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【完結】獄中都市の惨劇  作者: トウカ
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第15話 捜索 (2)

久保田は舌打ちをしてから机から降りると、書棚の横の壁にもたれかかる。自分は手伝う気はない、という事だろう。

成瀬は書棚を調べ始めた。薬師寺は書斎机に積まれている本やファイルを、清水は書斎机の横にある棚を調べる事にした。

黒岩は細菌やウィルスの研究を主にしていたようだ。部屋には賞状もいくつか飾られている。優秀な研究員であった事は間違いないだろう。

虹色研究会のメンバーの写真や何かの賞を取った時の写真も棚の上に飾られている。

よく見ると、研究会の面々が持つアイテムの差し色が気になった。あまりフォーマルの場で付ける色としては相応しくないように感じたからだ。

彼らの名前には、それぞれ色が入っていた事を思い出す。

左から古賀みどりは緑色の石のついたイヤリング。赤間俊太郎は赤色のカフス。中央の黒岩は黒のハットを胸に置いている。青木浩二は青色のネクタイ。野原紫苑は胸ポケットに紫色のハンカチを挿していた。

彼ら自身、自分たちの名前をもじった研究会を気に入っていたのかもしれない。

成瀬は書斎机の横にあるキャビネットを調べ始めた。本棚には目当ての情報がなかったのだろう。

清水が調べていた棚にはそれらしい内容が無かった。

薬師寺に調査の進捗を尋ねる。


「引き出しはもう調べました?」

「いえ、まだです。お願いできますか?」

「はい」


机の上に両手で抱えられるサイズの箱が置いてあった。中を見ると、何も入っていなかった。何かの鍵でも入れていたのだろうか。


「この箱、何を入れていたか知ってますか?」

「さあ、知らない」


久保田は全く協力する気はないようだ。

仕方がないので、清水は書斎机の引き出しを上から順に開けていく。

一段目には文具類。二段目には大学の授業で使っていたであろう資料がまとめられていた。内容は生物学の基礎のようだ。高校生時代に学んだ単語もいくつか並んでいた。

一番収納量の多い三段目にも書類がいっぱいに積まれて入っていた。

これは何かヒントがありそうだ。

しかし、引き出しの開きが悪く、資料を取り出すのに手こずる。

引き出しごと取り出そうとするが、紙が詰まっているからかなり重かった。

どうにか取り出して床に置くと、書類を床に積み上げていく。

キャビネットも調べ終えたのか、成瀬も一緒になって資料に目を通し始めた。

キャビネットの方も空振りだったようだ。

引き出しの中にあったのはシンポジウムで配られた資料や会議の資料ばかりで、シーズウィルスについての書類は見当たらなかった。

取り忘れた資料がないかと引き出しがはまっていた空間を覗き込むと、奥に白い紙が張り付いていた。

まさかと期待して、スペースに頭を突っ込む。

紙を掴むと、勢い余って二段目の引き出しに頭をぶつける。


「いたっ」

「大丈夫か?」


後方で成瀬の心配そうな声が聞こえた。

床に突っ伏したまま、ゆっくりと後退する。机から脱すると空気が美味しく感じられた。

しかし、苦労して見つけた紙には講演会の参加申込書と書かれていた。

シーズウィルスとは全く関係が無い物だと分かると、大きく溜め息をついた。


「そっちは?」


成瀬に尋ねるが、予想通り首を横に振った。彼がチェックした書類にも何も収穫は無かったようだ。


「こちらも何もありませんでした」


薬師寺が続いて答える。

部屋の中にはシーズウィルスの資料はどこにもないという事か。

黒岩がいないのであれば、ウィルスについて知る術はないという事になる。

黒岩は本土に来る前から研究していたはずだ。まさか資料の類は本土にしかないのだろうか。

これからどうすればいいのだろう。

ここまで来て目的を見失い、呆然とする三人。

清水は目の前に積まれた資料を片付け始める。こんな状況ではあるが、無許可で人のデスクを調べたという後ろめたさがあった。

引き出しを元の場所に戻そうと持ち上げると、斜めに傾いた背板から引き出しが、するりと現れた。


「え!?」

「これは…二重底になってるのか」


まさかこんな仕掛けがあるとは思わなかった。

清水は二重底の引き出しから封筒を取り出す。それ以外は何も入っていなかった。

表には《研究資料 二〇四〇年七月十日》と書かれていた。今から約一ヶ月前のものだった。脈が速くなっていくのを感じた。

こんな場所に隠されているのだ。間違いなく何かあるだろう。

だが、開けようにもしっかりと(のり)で綴じられていた。無理やり開ければ中の資料まで破ってしまうかもしれない。

ハサミのような物はないかと机を見渡すが、それらしき物はなかった。引き出しの中にも見当たらない。

清水がキョロキョロと周りを見渡す。


「どうした?」

「いや、ハサミとかないかなと思って」

「確かここにカッターがあったような…」


そう言いながら成瀬は一段目の引き出しを開けると、黄色い文具を取り出した。カチカチとレバーを上に押し上げ、飛び出てきた刃物で封を切った。

中身を取り出すと、ファイルに資料が入っていた。

資料を読み進めると、シーズウィルスの感染力について、まとめている箇所があった。

目当ての物に間違いなさそうだ。成瀬が文字をなぞるように声を出して読み上げる。


『シーズウィルスの感染力自体は弱く、飛沫感染や空気感染ではヒトには感染しないことが証明されている。しかし、感染した動物や植物を摂取すると、ヒトに感染するリスクは高まる』


「ヒトからヒトには感染しない?じゃあ、今感染している人達は何か同じ物を食べたって事…?」

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