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一枚足りない⑨












   一枚足りない⑨













春菜ちゃんごめんと帰ってきた芽衣と交代してベランダに出る。なんか疲れたなと思う春菜ちゃん。いろいろドタバタしましたしね。もう夕方です。割と普通に儲かったみたいだし、もう責任は果たしたかと思った。


もし春菜ちゃんが中年のリーマンならここで一服となるのでしょうが、タバコ吸わないしね。


「ね、詩乃ってどこにいんの?」

「え、詩乃?」


傍のクラスの子に声をかける。うっすらと怪訝な顔をするクラスメイトの女の子。最近、詩乃ちゃんと春菜ちゃんなんかばちばちしてたしなと警戒されたのかもしれません。


「知らない?」


言い淀んでた子の代わりにそばにいた別の子が答える。


「茶道部じゃない」

「そっか、ありがと」

「春菜どこいくの?」

「ちょっと休憩っつうか。ごめん、そのうち戻るから」


夕方になり、午前とはうってかわってちょっとだらけてきている学生たち、でもそこに疲れと一緒にだるい高揚感があった。


倦怠感と夕方って似合うよな。体は疲れているのに、感覚だけは研ぎ澄まされて、今日だけは永遠に終わらず、今日だけは永遠にどこまでも歩いていけそうな気がする。茶道部に向かう道筋、普段のこの時間ならいるはずのない大勢の学生たちが行き交う賑やかな様子を見ながら、そんなことを考えていた。


そんな賑やかなところを抜けてゆくと、茶道部には詩乃ちゃんしかいなかった。


「静かだね」

「春菜?」

「詩乃、一人?ちょうど良かった」


教室の一角が上がりになっていて畳が敷かれている。そこに詩乃ちゃんが制服姿で姿勢を正して座っていた。春菜ちゃんがその畳の隅っこに履き物をぬがずに腰掛ける。


「その顔で来たの?」

「その顔も何も、今日この顔であっちもこっちも行ったよ」

「ほんっとよくやるわね」


春菜ちゃん、そこでちょっと何か言いたそうにしたが、それは口にせず。今度は草履を脱いで窓際に座ってる詩乃ちゃんの方に躙り寄る。


「何の用?」

「詩乃さー」


やや固くなってる詩乃ちゃんの前で、春菜ちゃんはゆったりとしてました。


「あんたのことは昔から知ってるけど、理由もなく行動する人じゃないじゃん」

「なに、急に」

「ここんとこ妙にわたしに突っかかってくるのって、どういうこと?」

「……」

「芽衣のことばっか気にしてて、瑞樹のこと見てなかった。ちょっと失敗しちゃったっていうかさ」


春菜ちゃんの言葉に詩乃ちゃんの顔が少し動いた。それは気にせず春菜ちゃんは続ける。


「詩乃がこれからもそういう態度でくるんなら、せめて理由は知りたいと思って」

「……」


詩乃ちゃん、ここで春菜ちゃんから目を逸らして外を眺めました。


「嫌がらせのつもりだったのに」

「うん」

「関係ない人巻き込んで」

「え……」


詩乃ちゃんの言葉を頭で反芻する春菜ちゃん。


「詩乃が嫌がらせしたかったのってもしかして……」

「トシが好きになったのが春菜だったら良かったのに」


それでわかった。


「詩乃が嫌がらせしたかったのって、芽衣だったの?」

「……」

「わたしじゃなかったの?」

「なんであんな子が好きなの?」


春菜ちゃんの口からほっと溜息が出た。


「詩乃、トシのこと好きだったんだ」

「絶対に誰にも言わないで」

「うん」


詩乃ちゃんは窓に向かって座っていて、夕焼けの空を眺めてた。春菜ちゃんは窓に背を向けた格好で座ってて、詩乃ちゃんの横顔を見てました。


「今日、トシと芽衣が一緒にいるの見かけた」

「うん」

「あんな変な格好してるのに、トシ、全然そんなの気にしてなかった」

「ああ」

「ねぇ、なんであの子はよくてわたしはダメなの?」

「ダメって、詩乃、トシに好きだって言ってみたの?」

「言ってない」

「言ってみれば?」


詩乃ちゃん、そっと首振った。


「無理」


まぁ、今のトシに誰が何を言ったって、届かないよなぁ。それは誰より二人の身近にいる春菜ちゃんがよく知ってる。その後、詩乃ちゃんつまらなさそうに続ける。


「わたしの方が美人だと思うんだけど」

「そうだね」


詩乃ちゃんちょっと呆れた。


「春菜、それで芽衣の友達なの?」

「いや、でも、事実はそうでしょ」

「トシが好きになったのが春菜だったら良かったのに、それならわたし、こんな嫌がらせしなかった」


……しつこいな。春菜ちゃん、詩乃ちゃんをみながら笑った。


「それはいうだけ虚しいでしょ」


その声の調子に詩乃ちゃんあれと思った。思ってちょっと横を見て春菜ちゃんの顔を伺う。でも、何も言わなかった。春菜ちゃん、のんびりとした声を上げた。


「詩乃、こんなこと続けててもブスになるぞ」

「そんなんわかってる」

「じゃあ、もうやめる?」

「どうしようかな」


しばらく二人で黙ってた。ふと春菜ちゃんが思いついたように言う。


「ね、詩乃、ここってお茶が飲めるんじゃないの?」

「そりゃ、茶道部だしね」

「なんだよ。お茶立ててよ」

「その顔で飲むの?」

「いいじゃんか。ちゃんと働けよ」


ふっと笑った。春菜ちゃんにはその詩乃ちゃんの顔は、少しいい顔になった気がした。


***


その日、片付けをして皆で一度集まって解散した直後である。吉本さんが春菜ちゃんと芽衣ちゃんを呼び止める。


「あのね、春菜。明日はもう春菜たちやんないでいいよ。お化け」

「え……」


ちょっとポカンとした。


「じゃ、誰がやるの?」

「えっと、あたしと。ほら、こっち来なさいよ」


制服姿で少し離れたところにいた女子を一人引きずってきた。


「え、本気?」


春菜ちゃんそう言った後に腹を抱えて笑い出した。


「今ならまだやっぱやめるって言っても聞いてやるぞ。詩乃」


春菜ちゃんが笑ってる横で芽衣ちゃんがびっくりしてる。そんな芽衣ちゃんに向かって詩乃ちゃんふくれつらを向けました。


「なによ」

「いや、別に」


詩乃ちゃんの機嫌が悪い。芽衣ちゃん、ちょっと引きました。


「いいでしょ?やっぱ幽霊は美人がやらないとね」

「ふん」

「なんで?」


春菜ちゃんが聞くと、詩乃ちゃんは偉そうに腕を組んで膨れつらをしていて、その横でよしは苦笑いした。


「いや、わたしは別にノリでこんなんいくらでもやれるし、全然平気だけど、そういうのって人によって違うでしょ?ま、本人が嫌だって言わなかったからわかんなかったってのもあるけど、後味悪いっていうか。それにあんたたちにやらせたの、詩乃にも責任あるし」

「ふん」

「でも、詩乃じゃなくって最後の一人がすごいんだって。我がクラスの秘密兵器」

「え?」

「まだいるの?」

「そりゃそうじゃん。3人いないとさ。ちょっと委員長」


そこでよしは吉田君を呼んだ。吉田君はいつもと同じ様子で呼ばれてやってきた。しばし、6人で見つめ合った。


「で?」

「だから、ね」


よしがニコニコしながら、吉田君の肩をポンポンと叩く。


「我がクラスの秘密兵器」

「ええー」


本気でビビる春菜ちゃん。そして、芽衣ちゃんは、青い顔になった。この頃にはもうメイクを落としてジャージに着替えてたので、表情はちゃんと顔に出ている。


「いや、でも、それはあまりにも」

「すごい話題になると思わない?ね、綺麗に仕上げてね。芽衣」

「明日はよろしくお願いします」


吉田君に頭を下げられた芽衣。春菜ちゃん、芽衣ちゃんの横で引いている。やっぱりメイク落としてジャージにTシャツ姿でした。


「いや、でも、おもしろいっちゃおもしろいけど、なんでここまで」

「二日目に委員長が出たら、委員長一人が目立ちに目立ってその他の子達のことはみんな忘れるじゃん」


つまりは瑞樹ちゃんの印象がみんなの脳裏から消えるってことね。それはいいとは思うんだけど。首を傾げて考え込む春菜ちゃんと相変わらず青い顔をしている芽衣ちゃん。


「本当にそれでいいんですか?委員長」

「……」


この人、嫌だと言えずにやらされる被害者第二号になるだけなんじゃ……


「芽衣」


そこで、よしが話に割り込んでくる。いつの間にか中村さんが芽衣という呼び方に変わってた。


「クラスのことを一番考えていて、それで、何か問題が起こったらそれを解決してくれる人って誰だと思う?」

「え……」

「委員長しかいないよね?」

「あ……」


吉田君、一生懸命コツコツ頑張ってきて、しかし終盤に暗幕の件でなべちゃんに主導権を奪われ少し立場が危うくなったというか……。これで復権なるか?委員長、やったぜ!頑張ったな、お前!的な?でもなー。


「本当にクラスのためにそこまでやるんですか?」

「……」

「大したことないってこんなの」(←よし)

「でも……」

「伝説になると思うよ。クラスのためにここまでやったっていう」(←よし)

「……」

「きっと大人になっても忘れられない語り草になるよ」(←よし)

「……」


いつもはお堅い優等生が突然そんなことをして、うまく殻を破って面白おかしくやっていけるようになればいいですが、失敗したらどうする?ハラハラする芽衣。


すると吉田君、突然まっすぐ芽衣を見る。それから、語り出した。


「中村さん」

「はい」


はしっと芽衣の両手を取る吉田君。おおっと思う詩乃とよし、トシが見てたら怒るぞと思う春菜。


「ほんというと、こんな恥ずかしいことをしてしまっていいのかちょっと迷ってます」

「あ、じゃあ……」

「でもっ」


まだ、手を離さないぞ。吉田。おいおい。


「中村さん、普段大人しい中村さんが一つも嫌がらずに、懸命に取り組んでいるのを見て勇気をもらいました」

「はぁ」

「だから、僕も、明日は頑張りますっ」

「おー、よく言った!委員長!」


吉田くんの肩をバシバシ叩くよし。そこで、ここにいない幼馴染のトシ君のために春菜ちゃん、指でさしながら一言。


「それ、いつまで握ってんの」

「あっ、僕としたことが、すみませんっ」


私も、普段は真面目で通っていたのに高校の学祭でバカなことをしたことがあったぜ。吉田君、これを機に男をあげてくれたまえ。健闘を祈るっ!


2023.10.06

汪海妹













   全然読まなくてもいいおまけ

   












 勘違いのシリーズでは北九州の柳川をお借りして作品を書いてました。それで、Y高、D高と言うのもモデルの高校があります。この高校を作品を書きながら、どれどれと拝見させていただくと、


「あれ……」


結構細かいとこを見てみると、実際と作品の細かいところに矛盾がありました。

だからね、高校としてのモデルはありますが、そこまで踏襲はしていないということはここにお断りしておきます。

例えば、高校には専用のスクールバスがあるので、バスの中で他校生が出会うことがなかったり、演劇部も茶道部も天文学部もなかったりします。


そして、ね、柳川は多分、井戸がない。


チーン


井戸を掘っても塩水が出る。そのことに困って水路を整えたとどこかで見ました。

なのに、どうしてもホラーには井戸だろと、無視して春菜ちゃんの家の庭に古井戸があることにしてしまいましたっ!


ちなみに、ローソンはあるっ!

それは実は地図を見ながらここの道を通って3人が歩いてて、唐揚げ食べるぞと思いながら書いてましたから、ね。


そして、ちまちまと地図を見てゆくとまた問題があって、芽衣ちゃんたちが住んでる住宅地のあたりにはあんまりコンビニがないんですよねぇ。じゃ、芽衣ちゃんちどこのあたりなんだ?


ま、いっか。しょうがねえ。


この、現実と作品の細かい部分が違うことで、ご迷惑おかけすることもないとは思うんですけどね。一応ここにお断りしておきます。


汪海妹

2023.10.15

大河の徳川家康を見ながら


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