表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
汝を除て 『瀬原集落聞書』  作者: 櫨山黎
第一章 竹林
7/68

嫌悪感

 年が明けた。


 正月が過ぎてから、着々と婚礼の準備は整い、後は、其の日を待つばかりとなった。

 理佐(りさ)は、手持無沙汰になると、物思いに耽るようになった。


 早佐と話していても、時折上の空だったので、早佐は嘆いたが、周囲は、そういうものだと言って、微笑み、花嫁になる前の娘を見守った。




 理佐は、ある時は、婚礼衣装が気に入らない気がして、苛々(いらいら)した。


 ある時は、何か、準備している物に欠けている物があるのではないかと、そわそわした。


 わけもなく泣けてしまったり、此れからの生活に、胸が躍ったりした。


 理佐は、自分でも、自分の気持ちを持て余していた。




 一方、岐顕(みちあき)には、理佐から見て、特に変わった様子は見受けられなかった。

 理佐は其れを、少し寂しく思った。


 其れでも、仕方がないと思った。


 どちらかが婚姻の儀を望むと望まざるとに関わらず、時間は否応なしに過ぎていくのだ。


 理佐は、自分にも(ぎょ)(がた)い、醜い気持ちを知られて嫌われるのは嫌だったし、其れを知られず、岐顕に拒絶されないだけ有り難かった。


 理佐は、こんな思いをせずに、好き合った者同士と結ばれるのなら、どんなに良いだろうと思ったりもしたが、やはり、自分には、岐顕以外と結婚する事は、想像も出来なかった。




「いよいよ明日だね」


 其の晩も、理佐が寝間着の浴衣姿で物思いに耽っていると、令一が理佐の部屋にやってきた。


「ええ。兄様、今までお世話になりました。」

 理佐は、正座し、丁寧に一礼した。


 令一は、また、あの作り物めいた美しい笑顔で、理佐に応じた。


 理佐は何故か、其の笑顔を、汚らわしく感じた。


 そして何故か、令一に触られるのは嫌だと感じた。


 そして、寝巻の浴衣姿で令一に対峙しているのも嫌だと感じた。


 首から太腿から、全身の皮膚が、痛む(よう)な拒絶感があった。




 其の日は其の(まま)、令一が帰ってくれたので、理佐はホッとした。


 其れにしても、自分は何故、こうも令一が怖いのだろうと思った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ