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異通者奮闘記  作者: ラク
二章:帝都ウィンベル
23/46

教会

すいません。結局木曜日は時間がなくて定時投稿となりました。それからPVが8万超えていてびっくりしました。これからも頑張りますのでよろしくお願いします。


疲れた足で宿まで歩き、そのままベッドに飛び込むとすぐに意識は落ちた。

眠い目を擦りながら起きて腕時計を見てみると、既に昼だった。


「…よ、ようやく起きたか。ユキト君…」


隣のベッドに目を向けてみると、アイズがぐったりした様子で僕を見ていた。

妙に疲れているように見える…はて?昨日はもっとピンピンしてた気がするんだが。


「どしたのアイズ?なんか妙に疲れてるように見えるんだけど…」


「…君を何度も起こそうとしたんだけど、なかなか起きなくて疲れただけだよ」


「あー…悪い、アイズ。言い忘れてたけど、僕って寝起き悪くてさ~」


妹にも両親にも散々言われ続けて治らなかった癖だ。

既にどうしようもないと諦めてる。

ってそんなことは今重要じゃなくて。


「で、起こそうとしたって事は何かあるの?」


「…君。昨日のこと完全に忘れてない?」


「………あ、あ~やっば」


すっかり忘れてたけど、今日は色々と今後の予定を立てるためにこの宿の一階にある食堂に集まることになってたんだった。

もちろんユリアにも昨日の夜のうちに念話で連絡して了解を取ってある。

…連絡しなかったらなんか言われそうなのだ。それはもう色々と。

でも約束した時間って昼前じゃなかったか?と、もう一度腕時計を見る。うん、既に12時過ぎてるね。


「…なぁ、アイズ」


「なんだい?」


「既に遅刻じゃない?僕達」


「そうだね」


「…………」


じゃあ、なんで君はそこまで落ち着いていられるんだろう?と不思議でしょうがないんだが…。


「簡単なことさ、正直に話せばロナもユリアさんもわかってくれるだろう」


「…それはどうだろう?」


アイズの言葉を頭に入れて想像してみる。

ごめん、ロナに殴られて怒られるという想像しかできないんだが。


「ま、とりあえず下行くか。…絶対殴られるだろうけど」


「…まぁ、少しは弁護してあげるから、あまり落ち込まないほうがいいぞユキト君」


そう言って苦笑いをするアイズだったが、僕はあんまり期待しないほうがいいと直感で悟った。






周りの視線が…痛い。

と言うか、うん、皆さんの顔が見るのがはっきり言って辛いです。はい。


「ふうん?それで?こんなに遅くなったわけね?」


「…あい、仰るとおりです」


仁王立ちするロナの前に僕は大人しく正座している。

正座している場所は宿の一階で、もちろん他のお客もいるため視線が痛い。

ちなみに僕の顔は所々腫れている。

理由はお察しの通り、ロナにボコボコに殴られたからだ。

しかも、主に顔を重点的に…だ。


「ロ、ロナちゃん。流石にそれ以上殴ったらユキトさん死んじゃいますよ~」


「そ、そうだよロナ。これ以上はボクも見てられないぞ?」


これ以上見てるのが辛かったらしいユリアとアイズがようやく止めようとしてくれた。

ううう、本当はもっと早く止めて欲しかったです。

だが、ロナは鼻を鳴らすと、とんでもないことを口走った。


「まだ大丈夫よ。アタシは癒しの魔法が使えるんだから、もうちょっと殴っても元に戻るわ」


待 て !


え?何?まだ殴られるの僕!?

と言うか、これだけ殴って怒りを発散してるくせに怒りが収まってない!?

そんな言葉が頭の中をぐるぐると駆け巡る。

そして、もしかしたらまだ殴られるかもしれないと思うと、自然と体がガクガクと震えだす。


「え、えーっとロナちゃん?ホントに?まだ殴るの?ユキトさんガクガク震えてるみたいだけど…」


「殴るわ」


愛想笑い…というか微妙に引き攣った顔でユリアが改めて聞くと、ロナが短く答える。

その反応を見た僕は…もうこれはダメだ、しばらく近づかないほうが身のためだ。と直感する。

なので…。


「これ以上殴られてたまるかっ!」


そう叫び、素早く立ち上がって一気に宿の出入り口に走り、扉を開け、表の路地に躍り出る。


「あ、こら!待ちなさい!この卑怯者!」


なんか後ろから聞こえるが気にも留めずに路地を全力で走り抜ける。

しばらく後ろを振り返らずに走り続け、5分ほど走りまわってからようやく足を止める。

後ろを振り返るが、特に追ってくるような気配はない。撒いたのか?


「…まぁ、逃げても結局あの宿に戻らなきゃならんのだが…」


げんなりしながら走った道を戻ろうと一歩踏み出す。

が、路地を曲がったところでふと思いつく。


(…たまには一人でぶらつくか?)


確かに今後の予定を立てる予定だったが、ロナがあの調子じゃ何も決まらないだろう。

ならば、一人で自由に動いても問題ないはずだ。

悲しいことだが…ユリアとアイズには犠牲になってもらおう。


「…そういえばこっちの世界に着てから一人で街をぶらつくのってはじめてかも」


エルクワールに来たときはロナとアイズに隅々まで案内してもらった。

そのことを思い出すと、どれだけ皆と一緒に過ごしてきたかを実感する。

だが、あんなに怒ったロナのこと思い出すと、全然ロナの事わかってなかったんだなぁとげんなりする。

…今後は気をつけよう。皆のためにも僕のためにも。


「ま、それは置いておいて…とりあえず散歩しよっと」


気分を切り替えて意気揚々と路地を歩き出す僕だった。






なるべく宿の近くには寄らないようにしていると、市場のような場所に出た。

昨日皆で歩いた時のような路地だが、この路地は甘い香りが強い路地だ。


並んでいる露店を覗いてみると、果物やらお花やらがたくさん並んでいる。

美味しそうな赤いリンゴがあったので、店番をしていた若い兄ちゃんに銅貨1枚払って1個だけ買う。


「んぐ…このリンゴ結構美味い」


路地を物色しながら、リンゴを軽く服で擦ってから齧りつくと、じゅるりと果汁が口一杯に広がる。

一気に芯のところまで食べきり、近くにあったゴミ箱に捨てる。


「…そういや、バニラビーンズとか置いてあるのかな?」


プリンでも作ろうかと思っていたのを思い出し、試しに探してみる。

もちろん、これでロナの機嫌を治して貰おうという魂胆も含んでいる。

だが、露店を幾つか周ってもバニラビーンズのような物が見当たらない。


やっぱりないかなぁと半ば諦めていると、似たような香りが鼻についた。

どこからだろう?と思いながら辺りをキョロキョロと見渡すと、どうやら左の小道の間にある花屋からのようだ。

覗き込んでみると、イスに座っていた12歳ぐらいの男の子がこっちを見る。

どうやら彼が店番らしく、くりっとした目が特徴だ。


「お、兄ちゃん探し物?」


「そんなところかな?ちょっと見せて貰っていいかな?」


「おう!彼女へのプレゼントなら包装までちゃんとやってみせるぜ~?」


「彼女はいないし、プレゼントでもないんだがな…あと子供に任せるぐらいなら自分でやる」


「子ども扱いするなー!」


勢いのある喋り方に苦笑しながらも綺麗に活けてある花の一本一本香りを嗅いでみる。

だが、どれも違う匂い。

ここじゃなかったか?と思っていると右端のほうに小瓶が並んでいるのが目に入る。


「…こっちの小瓶は?」


「こっち?って、ああ。蜜の小瓶ね」


「蜜?」


首を傾げながら小瓶を1つ手に取る。

蓋はコルク栓がしてあるが、注ぎ口が付いてて醤油差しを連想させる形状だ。


「知らないの兄ちゃん?花の蜜だよ。花を専用の機械で搾って、ろ過したのがそれ」


なるほど、蜂蜜ハニーシロップじゃなくて花蜜フラワーシロップってところか。

じゃあ料理にも使えるかな?と思い、試しに香りを嗅いで見るとプリンに近い匂い。


「じゃ、これ頂戴」


「あいよっ!銅貨10枚な」


「高っ!ってよくよく考えると相場はこれぐらいなのか?」


「そうそう、そういうこと。はい、商品」


一瞬躊躇したものの、欲しい物は欲しいので諦めて銅貨を手渡し、小瓶を受け取る。

うう、大分懐が寂しくなったなぁ…ぐすん。


「仕方ない…か。あ、そだ。君、教会の場所知ってる?」


「教会?ああ、ここの裏手にあるよ。案内しよっか?」


「いや、商売の邪魔をする趣味はないし、行き方だけ教えてくれればいいよ」


そう答えてから、行き方を身振り手振りで教えて貰う。


「ん、わかった。ありがとな。え~っと…」


「ラムってんだ。覚えててくれよう兄ちゃん?」


「…肉?」


「…何言ってんだ兄ちゃん?」


わけがわからないといった表情でこちらを見る少年に流石に肉の名前?と聞き返すのはまずかったかと苦笑する。

いやだって、ラム肉思い浮かべちゃってさぁ…仕方ないじゃん。


少年に手を振って露店を後にすると、その足で教会に向かう。

目的は昨日聞いた精霊の適正を調べるためだ。

時間は空いてるし、やることも特になかったため別に構わないかと思っての行動だ。


そのまま路地を右へ左へ行ったりしながら歩いていくと、ようやく教会らしき建物が見える。

元の世界で教会なんて見たことないけど、小説や歴史書とかに載っている写真と似たり寄ったりしていてそっくりに見える。と言うか十字架が館の一番上にあるからわかりやすいけど…キリスト教とかなんだろうか?などと、一瞬どうでもいい考えが頭を過ぎったが、考えなかったことにして敷地に入る。


教会の扉を開けようとして手を伸ばしたところで、幾つかの気配を扉の向こう側から感じて扉から少し離れる。

バンッという大きな音と共に勢いよく扉が開かれ、5~6歳ぐらいの子供達が何人か出てきた。

子供達は僕に気を止めることもなく、敷地内で遊び始める。


それに驚きながらも「そういえばこういう風景を見るの久々かもー…」とその光景を暫し観賞。

じっくりと精神的に癒された後、改めて教会内に入ろうと扉に手を掛ける。

が、


バアァンッ!


「ぐあっ!」


派手な音共に僕の視界が空に向き、体が宙に浮く。

嗚呼、空が青いなぁ…そういえば今日は良い天気だ。

あっはっはっはっは…ってなんか視界に赤い糸みたいなのが見えるのは気のせいかなぁ?

どさりという音が聞こえ、僕の体に地面に倒れる衝撃が走る。

これは別に痛くないのだが、先ほど扉に勢いよくぶつかった鼻の頭はめちゃくちゃ痛い。

って言うか鼻から何かが垂れている感覚がする…たぶん、さっきの赤い糸みたいなのは鼻血だったのだろう。


「おにーちゃん、だいじょーぶー?」


「へいきー?すっごいおとしたよー?」


「ちーでてるよー?」


先ほどまで遊んでいた子供達が心配そうに覗き込んでくる。


「…ああ、だいじょう…ぶ。たぶん」


鼻を押さえながら上半身をゆっくりと起こす。

うん、この鼻血どうするかなホント…やっぱりハンカチしかないか?

ポケットからハンカチを取り出して仕方なく鼻を抑える。


って言うか誰が扉開けた?場合によっちゃあ…。

と思いながら扉に目を向けてみると、頭を抱えてしゃがみ込んでいる人物が見える。


(あいつか、元凶は)


そう思っていると、件の人物が立ち上がり、鼻の辺りを押さえながらぶつぶつ何か言っている。

身長が僕より幾らか高く、紫色の修道服を着た女の人だ。

髪はベールがかかっててわかり難いけど、肩にかかるくらいまでの青い髪でセミロングだ。


「うう、鼻ぶつけたよー…」


「いや、僕の場合ぶつけたとか言うレベルじゃないんだが…」


「あ、そ、そうだったよー。ご、ごめんなさいー」


慌ててこっちに駆け寄ってくる修道女シスターさん。

だが、僕は今ものすごく嫌な寒気を感じた。

何故だろう?と思った瞬間、目の前でそれは起こった。


シスターさんが何もない地面でいきなり足を縺れさせたのだ。


「あわわわわわっ!」


「うわっちょっ待ったあああああああ!」


叫びながらもシスターさんの進行方向にいた子供を抱えてなんとか後ろに飛ぶ。

結果、シスターさんが盛大に地面にぶつかったが、腕の中の子供…小さな男の子は無事だ。


「あうあう…また転んじゃったよー…」


「またって、あんた…」


「おねーちゃんはいつもこうだよー?」


立ち上がった僕を見上げながら男の子が言う。

いつもってところがものすごーく気になるが、今だけ気にしないことにして手を差し出す。


「ま、いいや。立てますか?」


「こ、これぐらいじゃ泣いたりしないもん!」


がばっと立ち上がるシスターさん…立ち直りは早いな。

差し出された手が虚しく漂っているが、うん。気にすんな僕。


「すいません先ほどはドアぶつけちゃって…この子達の後を追ってたらドアに気づかなくって」


「いえ、こちらも注意してませんでしたので、あまりお気になさらずに…ってドアに気づかないって…あ」


そこまで言ってから、もしかしたら視力が極端に低い人かもしれないと思い至り、言いよどむ。


「えと、教会に用がある方ですかー?」


「あ、はい。シスターさんは…ここの方ですよね?」


「そうですよ~あ、申し遅れました」


こほんと咳払いしてからにっこり笑うシスターさん。


「帝都ウィンベル教会、シスターのシフォンと申します。よろしくお願いします~」


そうして頭を下げるシスターさんだが、その拍子にベールがずるりと地面に落ちる。

…大丈夫なのだろうかこの人と思う僕だった。

これもギリギリまで見直ししたのですが、もしかしたら文章的に変なところがあるかもしれません。どうかご了承くださいませ~。

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