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異通者奮闘記  作者: ラク
三章:エルクワール学園生活
34/46

転校生


『と、いうわけで転入してきました。ユリアです』


目の前の光景に僕は思わず、がっくりと机に突っ伏す。


『…ああ、ちょっと分かってた自分がたまらなく悲しい』


『ユキトさん?』


『まぁ、わかってはいたんだけどね。こういうオチって、予想できてたとも。でも…認めたくないことって、あるよねぇ?』


『ユ、ユキトさーん?』


『…はぁぁぁぁぁぁぁ』


『なんか凄い溜め息吐かれました!』


隣の席に座って挨拶してきた少女…いや、一応「一国の姫」は、僕の溜息に勢い良くツッコミを返してくる。

そんな様子を見て、僕はもう一度だけ溜息を吐く。


『はぁ、まぁいいか。久しぶり、ユリア』


『…1ヶ月ぶりに会ったというのに、ものすごーく失礼な前置きがあったと思うんですが…それについてはスルーですか。ユキトさん』


一応、一国のお姫様でもある、ユリア・ホワイト・ウィンベルがげんなりとしたあと心配そうな顔をする。


『あの…ご迷惑でしたか?』


『いや、迷惑とかじゃ全然ないんだけど…なんだかなぁと』


『ううう…じゃあ、どうしたらよかったんですかぁ…』


涙目でぽかぽか叩いてくるユリア。

それに苦笑しながら、左手を突き出し、叩かれないように距離を取る僕。


『あー悪い悪い、悪かった。だからやめてくれ。地味に痛い』


『ひ~ど~い~で~す~』


『わかった。わかったから。今度埋め合わせに何か甘い物作ってあ……』


げるから。と続けようとした瞬間。言葉を止める。

その様子を見て、ユリアがどうしたの?といった風に首を傾げる。


『お、ようやく気づいたかい。ウォンスール君』


『あー…はい。気づいたと言うより、思い出したが正しいですけど…』


首をぐったりと下に向けながら、言葉を発する。


『?どうかしました?』


『いや、周り…見てみ』


言われてユリアがハテナマークをつけた感じで辺りを見渡す。


『皆さん見てらっしゃいますね~』


『そう、ここ教室なんだから、いちゃいちゃするのは程々にな。ウォンスール君』


ニヤニヤしながら、担任の教師…リピス・シェルト先生が言ってくる。

魔法の腕は確かだというのに、服装の趣味に関してはさっぱりな中年の担任教師だ。

今だってヨレヨレの紺色スーツが妙に浮いている。


それを見ながら、頬杖をついて苦笑いしながら僕は言う。


『別にいちゃついてる訳じゃないんですけどね…』


『『『いやいやいや、それはないわー』』』


クラス全員からのツッコミだった。

えー?と思いながら頬杖をやめて、先ほどの一連の会話を思い出してみる…うん。


『ないわー』


『いやいやいや、ユキト君。何も知らない人から見ればその反応のほうがないわーだと思うぞ?』


アイズまでもがツッコミを入れてくる。

む、そういう風に見られるっておかしいなぁ…大した事してないはずなんだけど。


『それで?ウォンスール君。ユリアさんと知り合いなの?』


窓際の席に座っていたショートカットの女子生徒が聞いてくる。


『あーうん。一応友達』


『あ、ひどいです。一応友達って』


『一々、目くじら立てるなって…』


今度は僕がげんなりしながらユリアにツッコム。

その様子を見ていた、廊下側のサバサバ系の男子生徒がニヤニヤしながら指摘する。


『もしかして…恋人同士だったり?』


『いやぁ、恋人同士だったらもうちょっと違う反応するだろ?』


苦笑しながら僕が言うと、『だよなぁ』と言った空気が教室に広がる。


『むぅ…恋人同士だったらもうちょっと違う反応するんですかぁ…』


…なんか、ユリアがぶつぶつ言ってるようだけど…まぁいいや。深くツッコまないでおこう。


『さて、新しい仲間も増えたことだし、質問は休み時間にして張り切って今日の授業を始めようか~』


そう言って、リピス先生が歴史の教科書を叩いた。






休み時間に入った瞬間、周りの生徒達が一斉に僕の隣の席に押し寄せてきた。


『ねぇねぇ、ユリアさん。前はどこの学校に通ってたの?』


『いえ、わたし学校に通うの初めてなんですよ。勉強は親やメイ…じゃなくって、知り合いに教えて貰ってて…』


『このクラスに入ってきたって事は近距離系?』


『えっと、精霊魔法も使えますよ~』


『武器は?何使うの?』


『お気に入りのレイピアを2本使ってます』


『髪すっごく長いよね~いつぐらいから伸ばしてるの?』


『えと、そうですね~…』


先ほどからずっと質問責めにあっているユリア。

表情は笑っているし、質問にはちゃんと答えてはいるのだが…。


『多いな』


『多いよなぁ…』


窓際のアイズの席まで避難してユリアの席辺りを眺めながらポツリと呟く。

隣のクラスからも来てるんじゃね?っていうぐらいに人が多い。


『まぁ、ユリアも美少女って言っても過言じゃないからなぁ』


『そうだねぇ』


見た目は悪くないと思うし、それなりに人気が出るのも納得だ。

しかしまぁ、久々に会ったので面と向かって喋りたかったんだが、しばらく自重したほうが良さそうだ。


『んー…こうやって眺めているのも暇だし、ロナのクラスにでも遊びに行くか?』


『…あれを放置して行くのかい?』


アイズが呆然とユリアの周りを指差ししながら言う。


『いや、魔物に囲まれてるわけじゃないんだから問題ないだろ』


『…ユキト君。キミ、たまにひどいよな』


はぁ。と溜息をつきながらアイズが言う…失礼な。

ただ、ロナのところに行くのは賛成なのか、否定はしないアイズ。


連れ立って教室を出て1つ教室を挟んだ隣のクラスまで歩く。

と、途中で女子生徒の声が耳に届く。


『そういえば、こっちのクラスにも転入生来てるんだっけ?』


『そうそう、結構カッコイイ男子だって~見に行ってみようか?』


そう言って小走りで僕達の前を抜けていく女子生徒達を見ながら僕はぽつりと口に出す。


『意外と多いんだな。転入生って』


『いや?結構珍しいほうだよ?』


『その割には多いようだけどな?』


そう口々に言い合いながらロナのいる教室のドアをがらりと開けた。


『お前に交際を申し込む!』


扉を開けた瞬間。その叫びが教室と廊下の空気を凍らせた。


僕は目を瞬きさせてから、今の発言をしたのだろうクラス中から注目されている人物を眺める。


燃えるような赤い髪に精悍な顔立ちの青年だ。

真剣な顔をしてロナの机の前に立っている。


『…え?』


ロナが僕と同じように目を瞬きさせる。

どうやら事態についていけてないらしい。


まぁ、目の前でいきなり交際申し込まれたら、呆然とするのかもしれんが…。


『へ~ロナって結構モテるんだなぁ』


静まり返った教室に僕の声が妙に響く。

すると件の青年がこちらを見て、目が合った。

一応「ども」と手を上げて挨拶すると、向こうも手を上げて挨拶する。

うん…どうやら気が合いそうだ。と、笑っているとようやく正気に戻ったのかロナが僕の前まで早歩きで近づいてきた。


『ばっ…ち、違うわよ!』


『違うって…何が?』


『アタシがモテるって話!』


『いや、実際モテてるじゃん』


こいつとそいつに。と隣で呆然としているアイズと転入生らしき人物を指差す。


『だから、誤解だってば。いくらなんでも一目惚れなんて…』


『恋は突然って言うぞ?』


『だ~か~ら~』


と僕とロナが言い争っていると、件の人物がこっちに走ってきていきなりロナの手を取った。


『俺のこと嫌いなのかっ!』


『え…いや…あの…その…』


ボンッと音を立てて真っ赤になり口調がしどろもどろになるロナ。

こいつ変な所で初々しいなと思いながら、ニヤニヤしつつ事態を見守る。


『べ、別に嫌いってわけじゃなくて…その、まだお互いよく知らないわけだし…』


『別にこれから知り合っていけばいいだろ』


『ユキは黙ってなさい!』


『はいはい』


うん。やばい。楽しいなぁ。最近ご無沙汰だったが、やっぱりロナでいじくると楽しい。


『と、とにかく!アタシはまだアンタのことをよく知らないわけだし!すぐに返事はできない!』


『それ以前の問題だ!』


隣に居たアイズがいきなり吼えた。


『ロナは僕のものだ!勝手に人のものに手を出すな!』


『いつから!アタシは!アンタの!ものに!なったのよ!』


手近にあった教科書を手に取り、スパン、スパン、スパン、スパン、スパーンという景気のいい音と共にアイズが叩かれる。

叩かれたアイズは蹲りながら涙目でロナを見上げて、さらに叫ぶ。


『そ、そんな!黙って見てろっていうのかいロナ!』


『そうは言ってないけど!いきなり人のものとかなんとか言うのやめなさい!』


『じゃあどうしたらお前と付き合えるんだよ!』


『あーもう!そんなのアタシ知らないわよ!』


ついにロナが処理しきれなくなったのかキレた。

ぎゃあぎゃあ言いながら3人で言い争いを始める。


そんな様子を僕は黙ってニヤニヤしながら見つめる。

うーん。被害がないっていいなぁ。


『…なら勝負すればいい』


『………誰?』


いつの間にかロナの隣に黄色の髪を三つ編みにした少女が立っていた。

だが、僕の問いに少女は首を振る。


『…それは後で。とにかく』


そう言って少女はアイズと転校生の間に立って、同時に指差す。


『…二人で勝負。勝った方がロナと付き合える。それでいいんじゃない?』


『ちょっと!ミア!やめてよ!』


ミアと呼ばれた少女は、顔を顰めながらロナを見つめて、こう言った。


『…だって、さっきから煩い。本が全然読めないんだもん』


『うっ…それは悪いと思うけど、アタシのせいってわけじゃ…ないのか…』


がっくりと頭を垂れながら額を押さえるロナ…ああ、気づいたか。


『望むところだ!ぜってー勝ってやろうじゃねえか!』


『それはこっちのセリフだ!』


転入生とアイズが睨み合う。

なんか、とんとん拍子で話が進んだなぁ。と思っていると、だんだんと静かだった周りの人間が騒ぎ始める。


『おっし、じゃあ俺が担任に連絡してきてやるよ』


『あ、じゃあ私は新聞部にこの情報流してくるわ~』


うん、皆お祭り騒ぎだな。僕のときもこうだったのかもしれない。


『あ~もう!なんでアタシってこんなに風に巻き込まれるのかしら…』


そんなことを言いながらロナが床にしゃがみ込む。

いや、いつもの事じゃないか?と心の中でツッコミ、教室内の騒ぎを遠巻きに見つめていると、先ほどのミアと呼ばれた少女がこちらに来て声をかけてきた。


『…貴方は?どうするの?』


『うん?何が?』


『…アレ。参加しなくていいの?』


少女が睨みあっている二人を指差す。


『え?なんで?僕は別にロナのこと好きってわけじゃないから参加する理由がないはずなんだけど…』


『…でも、この前ロナのことを賭けてアイズと勝負してなかった?』


『あー…アレは成り行きだったからなぁ…』


今じゃもう懐かしいレベルなんだが…とにかく誤解を解いておく。


『とにかく、僕は不参加だよ。さっきも言ったけど特に好意があるわけじゃないしね』


『…ふぅん』


物珍しげにこっちを見てくるが、それ以上言ってこないので『じゃあ僕はこれで…』と言って教室に戻ることにした。

一応未だに睨みあっているアイズに声をかけていく。


『先に教室戻ってるぞ~アイズ?』


『どうぞ!お先に!』


『…怒られても知らんぞ?』


そう言い残してから教室を出る。

と、出た瞬間誰かとぶつかりそうになって慌てて立ち止まって謝る。


『あ、すいませ…ってユリアか』


『あ、こちらこそって…ユキトさんでしたか。ロナちゃんいます?』


ようやく質問責めから開放されたのか?と思ったが、彼女の背後に何人かクラスメイトがいることから途中で抜けてきたなと適当に予想する。

そんなことを考えていると、ユリアが教室を覗き込む。


『あー…そこでしゃがみ込んでるのがロナ』


『え?なんでしゃがみ込んでるの?ロナちゃん』


そう言ってロナの隣に同じようにしゃがみ込むユリア。


『なんでって…あれ?ユリア?なんでこんなとこに居るの?』


『お久しぶりです。今日転入してきたんですよ~それよりどうかしたの?』


『色々あったのよ…ホント色々と…ううう』


『わっ急に泣き始めないでくださいよう』


ロナがユリアに抱きついて泣き始める。

まぁ、本気で泣いてるとは思えんが…。


ユリアがロナの背中を優しく擦りながら「何があったんですか?」と困惑した目でこちらを見てきたので、簡単に事情を説明する。


『わ~…告白されたんですかぁ~大胆な方っていらっしゃるんですねぇ』


『ま、そんなわけで泣いてるってわけよ』


『でもロナちゃんって別に好きな人いるって言ってませんでした?』


『ぐす…だから困るのよ。こういう決闘って。ユキのときは大したことなかったけど交際はちょっと…』


『まぁそうだろうな。それはちょっと…』


ご愁傷様だ。と言いかけて慌てて口を閉じる。

なんか言ったらロナがまた泣き始めそうだったのでやめる。


『でもなぁ、ロナも悪いと思うぞ?はっきりとフッてやらないと、こいつらはわからんぞ、きっと』


『うっ…それは、そうなんだけど…』


言いずらそうにロナが口元を押さえる。

まぁ、フるっていうのも勇気いるよな。


『む~、ユキトさんどうにかしてあげられないんですか?』


『どうにか…って言われてもなぁ…』


腕を組んでちょっと考えてみる…うーん。

手っ取り早いのはやっぱりフッてやることだと思うんだが…それは不可だし。

好きな人がいるって公言するのも、この二人が暴走しそうだしなぁ。

などと色々と考えていると、ぽんっとユリアが手を叩く。


『あ、じゃあこんなのどうですか?』


『どんなの?』


『ユキトさんが参戦して勝っちゃえば丸く収まるじゃないですか』


『よっし、ユリア。その案もう一度深く考え直そうか』


なんか話が変な方向に転がったので、だらだらと汗をかきながら速攻でツッコム。

しかし、こちらの様子を少しも気にせずにユリアがさらに言う。


『だって、そうすれば丸く収まるじゃないですか。ユキトさんが勝てばお二人も強くは言えないでしょうし、ロナちゃんはユキトさんなら全然安心でしょう?』


『なんか…さらっと貶された気がするんだが…』


『そこは気にしちゃダメですよ。で、どうですか?この案』


先ほどまでぐすぐす泣いていたロナが顎に手をやって少し考えて短く呟く。


『…いいかも』


『いや、僕が全然よくないから。っていうか巻き込むなよロナ』


『お願い!今回だけでいいからっ!』


『ユキトさん。ちょっとぐらいならいいじゃないですか』


客観的に見て可愛い女の子二人にお願いされて、断れる人っているんだろうか?

…あ、でもあいつなら余裕でばっさり断るな。

たぶん、『うぜえ』の一言で断ち切りそうだ…まぁ、僕には一生無理だろうけど…。


『…はぁ。やっぱり巻き込まれるのか…』


げっそりしながら頭を落とす僕だった。



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