条件
ちょこっとだけ展開が強引な部分があるかもしれませんが、温かい目で見守ってくれるとありがたいです。
僕はなんでこんな事されたんだろ?
と、未だに痛む胸の辺りを右手で擦りながら現実逃避しつつ思う。
そしてなんか既視感を感じるのは、たぶん、気のせいではないだろう。
アイズのときもこんな風に吹っ飛ばされたしなぁ…あっはっはっはっはっは…。
って言うか。
「僕は何か気に障ることしましたかねぇ!?」
思わず視線の先にいるユリアの弟…クール皇子に大声で問いかける。
一応相手が皇子らしいので敬語を使うのも忘れない。
だけど、問答無用でこんなことする奴に礼儀なんてかける必要ははたしてあるのだろうか?
いや、まったく無いはずだ。少なくとも悪いことをした覚えはないし。
だが、聞かれた皇子は胸を張って堂々と叫び返してくる。
「姉ちゃんに近づいただろお前!」
「いや、まぁ客観的に見ればそうかもしれないけど、近づいてきたのユリアのほうなんだけどなぁ…」
「そう、なんですけど…」
はぁ…と溜息をつきながらユリアがこめかみに指を当てる。
「うちの弟…その、ちょっと色々ありまして…」
「あーうん、なんかそうらしいな。あの言動からある程度推測できたけどさ」
絶対シスコンだと思う。それはもう100%間違いなく。
いくら鈍いと言われている僕でも簡単にわかる。
…決して、同じシスコンだからというわけではない。断じて。
「…大変だろ?」
「…色々苦労してます」
やっぱりか。ちょっと姉に近づいたぐらいで攻撃してくるような弟さんだ。
本当に色々と大変なんだろう。
相当な苦労が伺えたので同情の視線でユリアを見ていると、
「だから!さっきから離れろって言ってんだろ!てめぇ!」
皇子がそう言って来た瞬間。
持っていた銀色のハンマーが横に一薙ぎされ、また"何か"が飛んでくる。
流石に今度はこういう反応をするだろうと予想していたので、座り込んでいた場所からすぐさま飛び退き、なんとか避ける。
でも、予想していたとはいえ、攻撃されるのはたまったもんじゃないので抗議はしておく。
「問答無用で攻撃してくるのやめてもらえませんかねぇ!?」
「お前が姉ちゃんから離れたらな!」
ううむ、身の安全は最優先事項かもしれん。
あの見えない攻撃は避けにくすぎる。
先ほどはなんとか避けられたが、勘で避けただけで正直まぐれだし、見えない攻撃だからどんな形状で飛んできてるのかもわからない上に、スピードも結構速く感じる。
(とりあえず、ユリアから離れれば安全…だよな?)
そう思い至り、ユリアから距離を取ろうと一歩下がる…が。
「…………」
「…………」
うん?と思いながらも、もう一歩ユリアから離れる。
「…………」
「………あの、ユリアさん?」
「なんですか?」
「何故に僕が一歩離れるごとに近づいてくるのですか?」
一歩二歩と離れようとしたのだが、足を動かすたびにユリアが近づいてくるので、距離が変わっていない。
すると、苦笑いしながらユリアが呟く。
「クールにもいい加減、わたしが男の人と一緒にいても大丈夫なようになって貰わないと困りますので…」
「僕の時に限ってそんなことするなよ!」
思いもしないユリアの行動に思わず涙目になりながらツッコム。
冗談じゃない。なんで僕が弟さんのシスコンを治す為に犠牲にならないといけないんだ。
しかも治るかもしれないという予想だし、僕に被害ばかりくるというおまけ付きだ。
だが、ユリアも引けない理由があるのか、慌てたように言ってくる。
「だ、だって!ユキトさんさっきクールの攻撃避けたじゃないですか。結構凄いことしてるんですよ?」
「9割がた勘に頼って、必死に避けただけなんですけどねぇ!?」
「俺を無視して楽しそうに会話してんじゃねぇ!」
「これが楽しそうに見えるのかアンタ!あと無視なんてしたら殺されるけどね!」
皇子に対しては敬語を使っていたのだが、僕もいい加減イライラしてきたせいか感情が口調に乗りはじめる。
それに、どうやら相当な筋金入りのシスコンみたいだ。
まぁ、問答無用で攻撃された時点である程度予想していたが、まさかこれほどとは…。
(ああ、もう!最近面倒なことが多いなぁまったく!)
そう思いながら、クールという青年をよく改めて見てみる。
背は僕と同じぐらいで、顔がどこか先ほど会った王様と似ている。
髪は白なのだがユリアの髪の色のような黒が混じったせいか、見方によっては灰色にも銀色にも見えるため若干綺麗に見える。持っている銀色のハンマーは柄の先には黒い魔法石が填め込まれており、ハンマーの頭部はかなりデカイ。
あんなデカイのを簡単に振り回せるところを見ると、かなり肉体を鍛えているのだと思う。
とりあえず、このままだとまた攻撃されかねないので会話を試みてクールダウンしてもらうことにする。
…別に上手い事言った覚えはないよ?
「えーっと…と、とりあえず自己紹介を…」
「てめぇの事なんて聞いてねぇ!」
「いや、いつまでも「てめぇ」って呼ばれるわけにも…」
「てめぇはその呼び方で十分だ!」
「十分て…」
もうなんていうか、酷いの一言しか思い浮かばない。
一見会話も成り立っているように見えるかもしれないが、拒絶の色が濃すぎて泣きたくなってくる。
「とにかく!てめぇはさっさと姉ちゃんから離れろ!でないと…今度は直接ぶち当てるぞ!」
「わ、わかった。わかったからちょっと待て!」
慌てながらも今度こそユリアから離れる。
今度は追われたりしないように素早く離れ、長く距離を取る。
…なんかユリアが物凄く不満そうな顔しているが、全部無視する。
こちとら、命狙われてるんだ。勘弁して欲しい。
「これでいいか?」
「…ああ」
頭に上った血がいくらか下がったのか、ようやく皇子が構えていた銀色のハンマーをおろす。その様子にほっと一息を吐きながら、今度こそ大丈夫だなと思っていると皇子から話しかけられた。
「で?てめぇは誰だ?また父さんが呼んだ婚約者候補の一人か?」
「…婚約者候補?」
そう問われて思わずユリアを見ると、なんか凄く恥ずかしそうに顔を真っ赤にして目を逸らすユリア。
ああ、なるほど。城出した理由はそれか。そりゃしたくなるわ、城出。
僕が同じ状況だったらたぶん、同じことしてると思う。
そして、皇子が攻撃してきた理由もわかった。
大事に想われてるじゃん、ユリア。
まぁ、問答無用で攻撃してくるのはいただけないが…とりあえず、またヒートアップされても困るのでさっさと誤解を解くことにしておく。
「うん、絶対間違いなく違います」
「…そうなの?姉ちゃん?」
「えーっと、その…候補者じゃないよ?」
いや、そこはハッキリ言ってもらわないと僕が困るんだけど。
「ユリア、ちゃんと事実をハッキリ言え」
「わかりました…違うように見えて実は合っています!」
「なんでこの場面で誤解を招くような発言をするんだろうなぁ!?」
「くすくすくす…まぁ冗談はこれぐらいにしておいて、クール?この人は違いますよ?」
「…本当に?」
「うん」
ユリアが頷くと、ようやく違うと判断したのかクール皇子が持っていた銀色のハンマーが突然消える。
恐らく転送魔法を使ったのだろう。
やれやれと言った具合にクール皇子が肩をすくめて呟く。
「まったく…姉ちゃんは天然過ぎるんだよ…だからそうやってよくわからない男が近づいてくるし!」
「て、天然ってなによ~?それに、この人はよくわからない男の人じゃないんだよ?…その、大事な人だし…」
「…大事な人?」
「うん、危ないところを助けてもらった命の恩人なのよ~?」
「成り行きだけどな」
ホント、成り行きである。
って言うか、なんであの場で出会っちゃったんだろう僕たち…と思わなくもないが、そうなるとユリアが大変な目に遭っていたかもしれないので、あまり嫌とは言えない。
それに結果的にはお城の図書館に入れたからプラスに働いてるし…ああ、でもこの弟さんに目を付けられたことを考えるとマイナスにしか思えないのが痛い。
そんな事を考えていると、皇子が姉に問いかける。
「…姉ちゃん?」
「う、うん?なぁに?クール?」
「まさかとは思うけど…惚れた?」
「ち、違うわよ!全然惚れてなんて…」
「えーっとクール皇子?それは絶対にありえないかと思われるのですが…」
たぶん、惚れた惚れられたの話があまり聞きなれてないせいか、顔を真っ赤にして否定するユリア。
それに対して僕もありえないと言って否定しておく。
うん、だってありえないって絶対。
中身はアレだけど客観的に見たら綺麗なお姫様が僕に惚れるだなんて、世界が崩壊してもありえないっすよ?
でもユリアそういう反応はやめてくれ。何も知らない人間が見たら勘違いされるぞ?
「てめぇには聞いてねぇ」
「…ですよねー」
皇子の冷たい反応に僕も適当に流す。まぁ、わかってたけどね。一応ツッコミ入れたかっただけだし。
って言うか皇子もそんなことありえないってわかってるだろうし。
と、適当に思考していると皇子が僕に話しかけてきた。
「おい、てめぇ。名前はなんていうんだ?」
「…はい、ユキト・ウォンスールといいます」
「そうか、俺の名前はクール・リミリア・ウィンベルだ。ユキト、俺と今すぐ戦え」
「嫌です」
即、拒否する。
って言うか、なんか唐突に「戦え」と申し込まれたけど…何故にそんな思考に陥ったのか理解しかねる。
「なんで戦わないといけないんですか?」
「姉ちゃんがお前に気をかけてるから…理由はそれだけで十分だろ?」
いや、十分じゃないし。それ、とばっちり意外何者でもないんだが。
そして、なんか既視感が一気に強くなった。
この展開、前にもあった気がする。
「それに、ユキト。お前はさっき俺の攻撃避けただろ?十分戦えるはずだ」
「いえ、さっきも言ったように勘でしかないんですが…」
「悪い話じゃないだろ。もし、お前が勝ったら姉ちゃんと一緒にいても攻撃しないようにしてやるんだしよ」
「いや、別にそんなのどうでも「それ、本気なのクール!?」…うおーい」
会話している最中に強引にユリアに割り込まれ、思わずよくわからない悲鳴をあげる僕。
だが、ユリアは相当興奮してるのか、なんとも思わないらしい。
「だって!クールがそんなこと言うの初めてですよ!?」
「えー…?」
なんか…凄く納得いかない。
そんな初めてのことが起きたのが何故僕のときなんだろうと思う事もだけど、今までそんなこと言わなかったということは、ユリアに近づいた男は問答無用で攻撃され、撃沈されてるということだ…主に弟のせいで。
そして、恐らくお城に勤めている男性陣も例外じゃないだろう…ご愁傷様だ。
…ってそれってイコール姉弟揃ってお城全体に迷惑掛けてるのかよ…笑えねぇなぁホント。
などと疲れた思考をしていると、ユリアが詰め寄ってきた。
「ユキトさん!戦ってください!そして勝ってください!」
「えー…」
「なんで乗り気じゃないんですか!」
「いや、ユリア?落ち着いて考えてみようよ。勝ったら僕達がカップル認定だよ?しかも家族認定」
「…あ」
僕の指摘にユリアもある程度冷静になれたのか、徐々に顔を真っ赤に染め上げていく。
やっぱり気づいてなかったか。まぁ、そんなことだろうと思ってたけど。
「…それはそれで…もしかしたらいいかも?」
「あー、クール皇子。その案じゃ乗り気になれないんで、こういうのはどうです?」
ユリアの反応は全面的に無視してクール皇子に話しかける。
「「どんな(だ)?」」
ユリアとクール皇子が同時に同じ事を問いかけてくる。こういうところは姉弟なんだなぁと思いつつ、言葉を続ける。
「僕が勝ったら、クール皇子。貴方は今後一切ユリアの近くに男がいても攻撃しないこと…それだけでいいです」
「…それだけでいいのか?」
「えぇ、攻撃しなければ別に態度は変えなくても構いません」
「ちょ、ちょっとユキトさん!」
慌ててユリアがさらに近づいてきて耳打ちしてくる。
…この状態では攻撃してこないよねクール皇子?と少し不安になりながらもユリアの声に耳を傾ける。
「もっと好条件を提案したほうがいいんじゃないですか?」
「うーん、ユリアの言う事もわかるんだけどさ。あんまり無理言ってこの決闘自体がなくなっても困るかなぁと思ってさ」
そう、大事なのは現状を変えることだが変化は少しだけでいいと思う。
急激な変化はクール皇子も大変だろうし、何よりユリアも落ち着かないと思う。
…それに何より、この提案が通るだけでお城の男性陣は大歓迎だろう。主に命の危険が減る意味で。
「よし、わかった。それでいいぞ」
「あと、付け足しで。決闘は今日じゃなくて一週間後ぐらいにして欲しいんだけど」
「それは何故だ?」
「生憎と武器が無いんです」
ナイフは森で投げたままだし、使える戦闘用魔法はシールドだけ…それに対して相手は大型のハンマー装備+未知の攻撃…どうやって勝てというんだか。
その旨を告げると、クール皇子も納得する。
「じゃあ、一週間後。この城の訓練広場に来い。楽しみにしてるぞ」
そう告げてクール皇子は去っていった。
最近仕事が忙しくて執筆する時間が少ないため、来週辺りから更新間隔がおかしくなると思われます。どうか、ご了承くださいませ~(><