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第7話 広がる闇夜と迫りくる脅威

祭壇を後にしました。

 祭壇を後にし、魔物の蔓延る森へ2人は再び足を踏み入れていく。

 2人がそれぞれ山へ入った時よりも、闇が濃く深くなったと感じられる。魔物の活動が一番活発になってもおかしくない時間だからだろうか。


 つい先程、神秘的な体験をした祭壇は、遥か後方に灯りをちらつかせる距離になった。

 何度も何度も、祭壇の灯りを振り返って視線を送るフォルスに、ステラは笑みを深めた。

 そして、満天の星空を仰ぎ見る。両の瞳に映る星がキラリと瞬いた様に見えた。


「さて、改めまして、フォルス様。不束者ですが、よろしくお願いします」


 その言葉にほんの少しの違和感を感じながら、フォルスは視線を再び前方へ向けた。不束者だなんて、とても仰々しい言葉を使っているのだが、変だとは思っていても具体的に理解していないフォルスだった。


「こちらこそよろしくお願いします。…ただ、その『様』っていうのはやめて貰えないでしょうか?」


 フォルスの今までの人生で、「様」を付けて呼ばれた事などただの一度も無かったのだ。くすぐったくてしょうがない。

 それに、目の前の女性からは、身分の高さが窺えるのだ。


 噂に聞いたことしか無い"魔法"を使えそうな事と、村の人間には出せないような神秘的な空気を纏っている。本来なら、こちらが跪かないといけない程の身分の差がありそうだ。


「…ステラさんは、とても高貴な身分の方では無いのですか?」


 自分でも驚くくらいの探りを入れた声音に、フォルスは内心後悔した。気を悪くしたかも知れない。


「わたくしは気に致しません。確かに、社会的な地位という事であれば、恐らくフォルス様より上位になるでしょう。…しかし、わたくしは1人の人間として向かい合いたいのです」


 フォルスの考えたことは杞憂に終わったようだった。ステラから怒ったような雰囲気は感じられない。どちらかと言えば、哀しみのような感情が流れて来ている気がする。


「フォルス様は、わたくしを1人の女性として見てはくれないのでしょうか?」


 左の二の腕を押さえながら、上目遣いでステラが言う。

 ずるい、とフォルスは思った。本人には言えないけれど。


「1人の女性として見てますから…。身分とか気にしないですからっ!」


 直視ができず、顔を逸らしながらも、つい勢いで返事を返してしまったフォルス。

 そうは言っても、気持ちと大きくかけ離れている訳ではない。フォルス自身、今日会ったばかりの人が、突然身分が高いなんて言われても、全く実感が湧いてこないのだ。

 自分で納得出来ないものは深く考えすぎず、目の前の現実を見て判断するようにと両親からも言われているため、ステラを一個人として見る事に異論はない。


「ありがとうございます。フォルス…さんこそ、言葉遣いを気にされなくてよろしいですよ」


 とても優しい声音で応えるステラ。


「了解。では、ステラさんも言葉は気にしないでいこう」

「わたくしの話し方は、すでに癖のようなものですので、今から変えるのは難しいのです」

「あ、そうなんだ…。うん。じゃあ、無理強いはしないから、自然体で良いからね」

「ふふ、重ね重ねありがとう存じます」


 そこまで話をしていたのに、唐突にステラは頬を朱に染めながら胸の前で手を組み、フォルスをじっと見つめる。


「あと…お願いがあります」

「え?」

「わたくし、本の物語のように、異性の方から呼び捨てにされるのが夢なのです」

「……ええっ!?」


 思ってもいない事に戸惑うフォルスであった。


(とんでもなく身分が高いのか、相当なお嬢様なのか…。俺、大丈夫か?)


 流石に口に出すことは出来ず、内心で大きく呟くと、照れた顔のステラへ頷く事しか出来なかった。



 2人が森を歩き進めていると、それは突然やって来た。

 闇夜を切り裂くように辺り一体の空気が震えたのだ。森の奥にその気配を感じ取れる。濃い瘴気を放つ存在が接近して来ている。


「ステラ!! …うん、準備万端なようだね」


 つい先程まで談笑をしていた2人だが、表情からは笑顔が消えている。


「これ程の力を持った魔物が、この森ではいつも現れるのでしょうか?」


 ステラが声のトーンを落として、フォルスへ問いかける。


「いや、流石にいないな。手強くても猪型が精々なんだけど…」


 槍を腰の高さへ構え、辺りを警戒しながらフォルスが答える。


 ヴォォォォォォォ……。


 すると、やや離れた所から、まるで地の底から這い出してきたかのような、低い遠吠えが聞こえてくる。

 その直後に、怯えの含まれた獣の声が雑多に飛び交い始めた。どうやら、こちらへ向けて逃げて来ているようだ。


 どすんどすんと地響きを鳴らし、時折木を折っているかのような鈍い音を響かせて、確実に近付いて来ているのがわかる。

 残念な事に、"その存在"はこちらへ向かって進んできている様だ。

 避けられないのであれば、下手に逃げて後ろから襲われるよりも、正面から迎え打った方が良いのかもしれない。

 そう思い、フォルスがステラへ視線を向けると、ステラが直ぐに頷き返してきた。言葉に出さなくても意図を汲んでくれた様だ。


 2人が身構えて僅かな時間が経った頃、みしみしと目の前の木が音を立てて倒れ込んできた。

 2人はそれぞれ横へ飛ぶ様にして木を避ける。


 それは闇から姿を現す。

 猪型の魔物がただ1体。

 しかし通常の大きさの比ではない。それはまるで1件の家の様だった。

次は戦闘です。


いつも更新が遅く申し訳ありません。

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