挿入話:友達
とりあえず、まず謝罪を…先週は色々事情があって投稿できなくて待っていた方には本当に長らくお待たせしてしまって申し訳ありませんでした>< それから一つお知らせを、まだ修正途中ですが、作中に登場するキャラの一人称が被りすぎてわかりにくいのでは?と言う指摘を友人から受け、思い切って全部修正することにしました。なので来週は今まで投稿した本文を修正することにします。次話は出来る限り投稿するようにしますので、何卒よろしくお願いします。
どうしてこうなったんだろう?
この状況にオロオロしながら、わたし、ユリア・ホワイト・ウィンベルはそんな事を思う。
目の前には最近…と言うか昨日知り合ったばかりの少女がいる。
彼女の名前はロナ・ポナルルと言って、わたしの国ウィンベル帝国から南に行ったところにあるエルクワールの学生さんらしい。
身長はわたしより高くて…と言ってもわたしが同世代の方に比べて極端に低いせいなんだろうけど、そこは気にしない。
オレンジ色の髪を頭の横で二つに結んであり、顔立ちは同姓のわたしから見ても凄く可愛いと思う。
だけどその彼女は今。
ものすごく怒っている。うん、もう、この場が宿屋さんのロビーだっていうのを忘れてしまうぐらいに。
「ほう?じゃあアンタはちゃんと起こそうと努力はしたわけね?」
「…はい」
「嘘偽りないわね?」
「…はい」
ロナちゃんの目の前では同じく昨日知り合ったばかりのアイズ・ルートラさんが正座して尋問を受けてる。
と言うか、何故正座?と疑問に思うのは、どうやらわたしだけじゃないらしく、周りに居る宿泊客の皆さんもらしい。
皆唖然とした…というより首を傾げている。
そして、なんだか既視感を感じるなぁ…と思う。
さっきも同じようにユキトさんが正座させられてたし。
っとそんなこと気にしてる場合じゃなかったですね。そろそろロナちゃんを止めないと。
「ロ、ロナちゃん。そろそろ周りを気にしたほうが…」
「まだ大丈夫よ」
「いえ!既に周りの方々が物凄く居づらそうにしてますが!?受付の方も困った顔なさってますし!」
相変わらずのロナちゃんの態度に涙目になりながら必死に説得する。
ロナちゃんがアイズさんから視線を外して周りのお客さんを見回した後、受付の人を見やる。
周りのお客さんは目を逸らし、受付の人は見られた瞬間にビクリと体を震わせ、思わず苦笑。
決定的な証拠だった。
「はぁ…わかったわよ。もう」
しぶしぶといった様子でロナちゃんが肩を落とす。
どうやらようやく怒気を収めてくれたようです。
「まったく。ユリアは優しいわねぇ」
「え?いえ、普通の反応だと思うのですが…」
「ボクもそう思う」
「全然違うわよ。ちゃんとあそこのお客さんのことまで考えて止めてくれたんでしょ?」
「あう…ばれてましたか…」
だってあっちで赤ちゃんを抱いてるお母さんがこちらに来辛そうにしてましたし、仕方ないじゃないですか~。
…と言うか、ロナちゃん。気づいてたんならやめましょうよ。こんな事…。
そう思ってから、件の赤ちゃんを抱いているお母さんのところまで行って、挨拶。
「すいませんお騒がせして…」
「いえいえ、仲が良いのね。あの二人」
「そうみたいです」
先程とは違ってどこか楽しそうに喋っているロナちゃんとアイズさんを見ながらお母さんが微笑む。
朗らかなお母さんだなぁと思いつつ、わたしが意外と皇女として気づかれていないことに微かに安堵する。
…ってこれ。意外と問題なんじゃ…王族として国民に認知されていないって結構問題なんじゃ…ま、まぁ、今は気にしないでおきましょう。うん。
気を取り直して抱かれている赤ちゃんを覗き込む。
うわぁ、やっぱり赤ちゃんはいつ見ても可愛いなぁ。わたしも欲しいなぁ。
いつかわたしも結婚できるかなぁ~?
まぁ、その為にはユキトさんに勝って貰わないとだめなんだけど…。
(でも…勝てるのかな?ユキトさん…)
森で見た戦い方と、クールの攻撃を避けたことから可能性としては高いんだけど…心配だ。
もちろん現状からは助けて欲しい。
でも、それ以上に彼には怪我とかして欲しくない。
(…あ、あれ?)
確かに助けては欲しい。でもそれ以上に怪我をして欲しくない?…友達だから?
はて、何か引っかかる。
何が引っかかっているんだろう?と真剣に考えながら赤ちゃんを指であやしているとロナちゃんとアイズさんがこちらに来た。
そして、わたしと同じようにロナちゃんが赤ちゃんを覗き込む。
「わ~可愛い!」
「そうだねぇ、ボク達もいつか欲しいものだ」
「何、ナチュラルに、恥ずかしい事を、口走ってんのよ!」
ロナちゃんがアイズさんの懐に潜り込んで、右手を一閃。
あの…皆さん。今、お聞きになりましたか?
なんか、アイズさんの体からグシャッとかいうイヤな音が聞こえたんですが…。
ってアイズさんがゆっくりと膝をついて蹲ってる…だ、大丈夫かな?
「あ、あの…アイズさん?大丈夫ですか?」
「…な、なんとか…な」
物凄く苦しそうな顔でこちらを見るアイズさん。
本当に大丈夫か怪しいんですが…まぁ、本人が言うなら大丈夫なんでしょう…たぶん。
「いいわねぇ…青春みたいで」
この一連の行動を見ても殆ど動じない、このお母さんはすごいなぁと思う。
…ってわたしのお母様も似たようなものかと思い直しつつ、話を進めることにする。
「えと、気を取り直して…これからどうします?」
「そうねぇ、ユキは後でお仕置きするとして…アタシ達もどっか行く?」
「…あの、その前に治療して頂けると嬉しいのですがロナさん」
「え~…もうちょっと反省して貰わないと…」
ぐったりとした表情のアイズさんを見て流石にわたしも治療してあげたほうがいいんじゃないかと思う。
「ロナちゃん。流石に可哀想だよ。治療してあげようよ、ね?」
「う~ん。仕方ないなぁ…ほら、アイズじっとしてて…」
そう言って、転送魔法で杖を取り出し、アイズさんの腹部に手を翳すロナちゃん。
うんうん。なんだかんだ言いながらちゃんと治療してあげる辺り、やっぱり優しいなぁ。
…そうだよね、友達なんだから心配するのは当たり前だよね?
だからわたしがユキトさんを心配するのも友達だからで別に変じゃない…はず。
って、なんでこんな風に心の中で言い訳しているのかが、自分でもよくわからない。
「…っと。よし、これでOKね」
「…ありがとう。ようやく痛みが消えてほっとしたよ…」
「ま、今のは自業自得だけどね」
やれやれといった感じで両手を広げ、杖を戻すロナちゃん。
それを見ながら隣にいたお母さんとわたしが小声で呟く。
「あらあら、照れ隠しみたいね」
「ですね~」
「そこっ!間違ったことを口にしないっ!」
耳ざとく聞きつけたロナちゃんが目を吊り上げてこっちを睨む。
それをくすくすと笑いながら見つめて、一頻り笑った後赤ちゃんを抱いたお母さんは、
「そろそろ用事の時間だから、またね」
と言って、宿の出口に向かった。
それを見送りながら、わたしは改めて聞くことにする。
「それで、これからどうします?」
「…暇なんだし、街の中をぶらぶらするのもいいけど…何か目的が欲しいところね」
「そうだねぇ…流石に当てもなく歩くのは昨日ので十分だし…」
立ち上がったアイズさんが苦笑いしながら言い、わたしも同意するようにうんうんと頷く。
「それじゃあ、暇つぶしに依頼でも受けてみよっか?」
「依頼ですかぁ…」
これでも一応皇女という立場だったので依頼することは多々あったが、受けたことはあまりない。
だからこそ、やってみたいという気持ちはあるのですが…。
「でも大丈夫ですかね?」
昨日のこともあるので、しばらくは身辺を注意したほうがいいと忠告してくれたのが、ユキトさんだ。
お父様もその意見には賛成らしく、一応わたしの周りに身辺警護の人を配置してくれているらしい。
陰ながら警護しているせいか見たことないんですが…。
「流石に昨日の今日で仕掛けてくるとは思えないし、大丈夫よ」
「そうそう、それに危なくない依頼を受ければいいんだし、問題ないと思うよ」
「それならいいんですけど…それじゃあ、早速行きましょうか?」
そう言ってから、わたしは先立って歩き始める。
すると、背中からロナちゃんが問いかける。
「そうね…ってユリア、掲示板の場所わかるの?」
歩き始めたわたしの足がピタリと止まり、苦笑いしながら振り返って、一言。
「…すいません」
「…まぁ、最初から期待はしてなかったから別にいいわよ」
ロナちゃんが溜息を吐いて首を振る…うう、ごめんなさい。
だって、以前依頼を受けたのは1年以上前のことだし、街の中は馬車で移動したりしてホントに歩かないんだもん。
この前お城から飛び出したときも、荷馬車の中に隠れてたから街中は殆ど見なかったし。
…って今更な話ですけどいくら荷馬車の中でローブに包まってたからとはいえ、あんな簡単に出国できちゃってよかったんでしょうか?
「って今度はどしたの?難しい顔して…」
「いえ、わたしの国って割と危ない状況なんじゃないかなぁと再認識してたところです」
帰ったらお父様に進言したほうがいいのかもしれない。
そんな事を考えていると、アイズさんがわたしを追い越して振り返る。
「ボクが知っているから問題ない、案内しよう」
「…あれ?アイズ知ってるの?」
「前にエルクワールで依頼を受けたときにここで報告に行ったからね。覚えてるよ」
そう答えてから、宿のドアを開け、こちらを見る。
「今すぐ行くかい?結構近いはずだけど…」
「…あ、わたしは今すぐ行きたいです」
素直に挙手しながら答える。
実は結構無理を言ってお城から出ていて、本来なら今日はダンスの練習をしているはずの日なのだ。
しかも、昨日のこともあるので今後余計にお城を出にくくなるのだ。
だからまぁ、今日はたくさん遊んでおきたい。
「ま、じっとしてるのもアホらしいし。行きましょうかユリア」
ロナちゃんがそう答えてアイズさんの後を追う。
躊躇なくわたしの手を握って。
「…くすくす」
「…どうしたのよ、今度は笑い始めて…」
アイズさんが先を歩くのを追いながら、ロナちゃんが首を傾げる。
「いえ、なんでもないですよ~?」
家族以外の人に何の躊躇もなく手を握られたのは初めてなんです。
なんて口にしてしまったら泣いちゃいそうだったので、わたしはくすくす笑うことでごまかす。
そう、本当に初めて…。
他国の結婚式に出るときやお城で何か催しがあると、大抵l皇女は格式ばったドレスを着るのが通例だ。
そして、そういったドレスを着るとなると一人では流石に難しい。
だから大抵メイドさんにお手伝いしてもらうのだが、それでも手に触れるという行為には一瞬躊躇される。
それは王族という立場上仕方のないことだし、別に今はそれが嫌というわけではない。
だが、同じ人間で、わたしより年上の人に、手を握ることさえ、躊躇される。
それが幼い頃のわたしは悲しかった。
まだ何も知らなかった頃のわたしは何故とお母様に尋ねたこともある。
その時お母様は寂しそうな顔をしながら、わたしを抱きしめてこう言ってくれた。
「貴方もそのうちわかるようになるわ」
その言葉通り、数年経った頃には理解できるようにはなった。だが、理由がわかったとしても悲しさが消えるわけじゃない。
一生、皇女という扱いが変わることはないのだから。
事実を受け止めるのは嫌だったが、いつしか諦めてしまっていた。
でも、今は違う。
同じ立場で、同じ目線で、対等な位置で接してくれる友達が出来た。
そのことが凄く嬉しく思った。
「人…少ないですね」
掲示板の前まで来たのはいいのだが、人が疎らだ。
あんまり来た事はないのですが…以前はもっと活気があったような気がするのですが。
「良い依頼がないんじゃない?あとはまぁ…偶然?」
ロナちゃんがあははと笑いながら掲示板の前まで歩き、くるりと振り返りながら言う。
「さてさて、簡単なのはあるかなぁ…っと、そういえば二人とも何か希望とかある?」
「ボクは特にないな」
「わたしも特にないですね~」
「ま、それ以前に戦闘系の依頼受けるわけじゃないんだし、希望も何もあったもんじゃないけどね」
そう言いながらロナちゃんが掲示板に向き合い、上から順に読み上げていく。
「草むしり、お使い、本の整理作業…あ、新作料理の味見とかいいわね~」
「…わたし、最後のは嫌な予感がするのでやめたほうがいいと思います」
「ボクも同感だ。新作と言うからには奇抜な味付けがあるかもしれない」
「そんな、たかが料理の味ぐらいで大げさな…」
と、ロナちゃんが笑うがアイズさんは首を左右に振り、一言。
「…以前聞いた話によれば、新作の味見をした人が倒れたことがあるそうだ」
「…さって他の依頼はっと…」
何事もなかったかのように他の依頼を探し始めるロナちゃん…うん。流石にわたしも味見で倒れたくはないなぁ。
「宿の受付、手紙の配達、レッドウルフの討伐…ってこれは戦闘系だから却下…って、あ」
ロナちゃんが手に取っていた一番下にあった依頼内容が書かれた紙を取ってしまった。
「あちゃ~。貼りなおさないと…ってあら?」
「どうかしたのかい?」
「これなんてどう?子供の遊び相手だって」
そう言いながら取ってしまった紙をこちらに持ってきて広げる。
依頼内容は名前の通り、子供達の遊び相手募集。
場所は教会。募集人数は3~4人。報酬は銅貨20枚。備考欄に子供好きな方お願いします。と書かれていた。
「のんびりした依頼で良いかもしれませんね」
自然と顔が笑んでしまう。
これでも子供の相手は結構好きなのだ。
「アイズは?」
「いいよ。特に異存はない」
「じゃ、これにしよっか。すいませ~ん。この依頼受けたいんですけど~」
そう言いながら、笑顔で受付まで歩いていくロナちゃん。
それを見送りながら、少し気になった事があったので聞いてみる。
「アイズさん。ちょっといいです?」
「うん?なんだい?」
「ロナちゃんっていつもあんな感じです?」
「ああ、いつもあんな感じだよ」
「…そこに惚れましたね?」
「ノーコメントと言っておこう」
「くすくすくす、そうですか」
お互い顔を見合わせて笑いあう。
たぶん、あの笑顔に惹かれたんだろうなぁと思いながらロナちゃんを眺める。
依頼を受理されて嬉しそうにこちらに歩いてきている。
その顔は見てるとこっちまで嬉しくなるような、どこか安心する笑顔だ。
だからこそ大事にしたい。
こんな素敵な出会いに感謝をしたいと、心からそう思った。
追記:来週の投稿は深夜12時を予定しております。ご容赦くださいませ。