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異通者奮闘記  作者: ラク
二章:帝都ウィンベル
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決闘

すいません。一時間ほど投稿が遅くなりました。実は気に入らないところを直前まで手直ししてたので…お待たせしてしまって申し訳ありませんでした。


部屋を出ると、円形の広場の様な場所に出た。

社会の教科書に載ってた中世の闘技場のような形で、向こう側までかなりの距離があるので相当広いと思われる。


物珍しさも手伝って、おおーと思いながら辺りに視線をやり…肩を落としてげんなりする。


(観客…多すぎないか?)


コロシアムの外周は基本的に壁になっていたのだが、一段高いところに3つの観客席スペースが設けられていた。

その観客席の一つは兵士の格好をした人達で埋め尽くされ、もう一つはメイド服を着た人達で埋め尽くされている。

恐らく先ほどの兵士さんが言っていた、噂を聞きつけた集団なのだろう。

…しかし、どれぐらいの人数がお城で働いているのかは知らないけど、お城がもぬけの殻って状態になってないだろうな?と若干不安になる。


そして、最後の1つの観客席にはアイズとロナがイスに座ってこっちを見ていた。

ロナと視線が合うと、ニヤリといった感じで笑い、アイズがその様子を見て苦笑する。


やれやれと思いながら視線を前に向ける。


背は僕と同じぐらいの灰色にも銀色にも見える髪の青年がこちらに向かって歩いてくる。

最初に会ったときは高そうな礼服を身につけていたが、今は頑丈そうな灰色の金属鎧に赤いマントを羽織り、そして落ち着き払った表情をして、僕の前に立って、一言呟く。


「よし。じゃあ、早速始めようか」


「挨拶もなしにそれかい」


げんなりしながらクール皇子に突っ込みを入れる。

なんとなくわかっていたのが若干悲しい。


「冗談だ。まだ姉ちゃんが来てないからな」


「あー…そういえばヴァイオリンの練習が入ってるって言ってたな」


昨夜ユリアと念話で会話したときに言っていたのを思い出す。


「まぁ、気長に待つか…」


と、言った瞬間。しんっと空気が張り詰めた。

先ほどまで観客席から聞こえていたざわめきがピタリと止まる。

なんだろうと思いながら観客席を見渡してみると、兵士もメイドもイスから立ち上がり皆、頭を下げている。

ロナとアイズが居た観客席に視線を移すとユリアが端から歩いてくるところだった。

王様との謁見中に飛び込んできた時と同じグリーンのドレスを纏い、髪は宝石が幾つか埋め込まれたティアラで飾っている。

こういうところを見ると、やっぱりユリアってお姫様なんだなぁと思っていると、のんきな会話が聞こえてきた。


「あ、ユリア。やっと来たんだ」


「ごめんね、ロナちゃん。ちょっとヴァイオリンの練習が長引いちゃってて…」


うん。ダメだ。ユリアには悪いけど、やっぱりお姫様って気がしない。

やっぱり友達って認識のほうが強いせいかな?と思っていると、ユリアがこちらに視線を向け、にっこり微笑みながらこちらに向かって手を振る。


「ユキトさーん。がんばってくださーい」


「…………」


のほほんとした声がコロシアムに響く。

それと同時に軽いざわめきが観客席に広がり、視線が集中するのを感じる。

観客席を見渡すと、軽い嫉妬の視線と興味の視線が僕を見つめていた。


(…まぁ、これだけ親しそうにしてれば興味も沸くか)


と感じていると、強烈な嫉妬の視線を前方から感じて、視線を戻す。

なんか…めちゃくちゃ殺気を含んだ目で僕を見てくるクール皇子が居た。

あ、やべっこれ死亡フラグ立ってるんじゃね?と、さらにげんなりしながら思う。


「…では、そろそろ決闘を始めさせてもらってもよろしいかの?」


兵士やメイド達のざわめきの中に、よく通る声がはっきりと聞こえた。

声が聞こえた方…ユリア達がいた観客席にいつの間にかいかにも初老といった感じのおじさんが立っていた。

様々な色彩で紋様が描かれたローブを羽織り、髪は茶髪に白髪混じりだ。


「俺は問題ない」


「僕も大丈夫です」


「うむ、では始めるとしよう。両者誓いを申せ」


誓い?と怪訝に思いながら視線をクール皇子に向けると、先程のような嫉妬の視線は消え、真っ直ぐこちらを見て姿勢を正したクール皇子が口を開く。


「俺、クール・リミリア・ウィンベルは全力で持って戦い、俺が負けた時、ユキト・ウォンスールとの約束を果たす事をここに誓う」


おお~ちゃんと言うのか…うん、これは期待できそう。

って僕も言わないとっと…。


「僕、ユキト・ウォンスールは全力を持って戦うことをここに誓います」


これでいい…かな?


「両者。それでよいな?」


「問題ない」


「大丈夫です」


「では、両者構え」


審判のおじさんが構えと言った瞬間、クール皇子の手にハンマーが現れ、両手で握る。

それに習い、僕も短剣を腰から引き抜こうとして、一瞬迷った後、手首に下げていた魔工石を握って魔力を流し、剣を構築する。


「では、始め!」


開始宣言と共に僕は地面を蹴った。





******





「いくぜっ!」


先手必勝!とばかりに俺は左手を突き出し、魔力を球状に固め、それを愛用のハンマー…『アインレリック』で叩き出す。


アインレリックの形状は木槌に近い。だが頭の部分はワイン樽の様にかなりデカイし、柄は身長以上の長さを誇る大きな槌だ。

柄の端に黒い魔法玉が填め込まれており、これは魔力を増大し純粋に力や破壊力を増すための物だ。


そして、小さい頃から暇を見つけては常に練習している、魔力を球状に固めるこの魔法『魔力球』は他人には見えない。

これは元々無色の魔力を練り上げて固め、それを飛ばすことで相手に察知させずに攻撃できる。

もちろん詠唱もいらないから気づかれずに創り出すことが出来るし、察知魔法と呼ばれる警戒用の魔法でも反応が出ないというかなり優れた技だ。

今までこれを避けた人間を俺は二人しか知らない。


一人は俺の師匠。もう一人は…目の前の男だ。


最初にこれを目の前の男…ユキトが避けた時、かなり驚いた。

師匠でも3発目からようやく対応したというのに、ユキトは1発食らっただけで即座に対応したのだ。

奴は勘だと言っているが、正直怪しいと俺は思う。何故なら…。


フェイントやブラフも含めた魔力球を10発以上放っているというのに、今も余裕で避けているからだ。

体を反らしたり、屈んだり、時には右手の剣で弾いたりして避け続けているが、基本的に余裕がある様に見える。


「くそってめぇ!どうやって避けてやがる!」


苛立ち紛れに叫びつつも攻撃は止めない。


「色々と理由はあるけど、明かすつもりはない!」


今度こそ、直撃。と思ったコースで魔法球を飛ばすが、またしても半身を逸らすことで避けるユキト。


(なら、これでどうだ!)


魔力球6発を横一列に配置。空中に固定。それを一薙ぎして一斉に飛ばし頭を狙うと同時に駆け出す。

案の定、上体を反らして避けるユキト。だが、俺が狙っていたのはその避け方だ。


魔法球の後を追うように駆け出していた俺はユキトが上体を反らした瞬間、獲物を真っ直ぐに振り下ろした。

しかし、避けきれないと判断したユキトは、


「―汝、力を糧に我が前に示せ、シールド!―」


呪文を早口で唱えて左手を翳し、白い盾が現れる。

だが、盾が意味を成さないのは初対面の時にわかりきっている。

よって、俺は盾を壊してユキト本体を叩き潰すためにそのままの勢いで盾を叩きつけた…が。


ガィイン!という音と共に、アインレリックの頭の軌道が逸れ、同時にドスン!と言う地面を叩く音が辺りに響く。


盾に叩きつけたはずなのに、盾は健在したままだ。


(たった一週間近くでそこまで盾の強度が上がるのか!?)


予想外過ぎて、しばらく…と言っても時間にして3秒にも満たない時間だったが、俺は呆然としてしまう。

そして、その隙を逃さないと言わんばかりに、ユキトが右手に握っていた剣を横薙ぎに振るってきた。

だが、俺が着ている鎧はそれなりに強度が高いし、何よりこの程度で貫かれる心配は毛頭ない。


ガギンッ!という音が剣と鎧から響き、当たった瞬間に小さな火花が散る。


剣が弾かれ、微かに右手が痺れたのか、顔を顰めるユキト。

その顔を見てようやく呆気に取られていた思考が解け、慌ててアインレリックを横薙ぎに振るう。


またも盾が壊れずユキトが吹き飛び、ごろごろと地面を転がっていく。

その様子を見ながら、俺はアインレリックを何度か左右に振るう。

違和感は…ない。いつも通り、いや。いつも以上に調子が良いと言ってもいい。


だけど、先ほどは盾を突き破れなかった。


これは本気の本気で討ちかからないといけない。そう心を改め、転がっていくユキトを追撃すべく、地面を蹴った。





******





まずい。そう思ったときには既に遅かった。

咄嗟とはいえ盾で防いだが勢いを殺す事もできずに、そのままごろごろと地面を転がる。


「けほっ…うえぇ、砂が微妙に口に入った~…」


素早く立ち上がり、涙目になりながらも何度か口の中に入った砂を吐き出す。

そして視線をクール皇子に移すと、怪訝な顔をしながら何度かハンマーを振るっている。

どうやら、盾で受け止められたことが相当不可解だったらしい。


と言っても実際のところ特別なことは何もしていなかったりする。

ようは受け止めるから割れるのだから、受け止めずに受け流せばいい…そう思って、僕は盾をわざと斜めに展開して、力点をずらして受け流しているに過ぎないのだ。


(まぁ、説明したら絶対突破されるだろうから言わないけど…)


そんな事を思いながら、右手をぶらぶらと何度か振るう。

先程剣で鎧を切った瞬間、痺れてしまっていたが、少しずつ感覚が戻りつつある。


(まず、あの鎧が邪魔だな)


そう思っていると、クール皇子が突撃してきた。

どうやら魔力球での攻撃は無駄だと判断したらしい。


まぁ、これも反則的な方法で避けてただけで、クール皇子の思考を読んだだけである。

視線をずっと合わせ続けなければいけない上に、撃ち出される瞬間を読まないと即座に直撃していたと思う。


ハンマーの横薙ぎを背後に飛ぶことで避け、エフォニエさんに教わった魔法を試すことにした。

詠唱しながら相手の懐に潜り込む。


「―我が魔力よ、守りし鎧を切り裂く刃となれ、その刃をもって鎧を破壊せよ、鎧破壊アーマーディストラクション!―」


左手に白い光に包まれ、それを目の前のクール皇子が着ている鎧に叩きつける!

次の瞬間。バキャンッ!と耳障りな音が盛大に響き、着ていた頑丈そうな鎧が木っ端微塵に吹き飛んだ。


「…は?」


クール皇子が自分の懐を見つめて間抜けな声を発する。

その反応を見た僕もキョトンとする。

え?あ、あれ?実戦で使ったのは初めてなんだけど…これ結構メジャーな魔法じゃないの?なんで観客席の人間までポカーンとしてるの?と、いまいち状況がよくわからない。


と、今のうちにっと。


鎧破壊魔法アーマーディストラクションの反応は予想外だったが、いつだったかのアイズのように首筋に剣を突きつける。

ようやく剣を突きつけられたことに気づいたのか、はっとした顔でこちらを見て、表情を歪めるクール皇子。

どう転んでも、避けられる距離じゃないのは明白だが、一応聞いておく。


「…まだやります?」


「…くそっ!降参だ!」


降参と言う言葉を聞いた瞬間。ほっと一息吐いて、僕は剣を引いた。


はい、なんとか書き上げました。今回は初の試みが多かったので、投稿が遅くなってしまった事を深くお詫び申し上げます。初の本文中の視点変更は如何でしたでしょうか?初の試みなのでこれについての感想が一番聞きたかったりします。


さて、今回の投稿に4週間も空けてしまいましたが、最近は仕事が忙しかったりするので、どうしても執筆時間が取れなかったりします。ですが、これからも出来る限り頑張っていきたいと思っていますので、これからも応援等よろしくお願いします。

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