名前と事情
更新遅くなって申し訳ない~…って毎回言ってるような気がする。とりあえず、後書きで報告させて貰います。
放電現象のようなものが起きているのを呆然と見ていると、不意に精霊が口を開く。
『…………』
だが雷音が酷くてよく聞こえない…なのでもう2~3歩だけ近寄ると、ようやく聞こえた。
『ううう…まだ眠いよ~』
『『『…………』』』
思わず近くに居たロナとユリアの2人と顔を見合わせ、アイコンタクト。
1秒後、とりあえず1発殴ろう。
そう3人で結論を出して、つかつかと精霊の元まで歩み寄り…容赦なく殴ることにした。
ゴンッ。
『いったーい!何するの!』
殴られた頭を押さえながら精霊が叫ぶ。
ついでに殴った瞬間、放電現象のようなものが消えたが、こちらがそんなことを気にするわけがない。
『いったーい!じゃない!脅かすなよ!』
憤慨しながら精霊にさらに詰め寄る。
『そうですよ!地味に怖かったんですよ!』
ユリアも言ってくるが、精霊との距離は開いたままだ。
どうやらホントに地味に怖かったらしい…でもそんな様子殆どなかったように見えたけどなぁ。
『ま、まぁまぁ。落ち着きなさい二人とも。元はといえばユキが呼んだから呼ばれてきたわけだし』
え?と思いながらユリアと一緒に振り返る。
あの、ロナが、止めに入った…だと!?
『…アンタ達。思ってることがもろに顔に出てるわよ?』
頬をひくひくさせながらロナが言い、ユリアと共に慌てて目を逸らす。
うん。もうちょい表情を誤魔化す訓練したほうがよさそうだ。割と本気で。
『で、ユキ。なにか変わったところある?』
『あ…いや。特に何も変化ないな…』
試しに精霊魔法も詠唱してみるが、やはり発現もしない。
『ホントに変化ないですね』
『やっぱりできないのかねぇ』
『でも、精霊自体は召喚されてるし?…精霊魔法が使えないわけじゃないと思うわ』
なにかあるわよ方法が、と続けながら精霊を肩に乗せるロナ。
『それにしても久しぶりね…えーっと、精霊ちゃん』
『普段は寮の中に篭りっきりだからなぁ…こいつ』
主に寝てたり、転がってたり、浮いてたり…うん。いつも何やってるんだろうね、こいつは…(汗
『…閉じ込めてるんですか?』
『いや、自主的に引き篭もってる…そこ、疑いの目でこっち見るな』
じとっとした目でこちらを見るユリアに釘を刺す。
『なんだかいつも眠いの~』
ふわわわ…と欠伸をしながら精霊が言う。
『それ以前に精霊さんって寝るんですか?』
『いや、一応寝てるところは度々目撃してるんだが…』
『いえ、そうじゃなくて…寝る必要あるんですか?って意味です』
『?』
意味がよくわからず、首を傾げる。
するとユリアが人差し指を立てながら口を開く。
『厳密に言うと、精霊っていう存在は生き物じゃないはずなんです、だから食事したり寝て休んだりっていうことが必要ないはずなんですよ』
『でも、今眠そうにしてるよな。この前も僕の部屋で夜食食べてたし』
『だからおかしいんじゃないですかって言ってるじゃないですか』
『ふむ…』
契約してエルクワールに戻ってきてから、一応珍しいということで調べてみようと図書館で関連書籍を探してみた事もある。
だが、結局何も掴めず今に至る。
本当に変な精霊だ。
『あと、一番重要なことをユキトさんに聞きたいです』
『ん?何々?』
重要なことって何だろうと思いながらユリアを真剣に見やると、口を開いてこう呟いた。
『なんでこの子に名前つけてあげないんですか?』
『…ああ、言われてみれば…』
ころっと忘れてた。
『たしかにいつも、「お前」とか「こいつ」とかじゃ嫌だよなぁ』
そう言いながらロナの肩に乗っている精霊の頭を撫でる。
『可愛い名前つけてあげましょうよ』
『…可愛いよりカッコイイじゃないんだな』
まぁ、見た目女の子っぽいから可愛いのほうが似合っているんだろうけど。
『………トリカリクライトラス2世』
『ちょっと待ちなさい、そこ』
『え?』
ロナに待ったをかけられ、思わずそちらを見る。
一体どうしたんだろう?
『それ、本気で言ってる?』
眉間に人差し指を当てながら聞いてくるが、何故止められたのかよくわからないまま答える。
『もちろん本気で言ってるんだけど…』
ユリアとロナと精霊がはぁ。と溜息を吐き。
『却下よ』
『却下ですね~』
『それなんか嫌~』
3人揃って却下された!?
ううう、なんだよ。結構真面目に考えたのに…。
もしかしてとは思っていたが、やっぱりネーミングセンスないんだろうか僕。
子供の頃飼っていた犬にも思いついた名前をつけようとしたのだが、家族全員から猛反対されたのを思い出す。
…今後はもっとよく考えてみるかと思いはするが、吉と出るかは微妙だ。
と、それよりも今はこいつの名前だ。
『じゃあ、二人はどんなのが良いと思うんだ?』
『え?うーん。そうね…』
『う~んと…』
二人が腕組みして難しい顔をする。そして、1分ほど経った瞬間に同時に手を打つ。
『『ミーちゃんなんてどう?』』
『いや、犬猫の名前決めてるんじゃないんだぞ?っていうか同じ名前思いついたのかよ!?』
さすがにそれはないだろうと突っ込む。
『でも、かと言ってユキの名前をつけるのは絶対ダメよ。既に名前じゃないもの』
そこまでひどいのかよ。と辟易しながら、他に良い名前がないか精霊を眺めながら考えてみる。
ふわわわわ…とまた欠伸をして目を細める精霊。
真っ白…小さい…白巫女服…女の子…長髪…だめだ、適当にキーワードを挙げてみたけど思いつかないや。
『いっその事"名無し"にするか?』
『それ、あんまり変わらない気がするー』
ぶんぶんと首を振る精霊。
うーん…と考えていると、ふと巫女服の帯の部分が目に付く。
『あ、結び目…結っていうのはどうかな?』
『結ちゃん?あ、それいいかも』
『可愛い名前ですし、良いかもですね』
二人も結構気に入ったらしい。
本人…いや、本精霊はどうなんだろう?
と、精霊に視線を向けなおすとキラキラした目でこちらを見てくる。
『それがいい!』
『じゃあ、決定。お前の名前は"結"な』
苦笑いしながら、ぽんっと精霊の頭に手を置く。
だが、次の瞬間。意識が飛んだ。
『…は?』
何の前触れもない突然の自体に慌てて周囲を見渡す。
だが、ロナもユリアもいなくなっているし、少し離れたところに建っていた校舎も近くに生えていたそこそこ大きな木も無くなっている。
かわりに広がっているのは草原。
夕日が差し込み、オレンジ色の光が辺りを照らしている。
『どこだ?ここ…』
そう嘆いて、呆然とする。
さっきまで校庭に居たはずなのに、一体何事なのだろうか。
とにかく、じっとしていても何も判らないのでその辺を歩いてみようと思い、一歩踏み出す。
『ようやく、お話できますね』
『え?』
声が聞こえて、歩き出そうとしていた体の動きを止める。
もう一度周りを見渡してみるが、声を発した人物は見当たらない。
『気のせい…じゃないよな?』
『はい、声だけで失礼しますが、ようこそです』
どうやら声だけらしい。
会話は可能っぽいので、そのまま声をかける。
『とりあえず質問いいかな?』
『どうぞです』
『まず、ここはどこ?そして君は誰だ?』
『お答えします。まず、ここはどこでもない場所です。場所と言うより空間と言いましょうか』
『…ああ、そうなんだ』
だからいきなりこんな場所に出たのかと、理解はした。
精霊の頭に軽く手を乗せただけでこの空間に放り込まれたのは納得できないが。
『そして、わたしはつい先ほど貴方が触れた精霊で、前回召喚された英雄です』
『……………………………………………はい?』
たっぷり10秒ほど固まってから問いかける。
『あはは…驚くのも無理はないですね~とりあえず事情をお話しますので楽になさってください』
『…あ…うん。了解…』
なんか色々と呆然としながら草原に寝っころがる。
『…楽になさってくださいとは言いましたけど…寝る方は初めて見ました』
『いや、うん、悪い。僕も色々と動揺してるみたいだ』
指摘されて、胡坐をかこうとして、正座にする。
『…今度は正座ですか、中々礼儀正しい方…なのかな?』
『さ、さぁ…?』
相手が年上かさえもわからないし、正座が正しいのかさえもわからない。
『では、改めまして。お名前つけてくださってありがとうございました』
『あー…でも、前回召喚された英雄ってことはちゃんと元の名前があるんだよな?』
『ええ、小日向美野里っていう名前でした』
『…と言うか英雄って女の子だったのか』
『はい、でもお気になさらなくて結構ですよ?既にこの世界にはわたし自身は居ませんし』
『…それは、元の世界に還ったってことか?それとも…』
その先を口にしようとして、思いとどまる。
だが、あっさりと向こうが答えてくれた。
『あ、大丈夫です大丈夫です。ちゃんと無事に還りましたから』
『そっか』
ちょっとほっとする。
まさか、帰れなくてそのまま永住とか、もしくは…うん、その先は考えないでおこう。
『って、うん?還ったのになんでここにいるの?』
『えっとですね、還る際にはみ出た魂が精霊になったのですが…意味わかります?』
『…いや、全然わからん』
精霊自体についてはさっぱりわからない。
図書室で少しは調べたとはいえ、専門的なところまでは読んでいないからだ。
『ではでは、すこ~し長くなりますが、ご静聴願います』
話をまとめると、こうなるらしい。
800年前に出現した魔王が起こした災いに対し、帝都ウィンベルの王族は英雄を召喚することで対応した。
その際、こちらの世界によばれたのが、この精霊の元となった1人の少女。
少女は仲間と共に魔王が居るとされている居城を見つけだし、無事に剣と魔法を使って退治した。
脅威は去り、世界は平和になり、あとは少女が還るだけ。
だが、少女が還る際に1つだけアクシデントが起こった。
こちらの世界を冒険しているうちに、魂が成長したため、世界と世界を渡る際の通り道を通れなかったらしい。
その為、少しだけ魂をこちらの世界に置いて行く事となった。
『で、その残った魂が君なわけね』
『そうですそうです』
『…じゃあ、なんで僕のところに?』
ここが一番聞きたいところだ。
『んー…ただの偶然だと思いますか?』
質問を質問で返され、少し悩んだあと答える。
『…物事には必ず意味があるって友人がよく言ってたんだけど、僕もそう思う。だから僕のところに君が来たのは必ず意味があって、何か理由があるんだよな?』
『ふふふ、聡い子は好きですよ~』
そう言ったあと、少し間を空けて精霊が話し始める。
『まず、倒したはずの魔王が生きている。という可能性が出てきています。心当たりありますか?』
『…なくもない』
ウィンベルでトラブったことを苦々しく思い出しながら答える。
すると精霊から「はぁ」と溜息を吐く声が聞こえた。
『むぅ…ちゃんと倒したと思ったんですが…』
『封印したとかじゃないのか』
『封印しただけじゃ根本的な解決には至りませんからね。誰かが解いちゃっても困りますし。だから討伐したはずなんですが』
でも実際800年前の人物に会ってしまっている。
800年も生きていられる種族は、僕の調べた限りでは居ない。
となると、人間をやめて体を改造したという魔王ぐらいしか思いつかない。
討伐に失敗したことは明白だ。
『まぁ、生きているなら討伐するだけです。そのために貴方のところに来た…と言うのが本当のところです』
『いやいやいや。僕なんかより強い人はたくさんいるだろう』
なんで僕なんだと冷や汗を背中に感じながら突っ込む。
だが、知っているとばかりに精霊は答える。
『そうですね。貴方より強い人はたくさんいらっしゃいます。ですが、わたしの能力を使えるのは貴方ぐらいでしょう』
『………異通者…だからか?』
心当たりはそれぐらいしか思いつかない。
『ええ。確かにこっちの世界で異通者の方はそこそこいらっしゃいますが…タイミングよく精霊陣を使ってくれる人が貴方しかいませんでした』
『なん…だと…』
ってことはアレか。あの時精霊陣を使わなければ、僕はこの面倒事に遭わずにすんだはずなのか。
そう考えてしまうとずどーんと落ち込む…なんてタイミング悪いんだ僕…(汗
『まぁ、どちらにしろ貴方に助力を求めていた思いますが』
『え?なんで?』
『だって中々いませんよ?貴方みたいに戦う事に慣れた向こうの世界の人って』
『………何故だろう。納得したくないのに納得できてしまう』
確かに無駄に色々と知っているし、訓練されていると思う。主に友人のせいで。
だが、このまま魔王討伐に参加させられるわけにはいかない。
僕が望んでいるのは速やかな帰還である。
『でも、魔王討伐なんてしたくないんだけどなぁ』
『ええー、それじゃあずっとこの世界に居るつもりですか?』
…うん?
『…え?普通に還ればいいんじゃ…』
『その魔王が持っている力のせいで世界と世界を繋ぐ道が閉ざされているんですが…知らなかったんですか?』
『はぁ!?』
初耳である。というか、え?なんで?と言うのが本音だ。
『え?じゃあ…今のまま還ろうとしても?』
『世界と世界を隔てる壁に衝突して戻ってくるだけですね~』
『…ってことは、還るためには魔王を倒すしかない…のかよぅ』
両手を地面につき、愕然としながらほんの少しの希望を持って精霊に問いかける。
『そうなりますので、諦めてくださいな。それからよろしくですよ~』
嬉々とした声音でさらっと残酷に告げられた。
はい、ご愛読ありがとうございました。そして2ヶ月近くも待たせてしまい。申し訳ありませんでした。
…というか、ホントすいません。
ここ1ヶ月ほど会社が忙しくて、家に帰って寝るだけという習慣になってしまい。
PCをつける暇もなかったので、今回の更新は本当に遅くなってしまいました。
今後はもっと早く更新したい…というのが本音なのですが。生憎と今現在も会社が忙しく、執筆に時間が取れる気がしません(><
ですが、出来る限り時間を取って今後も更新を続けて行きたいと思っているので、どうか暖かい目で見守ってくださると幸いです。
では、次回の更新でまたお会いしましょう~




