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松尾君は絶対勘違いしています⑩













   松尾君は絶対勘違いしています⑩













   松尾俊之













「誰も来ないじゃん。本当に手伝いなんて必要なの?」

「憎まれ口叩かない」


黒いTシャツにジーンズ履いて、アーミーグリーンなんて色はないんだろうけど、なんか軍人っぽい緑のエプロンをつけている。


「困ったときはお互い様でしょ?」


カウンターの内側にいる化粧した従姉妹の顔を眺める。この人もアーミーグリーンのエプロンをつけている。落ち着いた木彫のどっしりとした棚に色とりどりの陶器が並べられているのがその背後に見える。


「バイト代ちゃんと払ってよ」

「払う、払う」

「もう」

「だから、里奈ちゃんが治って帰ってくるまでだって、数ヶ月、ね?」

「えりにやらせろよ」

「ダメよ」


即座に断られた。


「なんで?」

「おじちゃんにえりちゃんはダメだって言われてるの」

「は?父さんに?なんで?」

「変な男に目をつけられたりしないかって……」

「……」


アーミーグリーンのエプロンをつけて立っている妹とその横にいる変質者な男の画像を思い浮かべてみた。


「お兄ちゃんとしても心配でしょ?」

「ええ?」

「ほら、文句言わないで、混み始めるまでまだ時間あるから、はい」


カウンターの向こうの従姉妹から銀色の小さなじょうろを渡される。ゴテゴテとした飾りのついた細い水口のじょうろだ。


「なに?」

「店内の植物に水をやって」


それで、しょうがなくそこに水を入れて片っ端から緑に水を与えてゆく。かちゃりと音がして控え室からもう1人の人が出てきた。


「休憩ありがとうございました。あ、トシ君だー」


僕を見つけて、手を振ってきた。年上のお姉さん。名前忘れちゃった。


「今日からしばらくよろしくね。トシ君」


化粧した女の人がニコニコしてる。その、トシ君という呼び方……、やめてほしいな。


「どうも」


片手をエプロンのポッケに入れて、葉のギザギザした名前の知らない観葉植物に水をやりながら軽く会釈した。


「ちょっと、トシ、もっと愛想良くしろ。笑え、笑え」

「ふん」

「店長、大丈夫ですよ」


従姉妹の愛美が、右手と左手の人差し指でもって自分の頬にあて、口角を持ち上げてみせる。


「でも、客商売なのに」

「トシ君の容姿なら、無愛想にしててもお客さん喜びますって」


後ろで話されている会話を聞こえていないフリしながら、広い店内を水をやりながら回った。


従姉妹の愛美は父方の親戚で、昔は福岡で会社勤めをしていたのだけれど、何を思ったのか不意に柳川に戻ってきて古民家を改造してベーカリーカフェを開いている。夜には酒も飲めて軽食が食べられるカフェ。そんなんやってけるのかと大人たちはハラハラしてたが、もともと観光客の多い土地であるし、要領のいい人なので、うまくやってるようだ。


そして、要領のいい人なので、なんかトラブルが起こると親族である人たちを利用してくる。愛美のせいで店を手伝わされるのは今回が初めてではない。今回はバイトさんが原因は知らないが突然骨折してしまい、人手が足りなくなったそうだ。


最後に天井の高い玄関の辺りに置かれた植物に水をやる。古い木造りの古民家の白壁に、南国っぽい観葉植物のミスマッチが返って新鮮で面白い。濃い茶色と白、そこに鮮やかな緑。午後の光がそれを照らすのを見ていた。一瞬、今が何時代なのかを忘れそうになる。


すると、玄関先に人影が立った。


「いらっしゃいませ」


顔をあげてポカンとした。制服を着て、通学用のカバンを肩からかけてじっとこっちをみてる女の子。


「芽衣?」

「なんで?」


すると後ろから同じ制服の子がもう2人現れた。


「あ、いたいた。トシー」

「春菜?」

「久しぶり、トシ」

「夏帆、久しぶり」


芽衣は、春菜のほうをくるりと見た。


「ここ、トシ君のバイト先なの?」

「あ、言ってなかったっけ。そうそう」


春菜がニコニコと答える。僕はそれを目の当たりにしながら、思ってた。


春菜……


そんな僕の内心の声には気づかず、夏帆が話しかけてくる。


「結構似合ってんじゃん。その格好」

「いや、似合わないでしょ」

「そんなことないよ、ねぇ」


夏帆と話しつつ、僕は目の端で芽衣を見てました。芽衣はしばらくはじっと突っ立っていた。それから言った。きっぱりと。


「ごめん。急用を思い出した。帰る」


そして、くるりと周れ右してパタパタとかけていった。


「え、うそ。芽衣?」


春菜が慌ててかけてく芽衣を追う。僕はそんな2人の後ろ姿を眺めてた。前をかけていく人の背中を。針で胸を刺されるような痛みを感じながら。


「なんだ。芽衣。変なやつ」


僕の横で夏帆がやっぱり2人の背中を見ていた。


「ご案内します」

「あ、うん」


夏帆だけ連れて店に入る。


「どこに座りたい?」

「どこでもいいの?」

「奥に座ると水路が上からみえるよ」

「え、うそ、まじ?」


日当たりのいい窓際の席に案内した。


「いらっしゃーい」

「あ、まなみちゃーん」


従姉妹に向かって手をヒラヒラさせている夏帆をその場に置いて、自分はもう一度店の入り口まで戻った。芽衣の消えた先を見ていると、春菜が戻ってくるのが見えた。


「ごめん、トシ」


両手を合わせて謝られた。春菜から目を逸らし、ふと遠い目になってしまった。


「先に相談して欲しかったな」

「いや、良かれと思って……、ごめんっ」


店先でまた、頭を下げられる。しばらく頭を下げている春菜を上から眺めてた。恐る恐ると春菜が顔をあげた。


「というか、どうなってるの、君たち」

「……」


どうなってるんだろう?僕は首を傾げた。


「正しくは、どうもなってないのかな」

「は?何それ」

「つうか、春菜はどう聞いてる?」

「え、わたしに聞くの?」

「芽衣、なんか言ってた?」

「……」


しばらく睨めっこした。その春菜の顔をじっと見ていてわかった。


「何も言ってなかったってことだよね?」


芽衣はウキウキとあるいはハラハラと俺とのことを周りの人に話すような人じゃないんだろう。それはなんとなくわかっていた。


「いや、そんなことは……」

「じゃあ、なんて言ってたの?」

「……」


ため息が出た。


「さっきなんて言って帰ってったの?」

「いや、用事があるからって」

「だけど、あからさまに俺の顔を見てから帰ってったよね?」

「……」


もう一度、ため息が出た。


「ね、君たち、どうなってるの?」

「正しくは、どうにもなってないのかな」

「いや、全然、全くわからないけど、それじゃ」

「しばらく立ち直れないかも……」

「え、終わっちゃったってこと?」


春菜が愕然とする。


「終わってない」

「あ……」

「ていうか、始まってない」

「え……」

「俺の顔見て、あからさまに帰ってったよね?」

「あ……」


春菜はそのとき、意味もなく空を見上げた。意味もなく……。そして……、


「なんか、ごめん」

「春菜、謝りすぎ」

「いや、サプラーイズって、芽衣も喜ぶかなって思って、さ」

「それどころか、人の顔を見るなり帰っていきましたがぁ?」

「……」


思わず、春菜に噛みついてしまった。そして、片手を額に当てて反省した。


「ごめん、春菜……」

「いや、トシが謝るとこじゃないし」


そして、しばらくそのままの姿勢で、さっき僕の方を見ていた芽衣の様子を思い浮かべた。お互い虚をつかれてポカンとしながら見つめ合ったあの数秒。それはまた、久しぶりに見た生身の芽衣だった。


「やっぱ、うまくいってないの?」

「……」

「大丈夫?トシ」


しばらく額に手を当てて、その芽衣の面影を思い浮かべてた。


「いや、俺たち、うまくいってるから」

「どこがだよっ」


ツッコミありがとう。滑るとこだったぜ。はぁーっとまたまたため息が出る。


「わたしからまた話してみる?」

「いや」

「いいの?」

「そんな毎回、春菜の助け借りてたら、芽衣も嫌がるでしょ」

「だけど……」

「大丈夫、大丈夫だから」


春菜はまだ何かいいたそうな顔で僕を見ていた。


「何してんの?トシ」


愛美がいつまでも戻ってこない俺と春菜を探しにきた。


「あ、愛美ちゃーん」

「あ、春菜、入って、入って」


僕たちは連れ立って、店の中に入った。


***


バイトが終わって夜道を自転車で帰る。自転車の立てるキコキコという音を耳にしながら、僕は思う。


芽衣は僕の贈ったシャーペンをどうしたんだろう?使ってくれてるのだろうか。


あの日、芽衣の扉がもう少しだけ僕の方に向けて開いたと思った。だけど、芽衣ちゃんはここで化けた。ゲームをしていて、ステージボスを時間をかけて倒したとする。やった!やった!倒したときの効果音が鳴る。一通り歓喜した次の瞬間に、


パラリラリ


いきなり倒したばかりのボスが復活して、⚪︎⚪︎改みたくなって、さっき倒したばっかのボスより更に強くなったんじゃね?みたいな。つまりはかろうじてうまくいってたと思ってた次の瞬間に、僕は芽衣に全てのドアというか窓というかシャットアウトされました。


僕をお断りする非常に一方的なメッセージが届いて、それで、会って話したいと返信しても、電話しても、完無視された。


めちゃめちゃきつかった。


自分でもそのきつさが一体、何によって構成されているのかがわからなくって。拒絶されてからしばらくは、寝ても覚めてもそのことについて考えてた。


多分、それは……。簡単にあきらめられるものだったら、ま、いっかと人は次へ歩き出せるものだと思う。でも、芽衣に僕は執着していて、ダメだと言われても望みがないのかと考えてしまう。


だから、何がダメなのかいまいちわからない、それがきつかったのだと思う。


すでに僕は、芽衣のいない僕の毎日にいまいち興味が持てない。このまま僕の毎日から芽衣がいなくなって、時を過ごしたらいつか、同じぐらい執着したくなるような女の子が現れるだろうか?


芽衣のことを好きになる前と同じ日常に僕はいるだけで、昔は別にそれに疑問も感じずそれなりに満足して毎日を過ごしてたのに、今はそれができない。いつ抜け出せるかわからない憂鬱のループの中に捕まってしまいました。


君に会えない日常は、僕にとっては永遠に牢獄にいるような気にさえなってしまう。


そして、ぼんやりとしながらふと思い出すのです。芽衣のあの宣告。


「先に謝っておきます。きっとわたしはあなたを不快にする」


あの時、バスを降りても僕たちは見つめ合ってた。あの時の芽衣の目を忘れられないんです。


そして、それから僕の中に不思議な変化が起こった。あの時の芽衣の目の色とそれから芽衣が僕に語った過去と、そういうのが全部繋がって、芽衣は口では僕を拒絶しているけど、でも、同時に助けを求められているような気がした。


本当にこの時、ある意味、正気と狂気の境目に立っていたように思う。


恋愛って厄介なものだと思います。白が黒に見えたり、黒が白に見えたり……。きっと僕はどうにかしてしまったのだと思う。恋なんてきっとその主成分の99%は思い込みでできている。


僕は芽衣は口では僕を拒絶しているけれど、でも、僕に本当は助けを求めているんだ。その考えに取り憑かれてしまった。すると、あの悲しそうな目と、あと、あの日、わずかな時間を共にして、僕に手を取られて嬉しそうにしていた様子が頭の中で何度も何度も繰り返される。


「こんなん、ほっといて忘れられるわけ、ないよな……」


自分の部屋で1人ベッドに横になって呟きながら、そして、僕はもう暗唱できるんじゃないかと思うくらい何度も読んだ、芽衣の最後のメッセージをまた読んだ。


「トシ君 この前は楽しい1日でした。ありがとう。あの後、よく考えたのですが、わたしはあなたを利用してしまったような気がしてます。これからも、利用してしまうと思う。これはわたしの望むところではありません。傷の浅いうちにもう、会ったり話したりしないほうがいいと思う。もっと別のややこしくはない女の子と幸せになってください。芽衣」


むしろ、あなたのこういうところが気持ち悪いとか、嫌いとか、そんな風にはっきり言われたほうが一旦瀕死になった上で、生き返って次へ行けるような気がするんだけど……。でも、芽衣のメッセージは意味深で、さっぱり意味がわからない。


さっさと終わらせて次へ行って、しばらく経ってから、あれは変な女だったなとか思い出せるような軽い男だったらいいのだけど……。そして、自分がそんな軽い男になったと想定して、もっと大人になってからふとした瞬間に、街で芽衣とすれ違う瞬間を想像してみた。自分の傍には別の女の人がいて、道路の向こう側を芽衣が自転車で通り過ぎる。


その想像の中で自分は立ち止まり、現れた芽衣がずっと向こうへ消えてゆくまで眺めていた。隣の女の人が何をみてるのと聞いてくる声が聞こえる気がした。


きっとその時も芽衣は誰にも心を開かず1人なのだろう。だけど、僕らとは違う価値観の世界で、彼女なりに幸せに生きているのだと思う。だから、彼女の幸せのためには僕はこれ以上なんかしたりやったりしないほうが正解?


僕の心の奥の方に、芽衣の姿がくっきりと刻み込まれた。この子は深い森の奥のようなところに1人でいて、何も言わずにじっと僕の方を見てくる。瞬きもせずに。


***


学校帰りにたまにバイトが入るようになってしまい疲れてて、ダルい授業の時に僕としては珍しいことだけど、お腹が痛いと嘘をついて保健室に寝に行った。しかし、なんだか寝られずにベッドに横になったまま、窓から空を眺めていた。


「あ、松尾君じゃなーい」


突然、そんな声がしてベッド周りのカーテンがしゃっと音を立てて開けられた。嬉々とした顔をした井上真央がこちらを見ていた。


「どーしたの?こんなとこで寝てて」

「そういう井上さんこそ」


どっからどう見ても具合が悪そうには見えないぞ。


「わたしのことはいいのよ」


ピシャッと閉じられた。そういう人なのである。やれやれ。眠れないまま寝っ転がっていた体を起こした。


「いや、そのまま、寝てくれていいのよ」

「なぜ?」

「寝顔を撮ったげる」


スマホを構えている。


「冗談だよね?」

「冗談だと思う?」


さて、問題です。この会話を録音などで記録したとして、後ほど裁判を起こしたとする。被告は寝顔を撮るといってセクハラ発言をしました。立証できる?井上真央なら裁判の席で堂々というだろう。冗談でした。弱いな、論拠が弱いな。


「何を考えてるの?」

「いや、寝顔を撮ってどうするの?」

「売れるかもよ」


チーン


ベッドに身を起こした状態で、膝を抱えてしばし黙祷した。


「冗談よ。冗談だって」

「井上さんが言うと、冗談に聞こえません」

「ね、なんで、特別病気でもなさそうなのにこんなところにいるの?」

「それはあなたもそうだと思うんですが」

「わたしはいいのよ。ね、なんで?」


この人のように考え、行動し、生きられたらどんなに楽だろう?ある意味、惚れ惚れと心からそう思い、井上真央を眺めた。


「恋の病?」

「……」


今日もいい天気だな。空が青い。


「ね、どうなの?体が元気なら、恋の病?」

「前から思ってたんだけど、井上さんってちょっと昭和っぽいよね」

「どこがよ、失礼ね」


失礼と言ったら、昭和に失礼だけどな。


「ね、前から思ってたんだけど、どうすれば井上さんみたいにアグレッシブというか、前向きになれますか?」

「はぁ?」


前から一回と言わず聞きたかったことを思い切って直接質問してみました。


「何を言ってるの?松尾君。突然」

「前からずっと疑問だったんです。教えてください」


むしろ、師匠に教えをこう弟子のような気持ちで真剣に尋ねてみた。


「わたしのどこがアグレッシブなのよっ!」

「……」


ま、ま、まったく、自覚がなかった。ここで、すべての眠気が吹っ飛んだ。この人、自分で自分のことをどんな人間だと思ってるのだろう?


「なんでそんな途方もない質問が出てくるの?何で悩んでるの?ねぇ」

「……」


自分のことは極力何も語らないのに、人のことは暴こうとする。いつも。もうっ!大体、これのどこが途方もない質問なんだよ。ごく普通の疑問だろうが、ごく普通の……。


そして、井上真央は更なるグレイな行動に出た。曰く、僕の片腕を捕まえて揺さぶり始めた。


「ね、何?何?」

「ちょっ、触らないでよ」

「なに、思春期の女子みたいなこと言ってるのよ」


やっぱり発言が昭和っぽいぞ。


「わかった。話す、話すから揺らさないでくれ」

「ああ、はい」


やっと片腕を離してくれた。そこで、ベッドの上であぐらをかいた。どこから話そう。できるだけ、話したくないことは外しながら、抽象的に言おう。


「1人でいたいって言ってる人に付き纏うべきではないですよね?」

「それは例の彼女?」

「一般論です」

「あなたはどうしたいのよ?」

「……」


抽象的に、抽象的に、抽象的に?


「そりゃ……」

「一緒にいたいんでしょ?」

「でも……」

「相手のこと考えてどうすんのよ」

「え……」


交渉というか、討論というか、なんだろう?とにかく僕たちの会談は今、崖から車が奈落の底に落ちるように落ちた。


「いや、でも、恋愛って相手のことを考えるものなんじゃ……」

「そんなん大人がやることでしょ」

「は?」

「こういってはなんですけど、松尾君、今までの恋愛遍歴は?」

「え……」


抽象的に……。


「さぁ?」

「ゼロでしょ」

「……」


チーン


「限りなくゼロに近いでしょ」

「……」


両手を胸の下で組み、体を斜に構え、きっと視線をかけてくる、井上真央の女王スタイル。


「そんな恋愛初心者が、相手のことを考えてなんて無理無理。経験が足りなさすぎるのよ。考えるよりまず行動よ」

「はぁ」

「あら、こんな時間だわ」


手首をクイっと返して時計を見る。


「じゃあ、またね」

「……」


ばさっと保健室の白いカーテンを翻すと井上真央は消えた。不思議の国のアリスの中に出てくる、時計を持ったウサギ*8ばりに忙しい人だな、というか……。


保健室に何しに来てたの?


しばらくしてカラカラと扉を引く音がした。足音が近寄ってきてカーテンがシャーっと引かれる。


「ごめんね。1人にしちゃって、どう?松尾君、少し落ち着いた?」


養護の先生が顔を覗かせてくる。


「先生……」

「あら、どうしたの?」

「いや、なんでもありません。次の授業は出ます」

「あ、そう。なら、あともう少し時間あるから、休んでなさい」

「はい」


そろそろともう一度保健室のベッドに横になりながら思う。


井上真央は、本当に何をしに来てたのだろう?


いずれにせよ、僕は、不思議なお告げを受けたような気分になっていた。


*8 時計を持ったウサギ

不思議の国のアリス(Alice‘s Adventures in Wonderland) 1865

服を着て言葉を発しながらアリスのそばを横切りアリスを不思議の国へ導いたウサギ。懐中時計をもっていていつもそれを取り出して見ては急いでいる印象が強い。Wikipediaによると、リデル家のかかりつけの医師がモデルになったそう。

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