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妻が消えた日  作者: 橘 瑠伊
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結末

「沢村刑事」


 俺が思考停止している間、警官の一人が沢村刑事の所に来た。


「どうした」


「リビングから大量のルミノール反応が」


 それを聞いた、沢村刑事は俺の方を見る。


「リュウタさんも、ついて来てもらってもいいですか?」


「……わかりました」


 沢村刑事の後についていって、リビングに行く。


「リュウタさん。リビングで、なにがあったか覚えていませんか?」


 俺は、首を横に振る。本当にわからない。


「沢村刑事、テレビ台の下から、こんなものが」


 警察の人が、沢村刑事に見つけた物を渡した。


「これは、指輪?」


 シルバーの指輪を沢村刑事が眺める。その指輪は、見覚えがあった。


「それは、妻の結婚指輪です」


 なんで、妻の結婚指輪が、テレビ台の下にある?


「奥さんの?」


「うっ……!」


 突然頭痛が襲って来た。


「リュウタさん。大丈夫ですか!?」


「はい。大丈夫です」


 なんだ。今の頭痛。


「具合悪かったら、座っていても、大丈夫です」


「ありがとうございます」


 今の頭痛は、ただの頭痛じゃなかった。まるで、脳が直接拒絶して、情報を引き出さないようにしているみたいだ。


「沢村刑事。ゴミ箱から、こんなものが」


 鑑識が持って来たのは、破られた紙の断片だった。


「これは、離婚届。リュウタさん、見覚え、ありますか」


「俺に、そんなものを見せるなぁ!」


 俺は、沢村刑事の手を払いのけた。


「リュウタさん」


 全て思い出してしまった。頭の中で、絶対に開けないと誓った記憶の扉が開いてしまった。


「ミサコなんでだ!? 世界で一番、愛しているのは、俺しかいないんだぞ!」


 俺は、その場でうずくまり、号泣する。


「リュウタさん……」


 沢村刑事の小さな声が聞こえた。


「小池リュウタを重要参考人として、警視庁に連行する」


「はっ!」


 俺は、警官二人に抱えられて、パトカーに乗せられた。



 一九八九年十二月二十二日。先月のドイツで起こったベルリンの壁崩壊。数日前に起こった、アメリカ軍によるパナマ侵攻。世界の情勢が大きく揺らいで行く中、ある男の判決日だった。


 被告人、小池リュウタ。


 彼は、自分の妻、妻の不倫相手だった原田ケンジの二人を、ナイフで殺害し、自宅の庭に埋めた。


「リュウタさん」


 持っているペンに力が入る。


 私の第一印象は、少し気の弱い優しい男性だった。捜査にも積極的に協力してくれた。


 まだ、ベテランには遠いが、十年この業界で生きて来て、ショックで記憶を失った容疑者は初めて見た。


「出会う人や、職場の人間など、環境が違えば、幸せな人生を歩んでいたかもしれない」


 犯人に同情は、してはいけない。しかし、今まで担当してきた事件は、悪意を持って罪を犯す人が、ほとんどだった。


 自分の心が動揺している。


 リュウタ容疑者は、法廷では正直に罪を告白していたが、目に光が宿ってないように見えた。記憶を取り戻した彼は、精神が崩壊して、精神病院に送られている。裁判は、医師立会いのもと開かれた。


 精神の崩壊につながった原因は、妻の不倫に、離婚届を妻と不倫相手に突き付けられたこと。


「リュウタ容疑者の判決は、無期懲役」


 殺人及び、死体を隠した罪は、重かった。


「沢村さん、申し訳ございません」


 彼は、法廷を立ち去る前に俺の方を見て、謝罪の言葉を言った。なにに対して謝ったのか、自分には分からない。


 彼の目は、赤く腫れていた。医師によれば毎晩、自分の妻の名前を呼んで泣いているそうだ。彼は、この後も自分で手にかけてしまった、妻のことを後悔し続けるのだろう。


警視庁刑事課 沢村巡査部長


最後まで読んでくれてありがとう2023/10/03

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