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僕たちのサボタージュ⑤













   僕たちのサボタージュ⑤













一方トシ君の方はというと、駅前で芽衣ちゃんを待ちながら何も考えてませんでした。なーんも。まさかその頃自分の彼女が自分はポスト007だなどと息巻いているとも知らず、のほほんと突っ立ってました。芽衣遅いなと。


そしてふと気づいた。少し離れた右側をゆく女の子。なんか赤ずきんちゃんではないんですが、青いペーズリー柄の頭巾を頭に巻いて、マスクして前を真っ直ぐ見て歩いてゆく。


あれ、芽衣じゃね?


体つきと、それと着ている服がですね、芽衣ちゃんが普段好きで着ている服と傾向が似ている。芽衣ちゃんはどこをどう間違ってもセクシー系の服は着ません。どこかちょっとフォークロアなテイストを感じさせるガーリッシュな服が好き。その女の子は小花柄のロングスカートを履いて、ひたすら頑固に前を向いて歩いていた。


本人かどうかちょっと自信のなかったトシ君、近寄って声をかけた。


「芽衣?」


すると、少し怪しい少女はぴたりと立ち止まった。そして、こっちを向くと無言でギロリと睨まれた。


「……」


そして、その怪しい少女はやっぱ芽衣だった。なんで睨まれるんだろうと思いながらトシ君が声をかける。


「何やってんの?」


すると、少女はまたギロリと睨むと手のひらをグッと前へ押し出し近寄るなとでもいうようにトシ君の行動を制すると、チラッと上方を見る。その視線に釣られてトシ君も上を見た。別に何もないんだけど、何?駅の天井をしばらく眺めていると、また芽衣ちゃんトシ君をほっといて券売機の方へとフラフラ歩いて行くじゃないですか。


「え、ちょっ、待って」


するとここでまた睨まれる。そこで近寄るのを諦めてぴたりと止まる。その後また芽衣ちゃんチラリと上を眺める。一緒に眺めた。そしてやっとわかった。ああ、多分……。


芽衣ちゃんが眺めていたのは駅構内にある監視カメラでした。


その後またそそと芽衣ちゃんがトシ君をほっといて券売機の方へ行ってしまうので、並んで歩くのを諦めてトシ君も彼女に続き、芽衣ちゃんが福岡行きの切符を買うのを遠目に眺めつつ自分も彼女の隣の隣の券売機で切符を買いました。切符を買った芽衣ちゃんは相変わらずトシ君を放置したままで改札口へと行ってしまう。やれやれとそれに続くトシ君。


ホームに並びベンチに腰掛けたので隣に行こうとするとやはり睨まれるので、相変わらず近寄るなということなのだろうなと思い、青頭巾のようにハンカチを被りマスクを被った謎の少女と少し離れたベンチに自分も座り、そこから芽衣ちゃんを眺める。


トシ君は芽衣ちゃんを眺めてて、芽衣ちゃんはじっと虚空を眺めている。何見てんだろと思ってその視線を追うと……。やっぱそれ、監視カメラだし。順繰りにあっちこっちと構内にある監視カメラの位置を確認していた芽衣。


……なに、やってんだろ?黙々と淡々と順繰りに監視カメラを人相の判別できない状態のまま眺めている芽衣ちゃんを微妙な気分で観察していたトシ君。


しばらくすると電車が滑り込んできました。

一旦電車に乗ってから、今度こそ大丈夫だろうと自分の隣の隣の車両に乗り込んだ芽衣ちゃんの方に車両伝いに向かう。座席に一人でちょこんと腰掛けているのを見つけた。通勤通学の時間はもう過ぎていて、車内の人はまばらでした。


「芽衣」

「……」


電車の中に入っても相変わらず青頭巾、こっちによるなとでもいいたげに無言で威圧してくる。


「ね、さっきからなにやってんの?」

「あっ」


威圧する彼女を無視してすぐ隣にすとんと座ると変な頭巾を取った。


「なにするんですか?」

「なんでマスクしてんの?風邪引いた?」


マスクも取られるかもと思ったのかマスクを手でおさえながら、不安そうにホームを見る芽衣ちゃん。電車はドアが閉まり走り出した。それを見てほっと一息つくと、右の耳、左の耳と順番に自分からマスクを取って、リュックのポケットにしまった。


「ね、なにしてたの?」

「トシ君と一緒にいるのをカメラに残したくなかったんですよ」

「は?」

「調べられたら、サボっていた証拠になるでしょ?」

「……」

「わたし、一人なら中村芽衣だって判別されない自信があるけど、トシ君、目立つんですよ」


ぶつぶつと言っている。しばらく、芽衣ちゃんの言ってることを頭の中で整理するトシ君。


「刑事ドラマの見過ぎだよ」

「え?」

「犯罪事件でも起こったのならともかく、高校生の子が二人学校サボったくらいでどこの誰が監視カメラの映像を調べるんだよ。アホらしい」

「……」


カタンカタンと平和な音を鳴らしながら、電車は福岡へ向かってます。アホと言われてちょっとカチンときた芽衣ちゃんをのせて。


「でも、トシ君は目立つんですよ。どこで誰に見られているか。学校に行く途中で見たって証言が上がる可能性は高いですっ」

「ああ、まぁ、それは」

「それで、おかしいなってなって、もしかしたらサボったのかもって監視カメラの映像をですねぇ」

「そんなん別に本人に確認して終わりじゃね?どこをどう通ったかもわからないのにあちこちの監視カメラの映像を許可もらって集めてチェックするなんて」

「……」


そして、教師に呼び出され、お前、昨日学校サボってたのかと聞かれたら、なに言ってんですか先生という。普段の素行も問題はないし、教師だってぶっちゃけめんどくさい。たいした問題でないならあやふやに終わらせるだろうという目算がトシ君にはある。


「働き方改革始まってるのに、どれだけ教師を働かすんだよ」

「それは……」

「めちゃめちゃに恨み買ってたらありうるかもだけど、でも、そもそも、高校生が授業サボったぐらいで監視カメラの映像、借りられないでしょ?」

「……」


カタンカタン


世の中の日陰をヒタヒタと歩いてきた女子と、世の中の日の当たる場所をスタスタと歩いてきた男子の思考はこのくらい違う。芽衣ちゃんの頭の中ではいまだに自分以外の人間が隙さえあれば自分を貶めようと虎視眈々と狙っているのである。そして、監視カメラの話は終了する。


「これかわいいね」

「触んないでください」


小花柄のスカートをつまんでもれなく怒られるトシ君。怒られてもホクホクしてました。この時、言わずもがな前回二人で福岡に行った時のことを思い出してた。あの時、芽衣ちゃん似合わないジーンズ姿で、野球帽かぶって、伊達メガネかけて、本人曰くなんか用事があって男の人と歩いている、デートではない女子を装ってたし。


「芽衣、やっぱ、スカート履いてたほうがかわいい」

「そうですか?」

「うん」


あの時は電車で並んで座ってもくれなかったしな。あの時に比べれば少しは前進したと言ってもいいのかな?昔のことを思い浮かべながら、これも怒られるかなと思いつつ、手を伸ばす。膝の上に置かれてた芽衣ちゃんの手の片方を捕まえて、自分の膝の上にのせて、両手で挟んだ。


「……」


芽衣ちゃんがつとこちらを見る。電車の中でなにも言わずに見つめ合った。


「スカートに触ったら怒るけど、手は怒らないの?」


つい余計なこと言っちゃったので、するりと抜かれてしまった。


「ごめん。ごめん。もうからかわないから」

「……」

「これもプレゼントだと思って、さ」


ため息つかれた。だけど、芽衣ちゃん、もう一回手を取られても怒らなかった。

きっと世の中のたいていの男の子と女の子は大事なことは言葉にしていないんじゃないかな?ただ、手に触れても怒られなかったというのと、怒らなかったという事実を道標のようなものにして、そのさらに先へと進もうと思うわけで。


思うにその人のことを本当に好きなのかどうかについて時に悩む人はいると思うし、その判定はそれなりに難しいと思うのですが、少なくとも嫌いかどうかについては簡単で、手を繋いでみれば良い。手を繋がれてなんかやだなと。違和感を覚えればもちろん好きではないし、むしろ嫌い。


そして、その時、トシ君は芽衣ちゃんの片手を自分の膝の上に両手で挟みながら、シンプルに幸せで、一方芽衣ちゃんは、ちょっと困ってました。手を他人に預けたままで真っ直ぐ前を見て、窓外を過ぎ去る景色を眺めながら。


考えるより先に咄嗟に、無理、ダメと拒絶するはずだったのに、なにがどこを通りどうなって、結局トシ君とこんなとこで仲良く手を繋いでいるのだろうなと。でも、どんなに何度も断ってもなんか気がつくとまだそこにいて、そうこうしてるうちにトシ君が自分のそばにいるという状態に慣れてしまいました。


もともと、嫌悪感を感じてたわけじゃなくて、ただ、新しい存在を自分の生活に受け入れたくなかった。それは混乱をもたらしてくるし……。でも、トシ君という存在がいることに慣れてしまった今となっては……


「なに?」

「いや、別に」


前を眺めるのをやめて隣を眺める。すぐ近くで芽衣ちゃんを見ているトシ君がいる。


今となっては、トシ君が綺麗さっぱり自分の生活からいなくなってしまうと、それはそれで、きっと自分は混乱してしまう。


「今日、どこ行きたい?」

「考えてなかったんですか?」

「ごめん、サボるというのがメインだったんで」

「じゃあ、水族館に行きたいです。あのマリンワールド*9」

「あ……」


トシ君、芽衣ちゃんの顔を見ながら間違えて食べてはならない花山椒(←中華料理でピリピリするやつ)を食べてしまった人のような顔をした。


「だめ?」


こっちに投げてきたのにダメなんかいと思いながら小首を傾げる芽衣ちゃん。


「その、午後にちょっと芽衣を連れていきたいとこがあって」


芽衣ちゃん、その言葉にきょとんとした。


「マリンワールドはせっかくだから一日使える別の日に」

「どこですか?」

「えっと、それはお楽しみ」


その言葉にまたきょとんとしてトシ君の顔をまじまじと見た。


「なに?顔に何かついてる?」

「目と鼻と口が」

「それは誰でもついてるでしょ?」


この布団で寝ると、寿命が延びますと言いながら布団を売る販売員のような胡散臭さをもう一度トシ君に感じる。


「珍しいですね、トシ君が行く場所を決めてるとか」

「ああ、すみませんね。いつも芽衣任せで」

「本当は……」


芽衣ちゃん、取り調べ中の刑事のように目を細くしながらトシ君の表情を探る。


「サボるのがメインとか嘘ですね」

「なにを急に言い出すの?」

「なんか隠してますね?」

「……」


トシ君を追及しつつ片手を預けたままで自分の体をトシ君に押し付ける。


「芽衣ちゃん、僕としては嬉しいですが、ちょっと近いです」

「……」


やっぱりなんかあるなと。しかし、まぁ、今日のうちにその謎は解けるということか。前のめりになっていたのを後ろに引いて、ついでにぱっと預けてた手を離しました。


「え、怒った?」

「いや、別に」

「よかった」


するとまた、あの、ちょっと胡散臭いトシ君の営業スマイルが戻ってくる。綺麗な顔で綺麗に笑う。で、また、芽衣ちゃんの膝の上に帰った片手に手を伸ばす。


「……」


あからさまに握られた手をしばし預けたのちに、さりげなく外したのですが、また、それをあからさまに握るのかよと。ちろりとトシ君を見る芽衣ちゃん。いつものようにため息が出た。


「あ、嫌なら、外す」

「別に構いませんが」


自分からさりげなく手を繋ぐほどにトシ君のことが好きなのかどうかはわかりませんが、あからさまに繋がれた手をあからさまに外すほど、嫌いではない。ま、別にいいかと。深く考えるのはやめました。無駄だと思って。


*9 マリンワールド

マリンワールド海の中道 福岡にある磯崎新の設計による貝殻をモチーフにした白い水族館。人気を集めているのがラッコのプール、アシカやイルカのショー。(参照 Yahoo!Travel)


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