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松尾君は絶対勘違いしています⑧












   松尾君は絶対勘違いしています⑧













   松尾俊之













芽衣と二人で出かけてから数日経った平日、学校の廊下ですれ違いざまにとある人に呼び止められた。昼休みだった。残り5分くらいだったろうか。


「ちょうどよかった松尾くん」

「僕はちょうどよくありません」


サクッと逃げようとした。が、捕まった。腕を捕まえられた。


「そんな手間取らせないから、ね、ちょっと顔貸して」

「いや、3ヶ月経ってませんよね?」

「あら、ちゃんと覚えてたのね」


強引が服を着て歩いているような女王、井上真央。みんなのこない廊下の端っこの方へ引っ張っていかれる。


「どう?」

「どうって何が?」

「好きな子がいるって件はどうなったの?」

「どうって、まぁ……」

「時間がないから、はいかいいえで」

「……」

「付き合ってるの?」


自分でも自分の顔が無表情になったのがわかった。


「そういう顔をするってことは、玉砕したってこと?」


井上真央が、ワイドショーで突然、超有名芸能人が、まさかの不倫疑惑などと報道し出したのを見たような顔をした。え、うそ、まじ?僕は慌てて片手を顔の前で振った。


「いやいやいや、玉砕はしてません」

「じゃあ、はいってことね」

「うーん……」

「煮え切らない人ねっ」


なぜか、腕を組みながらプンプンする。


「付き合ってるけど、うまくいってるとは言えない状況……」

「あ、そう」


一気に井上のテンションが下がった。マグロの競りに来ていて、別の業者に競り落とされた瞬間の人のように。それから俄然テンションの下がったやる気のない顔で、眉間に皺を寄せる。


「それにしても、松尾くんクラスを振り回すって一体どんな女の子?」

「あ……」

「うまくいってないって何が原因?」

「うーんと、とても、短くかいつまんで話せるような話じゃ……」


というか、なぜ、あなたに報告しなければならない?


すると、始業開始のチャイムがなる。


キーン、コーン……


すると井上真央はすちゃっと手を挙げた。


「ま、とにかく、わかったわ」

「え……」

「また、なんか変化があったら教えてちょうだい」

「あ……」


カーン、コーン……


チャイムがなり終わらない間にさっと踵を返して、帰ってゆく。毎度のことながら、若干呆然とその背中を見送った。


なんすか、その、清々しい軽さ……


ちょっとぼけっとした後で、クラスへ戻ると午後の授業の担当教師がすでに到着していて注意された。


「松尾、ちゃんとチャイムが鳴り終わる前に席に座ってなさい」

「すみません」


それ以上ぐちぐちと言われることはなく、教師は教科書片手に今日の内容について説明しながら、俺らに背中を向けて白いチョークを取り上げた。教師が前を向くと同時に圭介が後ろを振り向いた。


「なに、話してたの?」

「なにって?」

「井上とだよ」

「こら、そこ」


まんまと叱られた。圭介はすみませんとか言いながら前を向き直す。


なんなんだろう、あの井上真央の軽さ……。俺のことを好きっていうのとはちょっと違うような。呆れるというよりむしろ、感心する。自分のこの重さと比べてなんと清々しい軽さだろう。


井上にとって、自分のものにならない人というのはもう、そこですっきりさっぱり対象外になるのだろうな。そして、即刻次へと動いていく。


どうして、自分はそうじゃないんだろうなぁ。


頬杖ついて授業中にぼけっとした。


芽衣とうまくいかなかったら……。そう思うと、途端に僕は袋小路に立ったような気がする。前に進めない。


昔、いろいろあって傷ついている子と、どうやって付き合っていけばいいんだろう?相手の身になって考えるといってもな……。自分が経験のないことをどうやって想像すればいいのだろう?


わかんねえなぁ。


つまらない授業を聞いてるふりをしながら、頬杖をつき、ついてない方の手を自分でじっと見た。そして、芽衣と手を重ねた時のことを思い出す。あの小さな手。僕に手を預けて歩いてた芽衣のこと。


諦めたくなかった。諦められなかった。












   中村芽衣













自分はいつも、用意周到な人間で、攻撃力は高くない雑魚キャラですが、逃げ足だけには自信がある。だからもし、事前に知らされていたのなら、きちんと逃げて見せたのに。


わたしのネックは春菜ちゃんでした。そこだけがネックだった。


春菜ちゃんは、わたしが逃げ足が速いということは理解していて、事前には知らせずわたしを現場まで連れてって、そして、突然告げた。


「いいか、芽衣、よく聞け」

「うん」

「中学の時一緒だったトシのことはわかるよね?」

「松尾君?」

「そうだ」

「松尾君がどうしたの?」

「今、この2階のお店で待ってる」

「春菜ちゃんを?」


松尾君のことは知っている。春菜ちゃんと仲のいい男の子。怖い人ではない。それだけ。


「いや、芽衣のことを」

「なんで?」


こちらには何の用事もないが、一体どんな用事があるというのだろう?


「学校が別々になって会えなくなったから、芽衣に会いたいんだって」

「え……」

「卒業式で言うのは勇気がなかったんだって」

「……」


少女漫画などを読んでいると、たまにこんな感じの場面があるなと。だけど、それは……、それは……、もっと別の女の子の身には起こるけど、わたしに起こるはずはない。


「つまりそういうことだ」

「松尾君が?」

「そう、松尾君が」

「わたしの知ってるあの松尾君?春菜ちゃんと仲のいい」

「そう」


わたしに起こるはずがない。


「それは何かの間違いだよ」


そうは言ってもなんだかんだと言われて2階に連れて行かれた。そして一緒にいてと言ったのに春菜ちゃんはわたしを残して帰ってしまった。


あの日、わたしから見た松尾君は、こういう感じ。


映画を撮っているとする。


白雪姫が寝ている小屋にたどり着くために白馬に乗って森に入ってきました。途中で分かれ道があって、右に行かなければならなかったのに道を間違えて、左に入ってしまった。そして、お姫様でもなんでもないわたしのところに来てしまった。


わたしは本来だったらカメラを向けられることのない人間なのに。だから本人にそれを教えてあげた。


「絶対勘違いしています」


ところがそれでも本人はその間違いを認めようとしない。春菜ちゃんに言われた手前、無下に断るわけにも行かなくてとりあえずOKとした。でもね、わたしに恋愛なんて無理です。


わたしの森の小屋には春菜ちゃんとみんなが遊びにくるくらいでいいんです。白馬に乗った王子様なんて訪れる必要はない。もてなし方も分からない。だから、小屋の扉をギュッと閉めて、誰かが訪ねてきても、ずっと留守のふりを続けていれば良い。


のらりくらりと数回、そういうことを続ければ、松尾君も道を間違えたと知って、もともと進まねばならない道へと戻るだろう。


電話がかかってきた時には、なってる電話を机の上に置いて、何回で切れるかなとコールの回数を数えていました。切れてからしばらく経って、流石に完無視するのは、あれかなと。なにせ相手はひなたキャラですし。春菜ちゃんの大事な友達でもあるし。陰キャとしてひなたキャラに敬意を示す意味で、メッセージでフォローを。


「すみません。お風呂入ってました」


これでよしと。ちょっとホッとしてスマホを机に置いた。その時だった。電話が震え出した。


「え……」


わたしって友達そんな多くないし。電話をかけてくる人なんて限られている。恐る恐る覗いて見た。


松尾俊之


松尾君って……。言葉にできないあれやこれやがざわざわと駆け巡った。どうしてこんな雑魚キャラにそんな一生懸命なのか。普通は何回かすげなくされたら、ふと、俺、王子なのに馬鹿じゃね?と我に返り、元いた日常に戻るものじゃないの?


なにか、わたし、間違っているだろうか?小屋の中に閉じこもって居留守を使うことでは、これは、終わらない?他の人なら終わるのだろうけど、松尾君に限っては終わらない?


よくわからない。当たり前だ。男の子のことなんてよくわからないし。


結局、電話に応えることはなく、電話は切れました。切れた後に、思う。ここまであからさまに着拒したのは流石に悪かったかなと思いました。次、偶然顔を合わす席とかで、気まずいなと。ま、ただ、そのうちどうでもいいことだったと思って、松尾君も忘れるだろうと。松尾君なら、きっと周りの女の子がほっとかないし、そのうち彼女ができるだろう。


ところが……


ここまでしといて、それでも、まだ、数日後に松尾君からメッセージが入った。それを見た時に、とうとうやっと理解した。


松尾俊之は普通の人ではない。


わたしの拙い経験からいって、ドラマや小説や漫画で得た知識が主ですが、普通はこのくらいそっけなくすれば、男の人というのは諦めて、次の獲物へと馬の頭を巡らすものではないのか?大体一体全体どうして……


よりによってわたしなんだー!


春菜ちゃんに松尾君を傷つけるなと釘を刺されて、カフェに取り残されて以来、なんとか保っていた自制心というかなんというか、ここに至って爆発しました。逃げることに関しては常人ではないわたしの壁というかなんというか、それでも乗り越えようとする?


そして、しばし、瞑想。

本来なら、こういうことに自分のエネルギーというか時間というかを費やす必要はなかったはずだけれど、不本意ながら男性心理について分析。


思うに、松尾君は自分に自信のある日向キャラであるわけです。自他ともに認める白馬の王子様ですよ。で、何かの気まぐれで道端で見つけた雑魚キャラをお手付きにしようとしたわけだ。我ながら下世話な言い方だが、まぁいい。


いつもうなぎを食べていると、たまにうなぎではない何かを食べたくなるということだ。


そんなに性格悪そうに見えないけど、実は松尾俊之は性格がひん曲がっていて、お戯れに雑魚キャラをお手付きにして楽しむ、お殿様みたいなところがあるんじゃね?


当然のように楽勝でお手付きにできて、さっさとその雑魚キャラを道端に捨て、更に馬で踏みつけてその次へとステップを進めるはずだった。


ところが、まさかの雑魚キャラが逃げた。


ふっ……


分析用の書物(?)をパタンと閉じて、我ながら皮肉な笑顔が漏れました。

速やかに敵の目から外れて意識からも外れるつもりが、反対に狩りの本能を掻き立てていたのかもしれない。


じゃあ、逃げるのをやめて反対に姿を現し……、とりあえずお手付きになっとく?

お手付き……


そこで、わたしの血管がプチりと切れた。


いや、雑魚キャラなめんなと。主役クラスだったら、なんでもして良いのかと。このやろう。わたしは白雪姫には出演しないぞと。一生ブレークすることのない、そうだな、たとえば、魅惑の野生きのこ探検、みたいなめちゃめちゃにマニアックな裏番組で、


「あ、これは毒がありまーす」


みたいな現場レポートを、黄色いレインコート(?)被りながらできてたら幸せなんだよっ。朝、キノコと共に起きて、夜、キノコと共に終われれば良い。一生男なんかいるかぁ。(ところでキノコは朝起きて、夜眠るのだろうか?)


白雪姫に引き摺り込まれてたまるかと。5分の虫にも一寸の魂だっ!


我ながら、少々行きすぎた仮説を立てていたそんなある日に、春菜ちゃんに放課後呼び出された。放課後、部活が終わった後にちょっと付き合ってと言われて、学校近くのコンビニの片隅でカウンター席に並んで座る。


「どうぞ」

「……」


きのこの山*4が出てくる。ピリピリピリとパッケージが開けられた。


「たけのこの里*4の方が良かった?」

「どっちも好き」

「あ、そう」


お説教の前に餌付けをされているような気がする。まず間違いなくそうだろうと思いつつ、しかし、春菜ちゃんに逆らうという事態は、わたしの人生に起こることはない。


ポリ


食べました。きのこの里。間違えた、山。


「トシのことなんだけど」

「……」


やっぱり……


「うーん」


春菜ちゃんはそこで、カウンターに肩肘ついて自分の髪をくしゃくしゃとしながら唸った。


「口を挟みたくはないんだけど」

「はい」

「なんか全然会ってもらえないって話をトシから聞いて、どうなってるのかなぁって」

「……」


春菜ちゃんが横からわたしを覗いてる。わたしはじっとキノコの山を見てました。数を数えていた、ひい、ふう、みい……。横から手が伸びて、キノコが一つ持ち去られた。しょうがないので、もう一度最初から数え直す。ひい、ふう、みい……。


「だから最初っから無理だって」

「無理なら無理でしょうがないんだけど」

「え、いいの?」


ふっと心が軽くなる。なんだ、いいんすか?


「別に、芽衣に無理してトシと付き合えという権利なんかわたしにないでしょ?」

「どうしたら諦めてもらえるかな?」


そこでいそいそと春菜ちゃんに恋バナの相談をする。というか、これが本当に恋バナの範疇なのかどうか怪しいが。しかし、春菜ちゃんは厳しい表情を崩さない。ちょっと不謹慎だったかなと、こちらも厳粛な表情に切り替える。


「ね、何がダメなの?トシの」

「え……」


はて?何が……


「いや、松尾君のことをダメですと言えるような女じゃないですよ、わたしは」

「は?どういうこと?じゃ、オッケーなの?」

「いや……」

「ダメならダメってちゃんと言ってあげて」

「いや、ダメだなんて言えないよ」

「でも、何かが引っ掛かってるから、会いたくないわけでしょ?何が引っ掛かってるの?」

「うーん」


ひい、ふう、みい……。きのこを数える。


「ね、トシはね、芽衣がちゃんと自分の気持ちを説明して、納得したら芽衣の困るようなことする人じゃないよ」

「そうなの?」

「当たり前じゃん」

「……」


ひい、ふう、みい……、きのこを……

すると横から手が伸びて開けられたきのこの山の蓋を閉め、一時お預けされてしまった。


「ね、何がダメなの?」

「いや、松尾君は」

「トシは?」

「からかってるのじゃないかな?」

「ホワット?」

「……」


なぜか突然、英語を話す春菜ちゃん。発音、良かったぜ。


「道端に珍しい野草を見つけてちょっと手を出してるだけじゃないのかな?」

「なんっじゃ、そりゃ」


そこで、春菜ちゃん軽く目を閉じてしかめ面になると、片手でショートボブの髪をくしゃくしゃとする。


「だって、なんでわたしなのか、さっぱり意味不明」

「あのね」


春菜ちゃんはわたしを人差し指で指した。


「これだけは言っとく」

「はい」

「トシは本当に芽衣のことが好きなんだって」

「……」


自分の眉間に皺が寄るのが鏡を見ていなくてもわかる。


「どこが?」

「だから、それは本人にあって聞きなって」

「……」

「とにかく、子供じゃないんだからちゃんと会って、ダメならダメで、ちゃんと相手が納得するように説明してあげて」

「……」


わたしが煮え切らない顔をしていると春菜ちゃんはまっすぐな目でわたしを見ながら、わたしの手を取った。

「もし、トシがいい加減な気持ちで芽衣のことからかおうとしてるんだったら、わたしが芽衣とトシを会わせようなんて思うわけないでしょ?」

「うん」


これにはちょっと……、例によって例の如く、じんとした。


***


わたしにとって、春菜ちゃんの命令は絶対なんです。仕方なくその日の夜に松尾氏に連絡を入れて、会う約束を取り付けた。カエルに言われたらしょうがない*5。ならぬ、春菜に言われたらしょうがない。


そして、春菜ちゃんに言われたからと慌てて約束を取り付けた後で、ふと思った。


会って、何を話すんだろ?というか、何のために会うんだったっけ?


脳の中をさらう。江戸時代の人が泥鰌を掬うような格好をして出てきて、ざるでわたしの頭の中の川をあらよっと掬ってる。あらよっ、あらよっと。


答え、出ました。


春菜ちゃんに言われたから。というか、春菜ちゃんに満足してもらうため。


チーン


あらよっと、あらよっと。泥鰌掬い*6の人が引き続き、川を浚ってくれておりますが、それ以外の答えがない。


……こんな状態で、のこのこと見た目は白馬の王子なのだけど、中身はご無体なお殿様の松尾氏の前に出てゆく。アロハオエ(挨拶をしている)。両手をあげ、くるりと回って見せて、武器などは持っていないと証明しても、その次の瞬間にはお手つきにされてしまうのではないか?お手つきに……。


泥鰌掬いの人が消えて、どこかのお座敷で、バカ殿に帯をくるくるとほどかれている町娘が出てくる。あ〜れ〜!


いや、松尾君のバカ殿装束も、自分の町娘装束もはちゃめちゃに似合わないな!浮いてるぞ!


止まるところを知らない妄想の嵐をとりあえず吹かせてみた挙句、流石にそれはないだろうと自分の妄想に自分でケチをつける。あ〜れ〜!


しかしですね、やはり、謎なのです。男の子なんてよくわからない。もうちょっというと、別に一生わかんなくて結構なんですが。なんだかめんどくさいな。きのこ図鑑を見てられたら幸せなのに、しょうがないかな、人間生物男の図鑑を(妄想の中で)取り出して考える。


結局よくわからん。しかしだな。春菜ちゃんがあそこまでいうのだから、よくわからんが、松尾氏はご無体なお殿様ではないのだろう。わたしが知ってる松尾君も別に、突然誰彼構わずお手つきにするような人には見えなかった。


しかしだな……。


ここで、ため息が出た。


どう考えても、恋愛は無理。


自分の部屋のベッドにどさりと仰向けに寝っ転がった。


一緒に住んでいる父親と母親だって、毎日一緒にいる春菜ちゃんたちだって、すぐ隣にいたって、わたしの心の中を完全に覗けるわけじゃない。わたしの心を知っているのはわたしだけ。みんなが好きだから、傷つけたくないから、元気な自分を演じてるだけ。みんなが望むわたしを演じてるだけ。その自分の全てが嘘なわけじゃない。


だけど、ハリボテなんです。


ハリボテを壊すつもりはない。ただ、壊すつもりはなくても、壊れてしまうことはある。みんなにはその、わたしの弱さが見えないんです。それを知ってもらうつもりはない。絶対に知ってもらうつもりはない。あれだけ心配をかけた親にも、やっとできた友達にも。


わたしはハリボテではなくて、本物なんだと信じてもらうこと。本物に見えるように演じ続けること、それは自分にとって、とてもとても大切なことでした。最重要なことだったんです。


恋愛は無理。

誰かを本当に好きになって、その人と一緒にいた経験などないけれど、本能的にわかる。恋愛の距離感は友達よりも近い。親よりもある部分では近いのだと思う。


そこまで近寄られたら、自分がハリボテだとバレてしまう。それだけではなくて、それをきっかけに自分が壊れてしまうかもしれない。薄っぺらな皮の内側に冬眠させている、蟲のように蠢く醜い自分が眠りから覚めてしまうかもしれません。


そこで、自分はそれからの数日間、真面目に考えました。


わたしにとって大事なのは、わたしが元気になったと信じて喜んでいる親を騙し続けることと、やっとできた友達にわたしの本当の姿を絶対に知られないことです。だから、早々に松尾君にはわたしの前からご退場願いたい。失礼にならないように遇してご退場いただこう。だから、本来だったらこの九州の地で行う予定ではなかった行動に出ることにした。


過去を語ることにしたのです。それで、引いてもらおうと。

自分がハリボテだと、松尾君にだけは明かして、それでご退場願おうと思ったのです。


*4 きのこの山 たけのこの里

明治のチョコスナック。昭和45年から実に5年をかけて開発発売された商品。今ではファンシーで可愛いチョコスナックも昭和45年当初には板チョコやチョコバーが全盛で、奇妙なお菓子と評価されても当然だった。横文字が前世の時代にあえて郷愁を醸し出す名前とパッケージで発売。その4年後にはたけのこの里が発売。本格的なファンシーチョコスナックの時代の先駆け的商品でした。


参照 株式会社明治HPより↓

https://www.meiji.co.jp/sweets/chocolate/kinotake/history/


ちなみに私はどっちも好きなのですが、どうしてもどっちかに絞れと言われると、たけのこの里に軍杯をあげます。あのスナック部分のほどよい硬さとほどよい甘さ。ボロボロにならないけどポリではなくさく……あそこに、なんかほのぼのとした安心感を覚えてしまうのです。汪海妹


*5 カエルに言われたらしょうがない

ふりむけばカエル NHKみんなの歌 1987年 歌 矢野顕子 作詞 糸井重里 の一節より


*6 泥鰌掬い

島根県安来市の民謡、安来節に合わせて踊られる踊り。大正期を中心に全国的人気を博した。参照Wikipedia

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