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第3話 夜の森と祭壇と

山の道中からスタートです。

祭壇へ登って行きます。

 闇夜を切り裂く銀色の光があった。

 ふっと一つ息を吐きながら、フォルスは槍を横凪に振るうと、そこには小型な狐型の魔物の死骸が出来ていた。


 テラ山は主に狐型の魔物が多くいるが、そのどれもがさほど強いという事は無かった。そうは言っても魔物である。小型の狐型でも、魔物ではない通常の獣の熊をも凌駕する強さを持っている。


「狐のうちはまだ大丈夫。猪型が出てきたら、流石に厄介になるな…」


 槍を振って血を払いながらフォルスは呟いた。

 彼の心配はもっともで、山を登って行けば行くほど、魔物の強さが上がっていく。ちなみに、山の麓は弱い魔物だが数は多く、頂上付近の魔物は強いが数は少なくなっている。

 なおテラ山にある生け贄の祭壇は、山の中腹に位置しているので、魔物の強さも山の中では中程度だ。


 注意深く辺りの警戒しながら、フォルスは山を登る。祭壇までのルート自体は、闇が広がっている中とはいえ、勝手知ったる道だ。全く迷う様子すら見せず、魔物の群れに遭遇しないように進んだ。ただ、一つの懸念が頭をよぎる。


「…まだ村の皆がいるかもしれないんだよなぁ」


 そう、彼は身を低くした態勢でこぼす。


 生け贄を運んだ村人たちが、まだ山を降りている最中のはずなのだ。そこで見つかってしまったら元も子もない。強制的に連れ戻されるに違いないからだ。


 すると間もなくして、フォルスが進む山道の先に複数の話し声と松明の灯りと思われる炎の揺らめきが見えてきた。

 山道の脇から少し外れた茂みに身を隠して息を潜めていると、その集団は賑やかにしゃべりながら目の前を通りすぎて行った。


「かなり暗くなったな~。早く降りようぜ」

「それにしてもよ~。あの娘は山の神に食べられちゃうのかぁ?」

「若くて可愛いのに勿体無い…っと、そんな事を他に聞かれたらまずいよな」

「おぅ、まずいぞ。牢屋にぶちこまれちまうわな」

「なー。山まで運んだ特別手当が牢屋行きは勘弁だぜ…」


 村の男たちはそんな会話をしながら、フォルスの目の前を通り過ぎていく。

 耳にした言葉で、頭がかっと熱くなるのを感じ、思わず拳を強く握りしめていた。その行き場の無い怒りを、ついつい手近な木に叩きつけてしまうが、全く晴れる気もしない。


「くそっ!! …今は先を急ぐしかないか」


 手にじんと鈍い痛みが広がってくるのを感じながら、一つ深呼吸をして山道を再び登り始めた。

 祭壇はもうすぐそこだ。



 ややもすると、軽く息を弾ませながら、フォルスは祭壇の篝火を見つけた。

 そのゆらゆらと動く火の灯りを見ながら、一つ深呼吸をする。そして一歩一歩慎重に、辺りに気を張り巡らせながら祭壇へ歩を進める。

 魔物か、あるいは山の守り神とやらが既にいるかもしれないからだ。


 槍を腰の高さに構えながら近付くと、祭壇の上で眠っている少女の姿が目に入ってきた。

 逸る気持ちを抑えつつ向かう。

 少女の姿が確認出来る距離まで着いて、フォルスはほっと一つ息を吐いた。

 眠ってはいる様だが、胸の辺りが呼吸によってゆっくりと上下しているからだ。


「生きてるっ!!」


 少女の元へ駆け出す。

 白いワンピースに身を包んだ生け贄の少女の安否を確認するために、眠っている顔を覗き込もうとした瞬間、フォルスは何か見えない壁の様なものにぶつかり弾かれてしまった。

 幸い絹の様な柔らかさによって衝撃は無く、軽く仰け反るくらいで済んだが、弾かれた事自体でフォルスは動揺する。

 さらに追い討ちをかける様に、高いとも低いとも言えないしわがれた声が聞こえてきた。


「一応な、その娘っこはワシのじゃよ」


 人がいるはずはない。

 そもそも、今、何て言った?


 ゾクリと背筋を何かが通り抜ける感覚に襲われながら、フォルスは辺りを見回す。


「おーい、お若いの。ワシはここじゃよ」


 また同じ声が聞こえてくる。

 辺りを見回すがやはり姿が見えない。しかも、村にはこんな声の人間は居なかったハズだ。


「もっと下じゃよ~」


 見えない敵がいるという思いで緊張が高ぶった勢いそのままに、フォルスはその言葉で反射的に下を向いた。

 そこには、大人の手の大きさ位で、先の尖った帽子を被り、白い髭を伸ばし、ゾロリとしたローブを着た老人の様な姿があった。


「…へっ?!」


 フォルスは自分でも驚く程、間抜けな声を出してしまった。


「…え? 人?」


 更に間抜けな質問もしてしまい、自分でもびっくりしてしまう。慌てて口元へ手をやり、思わず口を塞いでしまった。

 動揺をしすぎな自分に顔が赤面するのを感じながら、空いた手で槍を握り直し、せめてもと睨んだ。


「ほほ。そんな怖い顔をせんでも、取って食いやせんよ~」


 カラカラと笑いながら、更に続ける。


「ワシはな、この山を護ってるものじゃ。テラと呼んどくれ」


 つまり、この小さな老人が山の守り神?

 フォルスは、先程の恥ずかしさから一転、テラという老人だけでは無く、これまでの様々な出来事が頭の中を駆け巡り、何とも言えない怒りに思わず叫んでしまっていた。


「…ちっくしょー! 話が違う!!」


 何と話が違うのかは彼のみぞ知る。



「あらあら、可愛らしい方ですね」


 フォルスが祭壇で叫んだ所を、近くの岩陰から黒髪の美女が楽しげに眺めていた。


「わたくしもお話にまぜて欲しいですね」


 黒髪の美女も祭壇へと向かい始める。鼻唄を口ずさみながら、足取り軽く歩き始めた。

 視線の先には、項垂れて地面を叩いてる青年の姿があった。


山の守り神や謎の黒髪の美女と話をします。

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