お転婆姫
おかげさまでPVが3万を超え、ユニークが6千人超えました~
この調子で頑張っていきたいと思うので応援等よろしくお願いします~
もうこれ以上収穫はないだろうと判断して僕とユリアは図書館を出た。
まぁ実のところ、この国の歴史をユリアからあらかた聞いたので、もういいですと答えて出てきたんだけどさ。
異世界転移、英雄召喚が神聖魔法なら、僕自身では使えないのでどうしようもない。
…協力してくれる人がいればいいんだけど。と不安には思うが、考えても仕方が無い。
異世界転移の構造がわかっただけでも収穫だった。と、そう前向きに思うことにしている。
腕時計をユリアに見られないようにこっそりと見てみると、時刻は12時をちょっと過ぎた頃だ。
そういえば、朝おっちゃんに食料を貰った時に食べただけで、結構お腹すいたなぁと思いながらユリアに話しかける。
「それじゃあ、僕は街に行くから」
「街に出るんですか?」
「うん、ユリアと出会う前まで一緒にいた仲間と合流しないとね」
アイズもロナも心配しているだろう、特にロナとは早めに合流しないとまずいと思う。
あいつは特に心配していると思ったからだ。
「それじゃあ、ここで…またどこかでな、ユリア」
「あ、あの、わたしも一緒に行っていいですか?もしかしたら、お友達になれるかもしれませんし」
「あー…もしかしてだけど、やっぱりお城暮らしだと友達とか出来にくいか?」
お話とかでのお姫様にありがちなことだ。
そう思って言ってみると、図星だったのかユリアは苦笑いだ。
「出来ないわけじゃないんですけどね、やっぱりどうしても壁というか溝みたいなモノを感じちゃうんですよ」
「…そっか」
どこか寂しそうに言うユリアを見てどうにかしてやりたいと思い、一緒に行くぐらいはいいかと思う。
それに、あの二人なら王家とかそういう問題も全然心配ないと思う。
「まだ、仲良くなれるかはわからないですけどね~」
「そこは大丈夫だと思うぞ?あの二人とは僕もいつの間にか仲良くなってたぐらいだし…」
よくよく考えてみると、どうやって仲良くなったっけ?と出会いを思い出してみる。
「…あれ?おかしいな、悲しくないのに涙が出てくるや…」
「?」
思わず目頭を押さえる僕を見て、ユリアが可愛らしく首を傾げていたが、それを気にしている余裕はなかった。
よく思い出してみると、ロナには出会い頭に馬鹿にされ、アイズには試合を申し込まれてボロボロにされた。
はっきり言って、どうして仲良くなれたのかと今更になって疑問を感じる。
だが、いくら考えても仕方ないと前向きに考え、その話題を頭から追い出す。
決して考えるのが面倒になったからではない。
「も、いいや…とりあえず連絡届くかやってみるかな?」
アイズに連絡を取ろうと、念話のための魔力の糸を伸ばしてみると、すぐに繋がった。
『アイズ?』
『おお!ユキト君!無事だったか、今どこに居るんだい?』
明らかにほっとした様子が感じられたため、もっと早くに連絡すればよかったと後悔するが、よくよく思い出してみると牢屋では枷のせいで魔法が使えなかったかと思い直す。
『心配かけてごめんアイズ。今色々あってお城に居るんだ』
『お、お城?なんでそんな所に…とにかく無事でよかった。今すぐ合流できそうかい?』
うん、すぐ行けるよ。と答えようとしたが、隣のユリアを見て少し悩んだ後、こう答えた。
『ちょっと用があるから少し経ったら向かうよ、どこに行けばいい?』
『依頼先でもある魔法店の「エフォニエ」で待ってるからそこに来ればいい』
『わかった…あと、さ』
『うん?』
『ロナ…どうしてる?』
『はっはっは、カンカンだよ。頑張りたまえユキト君』
そう笑いながらアイズが答えて念話が切れ、僕は思わずその場で頭を抱えて思わず嘆く。
「…終わった」
「あの…何か不都合でもありました?」
「いや、色々なことに絶望してるだけだよ」
心配そうに聞いてくるユリアに苦笑しながら肩に手を置き、首を振る。
意味がわからないのか、首を傾げていたが、連絡が取れたことだけはわかったようで、にっこりと笑う。
「それじゃあ、早くお友達と合流しましょうか?」
「ああ、でもその前に…着替えてきなさい」
流石にそのドレス姿で街に出るのはまずいだろう。
その格好で行けば目立つだろうし、大騒ぎになるだろうし。
だからこそ、ちょっと遅れるってアイズに言ったわけだったりする。
「あ、それもそうでしたね…では、少しここで待っててください…ユキト、さん…?」
気づいてなかったのか、ぽんと両手を合わせてから、首をかしげながら聞いてくるユリア。
「…何故に疑問系?」
「いえ…その、今更なんですけど、さん付けで呼んでいいのかなぁってずっと思ってまして…」
「もしかして図書館の中でずっと言おうとしてたのって、その事だったのか…そういえば今の今まで名前で呼んでなかったな。って自己紹介の時にさん付けしてなかったか?」
「その、あれはその場のノリというかなんといいますか…」
「つまり勢いだったわけで、後になってどんな風に呼べばいいのか真剣に悩み始めたと…そういうわけか?」
「…仰るとおりです」
そんなのどうでもいいのになぁと思う反面、こういう所で悩むところをみると真面目な性格してるんだなぁと実感する。
なので、それを教えるためにも、僕なりの考え方を言ってみる。
「まぁ、いいんじゃない?好きな呼び方で。たとえ、お姫様でも人の呼び方は自由なんだしさ?」
「じゃあ、ユキト様でもいいんですか?」
「ごめん。僕が間違ってたから、それだけはやめてくれ」
どこか嬉しそうにそう宣言するユリアに、即座にやめてくれと抗議する。
とてもじゃないが、元々一般人で偉くもないし貴族でもない僕が様付けされて呼ばれると鳥肌がたつ。
…っていうか今実際に立ってます。
「ほら、さん付けでいいから早く行ってきなさい」
「は~い♪じゃあ、少しだけ待っててくださいねユキトさん」
くすくす笑いながらそう言ってドレスの裾を少し持ち上げて早足でお城の中に消えるユリアを見送りながら、今の仕草お姫様っぽかったなぁと思い、実際お姫様だろとツッコミを入れる。
さて、どうしよう?と辺りを見渡すと、ちょうどいい所に腰掛けられそうなベンチを見つけたので、そこに腰掛けて思わず呟く。
「…やばいな、やっぱり結構眠いや」
思わず出てしまう欠伸。
図書館で本を読んでるときは集中していたからあんまり気にならなかったが、そもそも昨夜寝てないので非常に眠い。
そして今、する事が何もなく、ただユリアを待つだけなので暇でしょうがない。
加えて、女の子の着替えはやたらと時間がかかる。というのは妹を見て育ってきたので嫌でもわかる。
(…ちょっとだけ寝るか?)
ちょこっとだけならいいかと思い、ゆっくりと目を閉じようとするが、ふと思いとどまる。
唐突に嫌な予感っていうか、そんなものが頭を走り抜けたからだ。
「…うん、なんかよくわからんが、やめておこう」
あっははははは…と自分でもよくわからないまま心の中で笑っていたところ、唐突に頭上に嫌な気配を感じてベンチから飛び出す。
その直後に『ドカッ』という鈍い音が背後のベンチから聞こえた。
なんだなんだ?と思いながら振り返って視線を向けてみると、着替えたユリアだった。
ふわりと空色のワンピースが少し広がっていたが、幸いなことに中は見えない。
それよりもっと言うべき事があった。
「お待たせしました!」
「…ってお待たせしました!じゃないよ!お前はどんなところから来たんだよ!?」
相手がお姫様である事も忘れてツッコム。
先ほどの音は明らかに高所から飛び降りて着地した音だ。
視線を背後の塔の上のほうを見ると、7~8mぐらいの高さのところに開いた窓が見えた。
カーテンが風に揺られてひらひらと靡いているのが見える。
つまり、あそこから飛び降りたと…そういうわけですか?お姫様?
そう心の中で問いかけると、件のお姫様は自信満々に頭上の窓を指差し、堂々と宣言する。
「もちろん!あの窓からです!」
「お転婆にも程があるだろ!?」
明らかに行動が異常過ぎた…ていうか絶対怪我する高さだろ!?
と言うかそれ以前にそんなひらひらした服であんな場所から飛び降りるな!
中が見えちゃうだろ!見えなかったけど!
とにかく、今後ああいうことはしないように一通り説教することにして、ユリアをベンチに座らせた。
「…んじゃ、そろそろ行くか」
「…はい」
憔悴しきったユリアが力無く返事をする。
ふむ、ちょっと説教しすぎたか。
だがまぁ、この子には良い薬だ。
少なくともお姫様がこんなにお転婆だったらお城の人が困るだろう。
…と言うか、たぶん普段からこの調子だと思うので、困っているだろう絶対。
だから説教したんだが…憔悴しきった顔を見るとちょっとだけ可哀想だと思ってしまう。
なので気分を変えるために別の話題を振ってみる。
「そういえば、ユリア」
「…なんでしょうユキトさん」
「なんで、あの森の中に居たんだ?お姫様があんな所に居ること事態おかしいだろ?」
「ああ、そのことですか~」
自嘲的な笑みでユリアがベンチに座ったまま空を見上げる。
「はぁ…所謂家出ってやつですよ、わたしの場合は城出って言うほうが正しいのかはわかりませんけど」
「城出?」
「…ちょっと、色々ありましてね。お城に居たくなかったんですよ」
「…そっか、じゃあ僕は悪いことしちゃったかな?」
ユリアにとっては、せっかくお城から逃げてきたというのに、いつの間にか連れ戻されていたという認識だろう。
そう思って僕が思わず聴いてみるとユリアが首を左右に勢いよく振りながら否定する。
「いえ、そんなことありません!あのままだったら、わたしは死んでたかもしれませんし、悪いことなんて何一つしてないですよ!」
「あはは、そう言ってもらえると少しは気がまぎれるよ」
苦笑しながらそう答えると、ユリアは何が納得いかなかったのか、詰め寄ってくる。
ってこの距離近すぎないか?と、危惧しながらも嫌な予感を感じる。
「ホントにホントに感謝してるんですよ?」
「あーわかった。わかったってば」
「もう!ホントにわかったんですか~?」
「わかった!わかったから!ちょっと距離取ろう!この距離は勘違い…」
されるから!と続けようとしたとき、強い声が聞こえた。
「姉ちゃん!そいつから離れて!」
刹那。先ほど感じたような嫌な気配が一気に強まって、僕はほぼ無意識に早口で詠唱して左に向ける。
「―汝、力を糧に我が前に示せ、盾!―」
盾が形成された直後に衝撃が走り…粉々に砕け散った。
「ちょ…ぐっあぁ!」
盾を貫いてきた"何か"が僕の胸に直撃して思わず口から声が漏れる。
勢いを受け止めきれず、そのまま吹き飛ばされ、地面を転がる。
「ユ、ユキトさん!?」
「いっつつつつつ…」
ユリアが慌てて駆け寄ってくるが、気にしてる余裕がないほど…胸が痛い。
見た所、出血はないようだけど…めちゃくちゃ痛いんですが?
痛みを堪えながらも何かが飛んできた方向を見てみると、そこにはデカイ銀色のハンマーを構えた白髪の青年。
「姉ちゃん!大丈夫?てめぇ!姉ちゃんから離れろ!」
「クール!?貴方何してるの!」
…誰?と声が出ないので目でユリアに問いかけてみる。
すると、非常に言いにくそうに目を逸らしながらユリアが言う。
「お、弟…です」
「…………………………おとうとぉ!?」
思わず痛みを忘れて叫ぶ僕だった。