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第6話 神秘なる力に触れる夜

祭壇での出来事が続きます。

 フォルスは考えるよりも先に身体が動いていた。

 その事に何の疑問も沸かなかったし、自然に「そうするべきだ」と全身で感じたのだ。

 自分の最愛の姉を救いたい、ただその一心に揺るぎがないからだ。

 思わず涙が出てしまったのは想定外だったが…。


「何も、泣かんでも良いだろうに」


 案の定のテラの指摘に、フォルスは顔を真っ赤にしてしまった。


「な、泣いてません」


 強がりか照れ隠しか、ついついそう口走ってしまう。

 ほほ、とテラは笑いながら優しい顔をフォルスへ向けた。


「良いのじゃよ、フォルス。その切なる願い、確かに届いたぞ」


 そう言うと、テラへ光の粒が集まり出した。夜の闇の中、大地や森の木々などから金色の粒子が出ているのがわかる。

 時の流れがとても緩やかに感じる程の神秘的な光景に、フォルスとステラは思わず感嘆の声をあげてしまっていた。

 周りの景色が緩やかに流れ、時間軸がずれてしまったかのような錯覚さえ感じられる。

  すると、テラの被っている帽子へ光が集まってきた。光の密度が濃くなり、とても目を開けていられないくらいになる。そして、テラはその光を束にして闇夜へ打ち出した。

  上空高く打ち上がった光は、何かにぶつかったかのように波紋が広がる。薄く闇夜を照らし出し、キラキラと金色の粒子をばら蒔いて消えていく。

 しばらくは金色の粒子が辺りを舞っていた。徐々に粒子が消え、再び訪れた暗闇にまだ目が慣れていないフォルスへテラから声がかかる。パチパチと瞬きをしながら、その言葉に耳を傾ける。


「上手くいったぞ。ただな…、あくまでも一時的な処置でしかないのじゃ。お前さんの姉の身体の流れを止めて、塊が大きくならないように滞らせているだけじゃからな」


 治すのではなく、進行を抑えると言っていたな、とフォルスは胸の内で呟く。

 たった今、目の前で起こった不思議な光景は、今までの人生で見たことがないものだった。途轍もなく大きな力を感じたというのに、それでも治らないものって何だろうと思ってしまう。


「お前さんはの、これから治せる者を探さなければならんぞ。原因となっている塊を取り除かない限り治らんからのう」


 神妙な顔で頷くフォルス。

 どうやって探せば良いのか全くわからないが、姉さんの為なら何がなんでも探さなきゃな、とも思う。

 決意を固めたその直後に、横合いから声が掛かった。


「その為に、わたくしがここへ呼ばれたのですね」


 ステラがおっとりと呟く。期待を含んだ顔でフォルスは横を向いた。


「先に言っておきますけれど、わたくしにはその塊とやらを治すことが出来ません。ただ、治す人を一緒に探す事は出来ます。わたくし、探し物は得意なのです」


 人差し指をぴっと立て笑顔で言った。

 その言葉にフォルスは、落胆を滲ませて頷いた。反射的に頷いてしまってから、冷静な部分が顔を覗かせる。


「いやいや、待ってください、ステラさん。近くの町まで送るつもりでしたけど、一緒に人探しとまでは頼めませんよ?」

「大丈夫です。わたくし、役に立ちますよ?」

「そもそも!! 貴女は年頃の娘でしょう。ついさっき会ったばかりの男と一緒に旅なんて、危機感を持って下さい!!」

「ふふ。そう言えるフォルス様だからこそ、安心感があるのです」


 自分の事情に巻き込みたくない上にステラが心配なフォルスと、是が非でも付いて行く姿勢のステラの言い合いは、平行線へまっしぐらな様だ。

 口論にすらなっていない状況であるが、テラが見かねて助け船を出した。


「フォルス。頑固なのも良いが、程々にしなされ。この娘はの、星に愛されていると見える。お前さんの姉の為じゃ、素直に助けて貰うのが良いぞ。それ程言うなら、お主が守ってやれば良かろうて」


 恩義を感じているテラにまで言われては、これ以上の抵抗は難しいだろう。

 渋々フォルスは了承しようかという所で、2人が目を合わせ頷き合っているのが見えた。

 フォルスが不思議に思っていると、


「星の導きを感じます」


 ステラは今までのニコニコとした表情を収め、真剣な顔で告げた。

 ひゅっと息を飲むフォルス。ステラは続ける。


「わたくしは貴方と出会う為に、ここまでやって来ました。貴方はこれから村を出て、大きな世界へ飛び込まなくてはなりません。辛く険しい道が待っている事でしょう。そのお側にわたくしも居たいのです」


 そこで言葉を切り、束の間の静寂が訪れる。フォルスは自然と背筋が伸びているのを感じた。

 その時大きく風が吹き、ざざっと音を立てて木々が揺れる。


「フォルス様。貴方はこれから運命の渦に呑まれる事になるでしょう」


 ステラが続けた言葉には、有無を言わせない響きがあった。

 フォルスはステラの黒い瞳を、じっと見つめる事しか出来なかった。



「さて、話も纏まった様じゃし、お前さんたち、そろそろ山を下りるんじゃな」


 見つめ合っていた2人は、はっとすると同時にぎこちない笑みを浮かべた。


「この娘っこの事は、ワシに任せるがよいぞ。意志を聞いてみるが、悪い様にはせんよ」


 カラカラと笑いながらテラが話す。

 その明るい話し方が有り難かった。フォルスの気掛かりの1つだったので、巻き込んでしまって申し訳ないという気持ちが、自分で思っていたよりも大きかったようだ。


「わかりました。テラさん…どうか、よろしくお願いします」


 深々と頭を下げたフォルス。


「ほほ…。ワシを信じとくれ」


 テラは楽しそうに応えた。

 一見すると小さなお爺さんの姿の守り神に、最大限の敬意を払う。

 戻って来られたら、また顔を出そうと胸に誓い、ステラと共に祭壇を後にした。

生け贄の少女は、何日かとても楽しい時間を過ごします。

一方、フォルスの状況は激変します。

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