特訓
PVが14万アクセスを超えて、ユニークが2万5千人を超えましたー>< と歓喜につつまれている作者です。ちょっとだけ投稿が遅くなってしまい申し訳ありませんでした。これからも頑張りますので、よろしくお願いいたします。
精霊?との契約から丸一日経ち、今日はここ。ウィンベルから少し離れた草原に来ているのだが…その若々しい緑色が一面に広がっている草原を僕は必死に駆ける。
たまに石が転がっていて転びそうになるときもあるが、そんな事を気にしている余裕が今の僕にはまったくない。
一瞬でも気を抜けば餌食となる…何のって?そりゃあもちろん。
アイズの魔法攻撃。
僕が走った後を追うように、ドォンッドォンッドォンッ!という爆音と共に雑草と地面が抉り取られる。
…って今思ったけど自然破壊だよなあ、これ…。
「ほらっ!もっと早く走らないと!―汝、弾丸となりて、敵を弾け、弾!―」
アイズの声と共に再び10個の青白いキューブがアイズの周りに生み出され、すぐさまこっちに向かって飛んできた。
軌道を読み、必死に足を動かし、体を捻る。
「ッ―汝、矢となりて、敵を射抜け、矢!―」
いくつかは避けきれたが、避けきれなかった分を魔力を矢の形状にして突き刺すタイプ、アローで迎撃。
白い矢が空中に5本出来上がり、襲ってきたキューブに突き刺さって爆発する。
「―汝、楔となりて、我が前の輩を縛る戒めとなれ、鎖!―」
その後アイズを戒めるための魔法を続けて詠唱。
白い魔方陣が空中に幾つも現れ、魔力の鎖が飛び出しアイズに絡みつく。
「よっ…と!」
アイズが動けなくなったのを確認して、右手首に下げていた魔工石に魔力を流し込んで剣を構築。
その後、一気に距離を詰める。
だが、あと15mといったところでアイズがチェインを引きちぎり、こちらに向かって持っていた獲物を振りかざす。
「ッ―汝、力を糧に我が前に示せ、盾!―」
攻撃が間に合わないと判断して魔工石を手放して剣の構築を破棄、すぐさま詠唱してシールドを展開。
直後。アイズが振った木槌がシールドに直撃して、シールドごと後方に吹き飛ばされ、ごろごろと地面を転がる。
「―汝、楔となりて、我が前の輩を縛る戒めとなれ、鎖!―、そして止めだよ!―汝、弾丸となりて、敵を弾け、弾!―」
先ほど僕が使ったものと同じチェインが僕に絡みつき、その場に縫いとめられる。
そして先程より魔力を込めたのか、一瞬で20個以上のキューブが生み出され、僕に向かって飛んできた。
「ッ間に合え!―汝、力を糧に我が周囲に示せ、壁!―」
チェインを引き千切れないと判断してそのままバリアを展開、注げるだけの魔力を流し込む。
直後。僕の周囲が直撃したショットの爆発に包まれた。
「うん、大分良くなったね」
近くの大きな木に寄りかかり、こちらを見ながらアイズが言う。
だが、それに対して僕は草原に寝転びながら大声で叫ぶ。
「いや、全然良くなってないし!むしろいじめられてる気がしますけどねぇ!?」
止めが酷かった。
相手を動けなくする魔法のチェインで拘束したあと、魔力を多めに注ぎ込んだおかげで数が増したショットの追撃…正直よく防げたと思う。
「そうは言っても、実戦じゃあもっと酷いことになるかもしれないよ?」
「…まぁ、そうなんだけどね」
あの程度のことに対応できないとクール皇子には勝てないかもしれない。
そんなことはわかってはいるんだけど…。
「…これで勝てるのかが怪しいんだよなぁ」
そう、一応アイズに木槌で武装してもらっているが、相手の動きを見て真似しているわけではない。
まぁかと言って実際に皇子に相手して貰うわけにも行かないんだけど…。
「確かに、ボクもちょっと不安だけどさ…」
アイズもどうやら不安らしい。
特訓相手を務めてくれと頼んだには頼んだが、アイズも皇子の動きを知っているわけではない。あくまで自己流で攻撃してきているだけだ。
相手役を引き受けたからには完璧に役立ってやろうという心なんだろう…アイズらしいと言える。
「ま、やめるわけにもいかないけどね…さて、アイズもうちょっとつき合ってよ」
「いや、まだ魔力が回復しきってないだろう?とりあえずコレの捌き方の練習がいいんじゃないかい?」
そう言って、アイズが木槌を担いでこちらに歩いてくる。
うーん。確かにさっき使った分の魔力は減ってるし、槌の動きや間合いは実際にやってみないとわからない。
「そうだね、とりあえずそっちを…」
と起き上がりながら言いかけて、表情が青ざめる。
アイズの背後から緑色のスフィア状のショットが30以上の数で飛んできたからだ。
「アイズっ!」
すぐさま飛び出し、アイズの腰を掴んで突き飛ばす。
とっさのことで反応できなかったのか、アイズが木槌を放り出してごろごろと草原を転がり、僕も突き飛ばした反動で反対側にごろごろと転がる。
直後、さっきまで僕が寝転がっていた場所が爆音と共に跡形もなく吹き飛んだ。
もうもうと砂煙が上がるのを呆然と見ながらも、すぐに立ち上がり、敵なのか?と緊張しながら、辺りを見渡す。
だが、目に入ったのはおじいさん一人。
「…エフォニエさん?」
「ふぉっふぉっふぉ。うむ、なかなか良い反応じゃの」
茶色の民族衣装を揺らし、笑いながらエフォニエさんが歩いてきた。
手には木製の長杖も持っている。
「…っていきなり何するんですかっ!死ぬかと思いましたよっ!」
「大丈夫じゃ。手加減はしたしの…それに、この程度の攻撃を避けきれんでどうする?」
「…確かに」
「いや、アイズ。そこ納得するところじゃないから。普通に避け切れなかったら吹き飛んでたから」
一見まともに見えるのになんでこういうところだけズレてるのかなぁ。
と思いながらアイズに突っ込む。
「まぁそれは置いておいて…どうしていきなり攻撃してきたんですか?」
アイズが改まってエフォニエさんに問いかける。
「なに、ロナちゃんに頼まれての。お前達の特訓相手というわけじゃ」
「特訓相手ですか…あの、確かにありがたいですけど、お店のほうは…」
「もちろんロナちゃんに任してきたわい」
「GJです。エフォニエさん」
ロナまで来てたらうるさくなるだろうと思っていたところなので好都合だ。
一応、草原に来ていることだけは教えていたが、来ては欲しくなかったからこっそり宿から抜け出して来たぐらいだし。
…いや、仲間外れとかにしてるわけじゃないんだけど、横からあーだこーだ言われるのは目に見えてたんだよ。ホントに。
「何っ!だとしたらロナ一人で店番をしているんですか!?」
「あー…アイズ。心配なら行ってきてもいい…」
「もちろん、そうさせて貰う!」
だっと走り出したかと思うと、すぐに点のように小さくなるアイズの後姿…うん。早かったな今のは。
「…しかし、ロナちゃんなら悪質な客ぐらい一人で撃退するじゃろうに」
「…ですよねー」
なんかいちゃもんつけてきた客を簡単にふっ飛ばしてる絵が簡単に頭に浮かぶ。
それぐらい強いから問題はないと思うんだけど。
「ま、ここ最近二人っきりにさせてなかったし、いいんじゃないですかね?」
「うむ、それもそうじゃの。ところでそろそろ始めても良いかの?」
「良いですけど…ホントに大丈夫なんですか?」
いくら特訓だからといって老人を相手にするのはちょっと気が引ける。
「なに、小僧の相手なんぞ、わし一人でどうとでもなるわい」
「ホントに大丈夫かなー…」
「まぁ、まずはお互いの実力をわかるために…どれ、軽く一戦しようかの」
そう言ってから、エフォニエさんが杖を持った手を上空に掲げる。
「―我が魔力よ、顕現せよ、形状は槌、その役は打撃、形ある物としてこの世に生まれ出でよ!―」
純正魔法の詠唱。エフォニエさんの手に光が集まり、木杖を軸にした緑色の巨大な槌が出来上がっていた。
それを軽く振るってからエフォニエさんが言う。
「ふむ、まぁまぁな出来具合じゃの。さて始めようか」
「…やってみますか」
そう答えてから、手首に下げていた魔工石に魔力を流し込んで剣を構築した。
「ぜぇっぜぇっぜぇっ…」
肺がいくら酸素を取り込んでも満足しない。
なんて文字で書けば簡単に一行で済むが、マラソンをしたことがある人間は大抵わかるはずだ…。
めちゃくちゃつらいということを。
「ふむ、身体能力はそこそこ、といったところじゃの」
「…僕としては、貴方のような、ご老体が、なんでそんな、スピードで、動けるかって、所が疑問だよ」
ばたりと、先ほどとは打って変わって草原に倒れこむ。
正直生きた心地がしなかった。
懐に飛び込んだと思ったら、既に姿がなく、気づいた時には背後から槌の一閃。
距離を取れば、先の一撃のようにショットの大量砲撃。しかも最初の一撃は手加減してたのか、ショットの数が数え切れないほど飛んできた。
どちらもぎりぎりで回避・防御が間に合ったからよかったものの、直撃してたら意識飛んでたぞ絶対。
と、安心したのもつかの間。
今度はこちらの番だと言わんばかりに、エフォニエさんが特攻。
至近距離からの槌の連続攻撃。
しかもショットを体の周りに滞空させ、自身に隙が出来そうになったらそれでカバーするといった本格的な業の数々。
正直なところ、ホントにおじいさんなのかと疑いたくなってきているぐらいだ。
「わしは魔法による肉体強化をいくつかしておるからの、それよりもじゃ」
「?」
「おぬしは使わんのか?肉体強化。結構便利なんじゃが…適性がないのかの?」
「…いや、単に知らないだけです」
魔法で肉体強化できるなんて初耳だった。
まぁ、それ以前に今まで必要なかったから誰も言い出さなかったんだろうけど。
「ふむ、詠唱文も知らないようじゃの、どれ。これでも暗記しておきなさい」
そういって、エフォニエさんの手に一冊の本が現れる。
「20分もあれば暗記できるじゃろ。それまでは休憩しようかの」
「…はい」
20分で暗記できるかはわかんないが、出来なければ先ほどと同じように遊ばれるだけだ。
…と言うか、暗記したとしても僕が使えなかったら同じように遊ばれるんじゃないだろうか?…うん、考えないようにしよう。
木の根元に座り込んでから、転送魔法で取り出したのか、お茶の準備をしているエフォニエさんの横目に、受け取った本…タイトルは『肉体強化魔法全集』という本を開いてページを捲っていく。
なるほど、これも純正・精霊と分けられてるのか。と、どこか納得しながら読み進めていく。
純正の場合は全体的な性能強化。
魔力を全身に張り巡らせて、筋力・脚力・反応強化が見込めるのと、魔力を硬度化させることで全身を武器とすることができるわけか…って、なんか某魔法先生の漫画を思い出してしまうんだが…漫画の読みすぎかもしれない。
ま、まぁ、あまり気にしないでおこう。うん。
精霊の場合は限定的な特化強化。
火・水・風・土とそれぞれ強化が違っていて、
火は純粋に筋力の強化・水は反応の強化・風は速度の強化・土は防御の強化。
ユリアと出会った時に使ってたのはこれと似たタイプだろう。
他にも色々と種類があるが、総合的に能力が上がるのが純正魔法で、限定特化させるのが精霊魔法と言った感じだ。
「純正魔法の詠唱文はっと…」
今僕が使えるのは純正魔法だけだ。
精霊っぽいのとは契約したが、当の本人は昨日子供達と遊びすぎたのか、未だに宿でぐーすか寝ている。
…まぁ、この場に居ても使えるかは怪しいが。
読んでいた本をパタリと閉じて、エフォニエさんに返し、立ち上がって詠唱開始。
「―我が魔力よ、我に纏いて、力を与えたまえ、形状は衣、その役は強化、形ある物としてこの世に生まれ出でよ!―」
リィンッという鈴のような音が響き、白い光が僕の全身に広がる。
「ふむ、案外時間がかかるかと思っておったが、センスだけはあるようじゃの」
ふぉっふぉっふぉと笑いながら手に持った湯のみを傾けるエフォニエさん。
確かに、成功したように見えるのだが…まだわからない。
ちょっと動いてみるか?
そう思って、足に力を込めて、ダンッと走り出した瞬間。
視界が吹き飛んだ。
一瞬で流れていく景色と風を切る音。
酸素呼吸もカバーしてあるのだろうか、これだけ速く走ってもまったく息苦しくもない。
草原を駆け抜け、ウィンベルの水堀と城壁のそばまで走り、跳躍。
水堀を飛び越え、一度だけ城壁の壁を蹴り、30mはあろうかという城壁の真上まで一瞬で飛び上がる。
そのことに驚きながら、城壁の上に着地、さらに疾走。
警備をしていたらしい兵士脇を高速で駆け抜け、こちらに気づくこともなく兵士の姿が後ろに流れていく。
城壁の端まで走り、勢いを殺さず、跳躍。着地。
そのまま元来た草原を走りぬけ、お茶を飲んでいたエフォニエさんの傍まで着てからようやく足を止めた。
「…おぬし、本当に今回が初めてか?遠目から見ておったが、警備兵にも気づかれなかったじゃろう?」
「いや、そのことには僕も吃驚しました。」
「しかし、そのスピードで動き回れるなら相手を圧倒することなんぞ簡単じゃろうて」
「だといいんですけど…勝てるのかまだ不安でして…」
「まぁ、勝てる勝てないは別としてやってみるしかないじゃろうて。大事なモンがかかっておるのじゃろう?わしは一年前はそうして戦争に参加しておったわい」
カッカッカッと笑うエフォニエさん。
「あれ?…エフォニエさん、一年前に終わったっていう戦争に参加してたんですか!?その歳で!?」
「うむ、あれは酷かったのう…今の若い者達には経験させたくないもんじゃわい」
どこか遠いところを眺めるような視線でエフォニエさんが言う。
あんまり聞かないほうがいいかな?と思い、特訓の再開でもしてもらおうかと考えたが、先にエフォニエさんが口を開いた。
「東のアストリア王国と西の帝都ウィンベル…その国同士の争いだったのじゃが、最後には神様との戦争になってしもうたからの」
「…神様?」
「おっと。ちと喋りすぎたわい。そろそろ続きをしようかのう」
言い過ぎた。と言った感じで口を手で塞ぎ、お茶の道具を片付け始めるエフォニエさん。
(しかし…神様、かぁ。)
元の世界で宗教には入っていなかったが、それでも居るのだろうかそういう存在が?と思う。
だがまぁ、異世界で、さらにその世界に飛ばされて、しかも魔法や魔物が存在する時点で、神が居ても全然不思議じゃないと思ってしまうのは、この世界に慣れてきた証拠なのだろうか?と苦笑する。
だけど、元の世界に戻ったらこの世界のギャップが大変そうだと感じる僕だった。