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異通者奮闘記  作者: ラク
二章:帝都ウィンベル
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言葉

な、なんとか完成しました。実は投稿する10分前まで手直ししてたのですが、結局終わりませんでした(涙 なのでもしかしたら誤字脱字があるかもしれませんが、生暖かい目で見てもらえると幸いです。


「そこまで、勝者。ユキト・ウォンスール!」


審判をしていた初老のおじさんが一拍遅れて宣言すると、途端に呆けていた観客達が騒ぎ出した。

何を言っているのか細かい発言は声が折り重なることで判別できないが、「凄い」やら、「今のはなんだ」といった興奮した声が聞こえてくる。

そういった声を聞き流しながら、僕は溜息を吐く。


(な、なんとかなったー…)


吐き出すのは安堵の溜息。

正直な感想を言うと、本当に何とかなってよかったと思う。

戦法は卑怯極まりない方法だったからだ。


相手の目を逐一見ての戦術の先読み分析。

エフォニエさんに教えて貰った呪文は何故か異常発現。


(でもまぁ、戦術をあんまり広めずに勝てたし、よかったよかった)


少なくとも肉体強化魔法や、鎧破壊魔法アーマーディストラクション以外の教えて貰った魔法など、その他に自力で考えたり、編み出したり用意しておいたりした手札は使わずにすんだ。別にバレても問題はないと思うのだが、今後は誰が見ているのかわからないうちは手札を不用意に晒すつもりは毛頭ない…影でこっそり練習はするだろうけど。

そんな事を考えながら、剣の構築を破棄して、ローブに着いた埃を何度か叩いて払う。


すると、クール皇子もハンマーを消滅させてから話しかけてきた。


「約束だ。これからは攻撃しないと約束する」


「えぇ、たぶん最初は手を出しそうになるだろうけど頑張ってみてください」


苦笑いしながら考えを伝える。

たぶん、最初の一人は嫉妬の視線の犠牲になるだろうと僕は予測している。


「大丈夫だ。一度した約束は必ず守る」


「おお~。これはホントに期待できそう」


思わず小さく拍手。

そうしていると、真剣な表情でこちらを見つめてくる。

なんでそんな顔で見るんだろうと疑問に思っているとクール皇子が口を開いた。


「なんで…何故お前はそこまでする?」


「はい?」


言葉の意味がよくわからず、首を傾げていると続けて聞いてきた。


「"友達"はここまでするのか?」


「します」


即答する。

他の人はわからないが、少なくとも自分はする。

その発言に驚いた表情をする皇子を見て、やっぱりこの子もかとつい思ってしまう。


「皇子、無礼を承知で発言させて頂きます。どうかご容赦を…」


「かまわん。それから改まった口調は気分が悪くなるからよせ」


「では、いつも通りに…。皇子にはもっと周りの人間を信用するようにしたほうが良いと僕は思うよ」


「俺は側近共には気を許しているつもりなのだが…」


「そういう人達じゃなくて、もっと単刀直入に言えば…友達を作れってことだよ。馬鹿話できたり、同じ目線で見てくれる人をね」


「友達…」


たぶん、この子は姉のことばかり気にして、友達を作るという考えも持たなかったと予想してたのだが…見事に的中していたらしい。


姉だけを見ていれば、周りのことに目を向けられない…だからこそ知って欲しいと思う。


「皇子。いつかは貴方が国を支えるような事があるかもしれない。でも、その時信用できる友人や家族がいないと簡単に潰れちゃうよ?」


少ししか話をしたことがないが、あの王様はそう簡単に倒れるとは思えない。

だが、絶対に倒れないとは言えないし、万が一ということもある。

そして、その時この一人ぼっちの子が国を一人で支えられるかと問われると、心許ない。むしろぞっとする。

恐らくユリアも手伝おうとするだろうし、まだ会った事もないが皇妃様も支えてくれるだろう。

だけど、それだけじゃ足りないし、どうしても家臣たちと溝が出来てしまうと思う。


だから早いうちから友達というものを作って欲しいと思う。

大事な時に相談したりできる友達というものを…。


(…そういう意味ではあいつは当てはまるのかもな…)


元の世界の学校の悪友を思い出し、苦笑しながら続ける。


「だから、できるだけそういう人を作るように努力してみてください。これは僕からのお願いでもあります」


「…そうか、わかった努力してみよう」


「そうしてください」


話を終えて、決闘が終わった時とは違う溜息をほっと一息吐く。

わかってもらえてよかったと…心からそう思う。


(これで僕の役目もおしまいっと…)


会話は聞こえていないだろうけど…と思いながら観客席にいるユリアに視線を移す。

「やったー」と嬉しそうにロナとはしゃいでいるユリアを眺め、よしっと踏ん切りをつける。


「さて、と。それじゃあ僕たちはこれで…」


「む?どこへ行くのだ?」


「どこって…自分の街に帰るんですけど…」


流石に帰らないとまずい。主に学校の授業が。


「ふむ、時間がないのか?」


「と言うか、今から帰っても間に合うかどうか…」


週明けの授業…寝ないといいんだけど…いや、たぶん寝るな。ロナ以外は。


「姉ちゃんに今、念話で聞いたのだが…歩きでエルクワールなのか?」


「そうですそうです」


今から街を出て、森を休みなしで歩けば、たぶん明け方にはエルクワールに着くだろうと見積もっている。

ちなみに休みなしで歩くことに関しては、既にロナとアイズに話をつけてある。

まぁ、当然のようにロナは夜に弱いため途中から僕とアイズが交代で背負うことになっているし、二人には後日食事を奢ることで納得して貰っている。


「そうか、姉ちゃんが寂しがりそうだな…」


「それはまぁ…」


たぶん、そうなるだろうけど…今の僕にはどうしようもない。


「でも、最後の別れってわけじゃないですから。会おうと思えばいつでも会えますよ」


4年前のlあの・・・のような事が起きない限り、二度と会えないなんてことはないと思う。


「それもそう…だな。それじゃあ元気でな、ウォンスール」


「皇子、お言葉ですが。友達なら名前で呼んでほしいものなのですが?」


「友達?俺とお前が…か?」


クール皇子の表情が驚いたような顔をしたあと…うーん。と思案する顔に変わる。


「何ですかその顔は…ちょっと傷つくんですが」


「いや、すまん。嫌というわけではないのだ。ただどう反応していいものか迷ってしまってな…」


初めての友達に対してどう反応すればいいのかわからない…ああ、本当にこの子友達いなかったんだなぁと思いながら肩をすくめる。


「…それに、友達なら俺のことを「皇子」と呼ぶのはおかしいだろう」


ふむ、言われて見れば確かに…。


「それもそうですね…では、」


こほんと咳払い。そしてにっこり笑って、右手を差し出しながら言う。


「これからよろしく。クール」


「うむ、こちらこそだ。ユキト」


そう、お互い笑いあって握手することになった。






「さって、じゃあ帰るかね」


「ちょっとお待ちになっていただけませんか?」


「うん?ユリア?どしたの?」


いつのまにか観客席から広場のほうに降りて、こちらにゆっくりと歩いてくるユリアが声をかけてくる。

後ろには先ほど審判をしていた初老のおじさんとロナとアイズもいる。


「お母様が一目お会いしたいと仰っていますので、ちょっとだけ時間を割いてもらえませんか?」


「…お母様?」


お母様…ユリアのお母さん?ってことは皇妃様…だよな?

なんでそんな人が…と思いながら「大丈夫かな?」といった視線で後ろの二人を見る。


「うーん。急ぎたいのは山々だけど、急いでも夜通し歩くことは決定事項だし、ちょっとぐらいはいいんじゃない?」


「ボクも同意見だよユキト君。と言うか、皇族のお誘いを断るってまずいんじゃないかい?」


「…そうだったな。じゃあ会いに行ってみるか」


そう答えると嬉しそうに笑うユリア。


「じゃあアタシ達は先に門のところで待ってるわね」


「あ、ボクはちょっと席を外すよ。皇子が話があるようだから」


「皇子と?」


「すまんな。ロナ・ポナルル嬢だったか?少しの間、彼を借りるぞ」


「別に構いませんよ~じゃあまた後でねユキ、アイズ」


ぶんぶんと手を振ってから広場の出口に消えるロナ。

それを見送ってからアイズが口を開く。


「ではボク達も行くとしましょうかクール皇子?」


「ああ、じゃあまたなユキト」


ロナのあとを追うようにアイズとクールも出て行き、いつの間にか審判のおじさんも居なくなっていて、僕とユリアだけが広場に残る。


「それじゃあ、わたしが案内しますので、もうちょっとだけ一緒ですね」


「そうだな、あと遅れたけどおめでとユリア」


「もう!ユキトさんのおかげなんですよ?お礼を言うのはこっちですよ~」


両手を握ってぶんぶんと上下に振るユリア。

うん…まぁ、喜んでくれてよかったよかったとちょっと照れながら思う。


訓練場を出て、城の中に入り、廊下を通り、階段を幾つか登って、1つの扉の前でユリアが止まる。


「さぁ、こちらですよ~」


ユリアが意気揚々と扉を開け放つ。

一週間前は何の知識もなく入ったが今は違う。

明らかに皇族がいるという部屋。

だから心の準備ぐらいはさせて欲しかったが、ユリアは気づいてくれなかったようだ。


「あら、来たようね」


聞こえてきたのはどこかのんびりとした声。

室内に入ると壁には執事の格好をした人や謁見の間にも居た人が並んで立っており、中央には大量の書類らしき山が置いてある丸テーブルが目に入り、次に椅子に座って書類を見ている女性が目に入り、すぐにこの人が皇妃かと思い至ってから驚く。

王様の年齢を尋ねたことはないが、少なくとも30代後半から40代ぐらいのはずなのに、件の女性が20代後半ぐらいに見える容姿なのだ。

王様の表情からは年齢は伺えたが、目の前に座っている女性は見当もつかない。


(ああ、だからユリアの身長が小さい…のか?)


遺伝なのかも、と思ったあと。ここは異世界だったということを思い出す。

まだあまり年齢を尋ねたことはないが、年齢と容姿が合わないなんてことはざらにありそうなので、あんまり気にしないことにした。


王様と同じように身長や体格は椅子に座っているせいでよくわからない。

だが、座高は低いので椅子の背が見えるのでそこまで身長は高くないと思われる。

服装も王様と同じように豪華ではないがどこかサッパリとした白いドレスを着て、そして鮮やかな銀髪に頭には白金色の王冠を着けている。


って思わず、まじまじと観察してしまった。と今更になって焦っていると皇妃と目が合い、にこりと笑われる。


「うふふ。そんなに珍しいかしら?」


「いえ!すいません!珍しいわけじゃなくて…そのお綺麗だなと…じゃなくって!」


自分でも何を口走っているのかわからなくなり慌てて頭を下げる。

背中に冷や汗が流れているのが感覚的にわかり、顔が赤くなっているのを自覚するが、どうしようもない。


「…ユキトさん?」


…なんでだろう。ものすごく冷たい声が横から聞こえる。

声がしたほうに顔を上げてみると、ユリアが冷ややかな目でこちらを見ていた。


「えと…僕、何かしたか?ユリア?」


「いえ、してませんけど…なんかイラッとしました」


「なんか理不尽なことで睨まれてる!?ってすいません失礼しました!」


思わずツッコミを入れてしまってから慌てて謝る。

忘れちゃいけないことだが、ここには皇妃と皇女がいる部屋だ。失礼のないようにしないと…。


「うふふ。いいのよ別に、娘と仲良くしてくれて嬉しいわ。それに本当なら別の部屋がよかったのだけれど、側近達が納得してくれなくてね」


世間話をするかのような声で言われ、部屋の端で控えていたらしい側近の方々がコホンと咳払いをして、思わず僕も苦笑いする。

…未だにユリアが睨んできているが、今だけスルーすることにした。


「では、改めまして。皇妃のアルテ・リミリア・ウィンベルです。よろしくねユキトさん?」


のほほんとした空気に皇妃の声が響いた。


近況なのですが、最近忙しいせいか投稿が後れがちです。なるべく努力していきますので、これからも見捨てないで頂けると幸いです。どうぞこれからもよろしくお願いします。

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