依頼
次話が完成してから更新する予定だったのですが、一応誤字脱字の修正は済んだので更新します。
「じゃあ、これやるとするか」
「そうだな。期限は3日後だからゆっくりできるな」
「ねぇ、こっちの依頼受けてみない?簡単そうだし」
「でも報酬少ないよ?お姉ちゃん」
早朝、校舎内の下駄箱から中央エントランスに行くと掲示板の前でざわざわと言葉を交わす多数の生徒達の姿があった。
それを僕は横目で見ながらエントランス部分を抜け、教室に行くために階段に向かう。
(前から思ってたけど、なんなんだろ…あれ)
階段を登りながら首を傾げる。
今までにも何度かこういう光景を見かけたのだが、時間がなくてじっくり見たことがなかった。
気にはなっていたが、実生活に特に害があるわけでもなかったので放置してたのだが…。
(あとでロナかアイズにでも聞いてみるかな?)
あの二人なら何か知ってるだろう。
伊達に僕より早く学校に通ってるわけじゃないだろうし。
と、考え事をしながら階段を登っていると降りてきている生徒に肩がぶつかってしまった。
「あら、ごめんなさい」
「いえ、こちらこそすいません…ってフィナ先輩?」
ちょうど昨日図書室で会った先輩がそこにいた。
「あ、昨日本を借りに来た…えっとユキト君だったよね?おはよう~」
「おはようございます。フィナ先輩」
階段の踊り場で軽く挨拶。
ちょうどフィナ先輩の右肩後ろに先ほどの掲示板が見えたので、ちょっと聞いてみることにした。
「あ~依頼掲示板の事ですか」
「依頼掲示板?」
「えぇ、あれは学内・学外から生徒達に処理して欲しい事柄を紙に書いてあの掲示板に張ってあるんです」
「ふむふむ…」
「その紙を個人または複数のメンバーで向かい側の…ほら、あそこのカウンターに居る人に渡すんです」
「たしかに居ますね、かなり暇そうですが…」
「あはは…この時間帯は人が少ないですからね~…っと話を戻しまして、あの依頼は学校側で判定されて、報酬が貰えるという仕組みです」
「報酬…やっぱりお金ですか?」
「それもありますけど、成績や個人の魔法使いランクの向上にも繋がるんです」
「ああ、なるほど…失敗した場合は?」
「もちろん報酬は出ませんし成績も少し落ちます。あ、でも依頼者によっては報酬が貰えたりもしますね」
なるほど、報酬は依頼者の気持ちってところかな?
「大体わかりました。色々と教えてくれてありがとうございましたフィナ先輩」
「いえいえ、それじゃあまたね。ユキト君」
そう言ってウィンクした先輩はとてとてと階段を降りていく。
うーん。才色兼備ってああいう人を言うのかなぁ。
年下の僕達にも優しいし、美人だし、いつも笑顔だし、その笑顔も素敵というより可愛いの部類に入るだろう。
スタイルも…まぁ、僕は詳しいわけじゃないからよくわからないけど良い方だと思う。(何がどう良いのかは置いておいて…)
ああいう人がモテるんだろうなぁとか思いつつ階段を振り返る。
「ふーん、ユキってああいう人が好きなんだ?」
いつの間にかニヤニヤ顔のロナが目の前に居た。
そして、なんとなく癪だったので記憶上のフィナ先輩の笑顔と見比べてみる。
「ぶはっ…」
「ちょっと、何よその「ぶはっ…」って」
「いやぁ、フィナ先輩と比べるのも失礼だったと思っただけだ」
「アンタのほうが失礼よね~」
怖い笑顔を作りながら僕の頬を掴んで左右に引っ張り始めるロナ…痛い。
「や~め~ろ~引きちぎれるぅ~」
「いや、そこまで強く引っ張ってないし」
「これ以上~やったら~」
「これ以上やったら?」
「18禁になる~」
「いや、だから、頬引っ張ってるだけでそこまでグロい展開にはならないと思うわよ?」
「あ、お前!馬鹿にしてるだろ?お前の力は意外と強いからグロい結果になるぞ?そういう展開ありえるぞ本気で!」
「うん、なんか非常に腹立たしいけど間違ってないって言えるわね。とうっ」
「ぎゅえっ」
限界まで引っ張られて指を離された。
「ううう…ロナに弄ばれたー」
「ちょっと!人聞きの悪いこと言わないでよ!」
「あ、ホントだ。そうだったね」
「ようやく気づいたわね…」
「弄ばれたぐらいじゃ済まなかったね」
「全然気づいてない!?と言うか、むしろ悪化してる!?」
「まぁ、それは置いておいてそろそろ教室行くか…いい加減このやり取りも飽きたし」
「う~わ~、アタシ今ユキのことすっごく絞殺したい…」
俯いたロナの顔が黒い…じゃないなこれ、どす黒い。
うん、これ以上からかうのはやめとこう。
流石に僕も朝っぱらから死亡フラグは立てたくない、朝じゃなくても嫌だが。
とりあえず話題を元に戻すことでこの状況を脱しようと試みる。
「まぁ、実際否定はしないよ。良い人だし」
「へ~。そうなんだ。否定しないんだ?ふ~ん。男の子はああいう人好みなんだ~」
「…と言っても、人の好みなんて千差万別だし、あんまり気にしないほうがいいぞ?」
「ちょ、ちょっと!ア、アタシは別に気にしてるなんてことないわよ?」
「ん~?そうだったか?」
はて、ちょっと心を覗いてみたら「嫉妬」や「憧れ」みたいな感情が見えたんだけど、本当に気のせいでしょうかねぇロナさん?
さっきの仕返しにじ~っとニヤニヤ顔で見つめてやる。
「うー…とにかく!アタシ、もう教室戻るからっ!」
顔を赤くしたロナが足音を響かせながら階段を登っていく。
怪獣みたいだな、あのドスンドスンって足音。
とか思いながらも一応手を振る。
「おう、またな~」
うん、今の考えは怪獣に失礼だったかもしれないな。ごめん怪獣さん。会ったことないけどごめん。
(さて、僕もいい加減教室行かないと遅れるな…)
僕も階段を登りきって教室に向かって歩き始めた。
「依頼?」
「そう、依頼」
喋りながらアイズが振り下ろしてきた片手直剣を既に展開していた盾で受け止める。
うん、ちゃんと機能してるっぽいな。よかったよかった。
「ボクも何度か受けたことあるぞ。はっ」
「そうなんだ。っと」
時間は午後の実践訓練。
今日の訓練は1対1の自主訓練で訓練相手はアイズだ。
実は、アイズの対戦相手がクラスの中には居ない。
理由は簡単で、アイズが1年生の中ではかなり強いため、クラスメイト相手では訓練にならないからだ。
その結果。この前の試合で唯一勝った僕に白羽の矢がたったのだ。
…ついでに言うと、実は同じクラスだった。
アイズは最初は僕に興味がなかったらしく、初日の質問責めには加わってなかったため、気づくのが遅れた。
適当に会話をしつつも、空いている左手に注意する。
アイズは剣も魔法も素早く使ってくるから油断できない。
だからまぁ、本当はこんな会話してる場合じゃないんだけど、今は詳しい情報が欲しいので気にしない。
「まぁ、この町近辺の魔物退治や近くの村までの警護だけなんだけどね」
「ふーん。やっぱり依頼にも色々種類があるんだな」
ふと元の世界でやっていたゲームのクエストなどを連想してしまう。
うーん。ゲームは確かに結構やってたけど、こういうのって実際現実にあるんだなぁ…などと考えていたせいか一瞬気を逸らしてしまったため盾が少し歪む。
こういった常時魔法式を展開するような魔法は常に魔力を流し込むことで形状を維持できるのだが、一瞬でも魔力が途切れれば途端に形状を維持できなくなる。
僕の盾が歪んで消えるのを見て、アイズが一度剣をおろす。
「よし、だいぶ盾の使い方に慣れたみたいだし、次は魔法も織り交ぜていくよ?」
「おおう。いきなりかよ…まぁ別にいいけど、必ず手加減はしてくれよー?」
そう答えながらも、僕も昨日読んだ本の中で使える魔法を検索しながら表情を引き締める。
僕の表情を見て嬉しそうに笑うアイズ…あー、死亡フラグたったかも。
「それじゃあ行くよ?―汝、弾丸となりて、敵を弾け、弾!―」
「あいよ了解。―汝、力を糧に我が周囲に示せ、壁!―」
お互いに使ったのは自身の魔力を使った純正魔法の魔法公式。
アイズの周りに形成された合計5つの大小様々なキューブが様々な軌道で迫ってくる。
それに対して僕は、足元に展開された魔方陣に魔力を注ぎ込み、円に沿って周囲に壁を作る。
次の瞬間、キューブが壁に激突して爆発した。
アイズが唱えたショットは魔力を特定の形にして相手に飛ばして攻撃する魔法公式だ。
形は個人により様々だが、主にスフィア型・キューブ型らしい。
それに対して僕が使ったのは防御魔法のバリアでこれは全方位と周囲を防御できるシールドだ。
アイズの攻撃がどんな軌道で攻撃してくるかわからなかったからこちらは全方位を防御してみたのだが…。
「やっぱり維持魔力がかなり負担かかるな…」
バリアはシールドに比べると負担が大きい、これは全方位を広範囲を防御するために維持魔力が大量に必要になるからだ。
まぁ、その分全方位を広範囲にカバーできるのだが…結構大変だぞこれ…と内心冷や汗を掻く。
キューブの爆発によって砂埃が舞っていたが、徐々に晴れてくる。
視線を正面に居たアイズに移すが、見当たらない。
「せいっ」
「っとぉ!?」
ガシャンッという花瓶やガラスが割れたような音と共に、背後からアイズが飛び出してくる。
どうやらバリアを剣で突破してきたらしい。
いつの間にか足元の魔方陣が消えてるし、魔力を流し込んでも手ごたえがない。
(接近戦に持ち込む気か?ってアイズとの距離が近すぎてナイフなんて取り出してる暇がない!?)
本来なら魔法を唱える前にナイフを取り出しておくべきだった。
その事に後悔しながらも慌てて今居た所から全力で体を投げ出し、両手を使って地面を掴み体全体をバネにして跳ねる。
十分に距離を取ってから周りを見渡してアイズを探すが、砂煙に紛れたのか姿が見えない。
今のうちにと、すぐに腰に付けていたナイフに手を伸ばしたところで後頭部に衝撃が走り、僕の意識はそこで途切れた。
「あ、気がつきましたか?ユキト君」
「…えぇ、一応…」
ベッドから起き上がって周りを見ると、どうやら保健室らしい。
机に向かっていたミストさんがこちらを向きながら聞いてくる。
うん、よく寝た。そして、アイズめ…あんだけ手加減しろって言ってたのに…本気で向かってきたな、あの野郎。
大方、この前の試合で負けたのが悔しくて本気を出したに違いない。
少しベッドの上で殴られただろう頭を動かしてみる…うん、特に痛みはないし大丈夫だな。
「運ばれてきた時はびっくりしましたよ」
「あはは…アイズはなんか言ってましたか?」
「「まだまだだなユキト君」って言ってましたよ」
「………さいですか」
あんにゃろいつか絶対泣かしたる。
まぁ、思うのと実際やるのとでは、かなり幅の広い一線があるから出来ないだろうけど、一応心の中で誓っておく。
「そういえばユキト君。次の土日空いてますか?」
ベッドから降りる僕を見計らってミストさんが声をかけてくる。
「えぇと、予定は特にないですけど…」
「じゃあ、私の依頼受けてもらえませんか?」
「依頼…ですか?別に構いませんけど、いつもの薬草摘みでしたら依頼じゃなくて、手伝い扱いで良いですよ?」
この前の土日はミストさんの手伝いでロナと薬草摘みに行ったのだが、薬草がなくなってたりしててはかどらなかった。
天候や森の動物たちが関係してるってロナは言ってたけど…実際はどうだかわからない。
それに薬草摘みぐらいならいつもやっているし、わざわざ依頼にしなくていい筈だ。
「いえ、実は必要な薬品を切らしてまして、この街では手に入りにくいので帝都まで行ってもらえませんか?」
「…帝都、ですか?」
「そうです。帝都ウィンベル。そこにある魔法店で必要な薬品を購入してきてもらえませんか?」
思わず壁に貼ってあった周辺地図のほうに僕は目を向ける。
エルクワールは大陸の西南に位置している。
ここから北に行くと帝都ウィンベルがあり、そこまでの道はある…あるにはあるのだが。
「あの…行くのは全然構わないんですけど、どう考えても2日で行って帰ってこれる距離じゃないですよ?列車を使っても余計時間かかりますし」
そう、確かに土日を使って帝都ウィンベルまで行くことは可能だろう。
だが、帰ってくるのにも移動にかかった日数がかかるからどう考えても土日中に帰ってくるのは無理だ。
ここから東にある別の街…シーエという街まで行って列車に乗るという道もあるが、それぐらいならここから歩いて向かったほうが早い。
「えぇ、わかっています。ですから学校に依頼届けを出して行ってもらいたいのです」
「依頼届けって…もしかしてそれを出しておけば授業に出なくていいんですか?」
「そうです。それにユキト君にもメリットがあると思いますよ?」
ニコリと笑ってこちらを見るミストさん。
「メリット…ですか?」
「帝都では異世界から英雄を呼び出す英雄召喚の儀式が昔行われているのです」
「ってことはもしかして?」
「えぇ、そうです。ですからお城の図書館に行けば有力な手掛かりが掴めると私は考えています」
「そうなんですか…わかりました。その依頼お受けします」
もう断る理由はなかった。
まぁ、元々ミストさんが手伝って欲しいことには手伝う心構えだったので、むしろこうして依頼として提案してくれたミストさんに感謝するべきだ。
ただ、一つだけ僕は気になることができていた。
英雄召喚…ね、まさか…な。
もしかしたら次話以降はちょっと更新感覚が長くなるかもしれませんが、どうかお付き合いよろしくお願いします。