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一枚足りない③












   一枚足りない③













それから、みんなと相談しながら一生懸命準備を始めた芽衣ちゃん。コスチュームはやはり白い着物なんでしょうとなったのですが、流石に白装束を死んでもないのに着るのはやだなと。それでそこは白地に近い浴衣を春菜ちゃんが自分の家を中心に伝手の家を頼って借りることになった。芽衣ちゃんはその傍でお化けメイクについて研究してました。購入必要なものをリストアップして、吉田君に出した。


「カツラ?」

「はい」

「カツラなんているの?」

「やっぱり髪は長くないとお菊ですから。本当は島田髷*7のカツラを崩して使いたいんですが……」


後半はもはや聞かずに頭で経費計算をする吉田君。


「カツラなんてお金かかるでしょ?長くないとダメなら髪の毛長い子に今からお願いする?」

「そんなっ!せっかくだからみんなでやらせてくださいっ!」


すがりつく芽衣。ちなみにこの時、春菜と瑞樹はこの場にいなかった。本人たちがそばにいたら二つ返事で快諾しただろう。


「でも、足が出た分はみんなで割って自己負担になるよ」

「そんな思うほど高くないですよ」

「ん?」


芽衣のスマホの画面を覗く吉田君。1780円でした。これをかけるにで……。


「だけど、無駄な出費だよね!」

「来年以降のお化け屋敷用アイテムとして実行委員会の方に保管してもらえば?」

「……」

「演劇部も使うかもしれません」

「うーん、まぁ……、で、次は……カラコン?」

「ゾンビカラコン*8です」

「これはいくらなの?」

「4つで1100円」

「8つで2200円、でも2つ余るよね?」

「何言ってんですか、これはワンデイです。2日分で12個で3300円です」


結構細かい吉田君。カツラとカラコンで6860円。


「こんなんなくたってお化けはできるよね?」

「いいですか、委員長」

「うむ」


ここが正念場とばかりに下腹に力を入れる芽衣。説得に至るストーリーはすでに昨夜デモンストレーションしてきたぜ。


「中途半端に経費をかけても、話題を掻っ攫わなければ当日の集客は見込めないんです」

「うん」


実は芽衣、集客プランまで考えていた。


「カラコン入れて迫力がなければ、話題をかっさらえないんですよ」

「じゃ、写真入りポスターでも作ってはるか」

「それもまた経費が余計にかかります」

「そうか」

「だから、3人お化けを作って、1人は現場で本番、1人は時期を見つつ校内を彷徨って客引きをするんですよっ」

「なるほど!もう1人は何をするんだ?」

「それは流石にフルで動かすと文句言われるかもしれませんから、予備です」


働き方改革も始まってますしね。


「だけど、カツラとカラコンだけで、6860円。入場料が400円だから……」

「余裕でしょ」


18人入場すればペイする計算です。しかし、委員長、馬鹿ではなかった。


「いや、でも、これの他にもお金はかかるでしょ?」

「はい」

「うちの学祭の来場者数と在校生数と……」


見込みの売上の計算を始める吉田君。


「もしも集客できなければ赤字になるよ?」

「いいですか、委員長。要は売り方ですよ」

「ん?」

「1ーBお化け屋敷、今なら並ばず入れまーす。お客さんが殺到してしまった場合は整理券を配ります。順番が明日になってしまったらすみませーん」


するとあら不思議。夕方近くになり全てのお客さんは捌けない。整理券を持って会場に来た人たちの中から外部の人は優先して当日にしてあげなきゃな。客が殺到して半パニック状態になった我が1Bの様子がまざまざと吉田君の頭の中に浮かび上がる。


「こんなこと言われたら、いま行かなきゃいけないかもと思うのが人間心理です」

「なんか詐欺じゃないですか?」


メガネをきらりと光らせながら、ちょっと持ち上げる吉田君。ニヤッと答える中村芽衣。


「言ってることをよく考えてください。一つも嘘は言っていません」

「たしかに」

「そして2日目はこうです」

「2日目もあるのかよっ」


そこで、芽衣、一昔前のデパートガールのように澄ました声を出す。


「まだご覧になっていない方はいらっしゃいませんかー。本日までです。尚、2回目の方は半額で入れまーす。今日を逃したらもう二度と見られませんよー」

「半額?」

「屋敷を出た人に渡しとくんです。ただし2日目にしか使えないリピーター用の券です」

「それは、その人じゃなくてまだ行ってない人に渡るのじゃないの?」

「だから、実質の値下げです」

「価格を破壊するよね?」

「いや」


ここでまたニヤッと笑う芽衣。


「たかが2日の商売です。普通、学祭の2日目って目ぼしいものは見てしまって、在校生は全てを隈なく見て回るか、もう一回面白かったとこにいくかですよね?その時に半額ならいくかとなる。あるいは、これあげるとなれば、1日目には行く気のなかった人を拾うことができます」

「なるほど」

「限りなく機会を拾っていければ、カツラ代とカラコン代ぐらいは出ますよ」

「そうだな」


成功しました……。芽衣、心の中でガッツポーズ!


***


それからまた別の日、ホームルームで学祭について話し合っていたときのこと。みんなで井戸を作る話し合いをする。


……井戸!井戸といえば、ですよ!


「構造から考えないとダメだ」

「うん」

「中に座ってて客が近寄ったら立つ」

「うん」

「だから、お化けが座ってちゃんと隠れる深さは確保しないと」

「うんうん」


井戸といえば、某ホラー映画で、中からゆっくりとあれが出てきたことがあったではあーりませんか!日本人のDNAに語りかける恐ろしさの象徴、井戸!


「それなりに本物っぽくしないとダメだな」

「だな」


クラスの中に数人の男子を中心とするチーム井戸!が発足した。


「風、風が欲しいですっ」

「ああ、風」


芽衣もメーキャップ担当から権限を飛び越えて意見する。


「それは扇風機をどっかに隠して、できそうだな」

「柳の木っぽいの作れないかな」

「風で来客者の顔にそっとかかるのか」

「こう、自分の手でぶら下がっているものを避けながら進んで奥が見えるってのは?」

「おお……」


みんな、同じ文化の中に育っていて、お化けのイメージを持っている。それぞれちょっとずつオリジナルな部分を持っているが、しかし、重なっている部分が多い。同じ日本人だからね。それを持ち寄ってだんだん盛り上がってきたのです。


「蒟蒻を吊るそうよ」

「蒟蒻?」

「よくやってるの見るじゃん」

「蒟蒻ねぇ」


確かに蒟蒻を吊るしてペタッとやるのは見たことあるけど、あれは実際当たってみるとどんな気持ちがするものなのだろう、本当に怖いのか?蒟蒻だぞ。


「あ、あの……」


そこでまた、普段はクラスでは大人しい芽衣ちゃんが恐る恐ると手をあげる。


「蒟蒻は有名なネタですので、本当にびっくりするのは最初の人たちだけで、その人たちに蒟蒻があったと言われてしまうと、怖くなくなっちゃうんです」

「うん」

「下手すると笑われちゃいます」

「ああ……」


ああ、これが噂の蒟蒻かー!はーはっはっは!

ちなみに蒟蒻は食べ物ですので、食べ物で遊ぶなと叱られる可能性もあります。


「なので、簡単には正体がバレないものをぶつけます」

「ぶつける?」

「ゼラチンを硬めに固めて、砕いてぶつけます」

「……」


皆、一瞬黙った。それを見ながら芽衣ちゃん、ちょっと顔が青くなりました。調子に乗って言わなきゃよかった。芽衣ちゃんはいまだにみんなの前で何か言ったり、したりするのが怖いんです。


「冷たいのかな?」

「冷たいんじゃない?やっぱり」

「しかも小さめにして暗い中でいきなりぶつけられたら、何されたかわかんなくて怖いよね?」

「試作が必要だね」

「ま、蒟蒻よりいいんじゃない」

「じゃ、蒟蒻ちぎってぶつければ」


さっきの蒟蒻男子である。みんな笑った。


「そんなに蒟蒻が好きなのかよ」

「えー」


それから続けて、教室の中をどんなふうに通路を作っていくか話してた時です。


「あ、あの……」


蚊の鳴くような声でまた、芽衣が手を挙げる。不思議なこともあるものだな、あの中村さんが1日に何度も話してると皆思いつつ、みんなで芽衣が口を開くのを待ちました。


「部屋の中に入ってすぐに進み始めると、怖くないと思うんです。準備ができてないっていうか」

「うん」

「だから、まずは入り口のところで座ってもらうか立ち止まってもらって、怪談を聞かせます」

「……」


また、みんな黙ってしまった。芽衣ちゃん、お腹が痛くなる気がした。怖いんです。たくさんの人に見つめられるのが。あの目、昔自分を見ていた目が追ってくる気がする。


「それで?」


芽衣が黙ってしまったので、促す子がいた。


「怪談ってなんの?」

「番町皿屋敷です」

「ああ、あのいちまーい、にーまーいってやつか」

「そんなん聞かせてたら時間かかるんじゃないの?」

「短くまとめられないかな?」

「映像で見せたら?」

「そんなん作ってらんないよ」

「でも、確かに、明るい廊下から暗いとこ入って、どれどれってスタスタ回るくらいじゃすぐ終わっちゃうし、怖いって思う前に外に出ちゃうだろうね」

「……」


なるほどと思って、みなしばし黙る。


「下手な映像見せるよりはさ、できるだけ短くまとめて声だけでおどろおどろしく語るのがいいんじゃない?」

「まいかい読むのかよ」

「録音に決まってるだろ、ばか」

「誰がやるんだよ」

「ボソボソとした声で読むのがいいね」


みんなが話しているのを聞きながら、芽衣ちゃん、まだ心臓がドキドキしていた。


その日の話し合いだけで全ては決まらなかったのですが、詳細を決める前にとにかく暗幕が必要だろうという話になった。


「先輩に聞いたらあれはどのクラスも欲しがるからすぐになくなっちゃうんだって」

「委員長、確保に動いて」


ビシッと数人に指差されて、メガネを持ち上げながらオドオドする吉田君。


「え、何枚くらい?」

「よくわかんないけどたくさん」

「え……」


勉強はできるけど押しの弱い吉田君をみんなでじっと見る。こいつに任せておいて大丈夫だろうかという目で見てます。


「渡辺さん、一緒についてって」

「了解」


結局、副委員長に吉田君を預けることにした。


*7 島田髷

日本髪において最も一般的な女髷。特に未婚女性や花柳界の女性が多く結った。(Wikipedia参照)


*8 ゾンビカラコン

黒目を小さく見せるカラコン。


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― 新着の感想 ―
[一言] 汪海妹様 いつも楽しく拝読しています<(_ _)>(*^-^*) 本領発揮の経理ですね! こまかさ くわしさ まじめさ が ツボに来ます すごく具体的で臨場感あふれます おばけ…
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