歴史
投稿が少し遅くなりました、楽しみにしていた方々申し訳ありませんでした(><
人間は意識を集中すると、どうなるんだろう?
1.周りが見えなくなる。
2.喋らなくなる。
3.返事が曖昧になる。
…とまぁ、パッと思いついたのは3つだ。
集中すれば周りが見えなくなるのは当たり前だ。人間は一つのことにしか集中できない。
いや、一応並列思考なんていう便利な特技を持っている人がたまにいるが、まぁ殆どの人間は一つのことにしか集中できないだろう。僕だって並列思考はできない…と思う、やったことがないし、やろうと思った事がないからわからないけど。
で、だ。
そんな特技を持っていない僕が真剣に本を読み始めれば自然と3つの事項が当てはまるわけで…。
「………」
「………」
「あの、えっと…(汗」
「うん?なんですか?」
ずっと字を目で追っていたところ、ここに一緒に来ていたお姫様に声をかけられ、本から目をはなしてから、そちらに視線を向けてみる。
すると、その顔は最初戸惑いが見て取れていたが、視線が合うと苦笑いに変わった。
「…いえ、やっぱりなんでもないです」
「そうですか?」
答えてから本のほうに目を戻す。
…実はさっきからずっとこのやり取りが続いていたりする。
何か話したい事があるんだけど、話しかけにくい…そんな印象を受ける。
目が合ったときに心も読んでみたが、「どうしよう?」という心の声しか聞こえない。
何をどうしよう?と思ったのかは知らないし、あんまり知ろうとは思っていない。
人それぞれ考え方があるんだし、気持ちが整ったら自然と声を掛けて来るだろう。
現状、その事よりも大事な事があったそれは…。
「しかし…ここに来た時も思いましたけど蔵書量が半端じゃないですね」
思わず天井を見上げながら呟く。
謁見の間から日が差し込んでいる廊下を通り、庭園らしき場所を通り抜け、着いたのがここだった。
この図書館は円柱状の建物になっていて、視線を遥か頭上に向けると円形の鮮やかなステンドグラスが填め込んである天井が見えるのだが、そこから今僕が居る一番下の閲覧用の机が何台か置かれている階までの壁には大量の本が所狭しと並んでいた。
その数…10万冊以上あるとかないとか。
とてもじゃないが全部は読みきれない。まぁ全部読む必要があるわけじゃないから別に総量は関係ないのだが、気が滅入ることは確かだった。
事実、この図書館の扉を開けて天井を見上げ、蔵書総数を尋ねてから10秒ほど固まったしね。思考も体も。
「なんでも、帝都が出来た頃からずっとあると言われているぐらいの場所ですから、その分蔵書量も凄いんですよ」
くすくすと笑いながらお姫様が説明してくれる。
「ところで、どんな本を探してるんですか?見たところ歴史書ばかり読んでいらっしゃるように見えるのですが」
「うん、正解です。この国のことをよく知らないので、まずは成り立ちから知っておこうかと思いましてね」
まぁ、もちろん本当のところは英雄召喚関連の情報収集だ。
いくらなんでも何も問題がない状況で英雄を召喚するとは思えない。
何かしら問題があって、それが国で対処できなかったから呼ばれたはずだ。
過去何度も呼ばれていたのなら、そのたびに何か問題があったはず。
その過去の問題を現状と比べれば、僕がこの世界に来た理由もわかるかもしれないと思い、調べているのだ。
「あ、それでしたら。わたし歴史が得意ですからご説明しましょうか?」
お姫様が嬉しそうな顔をしてこちらを見つめてくる。
うーん、笑顔がいいなぁ…なんというか、無邪気な子供っぽくて。
いや、失礼なのかもしれないけど、身長と小柄な体格が相まって子供っぽく見えちゃうんだよなぁ…ってそういえば何歳なんだろお姫様って。
よし、本ばっかり読まずにここは一つ、望みをかけて話を聞いてみるかな?
「よっし。それじゃあ、お願いしますお姫様」
「はいっ!…って呼び方はお姫様で確定なんですか?」
「うーん、やっぱり呼び捨てはおかしいでしょう?ほら、これでも一応、小市民の一般人ですし」
「で、でもでも!森では殆ど同い年ぐらいの対応だったじゃないですか!」
「いやーあの時はお姫様だって知らなかったし、それに切羽詰ってたから敬語使ってる暇がなかったというか…」
人と喧嘩したことは何度かあるが、魔物という未知の生物との喧嘩は初めてだったため必要以上に緊張していたのは確かだ。
まぁ、もっとも一番緊張した理由は彼女の血を見てしまったせいでもあったが。
「あの…どうしても、ダメ…ですか?」
「う………」
「ダメです」と答えようかと思ったのだが、お姫様の瞳が滲みながら見上げてくるのを見て言い淀む。
こういう顔で見上げてくるのは卑怯だと思う。
何故だか僕が悪いことをしているような罪悪感が沸いてきてしまう。
少なくとも、僕は悪くない…断じて悪くはないはずである。
(あ~もう、我ながら弱いなぁ…もう)
思わず心の中でそう嘆いた後、ぎゅ~っと抱きしめたくなる衝動に一瞬駆られる。
まぁ、本当にやったら処刑コースに入りそうなので自重する。
僕は元々子供の相手をする事が好きだったため、小さい頃から妹や近所の子供の面倒を任される事が多かった。そのため、こういう相手には本当に弱い。
なので…基本折れるしかないのだが、最後まで悪あがきはしてみることにする。
「はぁ…わかりました。では、せめてユリア姫で…」
「あの、もう少し崩して貰えませんか?」
「ああもう!じゃあユリアで!」
「はい♪」
ううう…やっぱりこうなるのか。
相手はお姫様なのになぁ…と思いながら腹を括ることにする。どうせ本を読む間だけだし、そんなに長く続かないだろう。
でも、せめて二人だけの時だけにしておこう、お城の関係者に見られたら完全に詰みだと思うし、処刑コースは免れないと思う。
…あれー、おっかしいなぁ?僕はただ元の世界に帰る為に本を読みに来ただけなのに、なんで死亡フラグばっかり立ててるんだろ?
…もう考えないでおこう。これ以上考えると本当に鬱になりそうだ。
「では、早速お話しますね~まずは国の成り立ちから~」
お姫様…いや、ユリアが嬉しそうに語りだし、しばらく歴史話が続いた。
流石に全部説明してもらうと長いので所々はしょって説明してもらった所によると、なんでも一人の若者が家を作り、家が村になり、村が街になり、最後には国となったと言うらしい。
まぁ、この辺は特に変わったところはなかったが、次の話が問題だった。
「…でですね。では次は800年前に起こった魔王降臨と英雄召喚です」
魔王と英雄…ね。いよいよファンタジーっぽくなってきたなぁ。
「800年ほど前に各地で様々な災いが起こりました、ある地方では野生動物の凶暴化、ある地方では魔物の大量発生、ある地方では度重なる天災が起こったと言われています」
小説とかでよくあるテンプレート的な展開だなぁと思いつつ、話を聞きながら頷く。
「その様々な災いを起こしていたのが、当時圧倒的な魔力で世界を支配しようと企てた一人の人間です」
「…うん?人間だったの?魔王って」
「はい、文献によると元は普通の人間だったのですが、様々な人体実験を行い人の道から外れ、最後には自らの体を改造して圧倒的な魔力を得たらしいのですが、人としての人格が崩壊して魔王と呼ばれるようになったようです」
ふむ、人間だったのか…ちょっとほっとした。
いや、これで魔界とか天界とかから出てきていますとか言われたら、もうどこのゲームの世界だよとツッコミをいれるところだった。
「当時、世界の魔法文明は今のように高度化されていなくて、野生動物や魔物を抑えきることができなかったそうです。そこで生み出されたのが…」
「英雄召喚?」
そう僕が言ってみると、途端にユリアの目が輝きだす。
「そうです!800年前のこの国の王妃様…つまり、わたしのご先祖様は英雄を召喚する魔法を編み出したんです!」
「きゅ、急にテンション高くなったなユリア」
若干ひく様なレベルだぞ、そのテンションの高さ。
だが、指摘されても勢いを変えることなく声高々に答えるユリア。
「だって、わたしは小さい頃から伝説の英雄のお話を聞いて育ってきたんですよ?好きになるに決まってるじゃないですか!」
「そ、そうですか…」
これは、あんまり気にしちゃいけないんだろう。そう、人間誰にだって欠点がある。ユリアの場合これだったんだろう。そう思うことにしよう。だから、気にするな僕。さっきまで大人しかったユリアが、なんか酔っ払った親父みたいに近くにあった椅子の背を勢いよくバシバシ叩いてるところが見えてもここはぐっと我慢して無視するんだ!
一通り椅子の背を叩いて(椅子はボロボロ)気が済んだのか、ユリアが説明を続ける。
「その英雄召喚は異世界から人を呼び出す神聖魔法でした。その神聖魔法は代々この国の王家…つまり、わたし達の家系にしか使えないんです」
「神聖魔法…か」
うーん、まずいな。まさか英雄召喚魔法が神聖魔法とは思わなかった。
神聖魔法は先天的な才能がないと使えないはずだから、恐らく僕では使えないだろう。
と言うことは、元の世界に帰る事が厳しいってことになる。
いや、僕じゃなくても他の人間が使ってそれで送り返して貰えればいいのかな?
…例えば目の前のお姫様とかに。
「王家のみってことは…ユリアも使えるの?」
「え?わたしですか?…うーん。試したことないんでわからないですけど…たぶん?」
「まぁ、そりゃそうだよな」
試していたら英雄が出てるかもしれないし…ってなんか英雄の扱い軽くないか?
ってそうだったそうだった。肝心な事聞き忘れてた。
「そういえばその英雄って魔王を倒した後どうなったの?」
この反応によっては僕の今後がかなり厳しいことになる。
一応元の世界に還れるとは聞いているが、還り方がわからないし。
「うーん。そこなんですよねぇ…」
だが、予想に反してユリアは苦笑いだ。
「実はその辺りの歴史が巧妙に隠されているんですよ。その後にも英雄は何度か呼ばれているんですが、どの歴史書にも虫に食べられたみたいにそこだけ抜けてて…」
「隠されている?」
「これなんかが典型的な例ですね」
そう言ってユリアが魔法で呼び出したのか一冊の古そうな本が僕の目の前に飛んでくる。
それを掴んで適当にページを捲ってみると、不自然に何箇所か破られていた。
他の似たような歴史書を何冊か取り出し、そのページに符合する場所を探してみると、その符合するページだけが不自然に破られていたり、燃やされたような痕があったりと徹底して隠している感じが伺える。
最近作られたと思われる真新しい歴史書も開いてみたが、そこだけ不自然に空いていた。
これは既に参考になる部分が消えていたからだろう。
「…なんで?」
「さぁ?当時からこうなっているらしいんです」
「…………」
…なんでだろう?英雄自身が知られたくないと思って故意に隠した?
それとも、ここに書いてはいけないような出来事が起こった?
でも、過去の英雄達が皆揃ってっていうのはいくらなんでもおかしいし、別に英雄が元の世界に還ったことぐらいは書いても何も問題はなかったはず…それなのに書かれていないということは何か問題があったのだろうか?
と、いうことは…英雄ではないとはいえ、同じ異通者である僕が元の世界に還るのも相当面倒なことになりそうだ。
(こりゃあ…帰るの大変そうだなぁ)
そんな事をぼんやりと感じ、ため息を吐きながら持っていた歴史書をパタンと閉じた。