表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異通者奮闘記  作者: ラク
二章:帝都ウィンベル
24/46

精霊陣

大変お待たせしました24話目です。実はもう少し長くなる予定だったのですが、予想以上に文章量が多くなりそうだったのでここで切りました。なので最後が少し強引というか変なところで切れていると感じるかもしれません。どうかご了承くださいませ~><


とりあえず鼻血の治療もしたいので、教会内に入らせてもらう。

扉を開けると中は礼拝堂のようで、長イスがきちんと並んでおり、部屋の中央奥には天使の様な像が見える。

その背後には日差しが差し込み鮮やかな色が映る綺麗なステンドグラスが見える。


ひとまず手近な長イスに座り、シスターのシフォンさんが持ってきた濡れたタオルを鼻に当てる。

ティッシュがあればなぁ…とちょっと思うが、流石にこの世界にないだろうと苦笑する。

そんな事を考えていると、シフォンさんが心配そうに顔を覗き込みながら尋ねてきた。


「血…止まりました?」


「まだちょっと出てるかなぁ…あ、止まった」


タオルを取ってみると血は止まっていた。

それを見てほっと息を吐くシフォンさん…やっぱり気にするよなぁ普通は。凄い音と勢いで吹っ飛んだし、僕。

あれは…凄かったなぁ。と僕が思い出していると気を取り直したかのようにシフォンさんが問いかけてきた。


「それで、今日はどのようなご用件でいらしたんですか~?」


「あ、そうだった。教会ここって精霊の適正を調べるための精霊陣ってありますよね?」


「えぇ、教会の奥にありますが…適正検査を希望の方ですか?」


「はい」


「わかりました~それじゃあ準備してきますので、しばらくお待ちして貰ってもいいですか~?」


「…お手伝いしましょうか?」


正直、この人だけに任せるのがめちゃくちゃ心配なので進んで手伝いを申し出る。

だが、向こうはそんな事予想してなかったのか、両手を突き出して慌てはじめた。


「だ、大丈夫だよ?何度かやったことありますし…それにそこまでしてもらう訳には…」


「そ、そうですか、えと…じゃあ、外で待ってますね」


そう言って、タオルを返し、扉を開けて外に出る。

本音を言えば、中でシフォンさんの手伝いをしたほうが気が楽なんだが…まぁ、ここは彼女を信じるとしよう。

少しだけ敷地内を移動し、子供達が楽しそうに遊んでいるのを眺めながら教会の壁に背を預ける。

だが、


バン。


パリーン。


ガチャーン。


ドガシャーン。


『…おねーちゃんだいじょうぶー?』


『いま鐘おちたよー?』


…うん。信じたのはやっぱり失敗だったようだ。

予想通りの派手な音と手伝っていたのだろう子供達の心配そうな声が聞こえてきて、苦笑しながら再び教会の扉に手をかける僕だった。







「本当に、本当にすいませんだよ~」


「…いえ、大した事ないですよ。これぐらいなら…」


涙目になりながら頭を下げ続けるシフォンさんを苦笑しながら見つめる。

そして、僕の前髪からポタリポタリと水滴が落ちる。

どうやら、精霊陣がある部屋に聖水を持っていこうとしていて、その途中でぶちまけたらしい…僕に。

まぁ怒ったりはしない、妹も結構こういう失敗していて、その被害を受けるのが大抵僕だったので慣れているのだ…全然嬉しくないが。


「だいじょーぶー?おにーちゃん?」


「うん、大丈夫大丈夫。ありがとねタオル」


タオルを受け取り、頭を拭きながら少女に向かって微笑むと、えへーっとにっこり笑う少女。

うん、微笑ましいなぁ…癒されるなぁ…。

よくよく考えると、ここ最近喧嘩みたいなことばっかり巻き込まれるから、こういうのが地味に癒される。

と、ほや~っと僕が癒されているとシフォンさんが声をかけてくる。


「子供、お好きなんですか~?」


「えぇ、近所の子供の面倒みてたことがありましたから」


「そうなんですか~…っと、じゃあ準備が整いましたので、そろそろよろしいですか~?」


「あ、はい。今行きます」


シフォンさんが先立って歩き始めたのでその後に着いていく。

もちろん子供達に一度手を振ってから。


「…そういえば、検査って結構時間かかるんですか?」


廊下を歩きながら前を歩くシフォンさんに尋ねる。

時間の事はロナ達にも聞いたことがなかったからだ。

まぁ、時間がかかったとしてもやる事がないので結局やることに変わりはないのだが、あんまり長いとやる気が失せそうだ。


「そうですね~…人によって違いますけど大抵の人は10分ぐらいですかね~長い人だと30分ぐらいですよ~」


「結構早いんですね」


「えぇ、実際はちょっとお話するだけですからね~」


「お話…精霊とですか?」


やっぱり絵本とかで見た様な小さくて幻想的な存在なんだろうか?と僕は考えるが見当もつかない。

もし、絵本等に出てくるようなモノだったら雪菜が喜びそうだが…。


「そうですよ~手順を説明しますと、まず部屋の中央にある杯に聖水を流します。それが溝を伝って部屋全体に行き渡ったら聖水に自身の魔力を流し込むことで精霊陣が発動します。そうすると徐々に部屋の空気が異界へと変わっていくのと同時に精霊が徐々に見えるようになります。会話はそこからですね~」


「ふむふむ…なるほど」


空気が異界へと変わっていくっていうのがちょっと気になるが、別段問題は無さそうだ。


「で、説得もしくは交渉することで契約し力を借りれるようになるそうです」


「交渉…」


精霊相手に交渉ってできるんだろうか?まぁ、どうやら先駆者がいるらしいし、出来るんだろうけどさ。


「あ、着きましたよ~」


ギィィという音と共にシフォンさんが扉が押し開く。

ゲームとかでよく見るどこか古い遺跡を連想させるような薄暗い部屋で中央に杯があり、床や壁には溝が刻まれ、溝は魔方陣を描いているようだ。

もちろん部屋の中は真っ暗でよく見えないのだが、壁が僅かに光っていて転ぶほどではない明るさだ。


「では、聖水をお渡ししますね~頑張ってください♪」


「お話するだけなのでしょう?じゃあ頑張る必要はない気が…」


苦笑しながらシフォンさんに答え、聖水の入った瓶を受け取り、部屋の中に入る。


「私は外でお待ちしてますので~」


「わかりました。ではまたあとで…」


そう答えてから扉を閉め、中央の杯まで歩み寄る。

瓶の蓋のコルクを外し、杯に注いでいくと小さな杯は水を収めきれずに溢れ出し、床の溝に沿って水が張られていく。


その光景を見ながら足元に空になった瓶を置き、深呼吸。

…実は結構緊張していたりする。

相手が人なら緊張することは殆どないのだが、これから会うのは人ではない一種の別の存在だ。

それが怖いわけではないと僕も思うのだが、変な汗が手のひらに浮かぶのは事実だ。

軽く服で擦ってから、もう一度深呼吸して、心を落ち着けてから、杯の中の聖水に右手を浸らせ…魔力を流す。


ぶわぁっと杯に溜まっていた聖水が水色に淡く輝く。

その光は溝に注がれた水に沿って床を伝い、壁を伝い、最後には部屋に刻まれた全ての溝が光りだす。

それと同時に、だんだんと空気がぼやける。

霧でないことは確かなのだが、視界がピントがずれたかのようにぼやけるのだ。


「これが、異界へと変わっていくってことなのかな?」


思わず呟いた声が空気に溶けるかのように消え、ぼやけた風景はどこか幻想的で綺麗に見える。


「さて、と…そろそろお出ましかな?」


徐々に光が凝縮していくのが視界の端に見える。

光る色は白で、凝縮が終わったのか、ふわりと空中に浮くと僕の目の前まで飛んできた。

輪郭がしっかりしているわけではなく、光る玉が浮いているといった感じだ。

これが精霊なのかな?と思いながら恐る恐る話しかけてみる。


「えっと君が精霊…なのかな?」


「そうです~お招き頂き、ありがとうです~」


どこか間延びした声が光る玉から聞こえ、ふわりと僕の周りをゆっくりと回りながら声を発する。


「…それで、わたしはどうしたらいいのです~?」


「どうしたらいい…って」


そりゃあ、契約して力を貸して欲しい…でいいのだろうか?

本には契約するとしか書かれてなかったし…なんか対応に困るな~と思い、苦笑しながらも実際に言ってみることにする。


「僕と契約して力を貸して欲しい」


「…えっと、具体的にどうやってです?」


「…………」


「…………」


詰んだかもしれない。

そう考えてしまってから脂汗がたらりと落ちるのを額に感じ、思わず叫ぶ。


「ちょっと、待てい!一応精霊なんだよな?なんでわからないんだよ!」


「そ、そんなこと言われても~わたし、呼び出されたの初めてです~」


「…え、ちょ、待った。呼び出されたのが初めてって…どういうこと?」


「たぶん、わたしは生まれて間もない精霊なんです~」


「…属性は?」


「先ほども申したように、生まれたばかりなので…わからないんです~」


申し訳無さそうに光が言葉を発して、どうしよう?とつい思ってしまう。

こんな状況は本に書かれていなかった。

まず書いてあったのは、精霊陣を使うことによって、火・水・風・土・光・闇の6種類の精霊を周囲に呼び出される。

そして、自分の適性によっては見えたり、見えなかったりするので、見える精霊と契約を結ぶ。

つまり、見えない精霊は必然的に契約が不可能とされており、その場合は諦めるしかない。


だが、この場合はどうなるんだろう?

精霊はこの世界の至る所にたくさん居るが、契約時…つまり、精霊陣を使用して呼んだ場合は、近辺にいる6種類の精霊が一度は呼ばれ、呼んだ人間の適性によって見えたり、見えなかったりする。

だとすれば、この子がわからなくても6種類の何れかの精霊なのだろう。


「はぁ、どうするかなぁ…シフォンさんに聞いてみてもいいけど、確か精霊陣を使っている間は他の魔法って…」


ただでさえ、今も右手は杯に溜まっている聖水に浸らせており、結構な量の魔力を流している。

その上さらに他の魔法…魔力消費が極端に少ない念話でも、使用するのは魔法の暴発が起こりそうでなんだか怖い。


となると、扉越しに聞くしかないわけなのだが…。


「…普通届かないよなぁ…」


試しに扉に視線を向けるが、重くて厚そうな扉を目にしてすぐに諦める。


(いつまでもこうしてられないし、今回は諦めるか?)


そこまで考えたときに、くるくると僕の周りを周っていた光が僕の目の前に停止する。


「あの、契約方法が書かれている本とかはないんです?」


「持ってはいたんだけど、今は荷物の中なんだよなぁ…」


そう、宿の鞄の中だ。

持ってきておけばよかったのだが、荷物を取りに戻る勇気もなかったし…。


「…どんな本です?」


「ん~言葉にしづらいなぁ…」


あえて言うならば5~600ページの本で背表紙が深緑、角に白い蔦の模様が入っているぐらいか?


「じゃあ、手を出して、本をイメージしてくださいです」


「…こうか?」


言われたとおり、左手を突き出し、目を閉じて本をイメージする。


「…何も起きないんだが?」


「あの~魔力ぐらい流して欲しいんですが…」


「聖水に結構魔力流してるからちょっと難しいんだけど…」


「ほんの少しでいいんです!」


「…あいよ」


言われながらしぶしぶ魔力を軽く流すと、ブゥンッという音と共に左手が急に重くなった。

それと同時に右手から流していた魔力がぶわっと広がる感覚と共にだんだん背筋が寒くなってくる。


「…うあっつ」


気を抜けばすぐさま暴走しそうな魔力をギリギリ制御しながら、左手のイメージに魔力を通す。

次の瞬間。トンッという音と共に左手の上に見覚えのある本が落ちてきた。

学校の図書室で借りた本の1つで、タイトルは『精霊のことがよくわかる本』だ。


「おっと。ってこれ…転送魔法…じゃないよな?」


「そう、ですね。似てますけどちょっと違います」


「そっか…まぁ、とりあえずっと…」


気になると言えば気になるのだが、今はそんなことより契約方法だ。

左手で器用に本を開き、一枚一枚ページを捲っていく。


「…あった。んっと、お互いの魔力をひも状にして結合させる…か。なんだ意外と簡単…じゃないなこれ」


さっき左手に魔力を軽く流しただけであの有様だ。

この状況で魔力を紐状にして結合させるのは結構厳しい。


「ああ、だから難しいって言われてるのかな。精霊魔法って」


「そうかもしれませんです。で、お兄さんどうします?」


「………やる」


暴走する危険性はあるが、なんとかしてみせる。

と言うか、ここまでしておいて出来なかったら結構凹むので気合で乗り切ることにした。

…魔法って理論的なもんだと思ってたけど意外と根性とか気合とか精神的な面も必要なんだなぁと馬鹿なことを考える。


「わかりました。では失礼してっと…」


光の玉がそう答えると、するりと光っている糸が伸びてきた。

僕も伸ばさないと。と思い一度だけ深呼吸して…意を決して伸ばす。


「うわ…これ結構きつっ!」


魔力を糸や紐状にして伸ばすのは普通は明確なイメージが必要なのだが、これは厳しいと思う。

先ほども言ったように右手に魔力を流している状態なので、意識を持っていかれるというか、視界がぐにゃりと歪むというか…はっきり言って気持ちが悪い。

だが、光の紐が繋がった瞬間。気持ち悪かった感覚が軽くなる。

成功したのか?と思いつつ、聖水に魔力を流している必要はもうないので、すぐさま右手を杯から引き抜く。

それと同時に光っていた部屋が元の風景に早変わりした。

ついでに持っていた本が霧散する。


「あー…気持ち悪かった…うえぇ」


すぐに良くなったとはいえ、嘔吐感のようなものは完全に消えずに少し残ったみたいで、思わず前かがみになってしまう。


「大丈夫ですか~?」


「うん、だいじょぶ、だいじょぶ…すぐに良くなると…」


と、そこまで口にしてからあれっ?と思い、視線を上げる。うん?まだ精霊が見える?


「…精霊って陣なしで視認できたっけ?」


もちろん、もう魔力は流していない。

ならばもう精霊陣は機能していないはずなのだが…そう思いながら辺りを見渡す。

すでに聖水から零れ落ちていた光は消えていて、薄暗い室内が見渡せる。


怪訝に思いながら持っていた本を暗い部屋の中で捲ってみる、が…やはりそんな記述はどこにもない。

契約したからと言って常に見えるわけでもないのはロナやユリアを見ればわかる。


「…じゃあなんで見えるんだよ僕…」


もしかして異通者だからか?と思ったが、この精霊が特別なのかもしれないと思い、ひとまず外に出ることにした。


え~っと、ここで少し読んでくださっている方に質問をしたいと思います。活動報告をたまに書いているのですが、読んでくださっている方いらっしゃいますか?いらっしゃらないようでしたら報告をやめておこうかと考えています。コメントや感想等で返事をしていただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ