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前編

前編は説明ぽく

後編は会話多め 

おまけは短い会話だけです


 異世界転移したけれど、設定が渋滞しているとしか言えない。


 私は魔法が使えるようになった。まだつかったことはないが、全属性らしい。チートだ。


 ここは美醜逆転の世界、と転移前に神様から聞いた。元の世界でもここの世界でも、私は“普通” だという。普通を喜ぶべきなのだろうけど私の心は複雑だ。

 

 元の世界では誰かの特別になれなかった。

 “普通”は目に入らないみたいだから。告白してもよく知らないからゴメン…って、同じクラスで隣の席にもなったし、会話も結構したのに。名前すら覚えられてないとは思いもしなかった……悲しいからこの話はやめ。


 神様からの使命はない。間違えただけなんだって。

 お詫びにと色々付与してもらって、じゃあねと放り出された。


 放り出された直後に賊に襲われかけたところを、通りかかった男に助けられ、さらに男は気を失った私を屋敷に連れ帰り介抱してくれた。


 もちろん男は超イケメンだ。美醜逆転なのでこちらでは顔を晒すことすら許されていないというが、確かに目がつぶれるほどの美しさなので隠していた方が良い。

 

 ただ、本人は美醜を気にしてはいないようなので、私がイケメンですよと言ってもフーンで終わってしまい、お約束の「お前だけだ、そんなこと言うのは」がなくて残念ではある。 


 

 前置きが長くなったけれど、私が言いたいことは1つだけ。

 助けられたはいいものの、行くあてのない私は、炊事洗濯掃除をするから屋敷においてほしいと頼み込み、屋敷に暮らしはじめてから1年……

そう、1年も経つのに彼が私に全く興味がないことに腹が立つ。でもそれはまだいい。


 私は声を大にして言いたい。


 ――せめて名前くらい教えてよ!! 




 彼はなぜか名前を教えられないと言った。私も自己紹介のタイミングを逃してしまってそのまま。


 お互い名前を知らず、「おい」と「ねぇ」で呼び合っている。

 本当は彼のイケメンボイスで名前を呼ばれたいのに……

 

 ――こんな奴に一目惚れしてしまった自分が悔しい!


 

 

 ****


「わたしは、自分の才能が恐ろしい!」

 彼の手は微かに震えている。

「死者復活の術を成功させてしまった…!」


「ネズミですから死者とは呼びません」 

 私は彼の手の中でつぶれそうなネズミを奪い、布の袋にほうりこむ。

「あ! せっかく復活させたのに!」


「昨日仕事道具をかじられて、屋敷中のネズミを駆除したのは誰でしたっけ!?」

「かじったのはソイツじゃない」

「この子ですよ。ほら、尻尾の生え際が白いじゃないですか」

「むぅ…!」

「むうじゃありませんよ。遊んでて大丈夫ですか? 明日は仕事ですよね」

「死者の復活は遊びではない」

「……もしかして、本当に復活させたのですか?」


 正直なところ、死にかけのネズミが回復しただけかと思っていたが、あの様子をみると違うようだ。


「わたしが嘘をついたことがあるか?」

「ない…ですね」

 胡散臭い男だし残念なイケメンだけれど嘘がないのは確かだ。


「本当だとしても、それは違法なのでは?」

 死者の復活はこの世界でも禁忌ではないのだろうか。

「……バレなきゃいい」

「やっぱり違法なのですね」

「違法というか、処刑だな」

「処刑人のあなたを誰が処刑するのですか?」

「……墓守りかなぁ、あいつくらいしか冥府の剣を扱える奴はいないだろうし」


 処刑人やら墓守りやら物騒な単語がでているが、

彼は処刑人だ。斬首が仕事。

 この国の醜い容姿の者は、誰もやりたがらない職業に就くことが多いため、彼が処刑人なのも醜いからだと世間では思われているが違う。


 彼が冥府の剣に選ばれたからだ。

 剣は意思をもっている。国で1番、質のいい魔力をもつ者を選ぶらしい。

 

 「墓守りさまも魔力が高いのですか?」

 「あれも冥王に魅入られた者だからな」


 ――また知らない単語がでた。本当に設定が渋滞してるわ……

 

「詳しくは聞きませんが、そこまでリスクを冒してまで復活させたい人がいるのですか?」

「集団自決した、お仲間全員だ」 

 

 数日前、男たちに非人道的な扱いを受けて自決を選んだ女性たちのことだろう。お仲間とは、容姿のことだ。

 私からみれば絶世の美女ばかり。けれどこちらの世界では人間扱いされていない。彼女らは魔法の練習台にされていたと聞いた。


「確かに、あの女性の方たちは非道な扱いを受けて死を選びましたが……そのまま眠らせておいた方がよいのでは?」

「ここに呼ぶ」

「え!?」 

「ここで世話をする」

「……理由を聞いても?」


 死者といえ、わざわざ蘇らせてまで美女を屋敷で世話をする理由なんて1つしか思いつかない。きっと美女に囲まれた生活をしたいんだ! 


「屋敷が広いから…だな」 

 彼の返答はあいかわらずよく分からない。


「ハーレムですか」

「ハーレムとはなんだ」

「女性をまわりに侍らせることです」

「ならば、ハーレムだな」


 ――なにそれ…そういうの興味ないんじゃなかったの? 

 

 一年も一緒にいたのに、そういった視線を感じたことが一度もなかった。私に魅力が足りないのもあるけれど、きっと興味がないのだと思っていた、のに。


「そうですか。ではご勝手に」

「いいのか? じゃあ呼び出すぞ」

「だからご勝手にどうぞ、手伝いはしません。私は部屋に戻りますから。明日の朝、ちゃんと一人で起きてくださいよ」


 ――もう何もかもどうでもいいわ。今夜のうちにここを出よう


 私は「おい!」と私を呼ぶ彼の声を無視した。もう「おい」で振り返るのはやめた。


 彼女たちは彼に名を名乗るだろう。

 彼女たちの名前を呼ぶ彼を想像して胸が痛んだ。

 

 今さら私の名前は……なんて言えないよ!


 



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