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第11話 面映ゆさと旅立ちと

森の中、フォルスの父親とステラの挨拶からです。

 目が離せなくなるステラの所作だった。

 フォルスへ初めて挨拶をした時と同じく、ローブを両手で軽く摘まみ上げ、右足を下げて一礼をする。それが、まるで水が穏やかに流れる様な洗練された動きなのだ。


 フォルスは自分の目で見たことが無いために実感が全く無かったが、この一連の所作は中流以上の貴族の行う挨拶なのだ。


 予備知識がない状態でも日常的にこの手の挨拶をしている事を再確認することが出来た。

 つまり自分が思っているよりも、目の前の女性は段違いに身分が高いに違いない。

 自分の身に起こっていることを考えると、背中をうっすらと汗が流れ伝う感覚があった。



「ご挨拶が遅くなりましたこと、心よりお詫び申し上げます」


 一度言葉を切りフォルスの父親の目をじっと見て、ステラはにこりと微笑みながら言葉を続ける。


「ステラと申します。星のお導きにより、この地へと参りました。山の祭壇にてフォルス様とお会い致しました」


 一挙手一投足を観察するかの様に、父親も視線を外さない。

 ほんの一時、無言のまま視線が交差する。

 他人からは一見するとわからないが、優しい瞳で頷く父親の姿があった。


「ご丁寧にありがとう。フォルスの父でレオンだ」


 その声音と表情にフォルスだけ気が付いて一歩引いた位置で驚く。

 実の息子の目からしても鉄面皮の父親が、目だけとはいえ微笑んでいるのだ。

 そんなフォルスの様子もお構いなしに、父親とステラは会話を続ける。


「申し訳ないが、2、3質問してもよろしいかな?」

「はい、何なりと」


 かなり不躾な言い方だったのでは、と思うような父親の言い方に、ステラは何の疑念など無い様子で微笑む。

 端で見ているフォルスの方がはらはらするくらいだ。


「星のお導きと言ったが?」

「はい、わたくしの星辰術にて導きだされたのです」


 父親の質問に対し、ステラはなんということも無い口振りで胸に手を当てながら答える。

 それを聞いて、フォルスの頭の中には疑問が涌き出てきている。


「星辰術……なるほど」と呟き、大いに納得したように父親は頷く。


(いやいやいや……。何が"なるほど"なんだよ!?)


 そもそも「星辰術」という単語をフォルスは初めて耳にしたし、それを自分の父親が知っていて納得しているという事に、心の中で絶叫するしか出来なかった。

 そんなフォルスの動揺もお構い無しに話はどんどんと進んでいる。


「お連れの方は?」

「……おりますが、ここには連れてきていないのです」


 父親は至極当然の疑問を投げ掛けた。それに対し、ステラもやはりはきはきと答えている。

 聞いていて、こっそり赤面するフォルス。

 これから二人での旅かも、とそれなりの緊張と僅かばかりの期待をしていた。フォルスも年相応に考える事はあるものだ。


(年頃の女性が一人で旅をする訳が無いよな。まして、こんな美人と二人旅だなんて……)


 心の中でひっそりと落胆しておく。

 そんな様子を知ってか知らずか、相も変わらず、フォルスの事を流しつつ話が進んでいるのが切ない。


(当事者なんだけどなぁ……)


 口に出したら父親に怒られそうなので、黙って心の中でぼやくしかなかった。


 そう思いながらも自分の父親が、見ず知らずな上に、恐らく身分の高い人物と対等に会話をしている事に驚いた。口下手でぶっきらぼうで、顔の筋肉がほぼ固定されている様な人物とは思えなかった。流石に鉄面皮には多大な変化が起きていないけれど。


 その姿がフォルスにはとても眩しく見えた。

 自分の中にまだ足りない物が、父親や姉を含め身近な所には沢山ある。これから困難な旅路に着くのだが、色々な人との出会いがあるかと思うと、わくわくとした期待がじわりと胸の奥底から滲み出てくるのを感じていた。


 父親とステラは、「護衛が……」など話を続けていた。確認する事を訊いては返すの繰り返しになっていた。


 いよいよ話も纏まった時、父親から不意を突かれた言葉が飛び足す。


「まだまだ未熟な所は多々あるが、情けないと思うような育て方はしていないつもりだ」


 心臓が跳ね上がった。

 父親からこれまで、さほど誉められて育ったわけではない。くすぐったいような居心地の悪いような感覚になる。ただ、不快な訳ではない。


「はい、既に片鱗を見せていただいております。わたくしも頼りにさせて頂きます」


 ステラもやはり肯定的な言葉を返す。

 父親は軽く頷くと、


「よろしくお願いする」


 短く言葉を発した。非常に力強く。


「はい、わたくしも楽しみにしております」


 対称的に、にこにこと自然体のままステラが応える。

 僅かな時間であるのに、不思議と打ち解けているのはステラの魅力なのだろうか。


 ステラとの話が終わり、またフォルスへ向き直る父親。


「フォルス」


 真剣な瞳だった。

 その身に纏った空気から、自然と背筋が伸びるのを感じた。


「こちらは心配するな。ティアの事、仕事の事、俺が面倒をみてやる。後の事は任せろ」


 厳格な父親の、絶対的な言葉。

 フォルスが信じ、頼らない訳が無かった。


「……ありがとう、父さん」


 喉の奥から搾り出す様に紡いだ言葉。

 生け贄になった少女を救いだすと決めてから、村の誰にも頼ることが出来ないと思っていた。


 こんなにも身近で大きな力があった。

 それがフォルスには一つの真実であり、これからの運命を乗り越えて行くためには、とても大きな支えとなると確信を持って言える事だった。


 1度目を閉じ、胸いっぱいに広がった感情を吐き出す様に大きく息をついた。


「それじゃあ、行ってきます!」


 尊敬する父親、ここにはいない敬愛する姉へ向けて、力強く出発の挨拶をする。


 もう後戻りは出来ないし、するつもりも無い。ひたすらに前を向いていこうと心に決めた。


 受け取った荷物を担ぎ、ステラへ視線を向けると、笑顔で頷いて横に並んできた。


「わたくしも一緒です」


 囁く様に告げて、2人は下ってきた道をまた引き返し始めた。

 村へ行く道にはもう行けないし、ステラが山へ入ってきた道から行かなくては、彼女の護衛と合流が出来ないからだ。


 暗い森の中である筈なのに、2人の行く道には星明かりが輝くように降り注いでいた。

時間が掛かったのと、長くなってしまったので、予告詐欺をしてしまいました。

まだ劇中は夜中ですが、ステラの護衛を拾いに行きます。

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