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僕たちのサボタージュ⑥













   僕たちのサボタージュ⑥













そして、のんびり電車に乗っていたらとうとう博多につきました。

博多駅で降りて、あの駅、おっきいじゃないですか。どの出口から出ようって話ですよ。


「どうします?」

「適当にぶらぶらしよっか」


そう、基本的にはトシ君、こういう人。それで結局芽衣ちゃんがウインドーショッピングでもしましょうかとキャナルシティ*10というでかいショッピングモールがあるのですが、そこをぶらぶらすることに。特に買いたいものがあるわけでもなく時間を潰したいからぶらぶらしてるわけで、普段は入らないような店も片っ端から入る。平日ですから、お客さん少ないです。


エスニック雑貨と衣料を扱うお店に入る。

どこの国のものなのだろう?原住民のお面みたいな雑貨が置いてあった。


「見て見て、これ。圭介に似てる」

「そうですか?」

「こっちは春菜に似てる」

「春菜ちゃんはそんな顔してませんよ」


こと春菜ちゃんのことになると、ガードの硬い芽衣ちゃん。


「じゃ、こっちは?」

「……」


さらに眉のあたりが精悍なお面を見せられて一瞬黙ってしまった芽衣ちゃん。ぶっちゃけ、若干、似てました……。しかしだな、標準的な一般日本人女性から見て、似てると言われて喜ぶようなそんなお面ではなかったわけで、それは。


「似てるよね?」

「似てません」

「いや、今、一瞬似てるって思ったっしょ」

「いや、似てません」


大事な人の名誉のために頑固に否定する芽衣ちゃん。その後、衣料コーナーにぶら下がってるふわふわとしたロングスカートを一枚一枚取り出しては目を輝かせる芽衣ちゃん。


「ゾウさんだー」

「象、好きなの?」

「どうですか?」


自分の体にあててトシ君に賛否を求める芽衣ちゃん。その、あまりにもカップルっぽい行為にとでもいうのでしょうか、スカートが芽衣ちゃんに似合ってたからとかいうのではなく、トシ君、ぶっちゃけ泣きそうなくらいじんとした。


「かわいい」

「じゃ、こっちは」

「そっちもかわいい」

「ちゃんと見てます?」


一方、芽衣ちゃん的には、相手が母親だろうが、春菜ちゃんたちの誰かであろうが、トシ君であろうが、特に区別はなく深い意味のない行為でした。芽衣ちゃんがジーパンなんかではなくデートっぽい格好をしてきて、普通の恋人同士みたく二人でお店を見て回ってることにまだ感動しているトシ君をほっといて、今度はワンピースを見始めた芽衣ちゃん。


「流石にこれはどうでしょう?」

「……」


それは、深い緑のちょっと光沢のあるゆったりとしたワンピース。すとんとしたシンプルなデザインでした。


「うーん」

「流石に、ですよねぇ」

「いや、タイとかに旅行に行ったらみんなそんなのきてそうだけど、日本できたら目立つよね。占い師みたい」

「ですよね」

「ただ」

「ただ?」

「芽衣ちゃんなら、ぎりぎり、そういうの着ててもしっくりくるかも」

「それ、どういう意味ですか?」

「上手く言えないけど、芽衣ちゃんってそういう不思議なの似合う」

「つまり普通じゃないってことですね」


いまいち噛み合わない会話を繰り返しつつ、芽衣ちゃん手に持ったワンピースを両手で目の前に持ち上げ眺める。


「着てみるか」

「え、買うの?」


まさか、買うと思ってなかったので、驚くトシ君。咄嗟に頭の中で、その緑のワンピを着て、傍にでかい水晶玉抱えた彼女が見えた。占い師、芽衣。


「違いますよ、着てみるんですよ。暇だし」

「へ?」

「ついでに、トシ君、これ、着てみてくださいよ」

「は?」


彼女が彼に手渡したのは、ハッピーな象さんが右を向いてゾロゾロ歩き、そのすぐ下の段では左を向きながらゾロゾロ歩く柄の、最高にハッピーな水色のゆったりしたズボンです。インド映画で俳優が履いて踊っていそうな。


「いや、無理でしょ?絶対似合わないよね?」

「だからですよ」

「は?」

「暇だし、みてみたい。絶対似合わない服を着てるトシ君」

「え、やだし」

「さ、わたしもこの緑のワンピース着ますから」

「いや、芽衣はぎりぎり、似合うし」


エスニック衣料を片手に揉めてる恋人たちの元に忍び寄る店員さん。


「ご試着ですかー?」

「お願いします」

「2点でよろしいですか?」


そこでチラッとトシ君の方を見る芽衣ちゃん。トシ君、この日、シンプルな薄いグレーの薄手のトレーナーをジーンズの上に着てたんです。明らかに象さんのハッピーさに対して、地味過ぎます。


「このズボンに合わせて上も何か適当に見繕ってもらえます?」

「そうですねぇ、こちらなんかいかがですか?」


最初、店員さんが持ってきたのは、透け感があってちょっとだけ光沢のあるリネンの黒のシンプルなゆったりとしたカットソー。ちょっとホッとした顔になったトシ君。しかし、遮る芽衣ちゃん。


「ああ、折角だからもうちょっと派手なのがいいです」

「……」

「派手なのですか?」

「ええ、折角ですから」


そこで、店員さんが持ってきたのは……、薄い黄色で、ド派手な紋様の入ったトップス。なんつうか、マハラジャ?みたいな。


「これ、本当に着るの?」

「いいから、いいから、ね」


そして、彼女に試着室に服と一緒に放り込まれた。その横に入るとちゃっちゃと着替えて、フィッティングルームから出て来た芽衣ちゃん。しかし、待てど暮らせど、トシ君が出てきません。


「トシ君、まだですか?開けますよ」


試着室のカーテンを開けようとしたら、カーテンの隙間から顔だけ出してきた。


「ね、本当に見せなきゃダメ?」

「なにを言ってるんですか。折角だから見せてくださいよ」


もしそこでカーテンを引いて、実は着替えてなくて下着姿だったらどうするんだよって問題はあったんですが、その場合、少なくとも店番をしていた女性店員さんは、眼福と思いながら感謝こそすれ怒るなんてことはなかったろう。


ま、しかし、素直なトシ君、嫌がりながらもマハラジャ服を着てたんです。カーテンを無理やり引いたにわか占い師みたいになってるが妙にそれが似合う芽衣ちゃんと、イケメンの彼氏さんの変身した姿に興味のあった店員さん。フィッティングルームの目の前で、二人の女が並んで開けられるカーテンの前に立った。


「……」

「……」


そして、二人とも絶句した。


「だから、やだって言ったでしょ?」

「いや……」

「うーん」


本来ならここで商売なのでお世辞の一つも言わなければならない店員さんも芽衣ちゃんと一緒に唸った。


「微妙に似合うのが怖い」

「服で人間、ここまで別人に……」

「つうか、服も派手で、顔も派手だと、人間、ここまで迫力が出るものなのか」

「どこぞのインディアンレストランのオーナーみたいですね。彼氏さん」

「ああ、もう、着替えるっ」


あまりもの変化に呆然としている二人の前でピシャッとカーテンが閉じてしまった。そのカーテンに追い縋る芽衣ちゃん。


「ああ、トシ君、折角だから写真撮らせてくださいよ」

「絶対やだ」

「誰にも見せませんから」

「絶対嘘だし」


ちえっ!

で、結局、何も買わずにその店を出た。


「さすがにあそこまで試着して、なにも買わないって感じ悪くない?」

「なに言ってんですか。試着されたからといって何か減るもんでもなし」

「でもさ」

「着てみなきゃ服なんてわかんないんですから、いいんですよ」

「ふうん」


芽衣ちゃんって学校ではどっちかというと大人しい人なんだけど、こういうところでは強引なんだなと思うトシ君。ぷらぷらとあてもなくモールの中をゆく傍で芽衣ちゃんが声をあげる。


「あっ」


なぜだろう?その嬉々とした声の調子に芽衣ちゃんが指を指してる方角を見る前からちょっとぞくっとしたトシ君。


「ね、次はあのお店行きましょう」

「あれ?」


嫌な予感は的中した。


「これ、芽衣が買うような服じゃないよね?俺の趣味でもないし」

「だからですよ」


チーン


芽衣ちゃんがトシ君を引きずっていったのは、アメリカンアーミーテイストのお店。わかりやすくいうと、昔で言うなら……


「これこれ、トムクルーズのトップガン*11って感じですね」

「絶対、嫌だから」

「絶対、似合いますって」

「俺の趣味じゃないから」


背中にばっちし鷹か?鷲か?のマークの入っているアメリカ空軍がはおりそうなフライトジャケット……。


「それならまだこっちの方が」


必死で棚の上に並べてあるグレイのトレーナーを取り、広げてみるトシ君。無地のシンプルなトレーナーで背中にUSアーミーから始まり黒字でロゴが入ってる。芽衣ちゃん、じっとその広げられたトレーナーを見る。


「それ、今着ているトレーナーとどこが違うんですか?ほとんど一緒」

「……」

「さ、トムクルーズになったと思って」


そして、暇なのでってことで、鏡の前で、自分だったら絶対手にも取らないような男臭いブルゾンを羽織らされました。


「うーん、いまいち似合わないな」

「俺、こういうの好きじゃないし」

「顔が綺麗すぎるんだよね」

「……」

「こう、ヒゲはやして、髪の毛とか適当に伸ばして、ボサボサにしたら似合うかも」


そして、トシ君の髪を背伸びしながら手を伸ばしていじり、ボサボサにしようと試みる。いまいちボサ感が出ません。


「こう、ロン毛とかしてみたらどうですか?」

「何のために?」

「新たな自分に出会うため?」

「……」


ロン毛になって、後ろで一つに結び、髭を生やし、この素敵な緑色のブルゾンを羽織ってる自分を想像してみた。……なんかそこまでやっても弱そうでした。そんなトシ君の想像を見たわけでもないのに芽衣ちゃんも腕組みしてトシ君を眺めながら思案し、眉を顰める。


「なんか、どう頑張っても、いいとこのお坊ちゃんがいきがって空軍入って、すぐに敵に撃ち落とされました、みたいなことになりそうですね」

「……」

「主人公の親友で、映画の最初だけ出てきてすぐ死ぬ脇役みたいな」

「もういいから」


ほっとけば永遠に続きそうなキャスティングについて遮った。そして、もちろんなにも買わずにこの店も出た。それから芽衣ちゃん、淡々という。


「なんかそういえば、トシ君っていっつもシンプルなもの着てますね」

「そうですね」

「色とかも暖色系とか着ないですね。黒とか青とか白とか中心だし。あとグレーとか。それに茶色か」

「はい」

「つまんなくないですか?」

「男なんてそんなもんじゃない」

「え、そうでもないでしょ?」


芽衣ちゃんにぐちゃぐちゃにされた髪を適当に首を振って直しながら歩くトシ君についてく芽衣ちゃん。


「ま、でも、普通の男子ならトシ君くらいシンプルな服着たら埋もれちゃうけど、トシ君ならね」

「はぁ」

「普通の男の子は外さない程度に少しは遊ばないと、その他大勢で終わっちゃうんですよ」

「そうなの?」

「でも、いっつも同じような色の服着て、つまんなくないですか?」


そこでトシ君、ふと立ち止まって芽衣ちゃんの方を見て、淡々と言いました。


「俺、目立ちたくないんだよ」


芽衣ちゃん、それを聞いて、ポカンとした。

目立ちたくなくて極力シンプルな形のベーシックな色のものを選んでいたなんて、思ってなかったので。ただ、そこまでしてトシ君がそんな平凡な服を着ても、トシ君って目立つし、それに他の人が着ると別に何の変哲もない服が、トシ君が着るとちょっといいやつに見えるんですよ。同じ服なのに。いろいろなことを考えながら、芽衣ちゃんがポカンとしていると、トシ君はつまらなさそうな顔でポツポツと話し始めた。


「芽衣は、中学から来てるから知らないだろうけど」

「はい」

「俺、小学校の時って背ももっと低かったし、顔もこんなだし、性格も大人しいしさ」

「はぁ」

「あの頃は母親が用意する服、素直にそのまま着てたけど、赤とかオレンジとかそういう服着ると、女みたいって揶揄われてたことがあったの」

「えっ」


出会った時から、この人、ひなたキャラだなと思って疑わなかった芽衣ちゃん。まさかトシ君にそんな過去があったとは露にも思いませんでした。


「だから、目立つ服を着るのが嫌いになっちゃったの」

「それは、どうも知りませんで、さっきははしゃいでふざけちゃってすみませんでした」


芽衣ちゃん、ちょこんと頭を下げた。


「芽衣が俺に謝るなんて珍しいな」

「人聞きの悪い。まるでわたしが自分が悪くても謝らない人みたいに言わないでください。わたしは自分が悪いと思ったら謝ります」

「でも、いっつも、どっちかって言ったら俺の方が謝ってるよね?」

「それは、トシ君の方が、謝らなければならないようなことをしてるからです」

「そうか」

「そうですよ」


で、何の話をしてたんだっけ?


「いこ」

「どこへ?」

「いや、別にぷらぷらと」


そう言って笑うと、立ち止まってる芽衣ちゃんの手を取って軽くエスカレーターの方向へ引っ張るトシ君。トシ君が笑ってるのを見た時に、ちょっとホッとした芽衣ちゃん。並んでエスカレーターに乗って上へ上がる間、芽衣ちゃん、ちょっと黙りました。黙ってから言った。


「大変でしたね」

「え?」

「いや、だから……」

「ん?」


トシ君が上からちょっと見下ろして、芽衣ちゃんが下からちょっと見上げてる。


「あ、ああ……。いや、大したことないし」

「でも……」


ちょっと殊勝な顔になって芽衣ちゃんが繋いでた手を握る力をちょっとだけきゅっと強くした。


「よく考えたら、トシ君にはいっつも励まされてばっかりで」

「へ?」

「なんかやなことあったらわたしに言えばいいですよ。トシ君も」


その顔は、主人を守ろうとしてる凛々しい子犬のようだった。


「その気持ちは嬉しいんだけど、黒歴史みたいなの、別にそんなないしな」

「よく考えたら、わたしばっか過去のいろんな話して」

「うん」

「不公平な気がしてきた」

「そう言われても……」


エスカレーターを降りて、あてもなくぷらぷらしながら、軽く目を瞑って自分の黒い歴史を探るトシ君。そして、不意に思いついた。


「歴史というか、現代史?」

「何の話ですか?」

「昔の話ではないんですけど、励ましてくれるっていうなら、芽衣が俺にもうちょっと優しくして」

「いつわたしがトシ君に優しくしなかったんですか?」

「過去のことはもう不問にふしますので、これから優しくして」

「いつも優しくしてますよね?」


いまいち会話が噛み合っておりません。


「あ、ちょっといいですか」


そして、会話は強制終了し、芽衣ちゃんは見たいお店を見つけてトシ君の手を引っ張る。それは、お店自体はどっしりとした高級感のある木のインテリアで、ショーウィンドーには赤やピンク、水色。フリルや刺繍の豪華な服が飾られている。


かわいい、けど、こりゃまた派手なと思うトシ君。

引っ張られるままにお店の中に入り、商品を次から次へと手に取ってみてる芽衣ちゃんを視界に入れつつ、あちこちに飾られている服を眺めながらいう。


「芽衣ちゃんが、これ、着るの?」

「あれ、わかりません?」


そして、今日、履いているスカートをつまんで持ち上げてみせる。


「え、このお店のなの?」

「そうですよ」


それから、慣れた手つきでかけられている商品を一つ一つ眺めながら話す芽衣ちゃん。


「飾られているのは結構派手で、流石にあそこまでのは着こなす自信ないですけど、よく見ればもう少しテイストが抑えめな服もあるんですよ、ほら」

「あ、かわいい」


赤い大きめのギンガムチェックのワンピースが出てくる。


「それにこんな感じですかね?」


薄いベージュのコートを合わせる。


「かわいい、芽衣に似合いそう」

「でも、こっちの色違いの方がいいかな?」


それは同じワンピースの黒で、それに紺色のコートを合わせる。


「いや、赤のほうがかわいい」

「よく言いますね」

「ん?」

「自分は赤なんて絶対着ないのに」

「……」


それから鏡の前で赤と黒を交互に体に当てて見ている芽衣ちゃん。


「わたしは……」

「うん」

「服は自分を変えるためのアイテムのようなものだと思ってるんですね」

「……」

「自分に似合うかどうか、服に負けないかとか色々悩むけど、パッと見た時に可愛いって思ったものをその時にできるギリギリのところまで頑張ってきてるんです」

「頑張って……」

「頑張らなければ似合わない服が似合う自分になろうって思って」

「……」


自分の体に当ててみてた服を一つ一つ丁寧に戻すと、芽衣ちゃん、トシ君に向かって笑った。それから手を捕まえて店の奥へと引っ張った。


「なに?」

「ここ、メンズもあるんですよ」

「え、また?」

「さっきは無理矢理着させてすみませんでした」


こんな派手なお店の服、女の子が着るのならいいけど、男はどうしようもないだろと思いつつ、やっぱり引きずられてゆくトシ君。


「無難なもの、地味なものって選んで、黒とか青とかばっか着てても、トシ君の顔立ちなら綺麗に纏まるんでしょうけど、たまにはこんなものも着てみたら?」


そして、芽衣ちゃんが手に取ってきたのは赤い細かいギンガムチェックのシャツでした。


「いや、赤は……」

「体にあてるだけなら平気でしょ?」


芽衣ちゃんにあてられて、鏡の中に赤いシャツを着た自分が現れる。

なんか、それが、不思議な感じでした。


「……」

「そこまでギョッとするほど、似合わないわけじゃないでしょ?」

「確かに、思ったよりは」

「むしろ、トシ君の優しい感じって、こういう優しい色を着たほうが前に出ると思いますよ」

「優しい感じ?」

「ま、でも、流石にいきなり赤は着られないと思いますから、いっつも着ている灰色でどうでしょう?」


今度はまた、マジックみたいに別のプルオーバーが出てくる。それは柔らかなグレイで、色はシンプルなんです。形もシンプルなんだけど……。


「ディテイルがかわいい。えりとか袖とか」

「そうですね」

「これ、俺に似合うの?」


すると、芽衣ちゃん小首を傾げた。


「やっぱ似合わないよね?」

「わたしの個人的な意見を言えば、トシ君のポテンシャルなら、その気になればかなり幅広い服を着こなせると思いますよ」

「こんな服でも?」

「似合いますね、かわいい服」

「……」

「ただ……」

「ただ?」

「好きかどうかですよ。選ぶのは自由なんで」

「……」


そういうとトシ君に持たせてたそのかわいい服をそっと受け取り、また丁寧にもとあった場所に戻した。


「こんなんもありますよ」

「また、赤か」

「でも、この赤は褪せた色ですから」


フード付きの赤いパーカー、手に取ってみたときはギョッとするほど派手なのだけど、それを鏡の前で自分にあててみると、また、不思議な感じだった。


「なんか、俺じゃないみたい」

「だけど、そこまで違和感ないでしょ?」

「たしかに」

「顔が綺麗だから、何を着ても似合うのに……」

「……」


言いかけて芽衣ちゃん、その先の言葉をのんだ。


「ま、でも、顔の綺麗な人には綺麗な人なりの大変さというか、辛さがあるのかもしれませんね」


それだけ言うとまた、そのパーカーをそっともとあった所へ戻しました。


「お腹空きました」

「あ、もう、こんな時間なってたんだ」


それでまた二人で何も買わずにお店を出る。時間はたくさんあって、でも、自由になるお金はそんなにたくさんない。ぶらぶらと歩いて目についたお店でなんか食べよと歩き出すトシ君。それなら行きたいお店があるとトシ君の手を引っ張る芽衣ちゃん。


たどり着いたのは、星乃珈琲店。*12


「これとこれ」


席に座ると芽衣ちゃん、独裁的に勝手に注文した。


「なんで俺に何も聞かずに注文してるの?」

「どっちも食べたかったんです」

「はぁ」

「半分こしましょ。ね?」

「まぁ、いいですよ」


すると、既に注文が終わったのだけどそれでもメニューを広げて眺めながら、ワクワクしてる芽衣ちゃん。その様子を眺めていると、トシ君、満たされた。好きな人が自分の目の前で楽しそうにしていると、自分も嬉しい。


「何を頼んだの?」

「窯焼きふわふわスフレドリアと厚切りカツサンド&ポテトです」

「メニューをまんま律儀に答えなくてもいいんだけど」

「むふふ」


人の声が聞こえてない。


「芽衣ちゃんって結構食いしん坊だよね」

「そのことで、トシ君に何か迷惑をかけたでしょうか」

「いや、文句を言ってるわけじゃないんだけど」


会話が微妙に成り立たないのですが、そのことにも慣れてしまった。ぷらぷらとあてもなく割と歩きましたよね。ちょっと疲れたなとお店の背もたれによたれかかってガラス窓から外を眺める。こちらはテーブルに前のめりになってオーダーが来るのを待ってる芽衣ちゃん。そんなトシ君を眺めながらポツポツと話しました。


「顔の綺麗な人には」

「ん?」

「悩みなんてないんだろうって思ってました」

「え?」

「多分そういうふうに思ってるの、わたしだけじゃないと思うけど」


顔が綺麗と言われたトシ君、背もたれに寄っかかったまましばしぼうっと外を見る。


「悩み、ねぇ……」


唐突に話題を振られて、しばしそのことについて考えてみた。


「そもそも悩みのない人間なんていないと思うのだけど、どうして悩みがないなんて思われるのだろう?」

「それは……」


禅問答のようになってきましたが、今度はこちらで芽衣ちゃんが頭を捻らせる。


「顔とか外見に対する悩みを持っている人が世の中に多いからですよ」

「ああ……」


ちょっと憂鬱そうな顔で頷くトシ君。


「ま、でも、とにかく」

「とにかく?」

「トシ君が、インディアンレストランのオーナーっぽくなろうが、ハーレーダビットソン*13にまたがるようなおっさんくさくなろうが、オカマみたくピンクの服を着ようが」

「おかま……」

「トシ君が自分でそれが楽しくてやってるんなら、わたしは応援しますから」

「……」


その言葉は芽衣ちゃんらしく少し明後日の方向に的外れでしたけど……


「芽衣、もしかして、励ましてくれてるの?」

「よく考えたらトシ君にはいつもお世話になりっぱなしで」

「うん」

「だけど、自分に何かトシ君のためにできることなんてないって思ってました。そもそも、トシ君に助けてあげなきゃいけない事項があるなんて思ってなかったので」

「芽衣ちゃん……」


ちょっとジンとしながらトシ君、こういう珍しい機会を最大限きちんと利用しようと思う。


「芽衣ちゃんが僕のためにできることはたくさんあります」

「そうなんですか?」

「もうちょっと優しくして」

「わたしが優しくないことなんてありました?」


つい先程のやりとりアゲイン。チーン


*10 キャナルシティ

キャナルシティ博多。南北に走る運河を中心に、ショッピングモール、レストラン、シネマコンプレックス、劇場、ホテル、オフィスビルなどからなる大型複合施設。(参照 Yahoo!Travel)


*11 トップガン

1986年アメリカ映画。カリフォルニア州ミラマー海軍航空基地。そこにFー14トムキャットを操る世界最高のパイロットたちを養成する訓練学校、通称『トップガン』がある。(参照 Yahoo!シネマ)


*12 星乃珈琲店

日本レストランシステム株式会社により運営されているコーヒーチェーン店。2011年、埼玉が1号店。


*13 ハーレーダビットソン

アメリカ合衆国のオートバイ及びオートバイメーカー。1903年にウィスコンシン州で設立(Wikipedia参照)



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