03
では、冒頭で触れた兄と弟のお話をしましょう。
長男の火照命は海幸彦、
弟の火遠理命が山幸彦との愛称で親しまれていました。
その名の通り、
それぞれ海釣りと山狩りが得意な二人。ある日
弟のホオリが兄に道具を交換しようと持ち掛けます。
ですが不得意分野で苦戦した弟は
釣針を海へ落としてしまうのです。
それを知った兄は激怒し、
どんなに謝っても許してくれませんでした。
海を眺めて途方に暮れる弟のホオリ……
そこへ亀の塩椎神が現れたので悩みを打ち明けると
「海の事なら綿津見神にご相談致しましょう」
亀の案内で弟は蓬莱と呼ばれる竜宮城へ。
宮殿にはワタツミ様の娘、豊玉姫がいました。
弟のホオリに一目惚れした豊玉姫は
沢山のご馳走や綺麗な踊りで歓迎し、
やがて二人は結婚するのです。
それから三年の月日が経ち、
弟のホオリは地上を見つめて自責の念を姫に話します。
「……そういう訳で、
私はホデリ兄さんの釣針を探しに来たのです」
「分かりました。では、父に頼んでみましょう」
二人の願いを聞いたワタツミ様は、
魚たちを呼び寄せて
とうとう鯛の口の中にある釣針を発見するのです。
釣針を持って地上へ戻る弟のホオリに
ワタツミ様は二色の玉を差し出します。
「貴方が釣針を返す時、呪文を唱えると
この先三年間、お兄さんだけ貧しくなります。
我儘な彼は、貴方の土地を攻めて来るでしょう。
その時、満潮の玉と引潮の玉で懲らしめるのです」
案の定、貧しくなった兄が攻め込み
弟のホオリは玉で圧勝します。そして
戦意喪失した兄のホデリと和解、無事に仲直りするのです。
それからしばらくして―
妊婦となった豊玉姫が弟を訪ねて出産します。
この時、そっと産屋を覗くと
サメがのたうち回っていました。
弟は怖くなって逃げ出してしまい、
失意の豊玉姫は子を置いて海へと帰ります。
これが古事記や日本書紀に記された話です。
古文書ではその後の夫婦に触れませんが、
もちろん我が母は弟のホオリを責めます。
「最低な行動を取った者は短命の呪いを受けました。
ホオリ、貴方も父親と同じ過ちを繰り返すのですか?」
父は俯いたまま何も言いません。
「周りは皆んな魚なのだから、
豊玉姫がサメなのも当然でしょう?
子供がいるのです、責任を取りなさい!」
母の意見に誰も逆らいません。
決して間違ってはいませんからね、
ただサメだと気づける人は少ないと思います。
結局、弟は子を連れて豊玉姫の元へ戻り
ワタツミ様の後継者として蓬莱を統括。
四人の子供たちはそれぞれ独立し、
今は豊玉姫と仲睦まじく暮らしております。
皆さんの知る浦島太郎伝説とは異なりますが、
玉手箱でお爺さんになるより、
此方の方が宜しいのではないでしょうか?
ふう、神話だけで長々と失礼しました。