武器探し
遅くなって本当にすいません。予想以上に書く事になり、遅くなりました(>< あともう知っている方もいるかもしれませんが、活動報告をそれなりに書いていますので、更新の目安として、閲覧していただくと嬉しいです。
「ごめんくださいっと…」
路地に並んでいた適当な店に声をかけながら中に入る。
すると、白い髭を生やしたおじさんが厳つい表情でジロリとこちらを睨みつけてきた。
だが、すぐに何も言わずに右手にしていた剣に目を落とす。
どうやら、剣を磨いている最中だったらしいく、おじさんの左手にはタオルのような布が握られている。
邪魔しちゃ悪いと思い、こちらも一礼してから無言で店内に目を向けことにした。
店内は明るく、眩しいぐらいで、天井には電球があるのだが、電気…じゃないみたいだ。
詳しいわけではないのだが、電球から生えている配線は糸のように細すぎるし…あれじゃあ電気が通ったとしても僅かだ…まさかとは思うけど、魔力式なのか?と珍しく思いながら見つめる。
視線をさらに移す、おじさんが座っている前には木とガラスでできたカウンターがあり、壁には剣、槍、斧、ナイフ、弓といった典型的な武器が所狭しと飾ってあったり、立てかけられたりしている。
…杖みたいな武器が無いみたいだけど、ここが純粋に武器店だからかな?
壁の一角にナイフが飾ってあることに気づき、その内の1つを手に取ってみる。
(ナイフは…まぁ、これでいいかな?)
手に取ったのは装飾がまったくされていないシンプルなナイフだ。
刃が15cmぐらいで前に使っていた物より少しだけ長く感じる。
周りに人がいないことを確認してから、試しに軽く振ってみる。
…うん、悪くないと思う。
「おじさん、これいくら?」
「…銅貨10枚だ」
ぶっきらぼうにおじさんがそう言うと手を突き出す。
10枚ってことは…1000円ぐらいか?
学校の購買部では銅貨5枚だったけど…まぁ、愚痴っても仕方ないか。
手のひらに銅貨を載せ、代金を支払う。
購入したナイフを、今まで使っていたナイフの鞘に入れてみると、すっぽりと収まった。
どうやら鞘だけ予め大きめに作ってあったらしい。
さて、これで当初の目的は達したわけなのだが…他にめぼしい武器が無いかと探してみることにした。
皇子が持っていたデカイハンマーをこの小さなナイフで受け止めきれる自信はない。
まぁ、それ以前に受け止める気なんてさらさらないけど。
「…んー」
壁に飾ってあるナイフ意外の武器を一つ一つ、じっくりと目を凝らして見つめる。
武器の良し悪しは…はっきり言って僕にはわからない。
まぁ素人だから別にそこらへんは気にしていないけど。
だが、それ以前に…。
(なんていうか…不思議な気分だなぁ)
ついこの前まで普通の学生だった僕が、こんな命を奪う武器を実際に見ている現状が俄に信じられない。ゲームとか本とかで一応知識としては知っているが、実物を目にするというのは変な感じだ。
試しに無造作にツボに放り込まれていた柄に綺麗な紋様が装飾がされている剣を一本引き抜き、片手で構えてみる。
はて?意外と軽い?
(剣って鋼とか鉄とか使われているはずだから重いもんだと思ってたんだけど…案外軽いんだな)
そう思いつつも、適当に振ってみる。
ひゅんひゅんっひゅばっという風を切る音が店内に響く。
音を聞いていたらしいおじさんが、こちらに目を向けて驚いたような顔をしている。
うん?驚かせるようなことしてないはずだけど…なんだろう?と思いつつも、こういう感じに注目されるのはなんだか恥ずかしいなぁと思いつつ、そのまま剣を振り続けてみることにした。
ひゅばっという音と共に縦、横、斜めと振ってみる。
「おい、そこの坊主。これ、切れるか?」
今まで興味無さそうに剣を磨いていたおじさんが、そう言って何かを投げてきた。
切れるかどうかはわからないが、投げてきたものを切ればいいと判断して。
キャッチせずに空中で一刀両断する。
ジャリンッという金属音と共に放物線を描いていた何かが真っ二つに切られ、ゴトリと鈍い音を立てて床に落ちる。
目を向けてみると、鈍く光っている金属球が真っ二つになっていた。
「ほう、坊主。やるな、それでその球を切ったのはお前が初めてだよ」
「…いえ、誰でも切れるかと思うんですが…」
「そのボロ剣でか?」
言われてみて慌てて剣を見てみると、刃の部分がボロボロだった。
…なんで切れたんだ僕?まさかとは思うけど、友人トークと異世界移動が原因とかないよな?そうだとしたら僕はどんどん人外になっているという嫌な疑惑が浮上するのだが。
っと、今はとにかく誤魔化しておくか。
「…ぐ、偶然かと」
「偶然で切れるなら、武器屋はいらなくなるな」
「…ですよね」
そりゃそうだ。
こんなボロボロの剣で硬そうな金属球切れるぐらいなら武器屋なんていらなくなる。
持っていた剣を元のツボに戻すと、おじさんが話しかけてくる。
「お前何者だ?」
「ふつーの学生です」
「学生にしちゃあ腕が立ちすぎてるな…まぁいい」
そう言い終ると、興味が失せたのか手元の剣に目を落とすおじさん。
…追及はいいんだろうか?
「…いいんですか?」
「喋りたくないなら喋らなくていいさ」
「ご好意感謝します」
そう答えてから、なんだか居辛くなってきたので、店を出ようと出口に足を向ける。
すると、背中から声をかけられる。
「だが、1つ言いたいことがあるとすれば…」
「すれば?」
「またのお越しをお待ちしてます…ぐらいだ」
「ここのナイフ…良い出来みたいですから、また来ます」
振り返っておじさんとお互いにニヤリと笑いかけ、店を出る。うん、良い買い物した。
そして、目の前に出ている露店の前まで歩き、座り込んでいる女性二名にからかい気味に声をかける。
「…お気に召す物は見つかりましたか?お二方?」
「ちょっと黙ってて、ユキ。今良いところだから」
「すいませんユキトさん。もう少しだけ見させてください」
こちらを見向きもせずに一心不乱に小物に目を光らせる二人組み。
うーん…まだしばらくかかりそうだな、こりゃ。
「…アイズ。悪いけど、もうしばらく見ててもらってもいい?」
「構わないよ。ただし、あんまり遅くならないようにね」
アイズは露店に並べられている小物には興味が無かったらしく、暇そうに露店の支柱に背中を預けていたアイズに声をかけ、小物露店から遠ざかる。
実はあの店に入る際に小物露店の前を通ったら、見事にロナとユリアが食いついた。
邪魔するのも悪いかと思い、護衛…というか無駄遣いしないようにと、お目付け役としてアイズを残して僕だけ店に入ったのだ。
まぁ、あれだ。女性は飾り物が好きって聞くし、無駄遣いさえしなければ問題ないだろう。
(さて、次はどこ周ろうかなぁ…)
適当に路地を歩きながら、露店に出ている物も物色していく。
さっきの露店もだが、流石に武器ばかり置いてあるわけじゃないらしい。
先ほど二人が見ていたような、ブローチ・ネックレス・ペンダントのような小物が置いてある露店もあれば、大小様々な頑丈そうな鎧が置いてある露店もある。
露店を見ながらも道沿いに並んでいる店舗のほうにも目を向けてみる。
ガラスのショーウィンドウの中に高級そうな鎧が置いてある店もあれば、使える人間いるのかとツッコミたくなるような大きな剣が飾ってある店もある。
だが、しばらく道沿いに歩きながら見て周っても僕の興味をそそる物がなかなか見つからない。
なんていうか、こう…この魔法世界特有の武器ってないかなぁ。
そんな事を考えながら、路地の角にある露店を覗いてみると、キーホルダーのようなアクセサリーが敷物の上に並べられていた。
ただ、今までの小物店と違い、一つ一つが鮮やかな色で、剣・槍・鎌などの形をしている。
ちょうど路地に出ている露店もここで最後だったので、試しに見てみるかと思い、露店の前に座り込んで赤い槍の形をしたキーホルダーらしき物を手にとってみる。
(これキーホルダーか?でも、ちょっと違うみたいだけど…)
手のひらに簡単に収まるような小さな物なのに、何故か細かいところまで妙に精巧に出来ている。
これだけが特別なのかな?と思い、他の青い剣やら緑の鎌の小さな小物も手にとってみるが、どれも同じ様に精巧に出来ている。
まぁ、アクセサリーってものは大抵精巧にできてるもんかと無理やり納得してみる。
「お、そこのお兄さん探し物かい?」
キーホルダーを手にとって僕が首を傾げていると、露店の店主らしいお姉さんが笑顔で声をかけてくる。
額に鉢巻を巻き、手首には包帯のような物を巻いている20代ぐらいのお姉さんで、なんだかカッコよく見える。
「お姉さん。これキーホルダー?」
「お姉さんとは嬉しい事言ってくれるねぇ、あとそれはキーホルダーじゃなくて、魔工石だよ」
「魔工石って?」
「なんだ。知らないのかい?」
怪訝そうな表情でお姉さんが言い、敷物の上に並べていたキーホルダーの1つ…青い剣を手に取る。
そして、お姉さんがキーホルダーを握り締めると、いつの間にか手には青く光る1mほどの剣が出来ていた。
「おおお?」
「ホント、知らないのね。これは魔工石って呼ばれていて、魔力を流し込むと石の形状に魔力を構築するのよ、だからコレだと青い剣ができるわけ」
説明しながらお姉さんが軽く剣を振り、ブゥンという音と共に剣が青い軌跡を描く。
なんていうか…ライ○セイバーみたいだな。
まぁ、アレみたいに柄が元になってるわけじゃないけど。
「切れ味とか耐久力とかどうなってるんですか?」
「切れ味と耐久力は魔力によるかな?注がれる魔力が多ければ切れ味もいいし、耐久力も強くなる。逆に少ないと切れ味も悪いし、すぐに壊れるわよ」
「へぇ~…やってみてもいいですか?」
「構わないわよ。実際に手にとって貰うのも宣伝になるしね」
そう言われ、手近にあった緑色の槍を手にとって見て、試しに魔力を注いでみる。
すると手元に緑色に光る2mほどの槍が構築された。
槍の種類はよくわからないけど…ランスってやつなのかな?と、考えながら適当に構えて、突いてみる…うん、魔力形成してるせいかほぼ重さを感じない。魔力供給を止めてみると、元のキーホルダーに戻った。
それをしげしげと見つめてふと呟く。
「なんていうか、魔法って凄いなぁ…」
「うーん。そこまで驚かれるような品じゃないよ?どの街でも一店ぐらいはお店があるぐらいだし」
「僕から見れば凄い物ですよ」
確かに、こっちの人にはなんでもない珍しくない物かもしれないけど僕にとっては珍しすぎる物だ。
「で、それ買う?」
「あ~うん。これ一個いくら位ですかね?」
そろそろ所持金が厳しいかなぁと思いつつ緑色の槍を元の場所に戻す。
宿代の事も考慮しないといけないので派手な出費は避けたいのだ。
「なんだ。お兄さんお金少ないの?ならまけてあげるよ。どれぐらい残ってるの?」
「…何故に!?」
「実を言うと、結構暇だったんだよ。話し相手になってくれた上に商品を買ってくれそうだから…かな?それにここ、路地の端っこでお客さんの目につきにくいからさ」
言われみ見れば確かにここは端っこで人通りが少ない。
所持金を見せながら、もっと人通りの多いところで露店出したらいいのにと口にすると、お姉さんは苦笑いをしている。
「まぁ、確かにお兄さんの言う通りなんだけど…お国のほうから色々と言われててねぇ」
国から?なんかあったのだろうか?と思ったが、目が合い「聞いて欲しくない」という感情が読み取れたので追求するのをやめる。
向こうは場を察したと思ったのか、お姉さんがうんうんと頷く。
「よしよし、賢い子はお姉さん好きだよ。御代はこれぐらいでいいわ」
そう言ってお姉さんが笑いながら財布から銅貨を7枚摘み出す。
これの相場がどれぐらいか知らないけど、よかったのかなぁ?と疑問に思う。
「…それじゃあ、コレをお願いします」
さっきからずっと気にはなっていたけど、取ろうか迷っていた物を手に取り、お姉さんに手渡す。
「お、お兄さんがさっきからチラチラ気にしてた奴だね。プレゼントにでもするの?」
「気づいてたんですか…じゃなくて、今度試合…のようなものをすることになったんで武器が必要なんですよ。あと単純に形が気に入っただけです」
「へ~。試合…ねぇ。はいこれ」
「どもです」
端のところに金属製の小さな銀色の輪が取り付けられた魔工石を受け取る。
「ま、事情は知らないけど若いうちは頑張りなさい、お姉さんも応援してあげるから」
「あはは、重ね重ねどうもです」
お互い笑って挨拶してから、露店から離れ、もと来た道を戻る。
これでもう買う物はないだろう。あとは魔法を練習して当日頑張るだけだ。
「…勝てるといいんだけど」
そんなことを一人ごちて、魔工石を指でくるくると回し玩びながらさらに歩く。
だが、三人と別れた場所まであと少し…という所で前方が何やら騒がしく、先ほどまで無かった人混みが出来ていることに気づく。
移動はしてないだろうし、強引にかき分けて入ろうかと思ったが、人混みに入る前に一番外側に居た20歳ぐらいの青年に何があったのか尋ねてみる。
「どうかしたんですか?」
「何か揉め事があったらしいよ?」
「…揉め事、ですか」
真っ先に友人達の顔が浮かび、嫌な予感がひしひし湧き上がってくるのを感じる。
あの友人達が関わってないといいなぁとは思うけど、無駄な考えなんだろうなぁ。と、思いながらひとまず礼を言い、その場から少し離れた路地に入る。
左右を確認して見られてないことを確認してから、適当に足場になりそうな所を幾つか見つけて、躊躇することなく飛び上がり、足場を幾つか経由して屋根の上に着地する。
そして問題の人混みに屋根の上から目を向け、そして思わず嘆く。
「嗚呼、やっぱり…」
額を手で抑えながら、なんでこう僕の嫌な予感って当たるんだろうなぁ。と心の中で嘆く。
視線の先にはつい20分ほど前に分かれたばかりの女の子二人と男の子が何やら柄の悪い兄ちゃん二人と怒鳴りあっている。
会話は聞き取れない、距離がありすぎるからだ。
(さっさと合流してお開きにしてもらうか…もうちょい様子をみるか…)
そんな事を考えながら屋根を飛び移って行く。
あと15mといった所まできたところでどうも様子がおかしいと感じる。
アイズが前に出て柄の悪い兄ちゃんと相対しているのだが、相手の目が妙に泳ぐのだ。
そして、柄の悪い兄ちゃんの目を見て把握した。
(え?…時間稼ぎ?)
こんなに遠距離から相手の感情を読んだことはなかったのだが、もう少しだけ時間を稼ぐという思考が読み取れた。
何が目的だ?と急に怖くなってきて、足を止めて注意深く辺りに見渡して、ようやく気づく。
一番後ろに居たユリアのさらに後ろの人混みの中の一人が、何やら怪しい詠唱をしているのを。
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