嫌悪感
年が明けた。
正月が過ぎてから、着々と婚礼の準備は整い、後は、其の日を待つばかりとなった。
理佐は、手持無沙汰になると、物思いに耽るようになった。
早佐と話していても、時折上の空だったので、早佐は嘆いたが、周囲は、そういうものだと言って、微笑み、花嫁になる前の娘を見守った。
理佐は、ある時は、婚礼衣装が気に入らない気がして、苛々した。
ある時は、何か、準備している物に欠けている物があるのではないかと、そわそわした。
わけもなく泣けてしまったり、此れからの生活に、胸が躍ったりした。
理佐は、自分でも、自分の気持ちを持て余していた。
一方、岐顕には、理佐から見て、特に変わった様子は見受けられなかった。
理佐は其れを、少し寂しく思った。
其れでも、仕方がないと思った。
どちらかが婚姻の儀を望むと望まざるとに関わらず、時間は否応なしに過ぎていくのだ。
理佐は、自分にも御し難い、醜い気持ちを知られて嫌われるのは嫌だったし、其れを知られず、岐顕に拒絶されないだけ有り難かった。
理佐は、こんな思いをせずに、好き合った者同士と結ばれるのなら、どんなに良いだろうと思ったりもしたが、やはり、自分には、岐顕以外と結婚する事は、想像も出来なかった。
「いよいよ明日だね」
其の晩も、理佐が寝間着の浴衣姿で物思いに耽っていると、令一が理佐の部屋にやってきた。
「ええ。兄様、今までお世話になりました。」
理佐は、正座し、丁寧に一礼した。
令一は、また、あの作り物めいた美しい笑顔で、理佐に応じた。
理佐は何故か、其の笑顔を、汚らわしく感じた。
そして何故か、令一に触られるのは嫌だと感じた。
そして、寝巻の浴衣姿で令一に対峙しているのも嫌だと感じた。
首から太腿から、全身の皮膚が、痛む様な拒絶感があった。
其の日は其の儘、令一が帰ってくれたので、理佐はホッとした。
其れにしても、自分は何故、こうも令一が怖いのだろうと思った。