誤解
PVが14000超えててびっくりしました。皆さん本当にありがとうございます!この調子で頑張っていきますので、お付き合いよろしくお願いします。
帝都ウィンベル。
街と城を大きな白い城壁と水が張られた堀で囲まれている国だ。
交易も盛んで、国内の治安も国王がしっかり纏めているのでかなり良い。
その治安と不法入国を守る策として、この国に入るためには跳ね橋を渡るしかない。
いくら戦争が終わって平和になったからとはいえ、犯罪者が減ることはない。
そのため、唯一の入国手段である跳ね橋は厳重な警戒態勢が敷かれていて、入国審査がある。
武器の携帯は基本的に許可されているが、国内で問題を起こせばすぐに牢屋行きとの事だ。
と、ここまでが2~3度来たことがあると言うロナの言葉で説明だ。
そう、問題を起こせば牢屋行きだ。
つまり、何も起こさなければ牢屋に入る事も見る事もない。
普通に国に入れて、ミストさんに頼まれた依頼は簡単にこなせるし。
元の世界に帰るための情報探しは…まぁ、簡単にはこなせないかもだが、ある程度は判ると思っていたのだが、どうやら現実ってやつはそう優しくできてるわけではないらしい…と言うより、非常に理不尽である。
だって、今僕は…。
「なんだって牢屋に居るんだよーっ!?」
力の限り叫ぶ。
牢屋番の兵士が「やかましい!静かにしろ!」と言ってくるが、気にしない、と言うか気にしている余裕がない。
だって!理不尽すぎるから!今のこの状況!
(…しっかし。どうしてこうなったんだっけ?)
僕は何か悪いことしたっけかな?とゆっくりとここに入れられるまでを床に腰を下ろして思い出してみる。
「ほれ、着いたぞ坊主」
「よ、ようやく着いたんですか?」
道中に偶然出会った商人のおっちゃんに思わず聞き返す。
ある程度覚悟はしてはいたのだが、いくら小柄な少女とはいえ、背負ったままこの長い距離を徹夜で歩くのは結構きつかった。
だが、僕はやりとげたんだと実感する。
視線の先には大きな白い城壁、そして澄んだ水が張られた堀を渡るための跳ね橋…話に聞いていた通り、帝都ウィンベルだった。
「しかし、坊主。意外と根性あるな。あの森からその嬢ちゃん背負ってここまで来るとは…」
「た、体力には自信あるんで…」
曖昧に笑ってごまかす。
ぶっちゃけ異世界移動での身体能力の向上が原因だとわかりきっているので、素直に喜べない。
恐らく異世界移動前の僕では背中にこの子を背負ったまま、ここまでの距離を歩くのは絶対に無理だっただろう。
そう、僕はいつまで経っても起きないこの少女を背中に背負ったまま帝都に向かって歩き始めた。
あの場にいつまでも居るわけにも行かないし、少女の足の怪我はきちんとした施設で早めに治療すべきだと思ったからだ。
…ちなみに、背負う際に…その、女の子特有の身体的特徴…みたいな所はなるべく触れないようにローブで包んである。
いや、いくら僕でもそのまま背負うのは抵抗がある…興味が無いわけじゃないけど。
「…とは言ったものの、流石にちょっと疲れたかな?」
「今のうちに休んでおいたほうがいいぞ?何しろ時間がかかるからなここの入国審査」
「やっぱり、どこの世界でも入国審査って時間かかるんだなぁ…まぁ仕方ないんだろうけど…」
そう小声で独り言を呟いた後、背負っていた少女を道端の草原に寝かせ、僕もその隣に座る。
急がなければならないが、少しだけ休ませてもらうことにした。
流石に僕が動けなくなってしまっては少女には悪影響しか出ない。
「じゃあ、坊主。俺は先に行くぞ?悪いが急ぎの仕事なんでな…」
「あ、はい。それより、途中で道を教えてくれたり、食料を分けて貰ったりして色々とありがとうございました」
「いいって事よ。困ってる時はお互い様って言うしな!」
豪快な笑みを浮かべるおっちゃんに片手を上げて答えて後姿を見送る。
うん、良い人だったな。今度会ったらお礼できたらいいなぁ…と考えながらゆっくり辺りを見渡す。
この草原も見たことない鳥や小動物、木々、草花が普通に群生しているのは正直見ていて飽きない。
森の中でも感じていたことだが、もの凄く楽しい。
天気も良いし、こういう所で昼寝したら凄く気持ちいいだろうなぁと思う。
「…こういうのが旅の醍醐味ってやつなのかな?」
そう呟いてから苦笑する。ちょっと前までは修学旅行に行くのも億劫だったので現金な物だ。
「さてと、十分休憩できたし、そろそろ行くとしますか」
まぁ、十分休憩したと言っても5分も経ってないけど、と自分にツッコミながらゆっくりと少女を背中に負ぶさる。
ここに居ればロナたちと合流できるかとも一瞬考えたが、もしかしたら既に先に行ってるかもしれないし、少女の治療も早めに済ませておきたかったので先に進むことにした。
そのまま歩き続け、跳ね橋に近づいてきた。緑色の甲冑を着て槍を持った二人の兵士の姿も見える。
あの人達が入国審査する警備の人かな?とか思いつつ、さらに近づく。
「そこで止まれ。旅の者」
少女を背負ったまま跳ね橋を渡ろうとさらに橋に近づくと、左右から兵士が近づいてきた。
「…なんだ?その少女は?」
「あ、えっと。途中の森で会って…」
「ん?…お、おい!この人は!」
左に居た兵士が少女の顔を覗き込んで慌てて右の兵士を手招きする。
怪訝な顔をしながら右の兵士も少女の顔を覗き込み、慌てて槍を僕に突きつけてきた。
「貴様っ!その場を動くな!」
「は、はいぃ!」
何がなんだかわからないまま直立して両手を挙げようとしたが、両手は少女を支えるのに使っているのでどうしようもできない。
とりあえず、動かなければいいと判断してピクリとも動かないようにする。
(い、一体なんなんだろう。この子もしかして…)
指名手配中の犯罪者?…うん、ありえねぇ。
こんな小さな女の子が犯罪者とか余程のことが無い限りありえないし。
それに森ではちょこっとしか会話してないけど、悪い子って感じはしなかったし。
じゃあ、この国で行方不明になってた人?…あ、これは結構ありそうだ。
でも、そうなると何故一人であの森に居たのかがわからなくなるけど…誘拐でもされてたのかな?
もしそうだとしたら、僕…誘拐犯として疑われてる?
そこまで考えて、「いやいやいや。ないわ。流石にそれはないわ」と自分の考えを否定する。
いくら動転してるとはいえ、一国の兵士。それなりに頭は良い筈だ。
誘拐犯が誘拐した人を背負って連れ去った場所に戻ってくる?絶対ありえないって。
(うん、とりあえず動かなければ悪いことにはならないはずだ)
そう自分を安心させて兵士の動きを見てみる。
最初に少女の顔を覗き込んでいた兵士が跳ね橋の脇にある控え室みたいな小屋に慌てて入っていく。
この少女の親とかに連絡でもしてるのかな?と僕は考えた。
だが、数分して跳ね橋の向こう側から来たのは安堵の笑みを浮かべた両親ではなく、緊張した面持ちの兵士達総勢18名だった。
彼らはすぐに僕の周りをぐるりと取り囲む…あ、あれー?僕、何か選択肢を間違えましたか?
「動くなよ、少年」
先ほどからずっと槍を突きつけている兵士がそう声をかけてくる。
いや、言われなくても動けません。貴方自身と持っている槍から殺気がひしひしと伝わってきてますから下手に動けません。
取り囲んでいた兵士たちが僕に近づいてきて、僕の体の所々に槍を突きつけつつ。
兵士が2名囲っていた輪から外れて少女を脇から支え、僕から引き離す。
ほっとしたのも束の間、リーダー格っぽい少し豪華な鎧を着た兵士がこう告げてきた。
「…よし。少年、事情を聞くために一時身柄を拘束させて貰う。付いて来い」
「…は?」
唖然とする。いや、正直これで終わりと思っていたので、この展開は読めていなかった。
「聞こえなかったのか?一時身柄を拘束させて貰う」
「いやいやいや!僕、何もしてないし!無実だから!こんな理不尽あってたまる…」
抗議の言葉を途中で飲み込む。
槍の矛先を喉元に突きつけられたからだ。
ゆっくりと目だけ動かして周りを見ると、他の兵士達も同様に槍を僕につきつけている。
「それも含めて事情を聞くために拘束させて貰う。とりあえず付いて来い。下手な真似はするなよ?」
「………はい」
ここまできて僕はもう諦めることにした。
たぶん、何を言っても耳を貸さないだろうし。
この場で悪あがきとばかりに、事情を話して嘘とか思われるのも嫌だし、ここは素直に従うことにした。
「…で、ここに入れられたんだっけ?」
ようやく落ち着いてきた頭で情報の整理整頓し、整える。
でも、この理不尽な扱いには腹がたっているので、もう一度叫ぶことにする。
「だからって、真っ直ぐ牢屋に入れんなっー!」
「静かにしろと言っているだろうが、この犯罪者がっ!」
叫んだ瞬間牢屋番に怒鳴り返され、とりあえず深呼吸して少し落ち着こうと思い何度か深呼吸する。
すーはー、すーはー、すーはー、すーはー…よし。ちょっと落ち着いた。
(…うーん。このままここに居て処刑とかならないよな?)
流石にその展開はない…とは決して言い切れないのが、ここ数週間の出来事を思い出してからの結論だった。
だが、逃げようにも魔法では何も出来そうになかった。
この牢屋に入れられる際、両手に鉄の枷をはめられたのだが、この鉄の枷はどうやら魔法使い対策のために魔法を封じる効果が付与されているらしく、魔法が使えない。
ちなみに、試しに使おうとしてみたところ小さな火花が散るだけだった。
(まぁ、こんなチャチな鍵ぐらいなら魔法なんか使わなくても簡単に外せるんだが…)
そんな危ない発言を心の中でしながら、腕時計(どうやらアクセサリーとして判断されたようだ)の裏に仕込んでおいた少し固めの針金を取り出してまっすぐに伸ばす。
実は、今までに何度かこのような鍵を開けたことがあるのだ。
こう言うと「お前泥棒してるのか」と思われるが、これにはちゃんと理由がある。
…いや、ちゃんとした理由ってどんなのだよっていうツッコミはなしの方向で頼みたい。
元の世界に居た頃、友人に仕込まれたのだ。
最初は何故こんな事できなきゃならんのかと尋ねたことがあったが、友人の答えはこうだった。
「あん?覚えておいて損はないだろ?」
うん、確かに損はないかもしれないが、問題は増えそうだぞ?と世界を越えて当時と思ったことと同じ言葉を心の中だけで友人にツッコム。
カチャカチャと小さい音を出しながらで鍵穴を弄くっていると牢屋部屋の入り口のほうが騒がしくなった。
その騒ぎに気づき、すぐに針金を袖に隠す。これを取られちゃ本当に何も出来なくなる。
(…まさか、もう処刑にしろって命令が下ったか?)
だとしたら笑えない話だと思い、少し緊張して牢屋番の声に耳を傾けてみる。
と、誰かが大慌てで今僕が居る牢屋の前まで来た。
「し、失礼致しましたっ!今すぐここから出てください!」
駆け込んで来たのは、あの時のリーダー格っぽい少し豪華な鎧を着た兵士…なのだが、顔が妙に青い。
なんか、押したらすぐに倒れるんじゃないかと思うぐらいガクガク震えているし、声も緊張している。
なにかあったんだろうか?
「え、えと。とりあえず、ここを出ればいいんですよね?」
「そ、そうです…」
妙に慌てている兵士が震える手で牢屋の錠前に鍵を差し込み戸を開ける。
そしてよくわからないまま牢屋を出る僕。
「か、枷も外しますので両手を出してください!」
さらに大きな声で言ってくる兵士…一体何が起こったんだこの人?
としばし呆気に取られながらも両手を前に突き出す。
銅色の鍵が枷の錠前に入り、カチャンッという音と共に枷が地面に落ちる。
それと同時に兵士がすばやく頭を下げてきた。
「この度は大変失礼致しましたっ!」
「え、えーっとすいません。本当に事情がよく飲み込めてないんですが…」
「そ、それにつきましては後でご説明させてもらいますので、とりあえず付いて来て下さいませっ!」
「は、はぁ…」
兵士…もう兵士さんでいいか。は妙な勢いがあってすぐに歩き出したので、少し慌てながら着いていく。
だが、余程慌てていたのか足元に転がっていた枷に足を引っ掛けて盛大に倒れる。
…まじで大丈夫かこの人?
「あ、あの…大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です!ご心配ありがとうございます!」
慌てて立ち上がって先導し始める兵士さん…ホント何があったんだろうこの人…と首を傾げながら、あまり驚かさないように静かにこの人について行く事にした。
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