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【完結】獄中都市の惨劇  作者: トウカ
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第12話 獄中大学 (2)

成瀬を先頭に一列になって、物陰に隠れながら進む。清水、薬師寺の順で彼の背中についていく。迷わず進む成瀬に、清水が小声で呼び掛ける。


「ねえ…おじさん」

「なんだ」

「その、黒岩先生の居場所わかるの?」


清水は大学に所属している学生だが、職業訓練の授業は西館のみで行われているので、東館にはほとんど行った事がなかった。東館に専門科目の教室、講師室がある事は知っているが、黒岩の居場所に見当がついていなかった。


「ああ、東館の二階の奥に部屋を持っている」


講師の部屋の位置まで把握しているのかと驚いた。彼の記憶力に救われてばかりだなと改めて感じる。

ゾンビが前方に一匹見えた。まだこちらの気配に気づいていないようだ。

成瀬は声は出さず、向かう方向を指差す。清水と薬師寺は黙って頷くと、成瀬が指示した物陰に隠れた。

すると右側からもゾンビが歩いて来る事に気がつく。

挟まれる形になってしまった。

前方のゾンビをやり過ごせれば、そちらの方向に逃げれる。

仮に両方にこちらの存在がバレたとしても、切り抜ける事自体は難しくない。

だが、騒ぎに気付いたゾンビがさらに寄って来る可能性はある。そうなれば無傷では済まないだろう。

息を殺し身を潜め、ゾンビに見つからないように祈った。

前方にいるゾンビが通り過ぎようとした瞬間、飼育小屋にいた牛が大きな鳴き声を上げる。

飼育小屋はここから距離があるのに。人間の姿が見えた事で餌をねだったのだろうか。あまりにタイミングが悪い。

牛の声につられて、二匹共こちらに走り寄ってきた。

成瀬は舌打ちすると一気に走り出した。


「走るぞ!」


前方からくるゾンビの顔は今までも奴より恐ろしい顔だった。右目が無く、顔が(えぐ)れた上に骨が剥き出しになっていた。その(おぞ)ましさに恐怖で心が締めつけられる。

成瀬の後をついていかなければいけないのに、足が動かない。

進路を阻むようにゾンビが近づいてくる。

早く逃げないと。右に行くか、左に行くか。

迷っているうちにゾンビが目の前に迫ってきていた。

寸前に迫る死に思わず身体が(すく)む。


「こっち!」


後ろにいた薬師寺が清水の手を引っ張る。

清水に噛みつこうとするゾンビに、薬師寺がデッキブラシを一度叩き込む。

その隙にゾンビから離れると、西館の中に滑り込む。先にいた成瀬が扉を瞬時に閉め、鍵をかけた。

扉越しにまだゾンビが(うめ)きながら、扉を叩いている。

だが、知能が退化している奴らに建物内の侵入は叶わない。

清水は息を整えながら薬師寺に礼を言った。


「ありがとうございます。助かりました」

「いえ、無事で良かったです」

「大丈夫か?」


自分の覚悟が甘かった。

この街にいる限り、いつ殺されてもおかしくない。それに自分のせいで周りも死ぬ可能性だってある。

気を引き締めなければいけない。

勢いよく自らの両頬に活を入れる。


「もう大丈夫」


清水の行動に唖然とする成瀬。しかし、彼女の表情を見て安心したように微笑む。


「二階の連絡通路を渡って、右に曲がると講師室があります。ゾンビが来る前に行きましょう」


今いるのは西館の裏口だ。ここから東館に行くには二階の連絡通路を渡るしかない。

傍にある階段を駆け上がると、その途中で息絶えた死体があった。首元を噛み千切られており、大量の血が流れていた。

どうやら建物内にもゾンビがいるようだ。

階段を昇りきったところで成瀬は手で二人を制すると、廊下に顔を出して周りの様子を窺う。

成瀬からの合図を見て、二人は腰を落としながら慎重に廊下を進む。

それにしても建物内は異様なまでに静かだった。もう全員避難していて、誰も残っていないのではないだろうか。

東館への連絡通路もなんなく渡る事ができた。ゴールはもうすぐそこだ。ゾンビが館内にいないのも功を奏した。

成瀬が最後の曲がり角の手前で立ち止まると、壁から少し顔を出す。成瀬は制した手を下げなかった。


「黒岩先生の部屋の前にゾンビが三匹群がっている」

「それって…」


ゾンビが集まっているという事は、部屋の中に生きている人間がいる事を意味する。

黒岩康正に会うためには、この難関を乗り越えなければいけない。

我々の持っている武器の中に刃物が無い。

つまり、このままではゾンビを殺す事はできない。


「でも、そんなにゾンビがいるのにどうやって中に入るの?」

「俺に考えがある」

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