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僕たちのサボタージュ③













   僕たちのサボタージュ③












   

それから数日後、自宅にいた芽衣ちゃんのスマホが震える。画面を見ると松尾俊之と名前が出ている。


「はい」

「あのさ、芽衣ちゃん」

「なんですか?」

「今、公園にいるんだけど」

「はぁ?」

「ごめん、お風呂入ってた?」

「入ろうと思ってました」

「ちえっ」


服の着てない彼女と会話したかった男子高校生の夢は破れる。しばらくするとぷりぷりした顔の芽衣ちゃんが現れた。芽衣ちゃんが横のブランコに座ると、手を伸ばして芽衣ちゃんの髪を 一房

ぎゅっと握ったトシくん。


「何すんですかっ」


芽衣ちゃん、さっきから血圧上がりっぱなしである。


「いや、さっきあんなこと言ってたけど、ほんとはお風呂入ってたのかなって」

「入ってませんって。こんなことで嘘ついてどうすんですかっ」


証言を裏付けるように濡れていない一房の髪を、トシ君の手のひらのうちから引っこ抜く芽衣ちゃん。


「大体、この公園に来る必要はもうないですよね?」

「なんで?」

「別のところで普通にあってるじゃないですか」

「うん」


芽衣ちゃんとトシ君の人目のないところで会いましょうという期間はもう、なんとなく自然消滅的に終わりを告げていてですね、トシ君が芽衣ちゃんに会いたくてこの公園に来ることも最近はなかったんです。


「用事があるなら電話で済みますよね?」

「いや、顔を見ながら話したくて」


この時、芽衣ちゃん、何かピンときた。ニコニコと綺麗な営業用スマイルのような顔をしているトシ君から、まるで、ただの布団を奇跡の布団でこれに寝ることでもってあなたの寿命は伸びるとでも言いつつ、高値で売りつける人のような胡散臭い何かが出ている。


まぁいい。お手なみ拝見と行こうではないか。何を売りつけてくるのかこの営業マン。


「で、話ってなんですか?」

「僕の誕生日の話なんだけど」

「……」


芽衣ちゃん、しつこいなと思いました。しっかり一文字ずつ脳裏に刻み込んで思いました。

し、つ、こ、い、な。


「プレゼントが欲しいんです」

「もう過ぎましたよね?」

「過ぎても欲しいんです」


綺麗な顔で、綺麗な笑顔でそう言い切るトシ君と、じっとそれを見る芽衣ちゃん。ため息をつきました。ため息をつかれても、びくともしないトシ君。


「何が欲しいんですか?」

「形のないもの」

「……」


トシ君は綺麗な顔で、綺麗な笑顔で笑ってます。その顔を無表情に眺めながら芽衣ちゃん思う。少なからずこの人と関わるようになって少々時間も経ち、少し離れたところから眺めていた頃とは違って、トシ君の性格のようなものもわかってきたというか……。

つまりは、顔はニコニコしてるけど、この前芽衣ちゃんが言ったことを根にもっていて、なんかネチネチと仕返しをしてるのではないでしょうか。


「形のないものって具体的になんですか?」

「思い出」

「思い出?」

「来週の水曜日、学校サボって一緒に福岡まで行ってデートして」

「それが、思い出?」


拍子抜けした。肩の力が抜けた。


「福岡までなら一緒に行ったことあるじゃないですか」

「そこじゃないんだよ」

「は?」

「学校を一緒にサボりたいの」

「ええ?」


芽衣ちゃん、眉間に皺を寄せた。


「朝はちゃんと制服着て家を出て、それから、学校に電話かけて風邪ひいたから休むって言ってさ」

「はぁ」

「で、駅のトイレとかで服着替えて待ち合わせて福岡行くの」

「そんなことに意味あります?」

「芽衣にとって意味がなくても俺にとって意味あるの」

「うーん」


首をかしげる芽衣ちゃん。


「だってさ、学校をサボるって、高校卒業したらできないよ」

「大学に行ったらできますよね?」

「でも、そんなんそこまでドキドキしないでしょ?」

「ああ、まぁ……」

「芽衣と一緒に悪いことしたい」

「ええー」

「一日くらい平気じゃない?それとも、いい子の芽衣ちゃんには無理か」

「うーん」


首を傾げたままで空を眺める。

そして、しばらく学校というものについて考えてました。


「別に休む理由もないから毎日行ってますけど」

「うん」

「正直、絶対に行かなきゃいけない場所とも思ってないですし」


学校なんてそんな世間が言うほどありがたい場所でも尊い場所でもないと芽衣ちゃんは思ってました。


「というか、むしろ、あんなことがあったにも関わらず毎日行ってる自分って偉いよなって思ってます」

「そうだよ。偉いよね。だから、そんな自分へのご褒美だと思ってさ」

「……」


ニコニコと笑いながら購買を促してくる営業マン。その笑顔を胡散臭いと思う女子高校生。


「なんか、隠してません?」

「なにを?」

「本当はなにか罠があるとか?」

「俺が芽衣を罠にかけてどうするの?」

「……」


じっとトシ君の顔を見つめる芽衣ちゃん。なんか今いち腑に落ちない部分があるのですが。しかし、トシ君が自分を罠に嵌めるとしたらどんな罠ですか?それが思いつかない。


「そうそう。俺の高校には芽衣が電話かけてね」

「えっ?」

「芽衣ちゃん、そういうの上手そうだと思ってさ。それにほら、普通、欠席の連絡って母親がするじゃない」

「いや、声でバレないかな」

「楽勝でしょ。声だけで年齢はわかんないでしょ。それより話し方でしょ。ね、俊之の母ですがって言ってみて」

「えっ」

「いいから、いいから」


それで芽衣ちゃんブランコの上ではありますが、背筋を伸ばして座り直す。こほん。


「俊之の母ですが」

「あ、いい感じ、いい感じ」

「昨夜から咳が出て少し熱っぽいので、今日は休ませたいと思ってまして」

「うまい、うまい。じゃ、今度は芽衣の母ですが」


すると芽衣ちゃん、ガラッと様子が変わる。


「先生、すみません。うちの芽衣なんですけど」

「なんで、急に声が高くなるの?」

「うちのお母さんこんな感じなんですよ」

「じゃあ、続けて」


続ける時には心なしか顔立ちまで変わる。


「お風呂に入ったらすぐに髪を乾かせって言ってるのに言うこと聞かないもんだから」

「なんで急にそんな話になるの?」

「余計なことを頼まれていないのに話す人なんです」

「へぇ」


一旦スイッチ入ると、演出細かいよな、芽衣ってと思うトシ君。


「じゃ、続けて」

「なんか風邪引いちゃったみたいで、すみません。本当に」

「そんな話し方する人なんだ」

「そうですね」

「それからどうなるの?」

「あ、ありがとうございます。今日は蜂蜜レモンに生姜入れて飲ませてベッドから出しません」


トシ君とうとう笑った。


「本当に先生相手にそんなペラペラ話すの?」

「話しますね。残念ながら」

「芽衣もそれ真似してそんなにペラペラ話すの?」

「どうしようかな……」


そして、形のないものを贈るというコンセプトでいつの間にか一緒に学校をサボる約束を交わした芽衣ちゃんとトシ君。


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