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一枚足りない①












   一枚足りない①













同じ街に住んでいて、近くの高校に通っていたら、行き帰りの通学バスの中で偶然ばったり会うこともある。


「あ、トシだ」


例によって例の如くY高前で女子バレー部の1年性がジャージ姿でゾロゾロ乗り込んできた時、今日はたまたまこっちもジャージ姿だったトシ君、例によって例の如く後ろの方を覗き込む。


「いないよ」

「ん?」

「芽衣、探してんでしょ?」

「……」


ズバリと言われて、曖昧な顔ではっきり肯定していいのかどうか躊躇するトシ君。


「それよかトシ!」

「え……」


ここで、トシの腕をぐっと捕まえる夏帆。すると、すかさずそばの座席に座ってた同校の1年男子に声をかける瑞樹。


「ごめん。ちょっとどいて」

「えー」


男子学生、こちらは制服で眼鏡をかけて男子の割に小柄である。学生鞄を前に抱えて抵抗するそぶりを見せたが、腕をぐいと引かれてあっさり立たされてしまった。阿吽の呼吸である。それから、夏帆がトシの腕を引く。


「え、ちょっ」

「いいから、座れって」


どさっと座席に座らされてしまった。その周りを囲む女子たち。すると後ろから真打登場。


「春菜」

「ちょっとあんたたち、バスの中でやめなよ」

「えー」


周りの事情を知らない人たちから見たら、女子が複数で寄ってたかって男子をカツアゲしているように見えなくもない。


「とにかくやめな」


春菜ちゃんにキッパリと言われてしまいました。こうなると愉快な仲間たちもシュンとする。その時、バスが次のバス停に停まった。そこで夏帆、顔を上げる。


「降りるよ」

「え……」


バスの中でダメと言われたら、まさかの?有無を言わさずぐいとトシの腕をひく夏帆。


「え、ちょっ」

「ほら、早く。周りの人に迷惑かかるだろ」


夏帆がトシを引きずってたたせ、降車口へと連れてゆく。瑞樹がトシ君の荷物を回収しそれに続く。阿吽の呼吸である。トシ君、SOSを発しつつ幼馴染を振り返った。


「春菜?」

「バイバーイ」


しかし、苦笑いしながら、手を振る春菜とその仲間。その顔には、ごめん付き合ってあげてという言葉にしなくても伝わるメッセージがこもってる。


プシュー


バスは行ってしまった。


すると皆が降りた後のバスの中で、春菜ちゃんの近くの座席に座っていた白髪のお婆さんが話しかけてきた。


「あんた、止めないでよかったの?」

「え?」

「止めないでよかったの?あれ」


バスを降りて歩いている3人を指さす。


「あ、いや、そういうのじゃないんで」

「そうなの?」

「はい」


それから、回りを見渡す春菜ちゃん。よく見ると、バスの中の他の大人たちもそっとこちらを伺っている。……皆さんの目には、女子が男子を脅して、嫌がるのを無理に降車させたように見えたのである。慌てて手を振りながら皆に向かって弁明する春菜。


「いや、わたしたち、友達だし。全然、そういうのじゃないんです」

「そうなの?」

「そうそう。わたしたち、友達なんですっ」


春菜ちゃん、弁明というのは、同じ言葉を繰り返すことによって反対に嘘をついているように見えることもあるの。心しておきなさい。


一方、降りた3人はというと……、


「腹へった。コンビニ行ってなんか買おうぜ」

「ええー、じゃあ、もう少し乗ってから降りたほうがよかったじゃん」

「しょうがないだろ、もう降りちゃったんだから。行こ、トシ」


ダラダラと歩き始める。


「つうか、このままなんか食いながら歩いて帰るか」

「えー」


そこでとし君、不満の声を上げた。歩いたら軽く1時間かかるんです……。


「だって、次のバス来るの待つのかったるいじゃん」


そういう夏帆ちゃんはケロッとしている。体力のある人は違う。普通の体力しかないトシ君、ゾッとした。一方瑞樹ちゃんは小腹を満たすことに集中していた。


「ね、この先って言ったらローソン*1だね」

「そうだね」

「ローソンで何買う?」

「やっぱ唐揚げじゃね?」


平和な会話である。そのまましばらく仲良く歩いてた。てくてくてく。


「じゃなくて、トシ!」

「はい」


つい腹が減っていたために後もう少しでなぜ途中下車したのかを忘れかけていた夏帆と瑞樹。


「トシって芽衣と付き合ってんでしょ?」

「……」


夏帆に噛み付くように言われて、遠い目をするトシ君。夕闇が空の彼方に迫っております。そんな年寄りでもないのに、最近こういう表情することが多くなったよね、この人。


付き合ってる?と聞かれて、トシ君としては別に全然、そうでえっす、と言っても構わないのですが、芽衣ちゃんに非常に嫌がられているので、なんと答えたらいいのかわからない。ところが、川縁に生えて風に揺られる柳のように心許ない人に対して、最近の女子はウルトラマン*2に出てくる怪獣ばりにたくましいのである。


「なんとかいえ、おらおら」

「オラオラ」


トシ君の右腕を夏帆が捕まえ、左腕を瑞樹が捕まえ、交互に揺らす。阿吽の呼吸である。

なんと……、行儀が悪いというか乱暴なことでしょう。


「そういうふうにいうと、芽衣が嫌がるんで」

「あ、芽衣って呼んでるんだ」

「へー、芽衣だって。へー」

「仲良いな、やっぱ」


ぷーっと笑い出しかねない顔で見られている。


「いや、でも、向こうは付き合ってるとか思ってないと思うよ」

「ああ、芽衣には聞かないし、言わないから。ね、瑞樹」

「そだね。夏帆」


2人で眉間に皺寄せて渋い顔で弱々しく首を振りあう。その世も末だとでも言わんばかりの表情に、現状は楽観的と手放しに言えないまでも、そこまで悲観的でもあるまいとちょっと反抗心の湧いたトシ君。


「え、なんで?」

「なんでもなにも」

「それは我々の間で禁じられてる」

「え?」

「芽衣にトシのことを聞くことは禁じられてる」

「それどころか、ここしばらくは芽衣が同席している時は、トシの名を出すのにも気を遣っている」

「誰がそこまで?」

「春菜」


やはりその人でしたか。


「今、ギャラリーが面白がって騒いだら、壊れる砂糖菓子のようなものだからって」

「ガラス細工と言っていなかったか?」

「つうか、飴菓子?」

「いや、そこはもうなんでもいいです」


トシ君の顔にふっと苦笑いが溢れる。そこでさっきまでの世も末だと儚むじじくさい表情から爛々と目を輝かせた表情へとぱっと切り替わる二人。


「でも、気になるんだよ。芽衣に聞いちゃダメなら、トシに聞こうと思って」

「ね、どうなってんの?」


そしてまた一人が右、もう一人が左を捕まえて揺らす。ゆらゆら。


「どうにもなってませんねぇ」

「うまくいってないの?」

「……」


うまくいっているとは言えないかもしれないけど、どうしてこの人たちにあまりうまくいってないんですと答えなければならない?どいつもこいつも。ったく。


「がんばってます」


それで、代わりに努力していることを伝えてみた。


「そっか」


しかし、さすがスポーツマン、それで通じた。さっきまで捕まえられてた腕が離され、ポンポンと肩まで叩かれた。ちょっとホッとする。なんだ。同じ女子でも、夏帆たちはちょっと違うなと。スポーツマンシップに乗っ取りというか、さらっとしてるじゃないですか。さらっと。


「で、芽衣のどこが好きなの?」

「いつから、好きなの?」

「なんて言って告ったの?」

「なんでそんな根掘り葉掘り聞くんだよっ」


しかしバリバリ好奇心の塊だったし、結局。


「なんだよ、教えろよ。ケチだな」

「気になって寝られないんだよ、こっちは」

「知るかっ」

「お、着いたぞ」


普段穏やかなトシ君にしては珍しくキレちゃったところで、全く気にしてない2人。ローソンに辿り着く。自動ドアを抜けるとお馴染みの電子音が流れる。


「やっぱり唐揚げか?」

「唐揚げしかないな」

「なんで唐揚げってこんな美味しいんだろうな」

「発明した人、天才だな」


まっすぐにレジに進み、その脇のショーケースから初志貫徹で唐揚げを買う2人。パッと後方の男子高校生を見る。


「トシは?」

「俺はいい」

「なんも食べないの?」

「いや」


ガリガリ君*3にしました。会計を済まして3人で並んで外に出る。


「なんでソーダ味にしないんだよ」

「この前食べたら、意外と美味しかったんだよ」


トシ君が買ったのは梨味。


「え、どんな味、一口ちょうだい」

「えー」


いつまで経っても小学生のノリの抜けない瑞樹ちゃん。すると、そんな彼女をパシリと叩く夏帆ちゃん。


「ばか。彼女持ちのアイス食ってんじゃねえよ」

「あ、そうか」


そしてまた顔を見合わせた後に、それぞれ唐揚げ片手にプーと笑ってる。


「なんで、そこで笑うわけ?」

「いや、なんかいまだに信じられないっていうか」

「なんか笑っちゃうんだよねぇ」


一粒で二度美味しいのはアーモンドグリコ*4。でも、二度どころか何度でも美味しいのはこのネタらしい。


「バカにしてる?」

「いや、まさかまさか」

「してないしてない」


慌てて手を振って否定する2人。しかし、まだ口の端が笑ってる。


「なんか気分悪くなった」


ガリガリ君の梨味を片手に、機嫌が悪くなるトシ君。二人をほって家路を辿り出す。いつの間にか夕焼けが片隅に追いやられ、空が暗くなってますやん。しかし、トシがちょっとご機嫌斜めなことなんかこれっぽっちも気にしない二人。先をゆくトシ君に駆け寄る。


「ね、だから、芽衣のどこを好きになったんだよ」

「よくわかんない。なんとなく」

「いつから?」

「……」

「ね、なんて告ったの?」

「なんだったっけなぁ」

「なんだよ。覚えてないのかよ」


正確にいうと、なんて言えばいいのかわからないうちに相手の方から悟られて会話を進められたのだったけどね。するとそんな3人の傍をブロロロロと追い抜くものがある。さっき降りてしまったバスの次の便。


「あ、俺、あれに乗る」

「は?」

「お前らは歩いて帰れ」

「何いってんだよ、トシ」


結局次のバス停まで3人で走った。


*1 ローソン

日本のコンビニエンスストアチェーン。1939年アメリカオハイオ州でJ・J・ローソンによって創業。日本では1975年よりダイエーがチェーン展開を行い、現在では三菱商事の子会社。(Wikipedia参照)


*2 ウルトラマン

TBS・円谷プロダクション制作の特撮テレビドラマ、およびその作中に登場する巨大変身ヒーローの名称。怪獣人気ランキング上位1位宇宙恐竜ゼットン2位バルタン星人(Wikipedia等参照)


*3 ガリガリ君

赤城乳業が製造販売する氷菓。1981年販売開始。(Wikipedia参照)

梨味をこの前一時帰国した際に見たぜ!


*4 一粒で二度美味しい

江崎グリコが販売するキャラメル「アーモンドグリコ」の有名なキャッチコピー。本来は「アーモンドの歯ごたえとキャラメルの旨さが同時に味わえる」という意味だが、現在では言葉が独り歩きし、「とある一つの物事から、二つまたはそれ以上の利益を同時に享受する様子」を意味する慣用句としても定着している。(ピクシブ百科事典参照)

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