。

しかも黒岩はそれを所持している。

つまり、黒岩を見つければ我々は助かるという事だ。

蚊にさえ気をつければ大丈夫だ。これで生きて延びれる。

ようやくひと安心したところに、ふと疑問が残る。


「この実験、何のための実験なんだろう?普通、こういうの資料に書いたりしないのかな」


この資料には何のために行われた実験か記載がなかった。高校の授業でレポートをまとめた時、実験の目的を書くよう教師に言われ、再提出をさせられた記憶がある。

目的と実験内容に関連があるかを明示するためらしい。

学者ともなれば、そういった記載はしないものなのだろうか。


「さあ、それは…。久保田さんは何か知らないですか?」


成瀬は久保田に尋ねる。


「しっ、知らない!俺は何も知らない!」


声を荒げ、怯えるように頭を抱え込む久保田。まだ話ができる様子ではなかった。

何をそんなに動揺しているのだろうか。

シーズウィルスが蚊を媒介にして伝染(うつ)ると分かって、自分も感染する可能性があると怯えているのだろう。

虫除けがあるから問題ない、と言えばいいのかもしれないが、この男にそこまで気遣う必要性を感じなかった。

成瀬は清水と薬師寺に向き直る。


「研究の内容はどうあれ、やはり黒岩先生は今もシーズウィルスの研究を行っている事は間違いないですし、先生はワクチン持っていそうですね」

「でも、その黒岩って先生どこにいるんだろう…」


成瀬は改めて部屋を見渡すと、久保田に焦点を合わせる。


「ここには資料にあるようなマウスの姿もそれらしい実験器具もない。それに、この大学には実験室はありません。もしかしてこの島には、黒岩先生の研究施設が別であるんじゃないですか?」

「…し、知らない。俺は知らない」


久保田は目が泳いでいる。明らかに気が動転している。

だが、受け答えができるくらいには落ち着きを取り戻しているようだ。


「この状況で隠す理由があるんですか?外を見たらわかると思いますが、この街はゾンビに乗っ取られたといっても過言ではありません。しかも明日の夕方にはこの街だって火の海になるんですよ」

「う、うるさい!俺は一般市民だぞ!犯罪者が偉そうに言うな!」


久保田は怒りを(あら)わにするが、成瀬は淡々と話を続けた。


「それはこちらの薬師寺さんも同じです。向こうの連中は首輪付きかどうかではなく、この街にいたかどうかで島から出すかを判断しています。つまり我々が助かる唯一の方法は、黒岩先生からワクチンを分けてもらう事なんです」


成瀬はひと呼吸置いて、久保田に問いかける。


「もう一度お尋ねします。黒岩先生はどこにいるんですか?」

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