約束の日
お気に入り件数100件超えたー>< と、かなり吃驚している作者です。この調子で頑張っていきたいと思っていますので応援等よろしくお願いします。あと、今回はちょっと短めです。
「ふわぁぁぁ…」
体を起こさず、ベッドに寝転んだ状態で欠伸をしながら全身を一度伸ばす。
以前にも言ったような気がするが、僕は寝起きが悪い。
おまけに血圧も低いらしいので僕の朝は、どうにもボンヤリしがちだ。
そんな寝ぼけた状態に区切りをつけるように勢いをつけてベッドから起き上がり、もう一度全身を伸ばす。
うん、起きれた。と思いながら枕元に置いておいた腕時計を見る。
時刻は7時34分…結構なタイムだ。
こちらの世界に着てからも休日はいつも10時か11時ぐらいまで寝ていたので珍しいとも言える。
隣のベッドを見やると、アイズが行儀良く寝ていた。
行儀良くと言っても、首まで布団を掛けて寝ているだけなんだが…まぁどうでもいい。
視線を外し、今度は部屋を見渡す…と言ってもまぁ、宿屋の部屋なので家具は殆どない。
机とその上に置いてある小さなランプと大きなベッドが二つずつ。それだけだ。
そのまま窓の外の風景に視線を移す。
窓の淵にとまっていた白い鳥が羽をばたばたと動かし、一気に羽ばたいて飛んでいく。
身体を動かしてベッドから降りて窓際まで歩く。
もちろん、アイズを起こさないようにだ。
そして、あまり音を立てないように慎重に鍵を開け、ゆっくりと開く。
窓を開けると一層太陽光が強くなり始めた気がした。
空に視線を移し、目を細めて空をしばし眺める。
「うん。今日も良い天気だ」
そう言ってから深呼吸。そして…。
「よし、頑張って皇子に勝つとしますか!」
勢いよく、自分の頬を叩いた。
制服よし、ローブよし、魔工石よし、予備のナイフよし…うん、武装関連は問題なし。
全てを身に着けてから、軽く腕を振る…うん、筋肉痛とかもないし…良好良好。
流石に昨日まで5日間ぶっ続けで特訓を行っていたので、筋肉痛とかになってたらどうしようとか不安だったのだが、杞憂だったらしい。
しかし…それより心配だったのはエフォニエさんだ。
僕とアイズが特訓していると、すかさず特訓場所に来てくれて相手を務めてくれたのだが、流石にご老体に何度も何度も相手をしてもらうのも、無理して来てもらうのも気が引けるとその旨を告げたのだが。
「なぁに。散歩のついでじゃから気にせんでよい」
と言って結局5日間相手をしてくれたのだ。
…今頃、腰とか痛めてないといいんだけど…と思いながら今度は床に置いておいた鞄をベッドの上に載せ、中身を漁る。
財布よし、使えないけど携帯よし、ハンカチよし、腕時計よし、学校の図書室から借りた本よし、着替えその他諸々も忘れ物なしっと。
ちょうど今日が約束の日で、帝都ウィンベルに滞在できる最後の日でもある。
決闘が終わったらすぐにここを発ち、エルクワールに戻らなければならない。
だから、今のうちに帰る準備とこの部屋を出る準備をしておかなければならない。
「ユキト君、荷物のほうは大丈夫かい?」
アイズも持ち物を整え終えたのか、荷物を部屋の出口脇に置いてから声をかけてくる。
「うん。大丈夫。アイズのほうは?」
「ボクも大丈夫だ。それより…その、勝てそうかい?」
アイズにもこの5日間相手をしてもらった。
…まぁ、エフォニエさんが来た時は店番に立っているロナのほうに行っていたが。
それでもかなり助かっている。
「うーん。どうだろね。でも…」
鞄の蓋を閉め、肩から提げる。
「負けるつもりはさらさらないよ」
「そうか」
そう言いあって、お互いにニヤリと笑う。
部屋を出ると、ちょうどロナも隣の部屋から出てきて、『おはよう』とお互いに挨拶。
その後、廊下を通り、階段を下りて、店先に出て掃除をしていた宿の主人に3人揃って頭を下げ、お城への路地を歩き始めると、ロナが口を開いた。
「そういえば、ユキ。あれからユリアと連絡取ってるの?」
「うん?ああ、たまに寝る前にちょっとだけ念話で…」
最初はなんだかよくわからんが、かなりテンパってる心理状況で念話してきたせいか、会話内容が凄かったなぁ。
と、歩きながら会話内容を思い出してみる。
「…うん、凄かったなぁ」
「なんで急に遠い目して黄昏てんのよ」
「あー。人間って焦ると凄いんだなぁと思い出してたところ」
「はぁ?」
わけがわからないといった感じでロナが首を傾げる。
いやぁ、軽くトラウマになるレベルの話だし、言わないほうがいいだろう。
と言うか、僕もぶっちゃけ思い出したくない。
「まぁ、元気にはしてるみたいだよ。今日も結果を見届けるために訓練場に来るだろうし、会えるんじゃないかな?」
「そっか。よかった。ちょっと小物で似合いそうなのあったからプレゼントしたかったんだ」
嬉しそうにロナが言い、小物が入っているだろう小さな紙袋を鞄から取り出し、ひらひらと僕の目の前で振って見せる。
それを見て、僕はちょっとだけほっとしていた。
いくら分け隔てなく友達になれるロナと言っても、やはり限界はあるだろう。
それが、皇族となると…と、少しだけ心配はしていたのだが、やはり杞憂だったらしい。
「でも、気に入ってくれるかわかんないぞ?」
「えー大丈夫よ絶対。ねぇアイズ」
「うむ、ボクも大丈夫だと思うよ」
「なんだ。アイズも一枚噛んでるのか」
「その…悪巧みに加わってるような言い方はやめてくれないかユキト君」
と、和やかに雑談しながら、お城に向かって路地を進んでいく。
路地の角を曲がったところでまたロナが口を開く。
「でー?実際勝てる見込みあるの?」
「うーん。まぁ一応?」
見込みがないわけじゃあない。
伊達にこの5日間頑張って特訓してはいない。
「しっかりしなさいよ~ユリアの人生かかってるのよ?」
「…いや、人生まではかかってないような気がするんだけど…」
「何言ってるのよ。今の状況は人生損してるとしかアタシには思えないわ」
「……………」
いや、まぁ、確か人によってはそう見えるかもなぁ。
でも…。
「ま、それもまた一つの見方だな」
今説明しても納得しないだろうなコイツ。
「何言ってるのよ。誰がどう見ても不幸にしか見えないわよ」
「あーはいはい。そうですねーその通りですねー」
だからまぁ、とりあえずこの場は適当に話を切り上げ、話を切り替えることにする。
「そういえば、今気づいたんだけどさ…あいつどこよ?」
「あいつって?」
「精霊もどき」
「ああ、まだこの中でぐっすり寝てるわ」
そう言って立ち止まり、肩から提げていた鞄の蓋を開けるロナ。
アイズと揃って鞄の中を覗き込んでみると、畳んだタオルの上に小さく丸まって眠りこけている真っ白な巫女姿の精霊が一名。
その様子を見て僕とロナとアイズが口を開く。
「…と言うか、はじめて見た時も聞いたけど…ホントにこれ精霊なの?」
「さぁ?本人はそう言い張ってるけど…」
「でも精霊って普通は見えるものじゃないだろう?」
アイズがそう言い終わり、3人揃って無言で顔を見合わせ、無言で蓋を閉じる。
「ま、あとでまた考えましょ」
「だな」
「だね」
そうこうしているうちに、遠目から小さく見えていたお城が、だんだんと大きく見え、ガッチリと閉じられた大きな城門が目に入ってくる。
城門の前に到着すると脇に居た門番さん二人が最初訝しそうにこちらを見ていたが、僕が皇子と約束していることを告げると、すぐに門を開けてくれた。
訓練場の場所は予めユリアに教えて貰ってあるので迷うことはない。
わき道を通り、中庭を通り抜け、少し開けた広場のような場所を通り抜けると、お城や城壁に使われている白いレンガとは別の赤褐色のレンガで出来た大きい建物が目に入ってきた。どうやら、あの建物が目的地の訓練場らしい。
「…どこから入るんだろ?」
「さぁ…」
壁は見えたのだが、入り口が見当たらない。
そのまま左へ壁に沿って歩いていると、どうやらこの壁は緩やかな曲線を保っているようだ。
もしかしたら円形のドーム状に出来た建物なのかも…と思いながら歩き続けていると、ようやく入り口らしき場所が見えた。
建物の中に入ると、今度は左右に道が分かれている。
どっちに進もうか?と3人で悩んでいると、ちょうど灰色の鎧を着た兵士らしき人が通りかかった。
「そこの3人。ここで何をしている」
「あ、すいません。クール皇子に呼ばれてここに来た者なんですが…」
「ああ、君か。話は聞いている。案内しよう」
そう言って先を歩き始める兵士さん。結構歩くスピードが早いので慌てて僕たちもその後を追う。
「しっかし…君勝てるのかい?」
「え?」
「いやぁ、結構城の中で噂になっててねぇ」
苦笑いしながら兵士さんがこっちを見る。
って噂って…。
「あの…そんなに噂になってるんですか?」
「ああ、城の殆どの兵士やメイドたちも知っているよ」
うへぇ…またアイズのときみたいに観客とかいないといいんだけど…。
………無理だな。っていうか諦めよう。
と、僕がげんなりしているとロナが口を開いた。
「やっぱり皇子って強いんですか?」
「そりゃあ強いよ。たぶんうちの軍の隊長も敵わないんじゃないかなぁ?」
「そ、そんなに強いんですか…」
ロナが驚いたように兵士を見てその後、どうするのよ。と言った感じにこちらを見る。
いや、そんなこと今更言われてもなぁ…結局はやるしかないし。
「まぁ、頑張ってくれよ少年。皆期待しているんだから」
「…できる限り頑張ります」
もう色々と諦めたいけど…と心の中で嘆きながら答えた。
右に曲がったり、左に曲がったりしながら通路を進んでいると、小さな小部屋に通された。
闘技場の控え室って感じだなぁ…殺風景だし。
「じゃあ、合図があったらこちらから出てください」
「…はぁ。わかりました」
そう言われて、小さな木製のベンチがあったので荷物を床に置いて座る。
「お友達の方はこちらのほうへどうぞ。観客席がありますので、兵士やメイド達もそちらに集まっています」
そう言って、兵士さんが別の出口のほうに歩き出す。
「あ、そうなんですか…じゃあユキ。絶対勝ちなさいよ?」
「ユキト君。頑張りたまえ」
二人が笑って小部屋から出て行き、僕一人が取り残された。
「さて、と…」
ゆっくりと立ち上がり、ちょっと緊張しているようだったので全身の筋肉をゆっくりと解してゆく。
そうこうしている内に、先ほどとは別の兵士さんが部屋に入ってきた。
「準備は終わりましたか?皇子が中央でお待ちです」
「そうですか…わかりました」
兵士が出て行くのを見送り、軽く全身をチェック…そして。
「よし、頑張りますか!」
気合を入れて、部屋を出た。