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第2話 やるせない思いとお告げと

第二話です。

主人公は頭でぐちゃぐちゃと考えてしまうタイプです。

 フォルスの住んでいるこの村に代々伝わる文献があり、そこには様々な伝承が古い言葉で記されている。

 その内の1つにこの様な言葉があった。


『災厄降リカカル時、守リ神ヘ供物ヲ捧ゲ、庇護ヲ願エ』


 今朝、村長から告げられた事は瞬く間に村全体へ広がった。言ってみれば、ただ1人の村の民が倒れただけなのに大袈裟なものだと思われても可笑しくはない。

 それなのに、村全体が異様とも取れる雰囲気に包まれていた。

 “生け贄の儀”がもう止まらない事は明白だ。


 フォルスは憤慨した。

 何ともご都合の良い伝承だ、と。同時に、そんなことをしてはいけない、とも。決して、自身の正義感などではなく、そう思った。

 確かに自分の最愛の姉が倒れたことは胸が張り裂けそうな程苦しい。姉ティエリアが普段の生活で、村全体へ与える影響力を考えると、災厄級な出来事であるかもしれない。

 だからといって、何の罪もない幼気な少女を捧げなくてはならない、だなんてもっと許せなかった。

 しかも“生け贄”になった事が名誉とばかりに、その両親も娘を差し出すことに何ら抵抗をしていないし、当の少女も嬉しそうにしているとの事だ。


「…皆、何かおかしい。この村で何が起こっている?」


 フォルスは自宅へ向かいながら、眉間に深い皺を刻みながら思わず独りごちた。自分だけが異端なのかとすら思える程に。



 フォルスの住む村は、良くも悪くも小さい村だ。辺りを山々に囲われた盆地の中にある。

 その山々の中に、一際大きくそびえる山がテラ山と言い、神が住むと言われている。

 山の中腹程に祭壇が建てられており、毎年五穀豊穣を祈願したお祭りを開いている。

 なんでも、大昔は雨が降らず畑が育たないために食糧不足に陥り村が危険な状態になった事があったらしい。その当時の村長が夢でお告げを頂いて、その通りに祭壇を建て、山でお祈りをしたことにより、その危機を脱することが出来たとかなんとか…。

 状況は異なるが、現村長は同等の災厄と考えたのだろうか。


 ただ、それでもフォルスは考える。

 災厄を鎮める為にとはいえ、いくら守り神と言っても、生け贄が必要なのであれば魔物の類いなのではないか、と。

 それならばいっそ守り神を倒してしまおうと考えた。そうすれば、この様な胸が張り裂けそうな事態は起こらないのではないか。倒せずとも、どうにかして救い出してみせよう、と。

 自分は母親に厳しく鍛えられた過去があるため、何とかなると思ったのも事実だ。

 学校を卒業し村のために働いているとは言っても、まだフォルスは今年19歳になったばかりの青年だ。まだまだ向こう見ずな所が出てしまうのは、仕方のない事なのかもしれない。



「父さんは、姉さんの所だな」


 自宅へ着いたフォルスは父親が留守であることを確認すると、自室へと向かった。


 棚に立て掛けてある、自分の身長程ある愛用の槍と、小振りな細剣を確認する。どちらも刃零れなく部屋へ差し込む光を反射して、キラリと輝いた。

 後は、傷薬等を小さめの鞄に積めておき、夜陰に紛れるため、夜まで待つことにする。生け贄の少女を連れていく団体も、夕方になってから山に入ると聞いている。

 じりじりと焦る気持ちからなのか、時の流れがいやに遅く感じられた。



 そして、辺り一面に夜の帳が降りてくる頃、フォルスは動き出す。

 一般的な神経だと、夜の山へ入ることは、死を意味する。山の気候もそうなのだが、夜になると魔物が出るのだ。

 テラ山に住む魔物は、おおよそ小型から中型程度の獣型だ。この世界の魔物は、日の光があるうちは暗いところから出てこないが、通常の動物や獣と違い、その強さが桁違いなのである。


 そんな山へ入ろうとしている彼だが、約4年前に母親から山の訓練を受けさせられているので、特に問題がなかった。その時の訓練が母親と一緒だったとはいえ、7日間は自力で生き延びられる術を叩き込まれている。


 完全に日が落ちる直前、慣れ親しんだいつもの山の稜線がくっきりと映し出される。どこか重苦しい空気が澱んでいる様にも見えた。



 一方、その頃。

 フォルスや村人とは違う山道から、テラ山へ入ろうとしている者がいる。


「お告げの場所はこの辺りでしょうか?」


 おっとりとした柔らかい声で、誰に話しかけるわけでもなく呟く。その纏っている空気には、緊張感の欠片も見当たらない。

 辺り一面が薄暗くなってきている中でも、その容姿には目を見張るものがある。

 良く手入れをされていのがわかる腰近くまである長い艶のある黒髪を、先の方で細かい細工を施された髪留めで束ねている。そして、山へ入るのに向かないであろうに、首から足の先まであるぞろりとした紫色のローブを着ている。


 その者はふいに空を仰ぎ見る。

 夕陽が山に落ち、宵の広がり始めた空には、キラキラと星が輝き始めてきた。


「ふふっ。今夜は星たちが楽しそうですね」


 鼻歌でも唄いそうなほど上機嫌に笑いながら、鈴が鳴るような心地よい響きのある声で呟く。


「…ですから、わたくしの邪魔をしないで下さいね」


 誰とも無く話しかけながら、おもむろに優雅な所作で右手を横凪に振り抜いた。

 キラリと一瞬だけ指先が光った瞬間、遠くからギャッという獣の叫び声が聴こえてきた。その直後、複数の遠ざかっていく葉擦れの音が聴こえてきた。どうやら魔物の群れが狙っていた様だった。


「さて、と……。それでは先に進みましょうか。はてさて、どのような方がいるのでしょうね」


 黒髪の彼女は、足取り軽く暗い山中へ入っていった。


次は、テラ山の祭壇が舞台になります。


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