一枚足りない⑥
一枚足りない⑥
そして、日めくりカレンダーはバンバン捲られる。
オラオラ女子も実はオカルトにビビるという事実を露呈させた、撮影会(音声だけ使うのだが)も無事終わり、提出したところ使用許可が出る。この時にはもう努力家な芽衣ちゃんのお陰でおばけ部隊の準備はほぼ目処がついていたのである。これから大変だったのは、教室をお化け屋敷にかえる部隊の皆さんで、特にチーム井戸!
「なんだろう、なんかちょっと違うような」
「所詮二日で捨てるもんなんだし、こんなんでよくね?」
「いやっ!だめだー!」
何故だろう?別にここで本当にリアルな井戸を作ったとて、何か人生が変わるとかそんなこともないだろうに、或いはファンタジィ的に井戸を作らねば実は悪魔に心臓取られるとかな、ねえわ。そんな、設定、ねえわ。
しかし、チーム井戸の制作リーダーは、諦めない。かぜのなかのスーバールー*13、最後まで諦めなかった君には超特別に中島みゆきさんのこの歌をBGMとして流してあげよう。そして、カメラをチーム井戸からずらして別のみなさんを撮る。
「やっぱどう考えても足りないよ」
「もう委員長!」
こちら側では皆の恐れた暗幕の件が、今まさに炎上していた。
運営にきちんと筋を通して頼みました。が、運営実行委員長兼生徒会長の三年生に、淡々と理詰めで1Bにのみ大量に暗幕を貸しては民主主義的におかしなことが起こる。そこで、上限を決めた上で現在希望クラスに配布をしているが、この希望が全部出揃った後で、もしも、余分があったら追加で貸すことにすると諭された。
「クラスをまとめるのって大変だよね」
そういって、生徒会長、ぽんぽんと吉田くんの肩を叩きました。この生徒会長、脇役中の脇役ですので、この瞬間にしか出てきませんが、しかし、役者というか人間として吉田君より1枚も2枚も上手。そうだ!民主主義のためには、自分が壁とならなくては、ラブ&ピース!吉田君の、いつもクラスで強すぎる女子の咆哮にビビってばかりいたハートに火をつけた。
そして、もしも余分があったら、のたられば文型に希望を託し、必要量を借りられないかもしれない事実をクラスにきちんと説明してなかった。しかし、この生徒会長、ここでは実行委員長というべきか、の使った たら は、政治家の使う詭弁にも似た たら で、もちろんそんな余分なかったのです。
で、せっかく副委員長をお目付けにつけていたのにも関わらず、暗幕は足らなくなった。
場面を戻す。
「もう委員長!」
例によって例の如く、女子に吊し上げられる委員長。
「でも、うちのクラスだけズルをするわけにもいかないでしょう」
民主主義とはこうあるべきだとメガネをずり上げる吉田君。いつもなら簡単に流されるのに、今日はちょっと骨があるじゃないですか。ししゃもの骨程度だがな。すると、いつもは女子のみ咆哮するクラスで、中島みゆき先生のBGMを背にチーム井戸の男子たちまで立ち上がる。
みんなどこへいいったー
「委員長、これじゃ、完成しないよっ」
「え……」
ジョンレノン*14のラブ&ピースのノリで、ししゃもの骨程度の踏ん張りを効かせていた吉田君。中島みゆきさんに負けた。やっぱここ日本だし。ほら、ものづくりの国だしさ。
「僕ら、最後まで責任持ってやりたいんだよっ」
「ええ……」
「中途半端なものを作ることなんてできないんだよ。ちゃんと暗くしないで何がお化け屋敷だよっ」
みまもーられることもーなくー♫
このみゆき先生のBGMのもとに、コスト削減と効率重視を求める経営側に反発し、踏みとどまった職人たちのなんと多いことか……。
「みんな、やめな」
「あ……」
ここで、暴れん坊将軍か、遠山の金さん*15か、なんか時代劇っぽく登場してきた人がいる。女なんだけどね。副委員長の渡辺さんだ。
「吉田君を責めたって、暗幕は手に入らないよ」
「なるほど」
そして、秒で、その場の主導権を奪っていった渡辺さん。
……今までの吉田君の苦労はなんだったのだろう?一応ここにも吉田君の苦労を労うために歌を一つ捧げておきましょう。
ヒュールリー、ヒュールリー、ララー、ついておいでとないてまーすー♫*16
全く脈絡はないが、かなりこの場面に似合う名曲だと思います。
で、吉田君に付き合ってる時間的余裕がないので、カメラは渡辺さんと周りのみんなに焦点を合わせる。
「他のクラスやクラブに配ってしまった分から、奪取するしかないよ、こうなったら」
この時、当日まですでに1週間を切ってました。
「そんなん、向こうだって必死で確保してくるに決まってるじゃん」
「でもさ、たとえば、美術部とかが絵の展示のために暗幕欲しいとか言ってたとしたら、それ、なくたってできるじゃん」
「美術部が暗幕申請してるの?」
「たとえばだよ。多分、うちほど絶対欲しいってのとは違って、なんとなく暗幕欲しいってとこがあるはずだ」
「なるほど」
「まずは、どこが暗幕申請したか、リストを手に入れろっ」
「ラジャ」
ガラピシャ。誰かが後先考えず、渡辺女史の言葉に即座に出てったぞ。行動派だ。スタタタッ!
「リストなんか手に入れるより、直接教室行って聞いて回って、即交渉した方が早いんじゃない?」
「なるほどっ」
ガラピシャ。もう1人いたぞ、行動派。後先考えてないがな!スタタタッ!
「じゃ、手分けしてあちこち行くか」
指示前に出てった2人をほっといて、段取りを決めようとしていた時である。
「ちょっと待って」
甘い声を出した女子がいる。名前をつけるのがめんどくさい。クネクネと動くので、とりあえずくねこと名付けよう。
「あたしの彼氏がぁ」
ここで副委員長の渡辺ちゃん、親しみを感じるためになべちゃんと呼ぶか、が、おおいに眉間に皺を寄せた。
「くねこ、要点だけ話してくれる?」
「……」
つまり、彼氏の自慢話はおおいにカット。どこにほくろがあるかとか激しくカット!ま、そこまでは流石に脱線しないか、この場で彼氏のほくろの話とか全然意味ねえし。
「自分の彼氏がD校に通ってますが、あそこから借りてくるというのは?」
「なぬぅ?」
やればできるじゃねえか、クネコ。しかも、明後日の方向から降ってくる打開策である。
「学祭を行う学校なら、暗幕をある程度は用意しているでしょう。しかも、あそこの学祭は数ヶ月後ですから」
「その手があったか!」
「しかし、なべちゃん、いくら今使わないものでも、そんな簡単に学外に貸さないでしょう?」
突拍子もない策に活気づく1B!
「でも、あたしの彼氏はぁ」
突然、元バージョンに戻るクネコ。ちなみに先ほどまで軍人のように直立不動でしたが、ここからまたクネクネしてもらいます。
「なんなの?」
なかなかの策を持ってきたために要点をついてなくても大目に見るなべちゃん。
「三年生なの」
「……」
一瞬しんとなる。
「だから、どうした?」
泣きそうになりました。だって、どんな高校だって、三分の一は三年生でしょ?だからどうした?
「あ、あ、違くって」
「何が違うんや?」
(↑物語の設定上、ここで関西弁は出るはずがないのですがお見逃しください)
「生徒会とかやっててぇ……」
ここで、クネちゃん、最高のミエのポーズです。歌舞伎のみえをきる、最大の見せ場、つまりは、自分の彼氏がD校の3年生でしかも生徒会に入っている学生だということがくねこにとって最大の……、ミエだったわけで。
ここで、みんなが欲しいのは暗幕なわけで、クネコの彼氏が何処の馬の骨であろうかどうでもいいわけです。ついでにいうと2番目に欲しいのは時間。しかし、悲しいかな、時間も惜しいのだけど、このクネコの切ったミエに対して、別に考えなくてもいいようなどうでもいいことをドバッと考えてしまったみんな。
こんな……、どっちかといえばおちゃらけた女子と、そんな……、生徒会やっちゃうような男子が付き合ってるんだ。それ、何ヶ月持つのだろう?いや、意外と持ちつ持たれつでナイスカップルなんだろうか?
どうでもいいことなんだけど気になる……、目を白黒させていたその時である。
ガラピシャ!
「なんか、リストとかないって、つうか、あっても渡せないってあしらわれてきたー」
自分で自分にあしらわれたと使いつつ、後先考えずに飛び出していった第一弾が戻ってきた。結果は置いといて、このスピード感に拍手。
そして、ここでハッと我にかえる、なべちゃん。この人のすごいところは目的のために手段は選ばないことである。一方くねこは自分の大事な場面で突然舞台に間違って飛び込んできたキャストにすげえ顔で憎悪ビーム放ってるぞ。シュバァ。なべちゃん、そんなクネコの方を見る。
「すごいねぇ、生徒会なんだー」
「そうなのぉ、えへっ」
飛び込んできた足軽のために中断された話を、なべちゃんは、足軽への労いはすっ飛ばして続けた……。クネコ、途端に顔いっぱいの笑顔になる。さっきの、人類抹殺兵器ばりのオーラはどこいった?
「なんの話?」
とりあえずY高の生徒会室まで突っ走って帰って来た人、キョトンとする。ちなみにこういうタイプはありがとうとか言われなくてもそこまで気にしません。この足軽の身を守るためにとある女子が彼女を隅っこの方に引っ張る。かくかくしかじかだ。説明するぞ。そんな脇役はほっといてなべちゃん、くねこと会話を続けるぞ。
「もしかして生徒会長?」
「やだっ!そんなんじゃないよ、マサ君は」
チーン
どうでもいいマサ君の話を聞かされるギャラリーと話しているクネコの温度差よ、ああ……。ここでも偉かったのはなべちゃんである。目的のために手段は選ばない。
「でも、とにかく、そのマサ君に頼めば、本来だったら校外に簡単に貸せないような暗幕でもこっそり借りれるってこと?」
「どうかなぁ」
この時、人差し指を立てて口元にあて上目遣いをするクネコ。
「でも」
「うん」
「あたしが頼んだら、頑張ってくれるかも、きゃっ」
チーン
……こいつに、頼ってしまっていいのだろうか?みな、この瞬間、真剣にそう思った。
バンッ
突然、机を叩く音に皆、我にかえる。
「つまりそれはどのぐらい確実に手に入るということかっ」
「この身に変えましても必ずや我が1Bに暗幕をっ」
「その言葉に嘘偽りはないかっ」
「ございませんっ」
「よし!」
なぜか、軍隊再び。机を叩く上官に、直立不動の兵卒さながらである。それにしても、なべちゃんって一体。つうか、それ以前にクネコのこの秒でのキャラ激変はどういったことか、頭、大丈夫か?
ガラピシャ
「なんか美術部じゃなかったんだけど、天文学部がやっぱり暗幕使ってて、そんなんいらないじゃんっていったら、夜空がなんとかってぬるいこと言ってて」
クラスに駆け込んできて、息を切らしながら、報告をする後先考えない隊パート2。
「もっと人数かけていったら、落ちますっ」
「ご苦労!しかし、それはとりあえず保留っ」
「え?」
敬礼をしながら固まる隊員パート2。しかし、言ってることにはラブ&ピースのかけらもないが、これはこれでなかなか優秀な人ではないか。
ちなみに、吉田君はこの時、クラスの端っこにチーム井戸!の人たちと一緒にいました。
「委員長、すごいねぇ、どうにかなりそうだよ」
「民主主義のかけらも見えないけどね」
クラスの端っこでガラス窓から外の空を眺めていました。高校生男子なのに、三角座りをしながら。
「でも、暗幕が手に入ったらそれでいいじゃない」
「そうなのかなぁ……」
元気出して。吉田君。ここで我がみゆき大先生の歌をさらに流してあげるからさ。
つーばーめよ たかーいそらから おしえてよ ちじょうのほしをー ♬
いい曲だなぁ。ごめんなさいね。コメディの場面に使ってしまいまして。お許しください。
***
そして、日めくりカレンダーは更に捲られる。とうとう当日、芽衣ちゃんたちは3人でバレー部の部室にいました。学祭が始まる時間よりかなり早く学校に来た。浴衣に着替えて、メイクをしなければいけないからです。
「ファンデーション塗るのなんて初めてだよ」
「あ、動かないでくださいね」
芽衣ちゃんも、普段お化粧をすることはないんですけど、ただ、今回は事前に何度も家で自分を使って練習してたんですね。慣れた手つきでファンデーションを伸ばしてく。
「なんで何個もあるの?」
「こっちは青白くするための下地です」
「これ、お金いくらかかったの?」
「大丈夫ですよ。儲かった暁にはちゃんと請求しますから。それに安物ですし」
お化けメイクはね、とにかく、これでもかってくらいまず血の気を失った白い顔を作るんです。浴衣の襟元からのぞく首すじまでの広範囲をきっちり塗りました。
「あ、そうだ。コンタクト入れないと」
瑞樹ちゃんにパウダーをかけ、いつもの健康的な瑞樹ちゃんが白っぽい浴衣と青白い顔ですっかり不健康になったところで、芽衣ちゃん、ゾンビカラコンを思い出した。
「瑞樹ちゃん、春菜ちゃんの肌をしている間にコンタクト入れてください」
「ええ?どうやって入れるの、これ。やったことないよ」
こんなことしてる間に開始時間になっちゃう。すったもんだしながら、春菜ちゃんの下地を仕上げ、コンタクトの入れ方説明し、自分もコンタクトを入れて、それから、自分の下地をぱぱっと仕上げる。
「次は目の周りを」
「え、まだやるの?」
青白さとカラコンで十分怖い。浴衣も着てるしね。しかし、芽衣ちゃんのメイクは続く。目の周りに黒い色をのせてゆく。
「すげー」
春菜ちゃんが自分の顔を鏡で見てつぶやく。
「どっからどう見ても死人じゃん」
唇にもファンデを塗っていて、赤みがない。目はゾンビカラコンで黒目が小さくなっていて、更に不吉に目の周りが黒ずんでる。
「最後の仕上げがこれです」
自分もすでに化け物になってる顔で、声と話し方はいつもの芽衣ちゃん。いつぞや海辺でトシくんに見せてたゾンビシールです。
「そこまで必要?」
その時、瑞樹ちゃんの声が少し尖った。ワクワクとシールを眺めていた芽衣ちゃん、その尖った声にぴたりととまった。
「やですか?」
「いや、やっていうか、もう十分じゃね?」
「……」
このシールも何度も試してました。シールだけだとどうしても足りないなと思う部分に実は少し手を加えてオリジナル加工済みだった。
「せっかく芽衣が用意したんだからさ。ここまでやったらもう同じでしょ?」
春菜ちゃんがそう言って、それで、三人三様に顔に傷をつけました。赤くパクッと開いた痛々しい刀傷、偽物だけど結構リアルなそれを顔につけて、春菜ちゃんと瑞樹ちゃんは二人ともショートカットなので、カツラを被った。
「お待たせー」
既にお化け屋敷とかした1Bに主役たちがゾロゾロと入る。春菜ちゃんを先頭に瑞樹ちゃんと芽衣ちゃん。準備中の屋敷で電気つけて待機してたみんな、大騒ぎになった。
「え、春菜なの?」
「うん」
「え、うそ、やばっ」
ひとしきり大騒ぎ。
「ちょっ、こわっ、こっち見ないで。まじ、春菜や瑞樹がやってるって思って見てもすっごい迫力なんだけど」
「こわーい」
「すっごい、これ、どうやったの?」
「全部、芽衣がやったんだよ」
「中村さん?」
それで、二人の後ろにちょこんといた芽衣ちゃんに視線が集まる。
「やだ、見て、中村さんも全然別人」
「こわーい」
「気持ち悪ーい」
「ね、ね、いちまーい、にーまーいって言ってみて」
そこで、芽衣ちゃん、ちょっと深呼吸した。
「いちまーい、にーまーい」
賑やかだった教室が一瞬にして沈黙した。
「ヤダァ」
「すっごい迫力」
朝から若干腰を抜かすクラスメイトたち。この時はまだ準備中で教室の電気をまだつけていたのですが、それでもすっごい迫力でした。
「俺らの井戸もこれで報われるな」
「おうっ」
チーム井戸も喜ぶ。この魂を込めて製作した井戸に入るに相応しい方を迎えられたわけで歓喜である。そして、とうとう屋敷を開く時が来た。
*13 地上の星
中島みゆきの37作目のシングル。2000年7月19日発売
*14 ジョンレノン
1940年10月9日生まれ1980年12月8日没イギリス出身のシンガーソングライター、ギタリスト、キーボディスト、平和運動家。ビートルズを立ち上げたリーダー。
*16 暴れん坊将軍
1978年から2002年にかけてテレビ朝日系列でレギュラー放送された。主演松平健。徳川吉宗が貧乏旗本の三男坊「新さん」として庶民の暮らしに紛れながら、江戸にはびこる悪を斬る痛快時代劇。
遠山の金さん
テレビ朝日系列。江戸北町奉行「遠山左衛門尉」とお節介焼き遊び人「金さん」という二つの顔を持つ男、遠山金四郎の活躍を描く。
*17 ついておいでとないてます
越冬つばめ 森昌子 1983年




