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異通者奮闘記  作者: ラク
一章:ようこそ、魔法世界へ!
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旅路

今回はちょっと短めです。本当は次の話と合わせて投稿しようかと思ったのですが、長くなりすぎるため切りました。


元の世界に居た頃は、TVで国内の有名な場所や海外の観光地などがたくさん紹介されていた。

それを見て、実際に行った事もないのに行ってしまった気がして、行く気がなくなってしまい、旅行するということに興味もなくなってしまっていた僕だったが、まだまだ全然行ったことも見たことも聞いたこともない場所がたくさんあるこの世界で旅をするということは正直なところかなり楽しみだった。


だが、だ。


「なんで二人までついて来るんだ?」


「なんで…って言われてもなぁ」


「アタシ達も同じ依頼受けたからとしか言いようがないわよね」


苦笑しながらアイズとロナが携帯食料の干し肉を袋から取り出しながら口々に言ってくる。

そう、何故か二人がついてきた…いや、別に嫌ってわけじゃない。

むしろ助かるので喜ばしいことなんだけどね、夜の見張りとかは人数が多い方がいいし。

そんな事を思いながら道中に集めておいた枯れ枝に魔法で火をつけ、僕も鞄から取り出した干し肉を火で軽く炙る。

辺りはもうすっかり暗くなっており、今日はここ…エルクワールと帝都ウィンベルのちょうど中間に位置する森の中で野宿だ。


「…ミストさんからの薬品購入の依頼?」


「そ。だいたい、今のご時世一人旅は結構危険なのよ?街道沿いはまだしも、森の中とか魔物が出て結構危険なんだからね?」


ロナが人差し指を立てながら言ってくる…うーん。そこまで危険なのかこの世界?と、正直なところ僕はまだ実感できていなかった。


学校に入学しても土日には僕が最初に居た村…レント村にはたまに行って、ミストさんの手伝いで周辺を結構歩き回ったが、魔物らしき姿を見たことはなかった。

その事をロナとアイズに話してみると意外そうな顔をされた。


「そういえばアンタと薬草摘みに行ったときには会ったことないわね。よくよく考えてみると、そこまで魔物に会わないのも…確かにレント村はどちらかと言うと平和だけど、それでもまったく見かけないのはおかしいわ」


「そうだね。でも、もしかしたらユキト君自身に何か理由があるのかもしれないな…」


「僕自身に理由って…異通者だからか?」


確かに二人にはなくて僕にだけにある特性だが…本当にそれのせいなのか?

むしろ僕は逆だと思う。この世界の人間じゃない僕はこの世界から見たら完全に異物でしかない。

だから魔物には余計襲われそうな気がするんだけどなぁ…まぁこの辺りは推測でしかないから全然わかんないんだけど。


「異通者…って言うか英雄って恐れられる者なの?」


そういえばミストさんも言ってたけど、確かに英雄だったら魔物に恐れられてもおかしくはないと思う。


「それはわからないな。英雄はここ最近…何百年も呼ばれてないし、歴史書にもそういう話は載ってなかったと思うよ。それに異通者と会うことが稀だから、よくわからないね」


アイズがそう答えるのを聞いてちょっと安心する僕。

もしかして僕が英雄として呼ばれたんじゃないだろうかと、ミストさんから聞いた時一瞬思ってしまったからだ。

まぁ、よくよく考えると当たり前だよな、僕なんかが英雄として呼ばれるはずないしと、そこまで考えてめちゃくちゃ恥ずかしくなった。

一瞬でも僕が英雄なんじゃないかと思ってしまったことが既にアウト過ぎる…自重しよう。


「そ、そうなんだ…ってことは何百年か前に英雄って居たの?」


話題を変えるために英雄について聞いてみる。

そこはミストさんに聞いた時からちょっと気になっていたところだ。

まったく関係ないとはいえ、同じ異通者だったんだからどんな感じの人だったのか聞いてみたかった。


「うん?いや、ボクにはよくわからない。何しろ何百年も前の話だからね」


ありゃ、意外と歴史書とかに載ってるかと思ってたんだが…。

英雄なら歴史に残るような大事件を解決してる気がするし。


「アタシもその頃には魔物を凶暴化・大量発生させる魔王ってのが居たらしくて、その討伐のために呼ばれたってぐらいしか知らないわね」


げ…魔王って居たのかよ。どんだけ王道ファンタジーなんだよこの世界。と心の中だけでツッコム。

口にはしない。実際この世界の人達には切実な問題だっただろうし。

と言うか…討伐されたんだよな?その魔王…(汗


「そういえば…その人、元の世界に帰れたのかな?」


「「…………」」


僕の何気ない呟きに二人が押し黙る。

しまった、失言だったな今のは。そんな事二人にはわかるはずもない事だし聞いていい事じゃなかったな。

僕がそう後悔しながら苦し紛れに干し肉を齧る。

その様子を見てロナが少し慌てたように木々の間の空を見上げて話しかけてくる。


「そ、そういえば今日は満月で助かったわね~」


「そ、そうだな。月明かりが結構助かるし」


「魔物も大人しくなって一石二鳥だからね」


「え?満月だと魔物が大人しくなるの?」


初耳だったので思わずアイズに聞き返す。

対するアイズも驚いたような顔で逆に聞いてきた。


「ユキト君…君、知らなかったのかい?まぁ、魔物に遭ったことがなかったから当然かもしれないが」


「あー…うん。図書室で借りた本も全部魔法関係の本だったし、授業でもそんな話聞いたことないし…」


「あはは。まぁ、アタシ達にとっては当然の事実だからね。ユキが知らないのも無理ないでしょ」


ロナが苦笑しながら近くにあった枯れ枝を火の中に投げ入れて言葉を続ける。


「月の光には魔力があって、魔物はその魔力を嫌うっていうのがどこかの偉い学者さんの説らしいわ」


「まぁ、たとえ満月でも一応用心はしたほうがいいと思うけどね」


「そうなんだ…じゃあ、ちょっとは安心かな。二人とも今日は先に休んでいいよ。僕が見張りやるから」


干し肉を食べ終えたので手近な木に腰を下ろしながら寄りかかる。

もちろん、いつでもすぐに使えるようにナイフも抜いておく。

その様子を見ていたアイズが首を振って話しかけてくる。


「いや、ボクがやろう。見張りは慣れないと大変だろうし…」


「じゃー早く慣れるためにも最初は僕がやらないとね」


「う…」


アイズが言いよどむのを見計らって側に置いておいた袋から毛布を取り出して適当に投げつける。


「ほらほら、余計なこと考えてないでとっとと寝ちまえー」


「…わかった。でも5時間経ったら起こしてくれ。流石にそれ以上は譲れない」


「はいはい。わかったわかった」


適当に答えながら苦笑する。

いくらなんでも気を使いすぎだとも思うが、心遣いは嬉しかったので心の中だけでお礼を言っておく。

アイズはまだ何か言いたそうだったが、不承不承といった感じで毛布に包まる。

それを見届けた後に背後を振り返るとロナが呆然としていた。


「って、ロナどうかしたか?」


「え…あ、ううん。二人とも妙に仲いいなぁって思って…」


「そうだったかな?別に普通だった気がするけど?」


特に変な事も言ってないし、普通の会話だった気がするけど。

すると、よっぽど呆れたのかロナがため息をつきながら干し肉の骨を焚き火の中に投げ入れてこう呟く。


「はぁ、ユキって本当に鈍いわねぇ…」


「…やっぱり鈍いのか僕…」


そう嘆いてからちょっとだけ凹む。

事実、元の世界でも妹の雪菜や学校の友達にも「お兄ちゃん(お前)鈍すぎ」と何度か言われたことがあるからだ。

僕は今後どうしたら鈍くなくなるのかを割と真剣に考察していると、ロナが欠伸をして眠そうに目をこする。


「それじゃあ、アタシもそろそろ寝ようかな?」


「あ、うん、お前はずっと朝まで寝てていいからな」


「…ありがと。ユキ」


そう微笑してロナが答えると焚き火の近くで横になり、すぐに寝息が聞こえてきた。

実は、ロナは夜に弱い。気を使ってやらないとこっちが大変な目に遭うぐらいだ。

ちなみに、一番最初に夜に弱いという事に気づいたときは大変だった。

その時は僕とロナがミストさんのお手伝いでレント村の外を周っていたのだが、薬草が見つからずに時間がかかり、夜になってミストさんの診療所に帰る途中で急に眠りだしたのだ。


(あの時は大変だったなぁ…)


立ち上る火の粉を目で追いながら苦笑する。

歩いている途中で急に倒れそうになったロナを慌てて支え、呼んでも叫んでも揺すっても起きなかったため、結局背中におぶさって帰ることになり、かなり大変だった。

まぁ、今となっては笑い話としか思えないけど。


「さてと…」


ここから5時間は常に周囲に気をつけなければならない。

居眠りしてて起きたら天国でした、というオチだけは避けたい。

となるとこの待つだけの時間は退屈になるだろう。


(ま、今回は退屈はしなさそうだけど…)


そう溢してから空を見上げると木々の間に綺麗な星空が広がっていた。

前にも言ったが、元の世界では常に天気が悪かったので夜の間もほぼ雲に覆われていて星空は見えなかった。

だから、こういう星空は初めて見る。


「本とか写真とか映像とかで見たことならあったけど、実際に見てみると凄く綺麗だなぁ…」


満天の星空を見上げていると、不意に雪菜の顔が思い出された。

あいつにも見せてやりたいと心から思う。

僕と一緒で本が大好きだったが、とりわけ星座が描かれた本が好きだった。

実際にこの星空を見せたら本当に喜んだだろう。


(自由に行き来できたらなぁ…)


できたらいいなぁ…とは思うが、その前に僕自身が戻れないとどうにもならない。

帝都に世界移動の核心とまでは行かなくてもヒントぐらいはあるといいなぁ…と思いつつ鞄から本を取り出す。

一応、周りに気をつけなければならないが、居眠りするよりは良いと思うし、流し読みするぐらいなら大丈夫だろう。


「さてさて、星空も十分堪能しましたし適当に時間潰すとしますか」


そう呟いてから僕は本を開いた。


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