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異通者奮闘記  作者: ラク
三章:エルクワール学園生活
41/46

作戦

ちょっと遅くなりました><



『じゃあ今日は立地を確認しよう。皆も何度か使用したことがあるだろうから、どこに何があるかとか知ってるかもしれないけど、知らない所もあるだろうし、この訓練場を隅から隅まで歩いて周ろう』


訓練二日目。

今日は実際の戦場となる市街地の訓練場が使用していいとのことなので、現地に集合している。

市街地の訓練場は、エルクワールの街並みと一緒で洋式のレンガ造りの建物が並んでいる。中には商店っぽいものや、三階建てなどの建物も混ざっているので、結構見飽きたりしない。

そんな街並みを皆で雑談も交えながらぞろぞろと練り歩く。


昨日の交流で皆大分打ち解けた…と思う。

だが、もちろん仲が良い子もいれば仲が悪い子もいるし、人と喋る事自体が苦手な子もいる。

その辺のバランスもトランと観察して相談してグループ分けしてある。

まったく問題がないわけじゃないけど、問題が出ないようにするしかない。


『ところで、作戦とかあるのかい?』


『んーまぁ、幾つかならあるよ。一応』


トランが右隣に並んで質問してきたので答える。

ド素人の考えた作戦だけどね。と心の中だけで付け加える。

はっきり言うが、戦略とか作戦とかあまり考えたことがない…まぁ、それ以前に現代日本で戦術やら作戦やら考えること自体おかしいのだが。

チェスや将棋、ゲームの対戦ぐらいでしか考えたことがないし。


それに友人曰く『お前の場合、後ろで考えるより前で戦ってたほうがいいよ』とのことらしい。

まぁ僕自身も後ろのほうで戦術を組むみたいな柄じゃないのはよくわかってる。

でも、あんまり考えなしで戦うわけにもいかない。

今回はチーム戦だし、なにより…。


『うむ、流石は我らのチームリーダー。しっかりしているなユキト』


サラーがぽんっと右肩を叩いてくる…そう、何の冗談なのか僕がチームのリーダーに選ばれてしまった。

最初は統率力…というかまとめ役に適任っぽいトランに任せようかと考えていたんだけど、何故かチーム全員が僕にまとめて欲しいと言われてこうなってしまった。

皆の考えが理解できない。いやまぁ、元々の原因が僕だからリーダーにされても仕方ないのかもしれないが…しれないけど…。


『どうも慣れないんだよなぁ…そのリーダーって呼ばれ方…』


『そうですか?わたしはぴったりだと思いますけど?』


左隣にユリアが並ぶ。

どうやらシリアが日替わりで色々な髪型を試していく事にしたらしく、今日は髪を首の後ろをゴムで縛っただけのポニーテールだ。元々の髪のボリュームがあるせいか、結構大きい。


『そうかなぁ…しかし、意外と似合うなぁポニーテール』


最初は似合わないかなぁと思っていたのだが、割と悪くない。

でもなんか頭が寂しいような気がする。カチューシャとか大きめのリボンでも付けたら似合いそうだ。


『そ、そうですか?』


『そこのお二人さーん。人目のあるところでいちゃいちゃしないようにー』


シリアがジト目で声をかけてくる。

別にいちゃいちゃしてるわけじゃないんだが…まぁいいや。


『べ、別にいちゃいちゃしてるわけじゃないですよっ!』


『そーお?そこはかとなーく甘い空気が漂ってた気がするんだけどー?』


『ないですっ!ないですってば!』


ムキになってきたのか顔を真っ赤にしてユリアがシアの両肩を掴んで揺さぶり始める。


『わ、わかった!わかったからユリア!その揺さぶり方やめて!』


がっくんがっくんと上下左右に激しく頭が揺れている…正直気持ち悪そうだ。

と、その光景をぼーっと見つめているとサラーが少し慌てた様子で肩を叩いてくる。


『お、おいユキトよ。我が見る限りシリアの顔が酷く青白く染まっているように見えるのだが、止めなくてよいのか?』


あ、やばい。つい傍観してしまった。

言われて慌てて止めに入る。


『た、助かったわ。ユキト、サラー恩に着るわ…うえぇ』


『う、うむ。大丈夫かシリア。その…顔色がまずいことになっとるぞ?』


『すいません。つい…』


『つい、で仲間を減らそうとするなよ…』


突っ込みながらユリアを窘める。ちょっとやりすぎだ。

流石に気分が酷すぎたのか、シリアが丸い緑の水晶が付いた銀色の指輪を取り出し、右手の人差し指にはめる。


『魔法使わせて貰うわね…【我が魔力よ、顕現せよ、形は治療、その役は癒し!】』


丸い緑の水晶が白く淡く光を放って全身を包む。


『おお、治療系の純正魔法って初めて見るなぁ』


『…前から思ってたんですけど、ユキトさんって以前はどこに居らしたんですか?ちょっと魔法を知らなすぎる気がするんですが…』


首を傾げながらこちらを見るユリア。

う、まずい。確かに不審に思われても不思議じゃない。

こっちの世界にきてかなり経ってわかったことだが、魔法はこの世界では広く深く根強く浸透している。

だから見たことがないという人間はおかしいと思われても当然だ。

って、今は誤魔化すことに専念しよう。


『あー…ほら、あれだ。うん。前に居たところでは魔法を使うこと自体が少ない地域だったんだよ。ほら、魔法にばっかり頼ってて、いざ使えなくなったら人間何にもできなくなるだろう?』


『ふむ、確かにそうだ。我も魔法を封じられたら遠距離からの支援は弓ぐらいしかできんな』


お、弓を使える奴がいるのは嬉しいな。

考えていた作戦がしやすくなる。


『んー…わたしは剣の稽古もつけて貰ってたので使えなくなっても大丈夫…って言いたいところですが、わたしもいざ使えなくなったら困っちゃいますね~』


よし、うまい具合に話題が逸れた。


『でもあんまりそういう事考える必要はないよ。魔法が使えなくなるっていうのは滅多にないし』


『精霊魔法は精霊の魔力。純正魔法は自己魔力だからなぁ。滅多に使えなくなるってことはないよな…あ、魔力切れはありそうだな』


しかし…魔力切れって滅多にないよなぁと思う。

僕も限界まで魔力を出し切ったことはない。

と言うか、僕の魔力総量ってどれぐらいなんだろう?

ちょっと気になったので皆に聞いてみることにする。


『…なぁ、皆は自分の魔力総量って判ってるのか?』


『当たり前でしょ。魔法の練習し続けてればある程度把握できるし』


『うむ、我も大体は把握しているな』


う、皆把握してるのか…僕は未だにわからないんだけど…今度一回全力で魔力出し切ってみるか?


『(ユキさんの場合は魔力総量がおかしいと思いますから全力で出し切ったら草原なんて焼け野原になると思いますが…)』


僕の頭に載っていた結が苦笑しながら念話で指摘してくる。

焼け野原かぁ…流石にそこまでしたくないなぁ。


『(ところで何故に念話?)』


『(なんとなくです)』


…結ってたまによくわからんよな。まぁ別にいいけどさ。


そんな事を考えながら歩いているとちょうど中央の広場に着いた。

この広場がちょうど訓練場の中心で、丸い円形の広場になっている。

ここから南・北西・北東にまた少し大きめの広場があり、そこが各チームの陣地となっているらしい。


『ところでユキト君。作戦って具体的にはどんなのがあるんだい?』


広場の周囲を見渡しているとトランが声をかけてきた。ナイスタイミングである。


『ああ、ちょうどいいから実演しようか』


そう言って、何人かに声をかけて配置についてもらう。


『まず、幾つか陣形を考えてある。この陣形は「半包囲陣形」。トラン、ちょっとそこに立って貰える?』


『うん。わかった』


最後にトランが半円の中央に立つのを見計らってから、周りに声をかける。


『こんな感じで、中央に敵が固まっているときに半円を描いて包囲する。こうすると中央を集中して攻撃できる』


『でも、これぐらいの人数じゃあ防がれるんじゃないかな?』


『じゃあ、物は試しっていうし、やってみようか?半円組みの人は魔法公式の放出系、何でもいいから用意して5分…いや3分でいいか、トランを狙ってみて。あ、あとトラン』


『うん?なんだい?』


『全力で防御したほうがいいよ?割とこれきついから。あとシリア治療準備しておいてね』


『え?』


『は?』


トランとシリアが意味がわからないといった顔をして僕を見つめてくる。

それを全部スルーしてから半円組みの皆に声をかける。


『じゃー。放ってー』







『…ユキトさん』


『…なに?』


『流石にこれはやりすぎじゃないですか?』


『奇遇だな。僕もそう思ってたところだ』


ユリアが心配そうに広場の片隅を見つめている。

広場の片隅では、シリアが『トラン?ちょっと!しっかりしないよー!』とあわあわ言いながら治療している。

げっそりとした顔が印象的になったトランが虚ろな目をしてこっちを見ていた…正直すまんかったと心から思う。


『…えーごほん。見て判った通り、半円で包囲して集中して攻撃するだけでこれだけの攻撃ができます』


一部始終を見ていたチームメンバー全員が可哀想な者を見るような目でトランを見てから神妙に頷く。


『これは単に相手が多いっていうのもあるんだけど、防御が手薄になるんだ。半円で包囲するっていうのは、敵は半円全体を相手にしないといけなくなる。だから必然的に防御が薄くなる』


『でも、敵もすぐに気づくんじゃないか?』


チームメンバーの1人がそう言う。


『うん、だから最初の一撃で全滅が目標かな、でも倒しきれないと思うから、さらに…こういう作戦を考えてある』


そう答えながら、地面にチョークで全体図を描く。


『まず、ここがトランが居た場所。で、この線が半包囲してた人の位置ね。便宜上Aチームって呼ぼうか』


×印でトランが居た場所を示し、半円線を描いてから脇にAチームと書く。


『まず、叩けばある程度減ると思う。その残った敵なんだけど…』


矢印を×印から引く。


『たぶん、大通りに沿って逃げると思うんだ。横道には逃げないと思う』


『それは何故だ?』


『見てて判ったと思うけど、横道は9割方が狭い。集団で逃げるとするなら大通りのほうが撤退しやすいはずだよ』


『…そうだね。撤退を優先してるなら大通りの方が撤退しやすいもんね』


『うん。だから、Aチームのメンバー以外を…大通り沿いの屋根・・の上に待機してもらう』


『屋根の上に?』


ユリアが不思議そうに屋根のほうを見上げてから、視線を地面に戻す。


『追撃は後ろからするのもいいけど、それはAチームのメンバーの役割だ。でも、それだけじゃたぶん倒しきれない。だから、空から攻撃を仕掛けて畳み掛ける』


『ほう、中々エグイ作戦だな』


サラーが指差ししながら指摘する。


『つまり、敵は半包囲殲滅されたあと、撤退しながらも数を減らされていくという図になるのか』


『上手くいけば、だけどね』


苦笑しながら言う。

周りのチームメンバー達が『おお~』『なるほど…』と言っていたりして、ちょっと照れるし、くすぐったい。


『だから、上手く行く様に僕が囮になって敵をAチームのところまで誘導するよ』


『…それは危険じゃないか?』


『んーでも色々と問題があるんだよ、この作戦。敵がばらばらに襲ってこられたら半包囲なんてできなくなるし、万が一配置を悟られると簡単に瓦解しちゃうんだよ』


そう言いながら、Aチームの外側と大通り沿いの外側を指で指す。


『ほら、大通り沿いもそうなんだけど、外側から攻撃されると個人個人は逆に手薄になっちゃうんだ。だから上手い具合に誘導しなくちゃいけないんだよ』


『つまり、この地点…中央広場までユキトさんが敵を誘導。その誘導している間に他の皆さんは配置に付く…といった流れですか?』


ユリアが指差しをして確認を取る。


『うん、そうなるかな?でも配置のほうが重要だから、配置が完了したら誘導開始って形になると思うよ』


『でもユキト1人じゃ厳しいんじゃない?ほら、流石に1人だけでウロウロしてるっていうのは怪しい感じがするし…』


トランの治療が終わったのかシリアが話に加わってくる。


『そこなんだよなぁ…かと言って多すぎると配置に穴も空いちゃうし…皆は何か意見ある?』


ちょっとだけ期待して、まわりのチームメンバーを見る。


『やっぱ4~5人ぐらい連れて行けばいいんじゃないか?』


『でも、そうなるとさっき言ってたこっちの配置に穴が開くぞ?どうする気だ?』


『んじゃあAチームのメンバーが一緒に囮に出るとか?』


『でも、それじゃあ配置が間に合わないんじゃない?』


『そうよ。それに万が一Aチームの誰かがやられちゃったら追い返す事もできなくなるわよ!』


うーん。意外と皆考えてくれてるなぁ。

そんな事を考えながら僕も何かないかと考えてみるが、やはり思いつかない。

実を言うと事前に何度も何度も考え、皆が言っているような案も何度も浮かんだが、色々と問題が出てくるのだ。

結局、少し無理をしてでも自分一人でなんとかするのが一番良いという結論に達した。

皆に聞いてみたのは、全員が納得して貰うためだ。


『あの…二人ぐらいなら偵察って思われるんじゃないですか?それに一人抜けたぐらいなら配置にも致命的な穴が出来るわけじゃありませんし』


『うむ、確かにそうだ。どうだユキト?』


『うえ?何が?』


色々と考えてたせいか、後半の話をまったく聞いてなかった。


『ちょっと。ちゃんと聞いてなさいよ…ユリアが1人ぐらいユキトにつけて、偵察してるように見せたほうがいいんじゃないかって言ってるのよ』


『1人か…まぁ、それぐらいなら。確かに…いや、でもなぁ』


嫌ってわけじゃないんだが、大丈夫かなぁと少し不安になる。


『何か問題があるの?』


『うーん。僕の移動スピードかなり速いんだよ。だから囮になっても大丈夫って思ってたんだけど、その1人が付いて来れるかなぁって思ってさ』


『どれぐらい速いの?』


『ちょっとその辺移動してみるよ』


そう言ってから、皆から少し離れる。


『【我が魔力よ、我に纏いて、力を与えたまえ、形状は衣、その役は強化、形ある物としてこの世に生まれ出でよ!】』


リィンッという鈴のような音が響き、白い光が僕の全身に広がる。

それを確認し、足に力を込めて、ダンッと走り出す。

ウィンベルでの決闘以来何度も何度も練習したので、スピードの調整もお手の物だ。

一瞬で流れていく景色と風を切る心地の良い音。


手近な露店の軒先の屋根に足をかけ、一気に跳躍。

目前に迫った3階建ての家の屋根まで飛び上がり、着地。

適当に広場周辺の屋根の上を勢いを殺さぬよう、屋根から屋根へと思い切り良く飛び移っていく。


速度は全体の6割方を出している。

全力を出してもいいのだが、出すとたぶん視認できなくなるだろう。ウィンベルの城壁警備をしていた兵士のように。


広場の屋根の上を一周してから、一気に跳躍して皆の前に着地した。


『とまぁ、これぐらいのスピード…なん、だけど…』


最後まで言葉を続けることが出来なかった。

皆唖然とした表情をしているからだ。

ユリアは決闘の時に一度見ているから特に変わった様子はないが、周りの皆は違う。


『ちょ、ちょっとユキト。アンタ何なのよ、そのスピード』


皆を代表するかのようにシリアが一歩前に出てから、疑問を口にする。


『そ、そんなにおかしかったかな?』


『異常と言っても差し支えなかったと我は思うのだが…』


サラーが驚いた表情で答える。

ううん。エフォニエさんも驚いていたけど、そんなに速いのかなぁこれ。

クールは特に驚いた様子はなかったけど…今一基準がわからない。


『…なぁ、アレってもしかして、噂の…』


『…最近ウィンベルにも行った事があるって言ってたし…』


『…そういえば魔工石の白い剣使ってるって…』


『…じゃあ、ホントに?』


4~5人が端に集まって何か話しているのが目に入った。

あの人達は…確か街の噂とか好きだったよなぁ。

昨日話してたときも、街の噂を端から端まで聞かせてくれたような…。

そんな事を考えて現実逃避していると、件の人達…男子2名女子3名のグループが僕の前まで出てきて口を開く。


『あの…もしかして、【神速の剣士】さんですか?』


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