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異通者奮闘記  作者: ラク
二章:帝都ウィンベル
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お菓子

まずは、謝罪をいたします。先週は皆さんに勘違いをさせる結果になってしまい、大変申し訳ありませんでした。自分としては夜中に次話が投稿できたら投稿すると言ったつもりだったのですが、どうやら説明不足だったようで、夜中に来ていただいたたくさんの方々。本当に本当にすいませんでした。今後このようなことは一切ないように頑張りますので、よろしくお願いいたします。


しばらく子供たちの相手を人形化した精霊としているとシフォンさんが目を覚まして教会から出てきた。

最初、小さな人形状態の精霊を見た瞬間彼女の言った言葉は…。


「す…」


「す……?」


「………?」


彼女の言いたい事がわからなくて、精霊と顔を見合わせて首を傾げる。

だが、次の瞬間。


「すっごく可愛いんだよ~!」


「ひゃあっ」


「おおう」


シフォンさんが満面の笑顔で飛びついてきた、勢いよく。

だが、そんな勢いよく飛びつかれて、小さな精霊が支えきれるわけもなく。

目の前の光景が見ていられなくて、周りの子供達と共に目を瞑ってしまう。

次の瞬間、バッターンという派手な音が教会の広場に響き渡る。


恐る恐る目を開けてみると、シフォンさんが地面に倒れていた。


「だ、大丈夫ですか?シフォンさん」


「う、ううううう…」


流石に今のは痛かっただろうと思い、慌てて駆け寄って起こしてあげると、今度はシフォンさんに押しつぶされた精霊が見えた。

地面にべったりと張り付いてる。


「漫画みたいな潰され方してるな…お前」


「…漫画って意味はわかんないけど…かなり不本意なこと言われている気がする」


不機嫌そうな声で精霊が言葉を発して、むっくりと起き上がる。

ぺらぺらの紙みたいになっていたが、一回息を吸い込むような動作をすると風船みたいに膨らむ…いや、ホント、なんでこんな漫画のキャラっぽいんだこの精霊は…。


「だいじょうぶー?」


「うん、大丈夫!それじゃあ、鬼ごっこの続きしようか~?」


小さな男の子が心配そうに精霊に話しかけ、それに笑って答える精霊。

子供達からかなり好かれたらしく、すぐにわぁっと精霊の周りに子供達が群がる。


それを見て、精霊に子供達を任せても大丈夫かな?と思い、広場の端にある井戸から汲み上げた水でタオルを濡らし、シフォンさんに手渡しながら話しかける。


「シフォンさん、少し台所借りてもいいですか?」


「はい?構いませんけど、夕飯の仕度ですか?それにしてはちょっと早いような気がするんだよ?」


濡らしたタオルで顔を拭き、修道服に付いた砂を手で掃いながら、首を傾げるシフォンさんに苦笑しながら答える。


「いえ、ちょっと子供達に甘い物でも用意しようかと思いまして」


「甘い物って、ドライフルーツですか?それでしたら教会にきちんと保管してありますけど…」


そこまで言われて、少し考え込む。


「ふむ…シフォンさん」


「はい?」


「お料理得意ですか?」


「え?はぁ、まぁ苦手ではありませんし、得意と言えば得意だよ?」


「じゃあ、ちょっとだけ手伝ってください」


「構わないけど…何を作るんだよ?」


「うーん…僕の国に伝わる食べ物です。とだけ言っておきましょうか?」


そう言って、僕は笑いながら教会のドアを開け、思いついてから精霊に声をかける。


「ちょっとだけ子供達の相手たのむぞ~?」


「了解~」


と、どこかのんびりした声で応じる精霊だった。






「おお~」


「ど、どうかしました?」


「い、いえ。ちょっと感動してただけです」


「…普通のどこにでもある家庭の台所だと思うんだよ?」


怪訝そうな目でシフォンさんが見てくるが、僕は気にしていられなかった。

科学的じゃない台所なんて本当に歴史書の写真以外で見たことがなかったのだ。

だからなんていうか…そう、未知の遺跡を発見した学者のように興奮するのだ。

しかも、台所の姿形はどこか似ていても全然違うのだ。

水が出そうな蛇口や流し台のようなところはある程度一緒なのだが、冷蔵庫のような長方形の箱は配線のようなものはまったく見えないし、フライパンを熱したりできるようなコンロのような所に至っては鉄製の丸い輪が配置されているだけで、ガスがでるようなところは見当たらない。


「これは冷蔵庫…なのかな?でもこの穴は?」


「魔冷庫見たことないんですか?ここに指を入れて魔力を流し込むんだよ~?」


どうやらこれをするだけで冷気が2~3週間持つらしい。

電気も使わないし、環境に優しいなぁと感心する僕。


「えっと…これは?」


「コンロって言って、炒め物とかする時の場所だよ。火力の調節はこっちのつまみで、ちょっと一般魔法使うだけだよ」


そう言ってシフォンさんが指先に火を点して、鉄製の丸い輪に触れると輪に沿って火が点る。

つまみを試しに回してみると火の大きさが変わった。

ここはどこか似通ってるな…魔力使う時点で別物な気がするけど。


う~ん、すごいな魔法世界。と思いながら、シフォンさんに断ってから魔冷庫…って面倒だから冷蔵庫でいいや、冷蔵庫の中から卵と牛乳の瓶をいくつか取り出す。


「砂糖ってどこにあります?」


「えっと…確か、そこの棚の一番上…だったかな?」


自信なさそうにシフォンさんが食器棚の一番上を指す。

ホント使ってないんだな砂糖。と思いながら食器棚の一番上を漁り、砂糖が大量に入った袋を取り出す。


「あとは…えっとこのカップ使っちゃっていいですか?」


「うん、大丈夫だけど…一体どんなの作るんだよ?」


不安そうに材料を見渡すシフォンさん…まぁ、食べた事もないようなものを今から作るわけだから不安にもなるか。


「まぁ、見ててください。結構美味しいの作るつもりですから」


「はぁ…大丈夫ですか?」


「大丈夫大丈夫。さて、やるとしますか!」


まずは、カラメルソースっと…鍋に砂糖と水を入れ、熱し始める。

徐々に香ばしい匂いが辺りに漂い、煙が出始める。


「ちょっ、焦げてませんか!?」


「あ~大丈夫大丈夫。こういう風にして作りますので気にしないでください」


慌てているシフォンさんを宥め、鍋蓋とコップに入ったお湯を両手に持つ。

鍋にお湯を投げ入れ、砂糖が飛び散る前に鍋蓋を被せる。

ジュウウウウ…という音が響き、音が収まってから鍋蓋を取ると、綺麗なカラメルソースが出来上がっていた。

火を止め、少しだけ鍋を揺するとカラメルソースが揺れる…うん、これぐらいならいけそうか?と思いつつ、少しかき混ぜておく。


「これは?」


「カラメルっていうソースです」


不思議そうにカップに注がれていく琥珀色の液体を見つめるシフォンさんに適当に答えながら、空になった鍋を軽く洗う。


「あ、熱いですから触らないようにしてくださいね」


「り、了解です」


指を突っ込もうとしてたので少し慌てて忠告する。


「今度は牛乳を弱火で暖めてっと…」


洗った鍋に牛乳を注いで、コンロの上に置いておく。

その間にボウルを取り出し、卵をいくつか割って入れ、カラザを取り、砂糖を入れる。


「これ混ぜといてもらえますか?」


「あ、うん。わかっただよ~」


ボウルをシフォンさんに渡して、かき混ぜを頼む。

鍋を覗き込むと、少し泡立ちそうだったので火を弱める。


「混ぜ終わりました~」


「あ、じゃあこっちに持って来てください~」


ボウルを受け取り、暖めた牛乳が入った鍋に少しずつ注ぎながら混ぜる。

そして懐からここに来る前に買ったフラワーシロップを少し入れる。

甘い芳香が鼻腔を擽る。


「あ、いい匂い…」


「さて、カラメルソースのほうは固まったかなっと…」


カップを持ち上げ、軽く揺すってみると、どうやら固まったらしい。


「ん、大丈夫そう。あとは注ぐだけっと」


鍋を傾け、中身をカップに次々に注いでいく。


「これでよしっと…あとは…」


オーブンを使おうかと思ったが、ここは手軽に蒸し器を使う事にした。

カップが全部入りきらなそうだったので2つ用意する。

そして、弱火で着火と。


「あとは少し待つだけで完成です」


「ふえ~…結構簡単なんですね~…ってところで」


「はい?」


「これ、なんていう食べ物なんですか?」


「そういえば、名前言ってなかったですね。プリンっていう名前なんですけど」


「プリン、ですか~」


不思議そうに言いながらシフォンさんが蒸し器を眺める。


「あとは僕だけで十分ですから、シフォンさんは他の仕事してていいですよ?」


あとは固まるのを待って冷蔵庫で冷やすだけなので手間はかからない。

ならば、シフォンさんには別の仕事をしててもらった方がいいだろう。

教会の仕事もあるだろうし。


「…あの小さいお人形さんとも遊んでいいですか?」


「…ご自由にどうぞ」


「行ってきますだよ~」


スキップでもしそうな勢いでシフォンさんが台所を出て行く。

その後姿を見送りながら、精霊に謝る。


「…悪い、精霊。大変かもしれないけど頑張れ」


まぁ、死ぬ事はないだろうけど…。

と、思いながら近くのイスに座り、息を吐く。

実は久々に腕を振るえたので結構満足してたりする。


しばらくして蓋を取り、カップをチェック…うん。固まったな。

あとは冷蔵庫に入れてって、すぐに入れるのは流石にまずいか?…あーでもこれ、魔法で動いて冷やしてるんだっけ?…まぁ入れちゃうか。


「よしっと。あとは待つだけだな」


冷蔵庫の扉を閉め、ふうっと一息吐いて、イスに座ってテーブルに突っ伏す。

うーん、おかしいなぁ。そこまで疲れることしてないはず…あぁ、そっか…そういえば、精霊陣使った時に結構な量の魔力消費してたっけ?


「だからかぁ…ああ、やばい。ホントねむ…」


うう、ダメだ。目蓋が重い…ちょっとだけ…寝るかぁ…。

そのまま突っ伏して意識を飛ばす事にした。






「だ…で………そ………と………」


「…って…こうの……ん…じゃ……」


「でも、…………のは…っ…ま……んじゃ…」


…なんか、聞こえる…うう、でもまだ眠い…。

もうちょい…寝るぅ…。


「Zzzz......」


「起きんかっ!このっ!ド馬鹿っ!」


「ぐぇっ!?」


頭に激痛が走り、眠気が一気に吹き飛ぶ。

慌てて起きて周りを見渡すと、見知った顔が並んでいた。


「あ、あれ?ユリア?それにロナとアイズも?どうして教会ここに?」


「アタシ達は依頼で来たのよ。そしたら、外に居た教会の人があんたが来てるって聞いて台所ここまで来たの。で?あんたはなんでここにいるの?」


「僕は精霊陣を使いに…って、さっき殴ったのお前だろロナっ!」


「いえ?蹴っただけだけど…」


「さらっと予想以上のことしてた!?」


「…ところでユキ、アタシまだ今朝寝坊したこと許してないんだけど…」


目元が暗くなり、指の関節をパキパキ鳴らし始めるロナを見て、これはまずいと確信する。

なので、さっさと話題を変えることにした。


「ま、まぁ、落ち着けロナ!話せばわかる!…たぶん」


「覚悟は出来たみたいね…」


ロナが腕を振りかぶる。

それを見て、流石にもうダメだと諦め、素直に食らうことにした。


次の瞬間、ドゴォッという音と共に頭にきつい痛みが走る。


うん、いてぇ。

普通に痛い。頭の頂点が痛い。


「で、ユキト君。君は台所ここで何をしてたんだい?」


台所を見渡していたアイズが僕を見て声をかけてくる。


「いつつつつ…ああ、ちょっとお菓子を…」


「お菓子?」


殴られたところを擦りながら言うと、ユリアが首を傾げる。

ああ、そっかお菓子っていう言葉自体が普及してないのか。


「ああ、デザートのほうが伝わりやすいか」


「デザートって…ユキトさん果物作れるんですか?」


「あーそっか。概念から違うのか…まずはその固定概念破壊しとくかー」


よいしょっと言って、イスから立ち上がり、冷蔵庫を開けてカップに軽く触れてみる…うん。十分冷たくなってるな。


「3人とも、外で遊んでる子供達連れてきて。美味しい物食べさせてやるからさ」


そう言ってキョトンとした顔をした友達3人に笑いかけた。






ロナ達が子供達とシフォンさんと精霊を連れて食堂に戻ってきた。

で、ロナ達とシフォンさんは不思議そうに目の前のカップを見つめている。

子供達はというと、殆どが興味深げにカップを眺めている。


「これが…お菓子?」


「そ、お菓子の中のプリンってやつだな」


テーブルの上にカップを並べながら答え、自分も席に着く。


「…食べ物…なんですよね?」


「…まぁ、皆最初はそんなもんだよな」


ユリアが微妙な表情でこちらを見ながら聞いてくる。

…うん。なんていうかそういう顔で見られると困るんだが、僕も。

そこまで不安がられるようなものは作っていないのだが…まぁ、仕方ないと無理やり納得させる。


「とりあえず、食べ方は普通にスプーンで掬って食べるだけなんだけど…」


説明をしながら周りを見渡す…誰も手をつけない。

もちろん精霊も。うん、仕方ないよね。


「じゃあ、まずは毒見ってことで僕が一口っと」


普通に一さじ掬って口に入れる…ってうわぁ。なにこれ結構美味しい。

こっちの卵とか牛乳とか元の世界の物より質がいいのか、いつも作ってたものよりかなり美味しい。

その感情が表に出てたのか、イスに座っていた小さな男の子の一人が僕の顔を見て、目の前に置かれたカップを覗き込み、恐る恐る一口食べる。


「…あまくておいしい」


ぽつりと口にして、幸せそうに微笑む。

すると、それを見ていた他の子供達も同じように恐る恐るスプーンを動かし、食べ始めた。


「おお~…」


「わぁ…」


「これは…うん。凄いな…」


精霊とロナとアイズが驚きの声をあげ、もう一口と口に運んでいき、


「甘くて美味しいです~」


「初めて食べる味ですけど、美味しいねぇ~」


ユリアが嬉しそうにスプーンを口に運び、シフォンさんがのほほんと微笑む。


(よ、よかった~)


実はちょっとだけ、不安だったんだよね。

初めて食べる味だろうから拒絶されるかと思っていたのだが…どうやら杞憂だったらしい。


皆が美味しそうにプリンを口に運んでいく。

ああ、なんか懐かしいなぁ…。


ぼんやりと思い出すのは家族やクラスメイトに色々配ったときのこと。

皆の嬉しそうな顔と今目の前にいる子供達とユリア達の顔が少しだけだぶる。

でも、今はどんなに頑張っても会えない人達。


それが少しだけ、ちょっとだけ、寂しかった。


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